微エロ妄想家に100のお題

ただいまゆっくり消化中です
カップリングごとに読みたい方は此方をどうぞ
001  声               坂本+陸奥
002  LOVE SONG
003  熱帯夜
004  キス
005  拘束
006  恋情
007  処女              沖田+神楽+妙
008  あのときの表情
009  DOG TAG
010  腕


011  制服
012  5秒前
013  微熱
014  焦らし
015  膨らむきもち
016  意識的依存          土方+ミツバ
017  包帯
018  骨になるその時まで     銀時+お登勢
019  ラブのかたち
020  熱い

021  突っぱねた腕の弱さ
022  実況中継
023  不思議な恍惚感
024  性器
025  昔の恋人
026  三日間監禁
027  照れ笑い
028  肩越しの景色
029  歳の差
030  冷血ヤマネコとブラッディーウサギ

031  ×××記念日
032  挑発
033  苦しいばかり
034  EUPHORIA(多幸症)
035  塞ぐ
036  欲情するということ        坂本+陸奥
037  腹上死
038  夜までの時間           坂本+陸奥
039  征服欲
040  四肢

041  濡れる
042  陶酔感
043  舌を絡める
044  お風呂でも安心できない
045  白昼堂々
046  胸
047  個人授業              沖田+神楽
048  単純なこと
049  笑い顔
050  目で犯す
051  震える朝
052  サボタージュ            桂+幾松
053  欲しい
054  こんなに近い存在
055  じゃあ嫉妬して
056  ケーブル越しの熱
057  プレイ
058  身勝手な本能
059  有刺鉄線
060  結婚白昼夢             坂田+志村嬢

061  求めるもの・与えたもの
062  羞恥心
063  フェティシズム
064  殺す
065  強制
066  雨宿り
067  上着と下着
068  所詮ひとり              近藤+妙
069  痙攣
070  クスリ

071  テーブルの下
072  色情狂
073  公共の場
074  風俗店                 桂+幾松
075  有罪
076  外で
077  in the bedroom
078  血みどろ
079  屈辱的姿勢
080  背徳

081  絡めた脚
082  蠱惑
083  獣
084  あだ心
085  背中の真新しい傷
086  突然すぎる
087  プレゼント
088  涙
089  きれいな存在
090  目隠し

091  意味は広辞苑で
092  足から伝う体液
093  形勢逆転
094  引き攣った喘ぎ
095  温室
096  例えば君が知らないあんな事
097  溺れる
098  衝動
099  セックス
100  愛ある世界


















1
「声」
坂+陸奥


「やりゆうときのおんしの声」

「あしはきらいじゃないぜよ」


唐突に、陸奥はそう告げた。
辰馬は手枕のまま、ほうかと笑った。

「うん」

辰馬はその言葉を意訳したらしく、にやりと笑った。
つまりは好きだといわれて、腹の立つものではないのだろう。
終わってすぐは息が整わぬが、今は汗も冷えて互いの肌がところどころ触れている。
産毛も乾き、さらりとして気持ちがいい。

「あんまり、喋らんようになるきィ」

あっはっは、なんじゃほりゃぁ、辰馬はばたりと蒲団に倒れこむ。
もちろん私を巻き込んで。
硬い腕が身体を抱き、癖っ毛が頬を撫でた。
くすぐったい。

「普段はうるさいゆうがか」
「ようわかっちゅうがやないか」

酷いのォ、辰馬はそう言いながらにこにこ笑って顔を覗き込む。
鼻先を近づけて、口唇を微かに触れさせた。
やったら、もういっぺん、髪を撫でる。
指にくるくると髪を絡めた。
その僅かな振動の揺れ幅が、漸く閑まり返った悦楽の浪を揺り起こす。

右へ、左へ。

喉の奥から上がってきた温かい息を感じたのか、辰馬は口唇を塞いでくれた。
熱が篭るように、上がるように。


私はさっき、嘘を吐いた。
本当は。


言葉も紡げず名も呼べず、掠れた声で息を吐く。
その狭間で心細く、むつ、と呼んだその声。
熱っぽく、息と呼吸の狭間に、私に聞かれないように噛み殺した。
その声がひどく艶やかで、あなたが私に夢中になっていることを教えるようだった。

辰馬の身体が熱を帯びる。
驚くほど柔らかな声が私を呼んだ。



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2008.11
饒舌な人が無口になると驚く。
そう言うことデス。



back

2
「LOVE SONG」
coming soon

3
「熱帯夜」
coming soon

4
「キス」
coming soon

5
「拘束」
coming soon

6
「恋情」
coming soon


「処女」
沖田+神楽+お妙


「あ」

声が重なる。
思わず足が止まる。
彼女がオレの顔と今しがた出てきたとおりに掲げられた大門の名を見て二度瞬きしたのを見た。

「こんばんわ、沖田さん」
「こんばんわ、姐さん」

見廻りですか、と近藤さんの想い人は俺に尋ねた。
あー、えぇ、そうですと軽く頭を下げた。
こんなところへも、えぇはい。
歳は同じと聞いているが、どういうわけか敬語を使ってしまう。
こういう人に俺は多分一生頭があがらねェのかも知れねェ。

「オイ、テメー私には挨拶無しアルか」

隣に居た彼女がいつもの口調で詰め寄った。
此方もそれに応じた。
隣で窘める筈の姐さんもいつものことだと笑ってる。
テメェなんぞ挨拶なんざァしなくたってぇかまわねぇだろよォ、
いつもどおりでいつもの遣り取り。

「男なめんな」

売り言葉に買い言葉。
いつもはそんな汚い顔舐めたらお腹壊すアルとでも云うところ、
どういうわけか彼女は黙った。
びっくりしたような、初めて何かに気がついたような。
そう言う顔だった。

隣に居た姐さんは、そろそろ帰りますよと彼女の背を押した。
それじゃぁね、沖田さん、涼やかに柔らかく笑った。
オレは頭を下げた。
彼女は蛇目傘の影からちらと此方を見た。
そうしてすぐに目を逸らす。

「神楽ちゃん。男の人はね、しようがないのよ」

優しい声が微かに聞こえた。
あ、いや違うんだ。
本当に見廻りで、浪士の溜まり場になっているという噂があって。
追いかけて説明したかったが、そんなことをしたとて意味は無い。
オレはしくじったとばかりに空を見上げた。びゅうと風が吹く。


見返り柳が嘲笑う。



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2008.11
本当に見廻りです。後ろから一番隊がついてきているはずですが見えていません。
でも一度くらいは「男」の先輩に連れて行ってもらっていると思います。
近藤さん土方さんは連れて行ってないと思いますが。




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8
「あのときの表情」
coming soon

9
「DOG TAG」
coming soon

10
「腕」
coming soon

11
「制服」
coming soon

12
「5秒前」
coming soon

13
「微熱」
coming soon

14
「焦らし」
coming soon

15
「膨らむきもち」
coming soon

16
「意識的依存」
十四郎さんとミツバさん


「あなた、起きてください」

「あなた、あなた、十四郎さん」


眩しい。
白々と朝の光が障子に映っている。
雨戸を開けているんだろう。ガタガタという立て付けの悪い扉を動かしている音。

誰かが呼んでいる。
懐かしい声だ。

いや懐かしい、とはなんだ。

「あなた、早朝会議あるんでしょう」

ああ、ともうぅとも言えぬ返事をした。
障子がすぅと開く。
白い足袋のつま先が見えた。
ああ、なんだお前か。
何時だと尋ねた。

「六時半です」

両手で顔を覆うようにして目を擦った。昨日遅かったからまだ寝足りない。
目覚めの一服に手を伸ばしたが、寝室では煙草は厳禁と言うことになっている。
寝間着のまま起き出して洗面台に行くと、頭一つ小さい子供が居る。
ふてぶてしくこちらをちらりと見たきりで、挨拶などちょっと顎をしゃくった程度だ。
口には歯ブラシをくわえているから喋れぬのも道理だが、態度が悪いのはいつものことだった。

「二人とも早くしないと」

遅刻しますよと言う優しい声が後ろから響くかと思ったが、その声はかすかな笑い声に変わった。
何だと二人同時に振り返る。

「後姿がそっくりなんだもの」

こんな奴と一緒にすんな、口の周りを泡だらけにして叫んだ声も同じになって、ますます彼女はおかしかったらしい。
くすくす笑いながらまた台所あたりに戻った。







「新聞読みながらお食事はやめてください」

味噌汁を手探りで取ろうとしたときそう言われ、はいはいと新聞を畳む。
向かいに座ったやつが、ばぁかと声を出さすに罵った。畜生。
彼女はすかさずそれを見つけてて、これと叱った。
ふん、ざまぁみろ。競うように飯を掻き込みながら、同時に席を立つ。
お粗末様でしたという返事とともに、食器を片づける音が聞こえた。



「今日は遅いんですか」

着替える為に部屋に戻り、その後を追ってくる声と足音。
寝巻きを脱ぎ、ハンガに掛けてあるワイシャツを羽織ズボンを履き、スカーフを取る。
鏡を見ながら結ぼうとすると、先ほど当たった筈の髭の剃り残しを見つけた。
屯所で剃るか。
その様子を見ながら何やってらっしゃるのと彼女は自分の手の中にあったスカーフを取り、
髭の跡を見ていた俺の首にそれを巻く。


「そうちゃんよりもっと手が掛かるじゃないですか」


者の数秒でスカーフを結び、すぐさま背に回り上着を着せながら冗談半分そう言った。
何、世話を焼いて欲しいのさといったら拗ねた様に笑った。

「今日はそうちゃんのお誕生日なんですから早く帰ってきてくださいね」

玄関先で同じように待っていた子供は今から何処へ行くのか、
見覚えのある道着を着て、竹刀を担いだ。
靴を履きながら総悟、と呼んだ。

「なんですかィ」

形が小さくてもでかくっても、相変わらずテメェはふてぶてしいなァおい。
なんか欲しいものあるかと聞いた。
にこりと笑って間髪入れずに答えやがった。

「テメェの署名が入った離婚届」

殴るぞてめぇと密やかに告げれば、いやだなァ本気ですよと笑いやがった。
これ、そうちゃん、なんてこというの、優しげな声が窘めたがぷいと横を向く。
総悟はだってェと弁解しようとしたが、言い訳は赦しませんと彼女は言った。
総悟は言い訳をしない代わりに肩を落とした。

姉弟のじゃれあいを尻目に行ってくる、と門扉を出た。

「いってらっしゃい、気をつけて」

彼女は手を振る。

「勝手に行けよ」

憎まれ口には勝手にいくさと返事をした。
そして、総ちゃんもよと送り出され、彼女は随分長いこと手を振る。

お前いい年してねえちゃんねえちゃんて言ってるとシスコン呼ばわりされっぞ、
いつの間にかすぐ後ろに居た総悟にそう言えば、ふんと総悟は鼻で笑う。

「ウチの姉ちゃんよりいい女なんてそうざらにはいませんや」

そうだろうがよと見上げられた。
返事はせずに視線を上げる。
抜けるような翠がかった空だった。







眩しい。

白々と朝の光が障子に映っている。
雨戸を開けているんだろう。ガタガタという立て付けの悪い扉を動かしている音。
誰かが呼んでいる。

「おきろよトシ」

野太い声が自分を呼んだ。
ゴリラ、と一言呟くと、無意識にそれは酷くない、ねェとオレのボスでもある野生のゴリラが寂しげに言う。

「寝ぼけてんのか、寝坊なんて珍しいな」

此処は動物園じゃなくて、真選組の屯所で、しかも今は朝で、今日は会議がある。
時計を見ると八時過ぎていた。
頭が重い、飲みすぎちゃいねェ筈だが、疲れているのかもしれない。
或いは呪い、いやいや冗談。
のそりと起き上がると文机近くにあった煙草盆に手を伸ばす。

「あぁもう寝煙草ダメだってっ」

野太い声が煙草を制する。
火をつけないまま咥えて、朝の光が座敷の奥まで来るその白々しい冗談めいた様子をぼんやりと眺めた。

「なんだ、悪い夢でもみたか」


悪い夢か。


「いや」


あれは夢だったのか。
どうりで可笑しいと思ったのだ。
場所は確かに屯所なのに総悟は小さいし玄関は、あぁ、そうだ。
昔の、武州の、懐かしき近藤の道場だった。
経験と記憶とそれから浅はかな希を切り刻んで鍋で煮詰めた、不味いスープのようだ。


「悪夢だ」


どっちだよと近藤は笑った。
さっさと顔洗って飯食って来いと大股で近藤は部屋を出た。
洗面台に行けば皆が居た。
口々に野太い声でおはようございますと挨拶される。

夢の続きのように総悟が歯を磨いていた。
歯ブラシを咥えたまま挨拶して、ふてぶてしく顎をしゃくった。
今日「二度目」のその顔には、さっきほどには腹が立たなかった。



歯を磨いて、顔を洗い、髭をあたる。
髪に櫛を入れて、食堂で朝飯を食い、お茶は自分で淹れられる。
スカーフは自分で結べる。
大仰な此の制服は独りで着られる。
煙草は止めない。

朝の支度など黙っていればものの二十分で事足りる。
誰の手も借りずに、一人で出来る。


「副長、会議室にお願いします」


俺の名を誰かが呼ぶことは無い。
もう、その名を呼ぶのはお前しか居ない。
それに因り縋るような幸福を感じるのは、あまりに愚かで惨めなことは分かっている。




行ってらっしゃい、気をつけて。




翠がかった色の青空はあの日の青。
いってらっしゃいと背中で聞いた、別れの声だ。



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2009.01.30
ミツバさんが一体幾つなのかははっきりとはかかれてませんけど、
多分土方が二十代後半なら(前半じゃ無いよな…)彼女もそれと同い年くらいかと。
と言うわけで近藤さん29、土方28、ミツバ28説を推します。
少なくともミツバさんは二十代前半では無いだろう。
あ、でもトッシーより年上でもいいな!でも近藤さんよりは下なのか。
ちなみに拍手用に書いてたんですが、ちょっと長くなったんで普通の更新分にしました。


17
「包帯」
coming soon

18
「骨になるその時まで」
お登勢+銀時


クソババアは今日も酒を飲んでいる。
煙草を燻らしながら、くだを撒く酔っ払いの杯を満たしてやる。
ついでにオレのもついじゃぁくれないか、そう言ったら払うもん置いて貰おうじゃないかと言った。

「お登勢さァん、お燗もう一つ」
「飲みすぎだよ、あんたたち、そろそろ止めときなよ」

陽気で愉快そうな酔っ払いがババアを呼ぶ。
ババアは悪態を吐きながら観音菩薩のように微笑んでいる。
ちろりをひきあげカウンタに置く。
その手には指環が光っている。

痩せた指に余るほどの、金色の指環。

ババアは手を洗って手拭で拭く。
濡れた手が赤く染まる。


「バアさん、オレも熱燗飲みたいんだけど」


アンタはほんとにしょうがないね、沸かしすぎたと酒を寄越した。
酒精が抜けちまってるからと言ったが旨かった。
差し出した手に指輪が見えた。
痩せた手だ。

火傷の後もあるし、節くれだって、てのひらがごつい。
色もお世辞には綺麗だともいえないし、張りも無いし、皺だらけだ。
その痩せた指を飾る金の指輪。

酔っ払いの相手をするときも、家賃を取り立てに来るときも、
飯を食う間も、便所に行くときも、眠るときも。


痩せた指を飾る唯一のもの。


例えば着物は朽ちるだろう。
この家もいずれは屋根が落ちる。
この酒も明日には小便になって出ちまう。



人はいずれは死を迎えて土に帰る。



けれど、アンタの指には指環が光る。
過ぎ行く日々でその輪が少しづつ歪んでも、あんたの痩せた手にあるその金の環。
クソババアって呼べないまま行っちまったっていう、あんたの連れ合いの代わりに俺が呼んでやる。

「おい、クソババァ、これ酒の味しねぇぞ、全部飛んじまってらぁ」
「うるせぇなタダ酒に文句つけんじゃないさね」


なんどでも。
なんどでも。






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2008.11
つまり母と息子。
息子は老いた母を敬うが、相変わらず愛情の深さに時々こそばゆくなったりしたらいい。




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19
「ラブのかたち」
coming soon

20
「熱い」
coming soon

21
「突っぱねた腕の弱さ」
coming soon

22
「実況中継」
coming soon

23
「不思議な恍惚感」
coming soon

24
「性器」
coming soon
25
「昔の恋人」
coming soon

26
「三日間監禁」
coming soon

27
「照れ笑い」
coming soon

28
「肩越しの景色」
coming soon

29
「歳の差」
coming soon

30
「冷血ヤマネコとブラッディーウサギ」
coming soon

31
「×××記念日」
coming soon

32
「挑発」
coming soon

33
「苦しいばかり」
coming soon

34
「EUPHORIA(多幸症)」
coming soon

35
「塞ぐ」
coming soon

36
「欲情するということ」
坂本と陸奥



男は、非常に無防備であった。
と言うよりも、生物における警戒心と言うものをどこかに置いてきた様だった。
うっすらと鼾をかきながら、大の字で寝ている。
しかも床の上で。

右手が何故か茶箪笥の引き出しの取っ手に掛けられていた。
非常に不可解で、不自然な体勢である。
いつも着ている黒い外套の片袖だけ抜いている。

奇怪な、陸奥はそうぼやきながら、
部屋に一歩足を踏み入れた瞬間にそんな格好で寝ている理由が分かった。
卓の上に湯呑が一つ。急須は見当たらぬ。代わりに一升瓶が転がっていた。中身は無い。
部屋に入った瞬間酒香が鼻を打った。
深酒はよせと言うちょるに、溜息混じりに転がる一升瓶を起こして棚に収めた。

生まれた土地柄か、と言えど辰馬は酒には強いが普段は余り飲まぬ。
なのにこんな風に正体を無くすほどに酔うとは、
ひょっとしたらなにかあったのかもしれないが、それを話すような男ではない。

仕様の無い、陸奥は明かりを点けぬまま寝転がる男の枕元に立つ。

「頭、おい、かしら、起きんか」

立ったまま呼びかけたが反応は無い。
流石に頭目を足の爪先で小突く訳にも行かぬからゆっくりしゃがむ。

「坂本、しゃんとせい」

唸るような声と返事をしようとする意識は辛うじて在るようだ。
ただし不明瞭で意思の疎通も儘ならぬ。
いよいよこの男は仕様が無い。
地に伏せるように床に手をつき、耳元で息を吸い込んだ。

「辰!」

半ば叫ぶように呼んだ。

「っなんじゃぁ」

飛び起きた。してやったり、である。
芝居かと思うほど大げさに飛びのいて周りを見渡した。
どんな夢を見ておったのやら。

「布団で寝や」

ぴしゃりと言ってやれば掌で顔を撫で、ひとつ唸ってハイハイと軽口を叩いた。
首を傾げながら飲みすぎじゃと項垂れ、
不承不承ながら這うように寝台に向かったが、立ち上がれないまま突っ伏した。

手間のかかると寝台へ引っ張り上げて、片袖しか通してない上着を脱がせる。
下駄は自然と落ちた。
布団は暑いから蹴るかも知れぬと掛けずにおいて、サングラスを外してやる。
外したそれを卓の上に置き、さっき置き去りにされていた湯呑を一つ洗う。
手拭で濡れた手を拭い、じゃぁのと部屋を出ようとした。

「陸奥ゥ」

酒に焼けた喉が声を絞り出す。

「これ、取っとうせ」

首に巻いている襟巻きを引っ張るがどんどん首が絞まっているらしい。
死なれても葬式を出すのが面倒である。
仕方がないと、締まりかけた縄を解くようにそれを首から抜いた。
ついでにてんでばらばらの方向へ落ちている下駄を揃える。
親切心ではなく性分としてそう言うものが気になるだけだ。

「あと、襟もォ」

襟巻きを外していると坂本の手が触れた。
酒を飲んでいるのに冷たいとはどういうことだ。

「気分は、吐くか」

吐かれたらやれんなと思いながら尋ねればいんやぁと暢気に言う。
一応と思い、冷蔵庫からミネラルウォーターの壜を枕元に差し出したら一口飲んだ。
襟を緩めてやると、指先が肌を掠めた。

ひやいのォと寝呆けたような声が笑う。
セクハラだ、ぐっと力を篭めて緩めると鎖骨の上に黒子が見えた。
真ん中で不可思議に途切れていた。
おやと目を凝らす。
肌の上に一直線、五寸ほどの色の違う筋が見えた。


「悪いんじゃが、こっちも」


嫁入り前の娘にすまんのうと冗談めかしたが黙ったまま手を動かす。
映画か何かで見た海賊の扮装がいたく気に入って、袴紐の上から洋装のサッシュ宜しく腰に巻いている。
古着の絹の兵児帯だか何かだから余計に締まるのか、挟んだ端をするりと抜いてやれば更に肌蹴た。
手は冷たいくせに暑いのか、子供が厭々をするように後は勝手にするとばかり衣を弛めた。

子供かと思いながら納まるまで待つ。
布団を掛けておいてやらねば風邪を引くだろう。
風邪を引くのは自由だが、この男が風邪を得て割を喰うのは言わずもがな己である。

結局面倒を見るのは自分ならば此処で少々の時間を取っても、風邪を引かせぬようにするのが一番の策である。
坂本は唸りながら眠るのに支障が無いように身体をよじらせている。
もうえぇかと促すが、もォちくとォと甘えたことを言った。

身体の下に巻き込んだ上着が難しいらしく、不精をして寝たまま直そうとするので上手く行かぬらしい。
見かねてそれを引っ張り抜いてやる。さっきの傷がまた見えた。

創痕は肩の上から胸の中ほどまで通っている。
それとは別に一寸半ばかりの突かれた痕、背まで貫通したと思しき、皮膚が抉れた痕がうっすらと見えた。
薄闇の中でそれら二つははっきりと見えた。恐らく明るいところで見ればもっと他の傷も見えるのだろう。

傷は綺麗に塞がっている。
肌の色は少し変わってはいるが、もう血は噴出してはいない。
一つ一つがこの男の歴。

ひやい、坂本が声を上げた。
脇腹の一寸ばかり、真っ白になっている傷跡に触れた。
私の。
指先は確かに冷たいだろう、皮膚は温かく弾力があった。

「陸奥」

上着の中に消えた創の端を見てみたかった。
中指だけでその痕を探す。
引き攣れたような感触が伝わった。

「陸奥」

この傷を付けた者は、今は生きているのだろうか。
私はこの傷の無い辰馬を知らぬ。

「黙っちょれ」

不思議そうに辰馬は私を見上げた。
私は目を伏せ、額づくように今しがた触れた傷に跪く。
引き攣れた痕、痛かっただろう。
私はその痛みを知らない。


「どがぁした」


傷に触れる。
犬がするようにその傷に舌を出す。
温度差を感じなかった、命の温度だ。

辰馬の手が耳に触れ、首を触った。

「どがぁした、陸奥」

舌の上に残る引き攣れた皮膚の感じ。
吹き出した血の味はもうしない。
大きな傷だ、命に関わりはしなかったのだろうか。
薄くなった皮膚は他の場所とは明らかに違う。

「おんしのことを、考えちゅう」

辰馬は静かに笑った。
ほうか、珍しいのぉと言って頭を撫でた。

「いかんか」
「いや」


酒の所為なのか、辰馬の声は掠れている。
冷たかった手は温度が戻った。
生きているものの温度だ。


低俗にして卑屈、この男に撫でられる資格が無い。
この傷の理由を欲す。
私の知らぬ吾が来歴を教えたもふ。

立ち上がりながら、辰馬の手をゆっくりと引き剥がす。
大きな厚い掌が名残惜しかった。
くちづけたい欲情を押さえた。

掌に首に胸に、口唇に。

辰馬の手を蒲団にゆっくりと戻す。
おやすみと蒲団を掛けてやる。

「此処で寝るか」

酷く落ち着いた声で尋ねた。

「いんや」

傷にひかれたのか、あるいは彼の苦痛を夢想したのか、それとも皮膚の下にある肉体に、或いはすべて。
見下ろした辰馬の口は僅かにあけられていて、乾いた口唇を舐めた舌がちろりと見えた。
本人の意識ではないだろう。

「今日はえぇ」


酔いどれの腕になど抱かれたくない。
酒くさい息も嗅ぎたくない。
鈍ったソイツが勃つかと尋ねれば、無理やりにでもと笑った。
出来もせんことを言うでない。

一瞬だけ手を握りすぐに離す。

お休みを言う。
お休みと言う。

甘やかしてなどやるものか。

じわりと熾きた身体の熱が行き場をなくす。
素っ裸になって飛び込んで身体中舐り回してやろうかと思ったがやめた。
煮えたぎる感情を呼吸で落ち着かせる。
指先に残った指の感触。

次会う時までに、忘れなければ。
あの傷も、あの味も。

金物の味を知る身体に舌を這わせて、その時初めてまみえる悦楽に溺れたい。
だから忘れなければ。

優しく惜しむように指を放した硬い指先を、
口唇の柔らかさを、
衣に包まれた胸の体温を、
僅かに香る汗の匂いも、
私がしるべきではない傷の深さも。

忘れよう。
そしてこのつぎに、刻み付けてもらおう。


苦しみながら、悦びながら、ふるえながら、咽ぶほどに、狂おしく。
欲情という名で、深くふかく。

----------------------------
2008.12.01

エロが書きたいんだろうな。
鎖骨の上に黒子がある男はセクシーだと思います。
大泉洋さんがそうです。
つまりたったそれだけです。
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37
「腹上死」
coming soon

38
「夜までの時間」
坂本+陸奥





陸奥は、辰馬の古い馴染みだという男の家に連れて行かれた。
用事のついでであったから自分には用など無いが、時間を潰そうにも何も無いところである。
生憎主は不在だと告げられたが辰馬は折角だからと待つことにした。

陸奥は客ではあるが対外的には坂本の供である。
従者よろしく控えるように、座敷には入らず縁に座して庭を眺めてた。

辰馬も陸奥が座した隣に座った。
屋敷の手伝いの者はお茶を淹れると間も無く戻られますと丁寧に挨拶した。
それを頂戴しながら主の帰りを待った。

夕暮れ時の庭は橙色の光で染められ、温かみのある光線で郷愁を誘う。
二人で並んで座っていると、郷里で過ごした日々が思い出される。

辰馬は短い期間にもあちらこちらと飛び回っていたが、
郷里に戻ると陸奥を傍らにしてじっと黙って庭を見た。
知らぬ人とはよく喋るが、どういうわけか自分を隣にすると閑と黙る。
元々己の性分も口数が多い方でないからお互いが黙りこくる。
時々、茶でも飲むか、あぁ、それを取ってくれ、ほら、
遣り取りと言うほどのものでもない会話を交わすだけ。

辰馬の家は、春には桜が美しい庭であった。
花びらが落ちる音すら聞こえそうなほど、静かであった。

今ははらりはらりと落ち葉が散る。

「ようよう冷えるように、なったのう」

辰馬が不意に口を開いた。
確かに、昼間といえど肌寒い。
脱いだ外套を羽織ろうかとも思ったが、失礼になるかと思いそのままにした。
辰馬は何を知るのか、傍らに無造作に畳んだ外套をふわりと私に纏わせた。

「着ちょき」

それきりまた何も言わなかった。
はらはらと、落ち葉が散る。
木枯らしの前触れが、冷たくなった風を運ぶ。
思わず外套の縁を手で引き寄せようとした。

不意に外套の裾から、辰馬の手が滑り込む。
狙ったかのように今しがた外套を引き寄せた手を柔らかく掴んだ。
冷えた爪先が掌の熱で温められる。

「ひやい」

指の股を一本一本包むように五指が手を絡め取る。
大きな手の中に呑み込まれる。
硬い掌、男の手だ。

「今日、晩は、よう冷えるろうの」

包まれた掌は温かい。
その所為なのか、今冷たくなっている場所が際立つように冷えた。


「夜は、足が、冷えるろう」

肯きながら、彼の手が足に触れるのを待った。
だが冷たくなった足には触れず、悪戯な手は指を包む事すら止めてしまう。
追いかけるように辰馬の薬指をやんわり掴む。
辰馬は何も言わずそのまま動かない。

虫の声、風が薄を揺らす。

「冷えるのう」
「ほうじゃの」


夜には脚を、包んで貰おう。



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2008.11
冷えた脚を抱いて寝ると言うのはなかなかにいやらしいと思うのですが。




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39
「征服欲」
coming soon

40
「四肢」
coming soon

41
「濡れる」
coming soon

42
「陶酔感」
coming soon

43
「舌を絡める」
coming soon

44
「お風呂でも安心できない」
coming soon
45
「白昼堂々」
coming soon

46
「胸」
coming soon

47
「個人授業」
沖田くんと神楽ちゃん
いいか神楽、と銀時は言った。
あのどS王子と仲良くしてもいいけど、
優しくされたら気をつけるんだぞとまるで今は不在の父のように言った。
わかったアルよといったけれども銀時は聞かない。
いいや、お前はわかってないよ、神楽ちゃん、猶も続けて銀時は言う。

「いい事教えてやろうかって言われてもついてっちゃァ駄目だからな」

わかったアルわかったアル、煩いなァと神楽は手を振る。
いってきまァすと玄関のドアを閉める。

「…新八、オレって過保護」

新八はすべての遣り取りを聞きながら、うーんと笑った。

「まぁ、大事な預かりものですからね」

銀時は神楽が駆けて行った通りを眺める。
姿はもう見えない。


神楽は今日までに通算百を超える決闘をしてきた相手の男に銀時の言葉を告げた。
百三十五戦百三十五引き分け。
一度はマウントポジションを取って勝利したが、
あれは足の骨が折られた折のことだったのでノーカウントであるとの主張に押されそれは合意した。
今日で百三十六戦百三十六引き分け。記録は更新された。

「旦那が、なんだってェ」

総悟はぜいぜいと肩で息を吐きながら、自動販売機の前に立ち小銭入れを取り出した。
百円玉を二枚入れてからボタンを押す。
押そうとする前に、横から手が伸びた。
缶入り汁粉が飛び出した。
あ、テメェ、と総悟は手を伸ばす。

「油断するからアルよ」

神楽は缶入りしるこのプルトップを引き上げて、汁粉を一気に飲み干した。
まるで旦那だ、総悟は諦念してもうひとつ百円玉を入れた。
今度はお茶のボタンを素早く押した。

「だから、いいこと教えてやるって言われても、ついて行ったり目を閉じたりしちゃ駄目だって」

へぇぇ、と総悟もプルトップを引き起こす。
渇いた喉に冷たいお茶が流れ込む。
こりゃァ、下手な真似はできねェやと、それでねと話を続ける神楽を見ながらそう思った。


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2008.11
神楽ちゃんと総悟は周りが見てないところで時々けんかが終わったあと何気なく喋ってたらいいのに。
ほんのりとした沖田くんと神楽ちゃんの話が好物です。


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48
「単純なこと」
coming soon

49
「笑い顔」
coming soon

50
「目で犯す」
coming soon

51
「震える朝」
coming soon

52
「サボタージュ」
桂さんと幾松さん





起きないの、と彼女は静かに言った。

部屋の中は、しんとしている。
無論、外も随分静かだ。

店が閉まったころに顔を出し、
夕食を共にして、そのまま風呂を使って、乾き物を肴に一合呑んだか呑まないか。
さしつさされつ、炬燵で酌み交わした。

そのまま雑魚寝でも良かったのだが、霜月も今日で終わりの木曜日。
転寝ていたら布団を敷かれた。
敷かれたからそこで寝た。
一緒に寝ようかと聞いたら頷かれたので一緒に寝た。

二日酔いかと聞かれたが、寝不足なのはその所為である。

外はまだ暗い。
部屋の中が随分冷えている。
立冬はとうに過ぎて暦では冬。
春が来るのは遅いのに、冬は確実に早く来る。

「ねぇ出なくて、いいの」

普段なら彼女が支度をする横で身支度をして、彼女が店に立つ前に暇を乞う。
けれども今日はどうにもそう言う気になれない。
腕に小さな頭を乗せて此方を見た。

「もう五時になるわ」

そう言う割に、絡めた脚を放してくれない。
頭の乗った腕を開放はしない。
腰の上に乗る手をはなしはしない。

木曜の夜に来たと言うこと自体が確信犯なのだ。
彼女は気がついているのかいないのか。

冷えた髪の毛に鼻先を埋めた。洗髪後の匂いと体臭が溶けた匂い。
腕に余る身体を抱き寄せた。
柔らかい質感が腕に教えた。

「今日ぐらいサボったっていいだろう」

蒲団を肩まで掛ける。
枕になっている腕をそのまま畳んで頭を抱き寄せる。
まどろむ様に目を閉じた。

見慣れた夜明け前の道の暗さを思い描く。
饐えた夜の匂いを凍らせる、朝の痺れるような清廉な空気を思い出す。
此の部屋の中には、昨日の名残、けだるく甘い匂いが満ちている。

まだ此処は夜が支配している。
いつもは此処から逃げ帰る。
急いで此の夜から逃げる。
何かに圧されるようにして。

 けれども今日は。

身体ごと引き寄せたら、あぁそうなのと言ったあなたがいた。
目を閉じたままそう言った。

「年中無休というわけではないのだから」

そうねぇ、据わりがいいように頭の位置を変える。
テロリストだって、休みはいるわよね、冗談ぽく笑った。
違いないとまた互いに黙った。


明け烏は、まだ鳴かぬ。

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2008.12.1
アァヅラ松が書きたい。
むしろヅラ松はシチュエーションを殆ど変えずに密室劇のような形で書くのが一番かもしれない。
そうしよう…
だんだん距離が縮まればいいと思います。
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53
「欲しい」
coming soon

54
「こんなに近い存在」
coming soon

55
「じゃあ嫉妬して」
coming soon

56
「ケーブル越しの熱」
coming soon

57
「プレイ」
coming soon

58
「身勝手な本能」
coming soon

59
「有刺鉄線」
coming soon

60
「結婚白昼夢」
坂田さんと志村さんちのお嬢さん


「あら、花嫁行列」

妙は急に声を上げた、鈴のにぎやかな音がした。
銀時は振り返る。
古式縁しい花嫁行列がゆっくりと此方へ向かっている。

志村家は武家屋敷が立ち並ぶ一角にある。
最近ではこんな行列など殆ど見ることもないが、家の格やらで屋敷で披露宴をするところもあるのであろう。
妙と銀時は行列に道を譲ろうと縁によけた。
それをみて介添人らしい年嵩の女性がにこりと笑って目礼した。
おめでとうございます、妙はにこやかに笑って言った。

花嫁御寮は真っ白な綿帽子を被いて葦毛の馬に乗っている。
紅白の布で織られた縄を持つ馬役が口輪を持ってゆっくりと歩みを進めている。
白無垢の裾が振動にあわせて揺れた。

銀時は通り過ぎる鈴の音を聞く、足音を聞く。

「素敵ですねぇ」

ん、あぁ、銀時は気も無く言った。
後ろを歩く人々は神妙な顔をして付き従っている。
嫁入道具であろう、昔ながらの塗りの長持に道具一式。
鈴の音ともに通り過ぎる。

「神楽ちゃんも、いつかあぁやってお嫁に行くんですよ」

妙はぼんやりと行列を眺める銀時に言った。
銀時は焦点の合わぬような目で行列を眺めたあと、ちらりと視線を寄越した。

「順番からいやぁ、オメェのほうが先だろうがよ」

あ、相手が先かと真顔で冗談を言った。
即座に鉄拳制裁が来るかと思ったが、折角の花嫁行列に水を差すのを悪いと思ったのか、
二の腕の内側、皮膚の柔らかいところを手酷く抓られた。
慌てて腕を振り上げ距離を取る。

鈴の音が通り過ぎる。
礼装の列が煌びやかに続いていく。

「私は、いいんです、あとで」

妙は花嫁の背を目で追った。
同時に付き添うように歩く年嵩の人々を愛おしげに眺めた。
下手なこと言っちまったなァ、と銀時は妙に聞こえぬように一人ごちた。
随分歳の下のこの娘は、時々物事を真面目に答えてしまう。
冗談で済ませようと思ったのによと銀時は同じように行列を眺めた。

「でもそれを言うなら銀さんこそですよ」

冗談ぽく妙は笑った。
オレはいいの、子育てに忙しいからァ、と冗談めかしたが妙はそれ以上何も言わなかった。
この娘は、言ってみれば随分歳の離れた妹といっていいくらいの歳である。
だが、どういうわけか一目置くような態度を取ってしまうのはわれながら不思議だと銀時は思っている。

我々は同志なのかもしれない。

花嫁を見送りながら恐らく互いに当事者ではなく送り出す者の側に立っている。
白無垢の花嫁は、あと十数年後の神楽の姿を想像させた。
恐らく妙はこの行列の到着先、弟が妻を娶るときのことを考えているのではないだろうか。
私は後でいいといったこの娘が、あの衣装を着るのはいつになるのだろう。


「お妙、いざとなったらゴリラで手を打て」


銀時は腕組みしながら突然そう言った。
妙は一瞬耳を疑ったが、脊髄反射の勢いで厭ですと言った。

「幕臣だよ、しかも局長だよ、局長夫人だよ。老後は若い衆に見てもらえるから安心だしよぉ」

いざとなったらって言ってるじゃねェか、別に今しろって言ってるわけじゃぁねェ、
銀時はそう続けたが答えは同じ。

「いやです」

全部済んでからなんて言ってたら後れを取るぞと言ってやったが、厭ですの一点張り。
ゴリラの気がかわらねェ内に貰ってもらった方がいい。
何しろこの不景気な世の中で幕臣だ。
退職したって殉職したって国から銭がたんと出る。

「三十路行く前には手を打て、な」
「余計なお世話です」

おめぇが片付かねぇとおちおち自分のこともおっつかねェ、
銀時は一人ごちたが妙はそっくりそのままお返ししますと笑った。

鈴の音が通り過ぎる。
真昼の花嫁行列。

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2008.12.1

銀時は父であり兄であり、妙が頼ることの出来る唯一の大人の男の人。
いざとなったら助けてくれると言う心の支え。
手放しで助けは求めないけれども、性愛以外のところにある一番近い男性。
記憶喪失の銀時を素敵だと言ったのは、働くパパはなんか違う〜♪的なカンジ。
近藤さんを毛嫌いするのは「男」を感じているからに違いないと言う妄想。

銀時とお妙さんはそう言う関係。
兄弟の中でも同志であり対等。大人同志の話が出来る相手。
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「所詮ひとり」
近藤さんとお妙さん





曰くそれは独り善がりでしょう、そう言った。
はっきり言ってやった。
独り善がりで夢見がちで、何にもならない。

男は笑った。


「お妙さん、あなたは夢ではありません」


男の手には花が握られていた。
その日は野菊と小さな萩の花が咲いているだけの野の花のブーケ。
いつもの夢のように芳しい花ではなかった。

「ぼくが摘んだのです」

褒めて欲しいのかそれとも事実の羅列か。
男は言った。
受け取ってくださいと、言った。

「花を摘むなんて、可哀想」

意地悪を言う。
男はそれでも顔をまっすぐ上げる。
もっと酷い事を考える。
男は決して俯かない。
言い訳もしない。
愚鈍に黙り、ひたすらにわたしを見つめた。

所詮は独り善がり。
あなたはわたしをあなたの目でだけ見ている。
でも皆そうするしかない。
自分の目で見て、手で触れて、距離を測り、大きさを知り、温度を感じる。

皆独りだ、所詮一人。
独り善がりの世の中なのだ。
互いの座標を知りたがる。




「あなたが持っていると、花が可哀想」



寄越しなさいと言い捨てた。
男は笑った。
とても嬉しそうに。

いい、これは好意を受け取ったんじゃないの。
花が可哀想だから花を貰っただけ。
男は何も言わない。
そうですかと言っただけ。

野の花の花束は、記憶の中のゆうぐれの匂いがした。

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2008.12.1
近藤さんのことをお妙さんは決して嫌いではないと思います。
多分、どうしていいか判らないんだと思います。
常に彼女は「お姉ちゃん」であって新八の姉でもあり、保護者であって、
自分のことは常に後回しにしてきたのでは無いかと。

だから歳の離れた「男」に求婚されること自体が想定外だったのではないかと思いました。
いずれは誰かと結婚するだろうけど、
それは皆がやっているからと言う理由で想像しうる未来であって、現実のものではない。
けれども生身の男に求婚された。

その現実を拒否したいまだ十代。

だからこその、「皆のところへ帰りたい」
皆がいて近藤さんをどついたりしたい。
まだ変わりたくないと言う希み。
だから近妙は10年の視野を入れて考えています。
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「風俗店」
桂さんと幾松さん



「一緒に入ったらいいじゃない」


女と言うのは時折大胆なことを言う。
此方もうろたえるのは癪なので、そうかと頷いた。

先に入っておいてと言うから、脱衣所で着物を脱いで先に入った。
髪を高く括って濡れないようにしながら、掛け湯をして湯船に浸かった。

夜はだんだんと冷えが深まる。
人恋しくなる時期でもある。

いや人ではなく、人肌か。

今日ここに来た理由はそれだけではない。
いや嘘だな。
確かにそれだけの理由ではない。
けれども、ここにくる理由はあの人の顔が見たい、触れたいと思うからだ。

現に趣を排除したような攻勢にて畳みかけようとしたならば、湯を浴びたいと言われた。
構わんと言ったら私が構うと怒られた。

侍に有るまじき事だが、甘えたことを言った。
待ちたくないし、離れたくないと。

そうしたら笑って言った。



「じゃぁ一緒に入ったらいいじゃ無い」



女と言うのは時折大胆なことを言う。
此方もうろたえるのは癪なので、そうかと頷いたのだ。
からからと浴室の扉が開く音がした。
真っ白な湯気が外へ吸い込まれ、アァ寒いと白い脚が見えた。

女はごめんねと言いながら湯船からひとすくい湯桶にとって浴び湯をした。
置いてある檜の椅子には座らず脚を立てて、柔らかそうな手ぬぐいに石鹸をとって泡立てた。

髪を上げている。
うなじが見えている。
うなじどころか、ではあるのだが、白熱灯一つと言えど明るいところで、
しかも蒲団の上以外で見ることなど無かったので少々気恥ずかしい。
余り見ないようにしようと思いながらも、首は其方を向きたいというので結局じっと眺めてしまった。
泡を立てながら背を洗い、腕を、身体を、脚を洗う。
湯気が、非常に邪魔だ。

「ねぇ、もう身体洗った」

普段から薄化粧だが、顔まで洗うとすっかり頬が上気した。
風呂上りの顔と言うのはあどけなさも加わって、婦人方が他人に見せまいとする無防備な顔だ。
つまりそれは褥を共にする男しか見られない特権。
紅を引いたくちびるよりも、
少女のように上気した頬ではにかむ表情のいじらしさ。
商売女の妖艶さとは違う力で男心を捉える。

柔らかく微笑んだ顔はとても優しい。
いいやと首を振る。



「洗ってあげようか」



思わず大きな声を上げそうになった。
背中をだよと言ったけれどもからかっているに違いない。
反論できぬままじゃぁ頼むと用意された椅子に腰掛けた。
そんなに広い風呂じゃ無いから、自然と密着することになる。
泡だてた石鹸を手ぬぐいに乗せて背中を洗ってくれる。
手だけではなく腕や、胸や、脚が触れた。

「ねえ、アンタこういうところ行った事あるの」

こういうところというのは一体どういうところを指すのか分からないが、
少なくとも健全なサービスを施す場所でないことくらい承知している。
亡くなったご亭主は行かれていたのだろうか、いやそうではあるまい。
あるなら話題にはしない筈だ。
女性はそう言うところに行く男に余りいい感情を抱かぬだろうし、
今の口調はからかっているだけのように思えた。

「無いな」
「嘘」
「嘘をついてどうする」

愉快そうに笑いながら背を擦る。
背中に時折やわらかいものが触れた。
感覚をそこ一点に集中させぬように、あさっての事を考える。

「よくしらぬ者にどうして自分の資本である身体を預けられるか」

ふぅんと言う。
もう背中は洗い終わっただろうに、まだ擦っている。
相変わらず、柔らかな感触が背中に乗る。

「私はいいの」

いいもなにも。
持っている手拭じゃなくて身体で洗ってくださいとぽろりと言ってしまいそうだ。
石鹸の泡が摩擦係数を限りなく零にする。
優しげな声がすぐそばで耳を舐った。

「答えて」

背後から伸びたてがするりと腿の上を滑り、
行きがけの駄賃とばかりに、四半刻前から収まりがつかないままのアレをつるりと撫でた。
思わず息がこぼれた。情けない。

「…、構わん」

息を吐くように短く答えた。
そう、微かに笑ったのか、浴室に声が反響した。
俯くように足元を流れる湯を見る。
性的な欲求も然ることながら、この非日常。
ひょいと泡のついた手拭を渡された。自分で洗えと言うことなのかと思って受け取った。
同時に背にぴたりと密着する温かい身体。
腕を胴に絡めて、掌は胸を這い上がる




「ねぇ、お客さん、こういうところ初めて?」



舌が耳朶を舐る、甘噛んだ。
勘弁してくれと言ったら、楽しそうに笑った。

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2008.12.1
風俗と言えば坂本でしょうが、此処はひとつ桂さんで。
と言うか行ってないわけ無い気がするんだけど、どうなんだろう。
銀ちゃんは昔はキャバクラ行った事なかったっぽいけど、ヅラはどうなんだろう。

軽薄なとか言いながら、行くのか行かないのかはっきりしろと言われて
「行くに決まっておろう!」とか言っちゃうといいよ(笑)

と言うか風俗と言えば何ゆえソープランド…
ソープごっこ、して欲しかったんです。
こんなこと冗談交じりで出来るのはヅラ松しかなさそうだし。
殿方とお風呂に入ってほどほどの平常心を保てて余裕があるのは幾松さんくらいかなと
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75
「有罪」
coming soon

76
「外で」
coming soon

77
「n the bedroom」
coming soon

78
「血みどろ」
coming soon

79
「屈辱的姿勢」
coming soon

80
「背徳」
coming soon

81
「絡めた脚」
coming soon

82
「蠱惑」
coming soon

83
「獣」
coming soon

84
「あだ心」
coming soon

85
「背中の真新しい傷」
coming soon

86
「突然すぎる」
coming soon

87
「プレゼント」
coming soon

88
「涙」
coming soon

89
「きれいな存在」
coming soon

90
「目隠し」
coming soon

91
「意味は広辞苑で」
coming soon
92
「足から伝う体液」
coming soon

93
「形勢逆転」
coming soon

94
「引き攣った喘ぎ」
coming soon

95
「温室」
coming soon

96
「例えば君が知らないあんな事」
coming soon

97
「溺れる」
coming soon

98
「衝動」
coming soon

99
「セックス」
coming soon

100
「愛ある世界」
coming soon

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