dress up
白玉様





浴室のドアが開いて、淡い湯気と共にロビンが現れた。
身に纏っているのは、燃える様な緋色に黒い刺繍をあしらった下着のみ。
サンジは思わず口笛を吹きそうになった。
「ロビンちゃん素敵だ」
既に支度を終えたサンジは、吸っていた煙草を揉み消して近寄った。
ロビンは抱きつこうとするのを制して、ベッドに腰を下ろした。
長い指の隙間から零れ落ちた、と見えたのは、態と落とされた黒い塊だった。

ロビンは何も云わず、サンジが其れを拾いあげるのを待っている。
サンジも黙った侭、屈み込んで其れを手にとった。
片眉を上げて、ニヤリと笑う。
「何をお望みですか、お姫さま」
「お願い、してもいいかしら」
花の如き微笑みを湛えた侭、引き締まったしなやかな脚を、
片膝をついて座ったサンジの眼前に投げ出した。
「畏まりました」

爪先から少しずつ唇を這わせながら、なめらかな脚に沿って
ストッキングを滑らせてゆく。
艶めかしい太腿まですべて上げ終えると、
コルセットと一体になったガーターの金具に止めつけた。
両脚を穿かせ終えたのち、内腿に軽く唇で触れる。
「それ以上は駄目よ」
ロビンの指が、更に深く進もうとしたサンジの髪を撫でた。

鏡の前に移動したロビンは、ポーチの中から口紅を取り出した。
先刻から感じていた違和感の正体は、軽く刷いたパールの目元と
きちんとカールされた睫毛に不釣合いな色味の無い唇の所為だった。
鏡越しに覗き込むサンジの視線に気づいて、
ロビンは蓋を開けぬ口紅を握った侭、振り返った。
「貴方はどうしたい」
サンジは当然、とばかりに身を屈めて、心ゆくまで柔らかな唇を貪った。

名残惜しくも躰を離したのち、ロビンはサンジを追い払う。
「さあ、向こうへいって」
「どうして」
「女性の舞台裏は覗かないのが礼儀よ」
本当は紅を引く様をじっくりと鑑賞したかったけれど、
機嫌を損ねては不可ないので、退散することにした。


***




「お待たせしたわね」
黒いシルクシャンタンのドレスは、ごくあっさりとしたデザインで、
躰に沿うように流れるドレープが、美しい肢体をさらに艶めかしく見せている。
深く入ったスリットから覗く脚には、サンジの穿かせた黒いストッキング。
足元は華奢なピンヒールのパンプス。
唇は落ち着いたブラウン系レッドに彩られている。

「最高だぜ、ロビンちゃん」
いつもは饒舌なサンジも言葉を失って、只、見惚れた。
照れ隠しに指先で煙草を弄ぶ。
「タイが曲がってるわ」
息がかかる程近寄った唇は、其の侭ゆっくりと近づいて、
色が移らぬ程度に掠めていった。
「つづきは、またあとで」
「期待してもイイ?」
真顔で覗き込んだサンジの問いに、ロビンは悪戯な笑みで返した。

「そろそろ行きましょう」
「ではお姫さま、お手をどうぞ」
サンジが差し出した腕に、ロビンがそっと寄り添う。
開かれたドアが閉まる。
部屋には静寂だけが残った。




−了−
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