written by siva様
蒼い月




'その者近くに従え、水面をはさみし対極の
空と海の二つの蒼き満月に願いし時、汝の思い叶えたもう'








幼いころから意味もわからず歌のように口ずさんでいた。
何が叶うのかさえしらないし、なんのための言葉さえ定かでない。その後に続く呪文もかなりいい加減だ。
でも、今夜は蒼い満月が出ている・・・。
試してみる価値はあるだろう・・・。
それで、私が私に戻れるきっかけになるのなら・・・。



何を企んでいやがる?

こいつが俺に一服盛ったのはわかってる。
だから俺も盛られた振りしてこうやって大の字になって寝たふりをしてやってる。
判らないのは、この魔女・・・。
小一時間、蒼い満月とこの俺を交互に眺めながら、この甲板でグラスを傾けている。
俺が盗み見ているを知らず、その横でスラリとした足を片方投げ出して、片方を抱えて月を見上げては、物思いにふけっている。

一体、何を悩んでいる?

あぁ、蒼い月明りが心地良い・・・。
寝たふりしてもその月の光が顔に当たっているのがわかる。
こんな状態じゃなきゃ、程よい酔いで高いいびきかいて眠れるのにな。
が、目は冴えまくってる。
この魔女が俺に向かって何をしようとしているか知りたくて、たまらない。

チョッパーは部屋でさっきまで調べ物をしていて、もうこの時間じゃ眠っているだろう。
あとの連中はこの港町に買出しに出ていって、今夜は戻らない。
あのクソコックもチョッパーがいるのから珍しく残ると言ったナミを残すのをしぶしぶ許したのだから。
ひょっとすると、チョッパーもチョッパー自身でナミに渡した「悪い海賊を眠らせるための薬」で眠らされているのかもしれない。
悪い海賊、それは俺のことか?
笑っちまうな。

最初に誘ったのはコイツ。
いい酒が入ったから、という理由で。
やけにハイテンションで、うれしそうにグイグイ飲みやがって。すぐにバレるようなノリで。
隙をみて薬をいれたのも見えた。なんだか落ち着きがなさそうに。コイツらしくない。おまけに隙だらけ。
何故だ?

また、逃げるのか?
否、だ。
逃げる気ならもうとっくだし、コイツにとってはこの船は今は「最高の居場所」のはずだ。
理由がない。

それにしても。
いい香りだ。いつもそばで自分だけのものとして独占していたいと思っていた香り。
時々盗み見る横顔は月のせいか神秘的でこの世のものとも思えないくらい綺麗で。
女神、のようだ。
俺らしくないな。
まあ、いいか。蒼い光に照らされて、女神を独占して眺めて過ごすこんな夜も。

やがて、気配が、止まった。
俺の顔を覗きこんでいるのが、遮られた月の光でわかった。鼻腔を香りがくすぐる。

「ゾロ・・・。」
ゾクゾクするような甘い声がした。くやしいが、こんなに俺の中の男を揺り動かすのはこいつだけだ。

「ごめんね。一度だけ、許してね。最初で、最後だから。」

最初で、最後・・・?

「ずっとね、触ってみたかったの。この青い髪。」
そろそろと額に手が伸びてきて、俺の髪をゆっくりと撫で付ける。
「意外とやわらかいんだね?」
カラン、と氷が音をたてて床に置かれた。

「フフフ。それにこのいつも血管が浮き出る、お・で・こ。」

おいおい、俺は猫じゃねぇぞ。そんなに撫で回すな。
が、好きな女に触れられるのはこんなに心地の良い事だとは思わなかった。
身体中の血が駆け回るような不思議な・・・。

ナミはずっと俺の頭を撫ぜていたが、また気配が止まった。
急に体温を全身に感じた。

俺の左の二の腕に重みが掛かった。
柔らかな身体と眩暈を伴うような香りが俺に寄り添う。
はしゃぐような小さな笑い声を立てて。
うで枕、ってやつか?

コイツ、何を考えてる?ただ、これがしたかったのか?

華奢な指が戸惑い気に俺の胸を這う。
好きな女が無防備な俺の身体を弄繰り回している。
それだけで理性がブッ飛びそうだ。
抱きしめたい・・・。

ナミの息が俺の首筋に掛かる。
そして、動かなくなった。
眠ってしまったのか?頭がジンジンして、血が沸騰しそうだ。

そのまま動かなくなった状態を目を開いて確かめようとした途端、ナミが起き上がった。
俺の身体に密着して、顔を挟みこむようにして、床に両手を置いてじっとしている。

「ゾロ・・・。好きよ・・・。これからも、きっとね。」

しばらくして、耳元で囁かれたかすれた声・・・。顔に落ちた水滴。
何故、泣く?

もう、我慢が出来なかった。



あっという間に腕をつかまれると私は床に身体を押し付けられた。
気がつくとゾロが馬乗りになって私の肩を両手で押さえている・・・。
あまりの事に言葉を失っている私とゾロは長い間そのまま向かいあっていた。
「どういうつもりだ?」

ゾロの第一声は問い詰めるような鋭い口調だった。
「ひどいっ!ずっと起きていたの?」
びっくりはしたものの私の声も負けないくらいキツく言い返してみた。
でも、ゾロの表情は月明かりが邪魔して読めない。
「あぁ?だから、ご丁寧に俺を薬で眠らせて、どういうつもりかと聞いてるんだろうがぁ。」

困った・・・。
この怒り様だと、最初からすべてを理解した上で寝た振りをしていたに違いない。
それならなおさら、本当のことを答えられるはず、ないじゃない。
私は唇をかみ締めて、視線を逸らせた。

今晩を最後に、アンタへの想いを封印する儀式だった、なんて。

願いはただ1つ。
この人を特別な男と想わないでいられるように・・・。この恋心から逃れられますように・・・。

私に始めてできた「仲間」たち。
武器として使うことはあっても、この「仲間」の中では私は「女」であってはいけないと思っていた。
男と女なんて生臭いウェットな関係にコイツらとはなりたくない。なのに・・・。
気がつくとコイツのことを目で追っている自分がいた。
眠っているときも、戦いに臨んでいるときも、訓練しているときも、大口あけて料理を詰め込んでいるときも・・・。
何より、自分を戒めて、コントロールしてきた私が始めて自分の気持ちがコントロールできなくなっている。
断ち切れない想いがつのって、私は自分の気持ちにケジメをつけようとした。
そうでなきゃ、私が私でなくなってしまいそうで怖かった・・・。
蒼い月を見たとき決めた。
コイツとチョッパーを眠らせて、自分自身の"儀式"をすることを・・・。
子供じみているのはわかってる。
でも、最初で最後。この男の寝顔をみながら眠ってみたかった。
少しだけ自由に触れることを自分自身に許して。
心に一生消えないようにその全てを、その感覚を、刻みつけて何事もなかったように生きていけるように・・・。

「痛いわよっ!はなしてっ!」
無理とわかっていても、もがいてみる。
ゾロは動じない。
「俺の話を聞け。」
いつもの横柄な命令口調。
でも、まっすぐに私を見つめている。

「お前がどういう気でいるのか知らないが、俺は、お前に惚れてる。」
「───っ!」

何?今、なんて言ったの?

ゾロの意外にしなやかな手が私の頬をゆっくりと撫ぜる。
「お前が俺に触れるのも自由だ。
だから俺は逃げねぇからお前も逃げるんじゃねぇ。」

時間が止まったような気がした。
海風の音がやたらに頭の中を反響している。
何が起きたのかよくわからない。言葉の意味がわからない。そんなはずはない。
だって、私は月に祈ったはずだもの。

「コラぁ。わかったのかよ?」

なおも黙っている私にゾロは言った。
「素直じゃねぇな。」

ふいに唇をふさがれた。
口調とは裏腹に私の気持ちを確かめるような優しいキスだった。
何回が繰り返すうち、そのキスが熱を帯びてくる。
私も気がついたらゾロの背中に手を回していた。
「それが、答えだと思っていいんだな?」
ゾロが囁いた。

「おまえ、初めてなのか?」
私が震えているのを気づいたようで、ゾロが尋ねた。
本当のことを言っていいのかどうか、わからなかった。

「道具として抱かれるのは初めてじゃない。 でも、女として抱かれるのは初めて・・・。」

吐き捨てるように呟くと、ゾロの身体が一瞬固くなった気がした。
「そうか、光栄だな。」
そう言うと、慰わるように抱きしめてくれた。

身も心も、一人の男に預けるのが怖い。自分がどうなるのか、想像がつかない。
でも、こいつはいつも私のそばにいた。
さりげなく、でもいつも私を必要な時に理解しようとして、必要な時に守っていてくれた。
だからこそ、怖いんだ、きっと。

ゾロが私の胸を露わにした。
先端を手のひらでゆっくり撫でる。
今まで覚えのない快感に思わず仰け反る。
息を押し殺して見上げると私の顔を眺めている男がいる。
「ナミ、綺麗だ。」
だめだ、胸が、締め付けられる・・・。

ゾロの唇が首筋から胸に降りてきて、視界が急に明るくなった。
先端を舌で転がされている感覚に翻弄されながら、私は蒼い月を見上げた。

私は呪文を間違えたんだろうか?
忘れたいと願った、この男の腕の中に堕ちてしまったことに。

それとも、これが私の本当に望んだことだったのか?

ゾロの指が腿からなぞり上げてきて、じらすように下着の中に進入してきた。
その動きに全身の感覚が研ぎ澄まされて始め、疑問は蒼い月明かりと共に、ゾロの体温の中に泡のように溶けていった。



end


何やらsivaさんが私にプレゼントしてくださった一品。
「スキにしてvv」って仰るのでえぇスキにさせていただきます。
しかも非常にタイムリーなお話ですねぇ。
今うちが初めて祭しているのご存じ(にっこり)
と言うわけで「この二人初めてじゃないのさ!!」
私が気が付いたのが
sivaサン・・・・運の尽きだと思ってくださいvvv
うふふ、でもこの続きが気になりませんか??ネェ皆様vvv
書いてくださいよぉ。
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