君ヲ、想フ
ココにいないアンタが嫌い
私の側にいないアンタが嫌い
此処に来て 此処に来て
こんな私を笑ったりしないで、
ネェ、此処に来てよ
火照た頬を触る。
寝付けぬ夜には耳を塞ぐ。
思いつく限りのアンタのことを思い出す。

大きな手。
その肌の感じ。
声。
息の音。

くっついて眠るといつも暑いという。
窮屈なベッドはアンタには狭すぎて、爪先がその端から出ている。
そのくせ私がベッドの端っこに寝てるとくっついてきて落ちそうになる。
その長い腕が私を支えて、絡め取って。
私は常にアンタを背中に感じながら眠る。

こうして孤り寝ていてもあんたの夢を見ない日はない。




明け方、私を起こさぬように出ていくその背中が嫌い。
それを見るのが嫌い。
私は堅く目を閉じる。
跫音が否応なく響いて、それから耳も塞ぐ。



私の側にいない、アンタが嫌い。



一人では余るシーツ。
けれど二人分にみたぬ容量。
その狭いベットで折り重なるように眠るのが好きだった。
爪先を動かすとアンタの足の甲に当たる。
耳に聞こえるのは閑とした中に無機質に響く時計のぜんまいの音ではなく、
アンタの寝息。
耳元で煩いけど、今はそれが聞きたい。

何でだろう。
こんなに寂しい事なんて、今まで無かった。
初めてだ。


早く来てよ。



 すぐ傍の壁を爪で引っ掻く。
催促するように。その音も空しい。







枕を裏返しても、毛布を引っ張り上げても、体の向きを変えてもどうしても眠れない。
こんな日アンタもある?
そんなこと、もう聞けやしないけど。


此処にいないアンタが嫌い。








わからネェ女だね、お前もつくづく。


部屋の中には饐えたような匂いが澱んでいて、アタシはその息苦しさに辟易しながらも
男の腕に甘えながらうつらうつらしていた。
そう言う埒もないことを言うと決まって面倒くさそうに首を捻る。
アタシはきちんと彼の腕に収まっているのにも関わらず、朦朧とした不安に身を刻まれる。

だってそうでしょ。
いつ此の身がどうなるかすらわからぬ。
私が畏れても仕様がないじゃぁない。
あんたには分からない。
きっと分からない。

分からないから、往ったんでしょう。









そうでしょう。





*









アタシの回線は何処か切れてて、いつでもぼんやりとしていた。
涙なんて一つも出ない。
気持ちよさそうに寝転がって、いつも誰かに邪魔だとか言われていた姿がないのが
景色を異質にしている。


 アタシはそれを見ないふりをした


アタシの回線は何処かショートしていて普段通りに振る舞いながら
内側で一挙一動を観察しているもう一人の私がいる。
居ないことが当たり前になって、
必至で傍観者を決め込もうとして、
けれど不意に口について出ようとする名を苦く呑み込む。


私はそれに気がつかぬふりをした。


寂しくはないのとそう問われたとき。
本当に寂しいのは喧嘩友達のあなたでしょうと言ったら煙りに目を眇めてどうかなと笑った。
否定しないのは認めているから?

アタシはできない。





アタシを抱いた腕はもう無い。
誰かに斬り落とされっちまえばいい
二度と誰も抱きしめられぬよう。



アタシにキスしたあの口唇はもう無い。
誰かに縫われっちまえばいい。
二度と私の名を呼べぬものなど。



私を見つめたあの二つの眼はもう無い。
潰れっちまえばいいんだ。
二度と誰の姿も映さぬように。




時折同室の彼女が閨から抜けて戻ってこない夜、私たちの夜を思い出す。
いつもは見せぬ顔。
上気した頬と、胸の奥から吐く息。
深い眼の色。
声。



置き土産一つ。
残していかなかった。
思う存分抉っていった。
痛い痛いと血を流し、傷痕だけが泣いている。


こんな想いをするのはもうないと思ってた。
誰が死んでも笑っていようと思ってた。
あんたはこの世界の何処かで今きっと眠っている。
アタシのことなど思い出さぬままそしていつか死んでいく。

きっとあたしも同じよ。
あんたの夢なんか、もう二度と見ないわ。




もう離れて幾日か幾月か。
カレンダーもない、ただ起きて眠って進んでまた眠って。

遠く岸壁を叩く、繰り返すは浪。

景色にも慣れた。
欠けた一人を、その景色を異質だとは誰も思わぬ。
ただ晴れた日で、空が高かった。

「なぁナミ、ゾロ迷子になってネェかな?」

「そうねぇ、アイツのことだから」


勿論その続きは私の喉まで出かかっていた。
きっと迷子になってるわと言いかけた。

けれど、それより先に溢れた。

「おい。」


動揺したすぐ傍に立つ彼は大きな目を一際大きくした。
そのとき強い風が足許を叩く。手に持っていた新聞が読んでもいない内から空に持って行かれた。
あぁとそれを目で追うクルー。
私は眼前の景色が見る見るうちに歪んで崩れていくのが分かり、
そのうちの一粒が落ちる。

君ヲ、想フ。
こんなにも想う。

夢なんか見ないと行った端から君のことを。
サヨナラを笑ってて言ったことを後悔なんかしていない。

揺り返さないでよ。
ネェ、お願いだから。
こんなにも。
こんなにも。


隔てられた運命。
いつ交わることがあるのか。
そんな偶然がないのだとしても。


私たちの宿命なのだと言い聞かせて。
けれども痛いほど。


君ヲ想フ

君ヲ想フ

end


なんだか痛々しい話で申し訳ない。
えーっとコレは確か、誰か降りるかとか言われていたときに絶対ゾロ吉だと思って書いたブツでやす。
覚悟を決め解こうと想ってと言う御託を自分で垂れ流していたときです
なんだか痛いので引っ込めるのは早いと思います。

因みにネタは元ちとせ。と椎名林檎の歌。後はなんだか埃くさいカンジが出せればと思った。
とうこさんがゾロ版を書いてくれたのでそちらもどうぞ
すげぇいいよ


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