引力
とうこ様



どうしてこの手を離さないのか。
それは自分のことなのにわからない。
肩の稜線をなぞるこの指は
まるで思考と反対方向に向かって伸びているような気さえする。
自分のことなのに。

これを一体どう説明づければいいのか。





偶然の出会いからして妙だったと思っていい。
助けたのはただ女だというだけだったから。
今まで培ってきたモノを守るためだけに、
その女を助けた。
求められたわけでもなく、
乞われたわけでもなく、
言うなれば偶然の上の必然。
それで終わりだと思ってもいいような単純さであることを
そのときの俺は疑わなかった。


助けたことと同様、後腐れのないモノで終わるのだと思っていた。
その類の女であると思ったから。
口説きの言葉を発したのは向こう。
だからこそ。
そんな台詞は男が言うもんだと突っ返したら、
アイツは笑って答えた。
アンタってそういう奴?

嘲笑を浮かべるその顔を歪めてやりたいと、
思わずにいられなかった自分は、
これまで生きてきた道と寸分違わないはずだった。


みせかけだけが煌々とこの目に映っていた。
虚勢だけが体を支配していた。

それはまだ続いていくような気さえしていた。







丸まったシーツの皴の上に、
弾むような勢いでナミの体が沈む。
揺れない場所って落ち着かないわね。
こんなシュチュエーションでそんなこと吐かれると、
あんまりな余裕に俺のほうが調子が狂う。
スカートのすそがめくれて、
露になった足に視線が向く。

すらりと伸びる足元に忍び寄って、
きしむスプリングが大きく鳴った。
横たわる体に被さるように、
その体に腕を伸ばした。

至近距離にあるナミの顔。

間近に見るのはこれが初めて。





綺麗だ、とは思わなかった。
余裕なんてないはずだったから。

ただオンナだな、ってだけ。

好きでもないオンナとするときの男って、
そんなもん。






唇に触れる前に、
うざったい瞳を閉じた。

見てたらなんか違うもの、
でてきそうで。








けれど、

見えるものが見えなくなったとき、

触れた肌から伝わるかすかな振動。




接する直前にそれに気付いた俺の指は
ゆっくりと、
さするように
ナミの手のひらを包む。






それは
カタカタ、と

ちいさな悲鳴をあげている。






なんでもねぇはずだった。
そんなこと、見捨てておけば。
誘いに乗るってことは
寄り添われるままにその体をかき抱けばいいだけの
単純作業なんだと思っていた。


閉じていた目をあけた。

飛び込んでくるのは、
ぎゅっと固く瞳を閉じたナミの顔。

なんだろうな、この顔は。
誘ったオンナの顔してねぇ。





青ざめたようなその白い形を眺めてたら、
俺は自分の欲とまったく違うことをしていた。

それがらしくねぇってことは
自分が一番知っている。


ナミの頭の隣に腕を置いた。
横にごろりと寝そべって、
その体をぎゅっと抱きしめてみた。

降りて来ない唇を不審に思ったのか、
ナミが目を開けた。

「なによ、しないの。」

誘ったのはナミ。
思ったとおりに動かなかった俺をねめつけるような目で見る。

「たいしてしたくもないんだろ、お前。」

俺が返した言葉に
ナミの表情がかわる。

「無理すんなよな。」

腕の中にいるナミの表情が、
すこしやわらかくなったような気がした。

するつもりでいたこの体勢。
ナミの体を包んだまま。

「・・・・・・、あんまり、
 いい思い出、ないのよね。」

重そうな俺の腕。
それでもそれがいいんだ、とばかりに
それにしがみついているナミ。





「でもときどきこうしてギュッってして欲しくなる。

 ・・・・・・たまらなく。」





んなくだらねぇことで俺を誘うなっての。


結構喉のすぐ近くまで出てきた言葉だったけれど、
俺はそれを飲み込んだ。

別に吐いちまってもいいんだけど、
なんか今は違うような。




ナミの体はやわらかくって、
触れているのがとにかく気持ちよくって、
とやかく何か考えるのが面倒くさくなった。

一部分を除いては。





ああ、
おさまれよ。
俺様。






擦り寄ってくるナミは
まるでネコみたいで。

嫌いじゃねぇんだよ。
ネコって。
うざってぇんだけど、
がしがしって、頭なでたくなったりするんだよ。

昔、道場の近くにいたネコ。
ちっせえころにひょんと見つけたネコ。
かわいいなんてなでることもしなかったんだけど、
なんでか俺にすげぇなついてて。
つまんなそうな顔してる俺の足元にまとわりついてくるんだよ。

結局俺はソイツを抱いて帰ったんだっけ。

いつのまにかソイツは
随分と俺と同じ時間を過ごすようになっていたっけ。


ネコなんてうざってぇ、とか思ってたはずなのに、
それはいつのまにか






隣にいるのが当たり前に。



 







腕にさっきより大きな重みがかかる。
開いていた瞳はいつのまにか閉じられいて。

ふーふーとかけられる吐息は無性に甘く。


俺は自分で思っているほど、
自分を知っているわけじゃぁないんだな、と思う。



不可思議な引力は気付かないうちに大きな力。











もしかしてひきずられっぱなしか?
俺。








end


アタシ、こういうゾロ駄目・・・・・・・・・・・・・・
好きすぎて直視できません。
助けてナミさーんv
まず好きなのは言葉の選び方。
貧しき己が語彙力を恨む 褒め言葉なんて見あたらない。
アタシの感想読むくらいならもう一度読んで
拾われた言葉
並べ方のセンス
あぁ物書き魂が疼く。

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