HAPPY LIFE
presented by ぷーちゃん

第十話

「ゾロ!お前ここにいたのかよ!携帯鳴らしても通じないしよ〜〜って、この美しくて素敵なお嬢さんは誰だ!俺に紹介もしないでいつの間に!!!」
「あぁ、携帯忘れた。」
「こんばんはvナミです。」
「あぁ、ナミさん、貴女はなんて美しい人なんだ。こんな奴にはもったいない。」
「サンジだ。俺の生徒で俺達の大家。」
「生徒っていうな!ん??俺達の??」
「大家さんなんだ。」
「そう、あのボロアパートの。」
「よろしくお願いしますvv」
「えっ、ナミさん羊荘の住人なの?俺としたことが迂闊だった・・・いつから?」
「1日から。今日で4日目かな?」
「そっかぁ〜〜不動産屋にまかせっきりだったからなぁ〜〜
 そうとわかればお近づきにvv」
サンジは、さっさと席について、その後は2人で話が盛り上がっているのをゾロは横で聞いていた。

明日から仕事だからというナミを、駅前の雑居ビルの5階に住んでいるサンジが送っていくといい、ゾロと同じ所に帰るのに必要ないとナミに笑われ、半ば本気で「俺も羊荘に住もうかなぁ・・・」とサンジが言った。

「この道って、暗いし、やな感じね。」
「そうだな。女一人で歩くには危ねぇな。」
「防犯ブザー買おうかな・・・」
例えブザーが鳴ったところで、誰も通らなければ意味が無い・・・と思いながら、ゾロは返事ができなかった。

「今日は、ありがとねv楽しかった!」羊荘の前でナミが笑った。
「あぁ・・お前、風呂どうすんだ?」
「銭湯11時までだっけ?急いで行って来ようかな。」
「俺も行くから・・・」
「ホント?じゃ、用意してくるねv」
何故そんな言葉をかけてしまったのか・・・このまま別れるのが名残惜しかったという潜在意識を無視して、「夜も遅いし、危ないからな・・・」と、考えるゾロだった。

時間を約束して入り口で別れたものの、ゾロとしてはゆっくり入浴したつもりでも、約束の時間には間があった。手持ち無沙汰に待つゾロの前に現れた、湯上りのナミは、頬が桜色に染まり、まだ少し濡れた髪をアップにしているため、白い項が露わになって・・・どんな男が見ても扇情的だった。

「お前・・・そんな格好だとまた襲われんぞ?」
「えっ・・どうして?」
「どうしてって・・・」
「この辺、そんなに変な奴多いんだぁ・・・」
いや、変じゃなくても襲いたくなるだろう。という言葉をゾロは飲み込む。
「風呂付のアパートに移れよ。」
「だって、お金ないもの。」
「銭湯代考えたら、たいして違わねぇよ。」
「そうかなぁ・・・でも、敷金も礼金も払っちゃたしなぁ〜」
自覚の乏しいナミに、ゾロは不愉快になる。
「襲われてからじゃ、遅いだろうが!」
「じゃぁさ、ゾロが一緒に来てよ!ゾロだって銭湯行くんでしょ?」
スポーツクラブで入ってくるから、行かないのだ。とは、何故だか言えなかった。
「あぁ、じゃぁ、風呂行く時、声かけろよ。」
「うんvv」

羊荘の1階で「おやすみ。」と言って別れた。ナミのカンカンという足音を聞きながら、鍵を開け、ゾロは部屋に入る。ドアを閉めた後で、ナミの部屋のドアが閉まる音を聞く。
ナミに出会ってから、ナミに振り回されてばかりのようだが、不思議と不快感はない。それどころか、楽しくて、その無防備さが心配になったりするのだ。ロロノア・ゾロ、初恋の予感である。

翌日のゾロは早番だった。クラブの入り口側の喫茶室でサンジが待っている。ゾロが携帯をいつも持ち歩かないということを、身を持って体験しているサンジは、用事があればここでゾロを待ち伏せするのだ。
食事に誘われて、いつもの定食屋へ向かう。
席につくなり、待ちきれないとばかりにサンジがしゃべり始める。

「お前さぁ、ナミさんとどういう関係なんだよ。」
「どういうって、部屋が上ってだけだ。」
「本当にそれだけか?」
「他になにがあんだよ。」
「手、出してねぇだろうな。」
「お前と一緒にすんな。」
「ナミさんに惚れた?」
「んなわけねぇだろう。」
「じゃぁ、いいんだな。」
「何がだ?」
「俺が、ナミさんに手出してもいいんだな?」
「ナミが決めることだ。俺に聞くな。」
「その台詞後悔すんなよ!」

それからひとしきり、サンジはナミの魅力について語る。
たった一度会っただけの女に、よくもここまで話が尽きないものだと感心しつつも、ゾロは上の空でサンジの話を聞きながら、9時過ぎに帰宅した。

ゾロの帰宅を待っていたかのように、カンカンと足音が聞こえる。
「ゾロ?帰った?」
「おう!」
「銭湯、何時頃行く?」
そうだった・・・風呂に行く約束をしていたのだ。
ゾロは、いつもの習慣でクラブで入浴を済ませてきてしまっていたが、「何時でもいいぞ。」と返答していた。
「じゃ、用意してくるね〜〜」

銭湯へ向かう道すがら、ナミは、朝の千代田線が殺人的に混雑しているとか、職場は優しそうな人が多くてよかったとか、今日一日の出来事をゾロに話していた。ゾロは、そうかとか、それでとか、相槌をうつ。
今日も時間を決めて待ち合わせをしたが、やはりゾロは長湯ができず、結局ナミを待っていた。昨日と変わらず、風呂上りのナミは、とても一人歩きをさせられるような容姿ではなく、ナミに何かあったらどうしようという不安を自覚しないまま、それでも心配な気持ちだけがゾロの胸を過ぎるのであった。

羊荘の入り口で、別れようとするゾロをナミが呼び止める。
「ゾロ・・・あのさ・・・」
「あぁ?」
「携帯、持ってるんだよね?」

一人暮らしを始めて、しばらくたった後、必要もないし、金がかかるという理由で、電話も引かなかったゾロを見かねて、ロビンがゾロに携帯を持たせた。必要ないといいはるゾロに、食事にも誘えないからと、半ば強引に持たされたそれは、月に1〜2度、ロビンから連絡が入る以外に使われることもなく、家に置かれたままだった。
サンジとつるむようになってからは、「飯喰いに行こう」とのメールが入るので、一応持ち歩いてはいるが、家に忘れることのほうが多かった。

「あぁ。持ってる。」
「番号聞いてもいい?ほら、ゾロ早番か遅番か判らないしさ・・・迷惑かな・・」
「いや、迷惑じゃない。ちょっと待ってろ。」
部屋に入って携帯を探す。自分の番号は覚えていない。何番だったか・・・と、迷うゾロにナミが、
「私にかけてみてv090−XXXX−XXXX」
「ゾロ、登録の仕方わかる?」そう言って、ナミは自分の名前もしっかり登録し、メルアドもチェックして、ゾロに携帯を返した。

「明日は遅番だから、10時過ぎると思うけど、風呂、待ってろよ。」
「うん。じゃぁおやすみv」
「あぁ、おやすみ。」

カンカンという足音を聞きながら部屋に入る。ゾロが靴を脱ぎ、洗面器を流しの横に置くと、ナミの部屋のドアが閉まる音がする。寝巻き代わりのスウェットに着替え、敷きっぱなしの布団に入っても、階上でナミの足音が聞こえる。やがて、押入れの襖を開く音がして、布団が敷かれ(多分)階上が静かになる。そうして、ゾロはいつしか眠りにおちる。

スイミングクラブでの毎日は、いたって平凡で、特筆すべき出来事は何も無い。ただ、今日は、クラブで風呂に入らずに急いで帰ろうとゾロは思うのだった。

実家にいる時から、家で誰かが待っていてくれるという意識がなかった。
もちろん、家政婦は食事を用意して、ゾロの帰りを待っていて、「おかえりなさいませ」とゾロを迎えてくれてはいた。
サンジとつるむようになってからは、サンジの家に行くことも多かったが、自分の家とは違う。ナミが自分の帰りを待っていると思うと、自然に家へと向かう足取りも速くなる。
2階に明かりがついていることを確認して、自室にも入らずにナミの部屋へと向かう。
軽くノックをして、「おい、帰ったぞ!」と声をかけ、階下に降りようとするとドアが開きナミが顔を出す。
「おかえりv今、サンジ君が来てるの。今、用意するから、ちょっと待っててね。」
「あぁ。」

部屋に戻って風呂へ行く用意をするものの、何故か面白くない。何故面白くないのかがわからないままに、「ゾロ、行こぉvv」と、ナミの声がかかる。
ナミと一緒に下りてきたのか、サンジが門の前に立っている。
「じゃぁね、サンジ君。今日はありがとうv」
「いえ、どういたしまして。じゃぁ、また明日。
 明日は俺も風呂の用意してこようかなぁ〜〜〜vv
 おい、クソマリモ、ナミさんのボディガードしっかりしろよ!」
そう言って、サンジは後ろ手を振って、帰っていき、ゾロとナミは銭湯へと向かう。

「今日ね、帰ってきたらサンジ君が門の前にいたのよ。」
「・・・・・」
「それでね、夕飯でもどうですかって誘われて、ご飯食べてきたの。」
「それで?」
「えっ・・・それで、家まで送ってくれたから、お茶でもどうですかって。」
「お前は知らない男を部屋に上げるのか。」
「知らなくないもん。ゾロの友達でしょ?」
「・・・・・」
「ひとりでご飯食べるの、寂しかったの。」
ずっと一人で食事をしていたゾロには、意外な発言だった。一人の食事が寂しいなんて思った事もなかったのだから。

「それで、明日私仕事休みだから、お昼も食べましょうって。」
「勝手にしろよ。」
「ゾロ、明日お休みなんでしょ?」
「あぁ。」
「ゾロと一緒ならって、言ったから。ゾロも行こうよ。」
「なんで俺が・・・」
「歓迎会だって言ってたもん。」
「そうかよ。」
「ゾロが行かないなら、私も行かないよ。」
「なんでだよ!」
「だって、知らない男でしょ。」
結論がでないままに銭湯につき、入り口で別れる。
広い湯船に浸かりながら、ゾロの思考は入り乱れる。

翌日の昼は、サンジの家で食べた。サンジがあれやらこれやら食材を買っていて、ナミとサンジがキッチンで何か作っている。
料理をしないゾロは、疎外感を味わいながらソファーでビール片手にくだらないTVを見るとも無く眺めていた。

用意された料理は、和食も洋食も中華も混ざり合った統一感のないメニューであったが、テーブルを埋める品数は圧巻で、歓迎会らしい雰囲気を出していた。

サンジとナミは、お互いに料理が上手いと褒めあって、乾杯の後はもっぱらサンジがナミのことを、色々と聞き出している。
ゾロには、知ってることも知らないこともあったが、会話に口をはさむことも無く、ただ黙々と食べて飲んでいた。

明日から学校が始まるというナミに、
「ナミさんさぁ、学校って何時に終わるの?」
「まだわからないけど、9時頃?帰ってきたら10時近いと思うけど。」
「じゃぁさ、学校ある日は俺んちで風呂入っていけば?」
「えぇ〜〜いいよ。悪いもの。」
「悪くないよ。
 だってさぁ、帰って急いで銭湯いってさぁ、遅いから危ないし、大変じゃん。」
「う〜〜ん・・」
「それにさ、俺んちで風呂入ったら、羊荘まで俺送るからさ。
 あそこまで、人通りないだろ?けっこう危ないんだよ。」
「銭湯はゾロに一緒に行ってもらうし・・・」
「えっ??だって、ゾロはクラブで入ってくるだろ?」
「そうなの?」
「あぁ、まぁな・・・」

サンジがナミに惚れたと言っているのは聞いていた。自分が面倒見ることでもないと思った。ナミは、「でも男の人の家でお風呂に入るっていうのも・・・」と、戸惑っていたが、「大丈夫だって!俺、誓ってナミさんにそんな変なことしたりしないからさ、なっ!!おい、ゾロ、俺を保証しろ!!」などと言うので、「こいつなら、大丈夫だろうから、そのほうが、便利ならそれでいいんじゃないか?」などと言ってしまった。

「じゃぁ、そうさせてもらおうかな・・・」と答えたナミに、
「やったぜvvこれで美しいナミさんに毎日お会いできますね!」とサンジは歯の浮くそうな台詞を言っていた。

その週は、ナミともサンジとも顔を会わせることがなかった。11時前に門の前でサンジとナミが交わしているであろう、「おやすみ」とか「ありがとう」という声を聞き、カンカンと階段を上がる音が、ナミの帰宅をゾロに教えた。

翌週の早番の日、久しぶりにサンジがクラブの入り口で待っていた。
夕飯を食べようと言われ、了承する。
頼んだビールが2杯目のサワーに変わる頃、サンジが話し始める。
「俺さぁ、もうナミさんにメロメロだよ。」
「そうかよ。」
「ナミさんってさぁ、可愛いだけじゃないんだよ。」
「はぁん」
「抜群に頭いいっての?回転速くてさぁ」
「そりゃよかったな。」
「でも、こうさ、身持ちが堅いっていうの?いい家に育ったんだなぁって感じでさ。」
「それでなんだよ。」
「俺さぁ、宅建の免許とってみようと思うんだよね。」
「タッケン?」
「宅地建物取引者主任ってやつ。試験があんだよ。」
「いいんじゃねぇの。」
「いやさぁ、俺馬鹿だけどさぁ、
 なんかナミさん見てたら、俺だけプラプラしてらんねぇなぁ・・とか思ってさ。」
「それで?」
「会計士ってのもいいかと思ったんだけどよ、ナミさんが『サンジ君は、不動産持ってるんだから、それを活かせる資格がいいんじゃない?』とかアドバイスしてくれたしよぉ」
「じゃぁ、頑張れよ。」
「そうだよな!ナミさんに呆れられない様に、頑張るぜ!」

「俺さぁ、ナミさんに告ッたら振られるかなぁ・・・」
「あぁ?」
「今、告って振られるより、もっと時間をかけてお近づきになってからのがいいと思う?」
「知らねぇよ。」
「お前、冷たい奴だなぁ・・・今度さぁ、機会があったらでいいからさぁ、ナミさんにそれとなく聞いてよ。俺のことどう思うってv」
「馬鹿か、お前。餓鬼じゃねぇんだから、自分で聞きやがれ。」
なんでそんな風に言ってしまったのか、わからなかった。
少なくとも、そんなことをナミには聞きたくないと、思ったのだ。

半ば酔っているように見えたサンジは、9時半になると、「ナミさんが帰ってくるから」とさっさと席を立ち、伝票を持った。

居酒屋からの帰り道、あの2人はつきあうことになるのだろうか・・と考え、そんなことは自分には関係ないと、思考を切断し、それでも、サンジのためには上手くいったほうがいいのだろうとか、ゾロの頭の中は、ナミとサンジがグルグルと巡っていた。

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