written by 六代 文江様

ココヤシ村の人々が、歌い・呑み・笑っている。
 “解放”された、村全体が踊り狂っているかのような、大騒ぎだ。
 そうして狂喜乱舞する人々の光りが、あまねく照らす街の一角に、ぽつんと粗末な小屋が建っていた。
 ここにも明かりはあるが、村の騒がしさとは別格の、温かい灯りだった。
 騒がしさと静けさと。
 二つの合間にあるかのような微妙な空間を、ぶっきらぼうな声が崩した。

「ったく、何の用なんだよ。」

 愛想のない声をだすゾロは、不機嫌きわまりない。
 それも致し方ないだろう。
 いい気分で寝ていたところをたたき起こされ『いいから来て!』と、こんな村はずれまで連れてこられたのだ。
 だが言われた当人は涼しい顔で聞き流している。
 ゾロを強引に動かせる人物は二人だけ。
 天然無敵な船長様と唯我独尊の航海士殿。
 あいにく船長は食事に忙しくこの場にはいない。
 となると、残るのはただ一人。
 潮風にあぶられ、舞い上がったオレンジの髪を押さえながら、ナミは振り返り、初めて言葉を口にのせた。

「ボロイ小屋でしょ。」

 ナミは独り言のように、隣で仁王立ちとなっているゾロに囁く。
 
「ここはね、アタシとノジコの秘密基地だったんだよ。村のみ〜んなが知ってる秘密基地だけどね。」

 クスクスと笑いながら、ナミはドアノブに手をかける。
 よほど大事にされているのだろう、ドアは軋み一つ立てずに開き、ナミとゾロを迎え入れた。
 小屋の中は、外見同様簡素で、キッチンとテーブルのある部屋と大きなベッドが1つ置いてある部屋の二間しかない。
 一応怪我人のゾロを無理矢理ベッドに寝かしつけ、ナミはワインを4本キッチンから持ってきた。

「ねぇ、なんで今アンタをここへ連れてきたか、わかる?」
「わからねぇから、さっきから何度も聞いてるんだろが。」

 横になったままワインを受け取ったゾロは、歯でコルクをひき抜き、中身をあおった。

「じゃあ、最後に過ごした、バラティエでの夜の事、覚えてる?」

 仏頂面のまま酒を飲み続けるゾロに、ナミはウットリと微笑みながら、言葉を紡いでいく。

「アタシ、バラティエでアンタに言ったわよね。『好きよ』って。」
「すれ違いざまにな。言ったかどうかもわかんねぇくらいの声で言いやがって。」
「でもちゃ〜んと聞こえてたじゃない。」
「で、そのすぐ後、お前は逃げた・・・俺の返事もきかねぇでな。」
「返事を聞きたくなかったから、あの時言ったの。」
「・・・なんだと。」
「拒否されたらソレが理由で逃げるみたいでイヤだったし、傍にいていいって認めてくれたら、もっとイヤだったから。」

 そこまで言ってナミはベッドにのりあがり、ゾロから酒瓶をひったくると、豪快にあおった。
 ゾロはそんなナミの様子を、黙って見ている。
 ナミはそのまま景気よくワインを飲み干した後、ホウっとため息をついた。

「ホント・・・ヒドイ女ね。」

 虚ろに嗤うナミの腰を引き寄せ、ゾロは体を起こした。
 向かい合った二人は、どちらからともなく体をわずかに離し、正面から向き合う。

「やり直そうぜ。」

 驚愕、期待、不安、希望。
 ゾロは、それらを全てを混ぜ合わせ、なお鮮やかに映える朱の瞳を見据えた。

「あの時の事、もう1度やり直そうぜ。お前だってそのつもりで、ここへ俺を連れてきたんだろう。」
「アタシは卑怯な女よ。アンタがどういう返事をくれるか、分かってて、言うんだから。」
「俺はイイって言ってんだろが。後はお前次第だ。」

 堅さ、厳しさ、強さ、優しさ。
 ナミは、それらを全て秘めた、真摯な輝きを魅(みせ)つける翠の瞳を見つめた。


「ゾロ・・・好きよ。」


 言いつつナミは身をわずかに乗り出す。
 それはゾロとて同じ事。


「俺もだ。」


 互いの吐息が絡み合い、自然と唇が合わさった。
 ナミはうっすらと口を開き、ゾロの舌を迎え入れる。
 ゾロもナミの全てを暴こうかというほど、荒々しく口腔を貪った。

「ああ・・・。」
「はぁ・・・。」

 同時に熱い息を吐き、顔を見合わせ笑った。

「これで終わりか?」
「冗談。何のために、ここまで来たと思ってんのよ。」

 笑いながら、ナミはゾロの上に跨る。

「『鷹の目』と勝負したのよね。ねぇ、“世界”はどうだった?」
「広くて、遠い。だが、必ず行き着く。」
「じゃあこれは・・・この傷はその証?」

 ナミは包帯で覆われた袈裟懸(けさが)けに施された傷を、人差し指でそうっとなぞった。
 労るように、確かめるように。

「いいな。」
 
 ポツリと呟かれた言葉は、ゾロが驚くほど素直に響いた。
 ナミは、手に入らぬ月をねだるような幼子のような純粋な瞳で、ゾロの胸をなぞり続ける。

「いいなぁ。」
「・・・あんましいいもんじゃねぇぜ、こんな傷。無いにこしたことねぇし。」
「違うの・・・その証が羨ましいの。」
 
 ナミはすっくと立ち上がると、おもむろに服を脱ぎ去った。
 上着はもちろんのこと、ショーツなどの下着も全て。
 露わになった裸身を、ランプの光りが彩る。
 知らず生唾を飲み込んだゾロの上にもう一度またがり、ナミはその逞しい肩に顔を埋めた。

「見えるでしょう?アタシの証。」

 肩に刻まれた、印。
 アーロンの仲間になった証。
 ココヤシ村を救うと決めた、証。

「アタシはアンタみたいな証が欲しかった。」
 
 夢に続く証。
 自ら選んだ証。

「それがすごく痛いし、死ぬほどの傷だって事も分かってる。」

 肩に埋められたナミの顔は見えない。
 その白い肌にうつる、ナミの持つ唯一の証が、見れるのみだ。
 自らずたずたにしたその証は、血こそでてないが、無惨な様を提示している。

「でも、それでも、すっごく羨ましかったのよ・・・。」

 肩口にすりつけられた、ナミの頭。
 それが震えているような気がして、ゾロはそっとその緋色の髪に触れた。
 そして一房絡め取ると、そうっと口づける。

「これから作ればいい。」

 ボソッと言われた声の内容と、その熱さにナミはハッと顔を上げた。

「これからお前の夢の証を刻めばいい。体だろうが、心にだろうが、好きな時に好きなモンを刻めよ。もう、お前にはそれが出来るんだ。」
「出来る・・・かな。」
「ああ。」
「・・・その言葉、忘れないでね。」
「ああ。」

 ナミはゾロから体を離すと、ズボンのジッパーに手をかけた。

「お、おい!」

 急な行動にさすがに焦るゾロにかまうことなく、ナミはゾロの雄を暴き立てる。
 さらされている裸身に刺激されてか、ソレはすでに十分な硬度を持っていた。
 ナミはソレに手をそえると、自分の秘所に導く。

「ナミ!」

 驚いたのはゾロだ。
 何故これほど性急にナミが進めたがるか、全く分からない。
 ゾロも想いが通じた今、“ナミを愛したい”とは思う。
 しかし、何故これほどまでに・・・。
 ゾロの戸惑いに関することなく、ナミはゾロの砲身を自身の中に突き入れた。

「・・んん・・・!」

 瞬間伸び上がった肢体。
 激痛のあまりこぼれる涙。
 そして白い太股を辿り、零れる鮮血。

 −−まさか、この反応は・・・!

 ギュウッと痛いほど締め付けられながら、ゾロは激痛に息すら上手く付けないナミを怒鳴りつける。

「馬鹿野郎!初めてならそう言えよ!!何でこんな無茶するんだ!!!」
「っっっはあ、だ・・・って。」
「いい、無理に喋るな。とにかく抜くぞ!」
「ダメェ!!!」

 悲痛とも言えるほどの叫びに、ゾロは言葉を失った。
 頭(かぶり)を振りながらこぼれた涙がランプに煌めき、血色に飛び散る。

「お願い・・・このまま・・・。」

 ナミは、体を引き裂かれる痛みに耐えながらも、必死に言葉を紡いだ。

「欲しいの・・・アタシも、アタシの選んだ証が・・・アタシ自身で・・・。」
「バカッ!だからってこんな無茶すんじゃねぇよ!」
「無茶だから・・・ヤッタの・・・。」
 
 ナミはさらに体をゾロへと押しつけた。
 深まる結合に、全身が悲鳴をあげかかっているのが分かる。
 それでもナミは、やめない。
 噛みしめた唇から、一筋鮮血が流れる。
 最後まで入れた時、ナミはゾロにしがみついてホウッと息を吐いた。

「やっと手に入れた・・・。」

 自ら欲しいと望んだ、証を。
 初めて、自分に付けたいと想った証を。

「ナミ・・・。」

 ナミは何か言いたげに開かれたゾロの口を、そっと塞いだ。
 ゆったりと合わせられた唇。
 その感触に身をゆだねながら、ナミは激痛の中から微かに感じたナニかを追う。
 疼くような感覚。
 逃さないよう、ナミは目の前の熱い体にしがみついた。
 ゾロも、血の味の口づけを交わしながら、わき上がる思いとナミを全身で受け止めた。
 二の腕に強く立てられた爪から、血が滲む。
 それほど必死に自分にしがみついてくるこの女を、いやこの存在を、何より守りたいと思った。
 
 守りたい。
 ナミ自身も、ナミの心も、そしてナミを想うこの心を。
 初めて感じた『剣の道』以外への執着。
 そう、執着とすら言っていいほどの激情が、胸に渦巻いている。
 ナミを知りたい。
 ナミを感じたい。
 感情のまま、体が動いた。

「・・・・っあああ!」

 たまらずナミは仰け反る。
 やっと今の体勢に体が馴れかけてきた所を、揺すぶられたのだ。
 ほんの僅かな動きだったが、ナミには十二分な刺激だった。
 最初の時とは、また別の痛み。
 初めは引き裂かれるような激痛だったが、今は体の一点から火が燃え広がるような、焼け付くような痛さが、さざ波のように途切れることなく襲ってくる。

「いっ・・・あァ・・やああっ」
「ナミ、大丈夫かよ・・・っ。」

 逃れるように、焦(こ)がれるように、ナミがその身をよじれば、ゾロもその刺激に増長され、動かしてしまう。

「いやイヤ・・・ああっもうっ!」
「ナミッ・・・クッ!」

 途切れることなく涙を流している瞳が見開かれ、華奢な肢体が仰け反った。
 ナミの意識が弾ける。
 同時に締め付けられたゾロも、自身を解放した。


 ハァハァと荒い呼気が、部屋に満ちていた。
 ぐったりとゾロの上に崩れ落ちたナミは、虚ろな眼差しのまま熱い吐息をつく。

「ゴメンね、ゾロ。黙ってて・・・。」
「ああ?」

 訳が分からない、とゾロは涙に濡れたナミの顔を見つめた。

「アタシが初めてって事・・・知らなかったんでしょう?」
「あ〜確かにそりゃ言って欲しかったな。」

 ナミは瞳にらしからぬ不安の色を湛えて、ゾロを見返した。

「後悔してる?」
「いや。ただ知ってりゃあ、もっと気持ちよくしてやれたのにってな。」

 涙の跡の残る頬と、いまだ乾かぬ目尻をそっと舌で辿りながら囁くと、ナミはくすぐったそうに頭を振り、顔をゾロの胸板に押しつける。

「だから言わなかったの。」

 怪訝そうなゾロに、ナミは懺悔でもするかのような声音で綴(つづ)った。

「痛くしたかった・・・この痛みがアンタの「証」と同じだなんて思わないけど・・優しくはされたくなかったの。それに・・・自分でアンタをアタシに刻みたかったから。」

 語られたナミの胸の内に、ゾロは呆れたような諦めたようなため息を吐いた。

「だからあんな経験豊富な振り、してたのかよ。」
「う〜ん、そんなつもりはなかったけど・・・そう見えた?」
「見えたって・・・当たり前だろうが。あんな色っぽい誘われ方したの、初めてだぜ。」

 くしゃりとオレンジの髪を混ぜれば、返ってくるのは眩しいほどの笑顔。
 魅了されかけ、ゾロはあわててナミを自分から引き剥がす。
 ずるりと体の奥から抜け出たモノに、ナミは顔をゆがませた。

「っ何、急に抜かないでよ!」

 ナミの抗議にゾロはバツが悪そうに頭をかいて、視線を下げる。

「いや・・・さすがに連続は無理だからなぁ。」
「?・・・!」

 見ればゾロの分身はまた自己主張を始めていた。
 チョット顔を引きつらせつつも、ナミは普段のしたたかさを強くにおわせた笑みを浮かべる。

「光栄だわ。それだけアタシがよかったって事でしょう?」
「まあ、そういうこった。これ以上挑発するんだったら、責任持てよな。」
「アンタの方は、責任取ってくれるの?」
「お前が勝手に押しつけたんだろう?」
「じゃあ取らない?」
「死ぬまで、責任取ってやるよ。約束だ。」

「・・・ありがとう。」
「・・・よろしくな。」

 粗末な小屋の中、結ばれた証と約束。
 温かな灯の中で、結ばれた証と約束。
 誰も知らない、初めての夜だった・・・。









 *おまけ*


「あ〜あ、ぐしょぐしょ。シャワー浴びたいな。」
「浴びりゃあいいじゃねぇか。」
「無いのよ、ここにそんな上等なモノは。」
「・・・俺なんてズボンがダメになったんだぜ。どうしろっつーんだよ。」
「・・・船に帰って、ついでに綺麗な布も持ってきてよ。それで体を洗うしかないでしょう。」
「お前らしくねぇな・・・タオルくらい用意してなかったのかよ。」
「自分の着替えはあるんだけどね〜。タオルとアンタの着替えまで気が回らなかったわ。・・・スカートでもはいていく?」
「ウエストがキツイな・・・ってはかねぇよ!」
「・・・ヤッパリ船まで戻ってね。予備のシーツあげるから、これ腰に巻いて行きなさいよ。」
「・・・おう。」



「おっクソ剣士じゃねぇか!なんでそんな格好してんだ?まさか酔っぱらって脱い・・・」「でねぇよ!お前じゃねぇんだから。」
「ああ?俺がいつそんなことした?!!」
「・・・お前何で上半身裸なんだよ。」
「あっついからな〜今夜は〜♪」
「酔っぱらいが・・・相手なんざぁしてられねぇな。」
「だ〜れが酔っぱらいだよ〜。俺はノジコお姉さまに振られてなんかいないぜ〜!!」
「・・・完全に酔ってやがる・・・っつーか振られたのかよ。」
「よ〜し今夜は特別に、お前にも俺様式レディへのごあいさつを教えてやろう!!!」
「いらねぇよ!ってひっぱんなよシーツが・・・!!!」
「なんでお前、下フルチンなんだ?・・・あと、この腕の爪痕・・・」
「あ〜これは・・・なんつーか・・・。」
「・・・お前さては幻だな。クソ剣士の幻覚だ、そうに決まってる。実体はどこかで寝こけてるに違いねぇ!!!」
「・・・。」
「俺様が町のレディに振られてクソマリモが誰かとよろしくやってたなんて、有りえねぇもンな!よっしこれは夢だ!!もう一回町に行って呑むぞ〜♪お姉さま方、待っててね〜vvv」
「・・・なんだったんだ、ありゃ。まぁ・・・天災みたいなもんか・・・とにかくこれで船まで邪魔は、はいらねぇな・・・。」


 END



ろっ六代さぁーんvvv
ぎゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ。もう離さないから!!
いやぁ好いモノ拝ませていただきました。
初めて祭にふさわしいお話ですわねvv
しかしお忙しい中にも私のこと忘れないでいてくださって嬉しいわんvv
初めてなのに経験豊富そうな振りをするナミ嬢がイかす!!
でもゾロが優しいのでアタシはその辺がもう・・・・・
痛々しい話大好きなので(十分ご存じでしょうが)
でもこれ結構後から聞いてきますね甘みが
えへへへへへ
にやけっぱなしです。ありがとうございましたvv
ところで次のお題はなんですか??(にっこり)
都合によりおまけは削除はしませんでしたよ(笑)だって・・・・・
想像してみてよ・・・ネェ皆様

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