愛でいっぱい
rokiさま


「それでお前はいったい誰が本命なんだ?」
テーブルに肘をついて頬杖をつくウソップに、サンジは皮を剥いているジャガイモからちらっとだけ顔をあげた。
「本名って?」
「ビビは?」
「ビビちゃん?もちろん大好きさ。例え海が俺達を離ればなれにさせても、彼女への忠誠が風化する事なんかありえないね」
「ロビン」
「ロビンちゃん…あぁ、あの素敵な人がこの船を選んでくれた事を、俺は運命に感謝するね。今となっちゃあの美しい黒髪が、前には乗ってなかったなんて考えられないぜ」
「…ナミ」
「ナミさん!!彼女こそ俺の羅針盤!例え荒波に打ち砕かれても、この想いがあるかぎり迷わず進んでいけるのさ!」
「包丁を振り回すな、危ねェ」
調子にジェスチャーが加わりだした男から少し距離を置くと、ウソップはたいして読んでもいなかった新聞を呆れたように放り投げた。
「…お前、それじゃ誰からも相手にされねぇぞ」
「ああ?!なに偉そうに唱ってるんだよ鼻。俺に恋のアドバイスくわえようなんて、千年早えェぞ!」
「アドバイスもヘッたくれもねぇよ。子供でも判る事を言ってるんだろーが。3人とも好きーなんて、そんなの1人を思う奴に比べたら負けるに決まってるだろ」
「何が、決まってるってんだ」
サンジの声にドスが入る。瞳に剣呑な光が宿った。
「この俺の愛が、巷に溢れかえってるような愛に負けると思ってるのかコラ」
「……いや」
マジ顔で睨まれて、少し引いた。
「俺の湧き出る愛が、それに比べて劣る理屈が何処にあるってんだ!んな事は、計る升でも用意してから言いやがれ!!」



「……って、怒鳴りかえされちまってよ」
「あらあら」
はあーと溜息をついたウソップの頭を、テーブルから生えた手がよしよしと宥める。最初は驚いたが、いい加減慣れてきた。慣れてみれば、意外に可愛いとか思う。ちょっと生き物みたいで。
「…別に怒らせるつもりでもなかったんだけどなー」
自分にその気がなかったせいで、正直応えてる。
「怒ったって事は、自分でも少し気にしてるのかしら」
ロビンが優雅に組んだ足に手をかけて、デッキチェアにもたれた。
甲板に置いたテーブルに立てられたパラソルは、そんな2人を太陽から覆っている。風が静かにそよいで眺めも良かったが、ウソップの気分は晴れなかった。
「…どうかな。でも正直俺はわかんねーよ。好きになる奴って、1人なんじゃないのか?」
「さあ」
「いや、さあってお前な」
「私には判らないわ。でも、コックさんみたいな人もいていいんじゃない?」
「別に俺はアイツがダメって言ってるわけじゃねーよ」
ごろりとテーブルに伏せたまま、頬に肘をついた。
「アイツが軽そうに見えて、意外と真面目な奴だってのは知ってるんだ。でも、おかげで伝わりにくかったり、誤解されたりするんじゃないかと思うんだよ。今さらっちゃ、今さらだけどな」
「そう…」
ロビンの方からはウソップの顔が見えないが、背中に少し後悔がにじんでいる。言い方が悪かった事を、悔いてるのだろう。
「…コックさんの愛は、何処までも果てなくつがれていくものだからね」
「なんだ?そりゃ」
「そう思わない?」
そう言うと、振り向いたウソップに、独特のあるかなしかの笑みを浮かべてみせた。
「後から後から自分の愛はどんどん注いでいる。瓶の中は、彼が足した分で溢れそうなのにね。相手のは少ししか入らない。それでいっぱい」
「……なんか、非道くないか?それ」
「そう?私はちょっと凄いと思うわ」
眉をしかめるウソップに、ロビンはテーブルに置いてあった分厚い本を手にとって起きあがった。
「そんな風に無償のモノを与え続ける事なんて、私には出来そうにないわ」
立ち上がり、ウソップに軽く手を振った。
「何処に行くんだ?」
「私がいると気を使うから退散」
「はあ?」
訳がわからんと首を傾げていると、背後で溜息がした。
「…レディに気を使わせるとは…俺もなってねぇぜ」
「どわああ!!サンジ!」
たった今問題にしていた男が、皿を抱えて突っ立っているので、ウソップは実際に飛び上がった。
そんなウソップを軽く睨むと、テーブルに皿を置く。
「…なんだ?」
「ジャガイモのパンケーキだ。焼きたてがウメェぞ」
「……俺に?」
「早く食わないと、匂いでゴムが来るぞ」
造作なく言って大股でテーブルを回り込み、ロビンが座っていたデッキチェアに腰を降ろす。
ポケットからマッチを出して、くわえていた煙草に火をつけた。
ウソップは、ほかほかのパンケーキとサンジを交互に見たが、納得して一緒に添えられていたフォークに手を伸ばした。
パンケーキは、優しい甘みがあって、美味かった。


「ふられる原因に、それがなかった訳じゃねぇよ」
サンジは海を見ながら、ぽつりと呟いた。パンケーキを口に放り込みながら、ウソップは顔をあげた。
「曰く、『自分だけを見てほしい』ってな。俺は俺なりに愛してるんだが…女の子にとっては浅いように思われる時もある」
「……」
「そういう時って、相手も俺にマジなんだから…そう言われて愛しいと思うんだけど、それに応えようとしてもやっぱり何処かで崩れちまうんだよな」
たははと苦い笑みを浮かべるサンジに、ウソップは何と言っていいか判らなくて黙ってしまった。
その彼女の気持ちも、判るからだ。
「でもナミさんやビビちゃんロビンちゃんは…またちょっと違う気がする。何でだろうな?一緒に生活してるからかな」
「そういういもんか?」
「そりゃそうだろう」
「…そうか。そうだよな。仲間だしな」
「ん」
視界に、空に浮かぶ雲と吐き出す煙が溶けた。やたら開放的なせいか、気安い気がした。
「でもなぁ、3人の中から誰か選べって言われても困るぜ。俺に選択権なんか、ねえっての」
「…なんでだ?」
「だってあの3人の中から1人を選ぶって事は、後の2人はどうなるんだよ?」
「って、お前な…。普通は1人につき1人ってのが相場なんだぜ?」
「いーんだよ。俺は普通じゃねーから」
「そりゃ、知ってるけどな」
どうにも納得がいってないようなウソップに、サンジは顔を向けて苦笑した。
「お前の言いたい事も判るけどな…。でもさっきのロビンちゃんの言った事は、そうだなって思ったな」
「…でもそんなの」
あまりにも一方的すぎないだろうか?と、ウソップにしてみれば思ってしまう。こいつは与えるだけで、相手はもらうだけ。なんだかそれって不公平な気がする。
しかめっ面をしてフォークを加えているウソップを見て、サンジは不細工面だと笑った。
「……1人に捧げるだけが愛じゃないって、俺は思うんだけどな」
「ん?」


例えば
目の前にいる1人に、忠誠をつくす。
美味しい食事を作り、コーヒーを煎れ、手を取って愛の言葉を囁く。目の前の美しい人に、俺の全ては捧げられる筈。なのに、心の何処かでここにいない別の2人を見てしまう。
彼女たちは、背を向けている。ただ、背中を向けている。
怒っている訳でもなく、悲しんでいる訳でもない。ただ背中を向けている。
目の前の女性に夢中になりながら、心の隅っこで別の彼女たちの事を寂しがっている自分がいる。


「そんな感じ」
「わかんねーよ!」
ウソップは叫び、サンジは物わかりの悪い奴と肩をすくめた。
海風が、紫煙を軽くさらいがてら、サンジの髪をすくっていく。


別に1つのものを3等分にしてる訳ではない。
そんな愛し方は出来ない。
愛情が欲しくない訳じゃない。
欲望が喉を鳴らして、うなり声をあげたくなる時だってある。
自分はスケベで女の子が大好きで下心を隠そうとも思わない。隙があれば丸ごとゴクリと頂きたい。そんな自分を、彼女達は知っている。知っていて側にいる事を許してくれてる。


「それで十分だろ?何もがんじがらめに縛らなくていいだろ」
「…そうかよ」
「そう。俺は、ただ──愛したいんだ」

ひょっとしたら、自分にだって『たった1人』が現れるかもしれない。
彼女達かもしれないし、別の人かもしれない。
先の事は判らないし、心配する必要もない。
だいたい明日をもしれない海賊の身が、そんな事を気にしてどうするんだ?


ネクタイをゆるめて煙草を吹かしているサンジは、楽そうに見えた。
ウソップは、皿の上に置かれた残り少ないおやつを見下ろした。
つまりコイツの愛ってのは、毎日作る料理みたいなもんなんだろうか?
三度三度慌ただしく、それでも厨房にいる時のサンジは、どんな時より生き生きして見える。
大量のスープを作り、野菜を刻み、肉を焼き、魚を捌く。皿に盛りつけ、テーブルの隅々まで行き渡らせる。グラスに酒を注ぐ。デザートを盛りつける。
そうしてそれを食べ尽くす連中を、満足そうに見渡して一服する。
普段、自分達が食いまくっているアレがサンジの愛って訳か。もっとも野郎共には、残飯でとか言っていたが。
まぁ、それでも美味いし。
気まずくなっても、パンケーキとして焼かれて出てきたりする。

「…つくづくお前って、コックが向いてるんだな」
「何を今さら」


並べられた愛を、残さず美味しく食べてくれるなら上等。
そして今夜もそれは、食卓に並ぶ。



ウチのサンジ君、ニコサンとか抜かしておりますが、基本的にどの女の子も好きだしナミさんのことも大好きです。えぇ、それはゾロ吉にも引けを取らないほどです。しかし基本的にはゾロナミでナミゾロな私の前では愛の力も無力。いつも独りです・・・・・・
つまりサナゾが好きなのねv

あぁでも彼は其れで幸せだと思うんですよね〜
だって、自分が好きだから。
求めない人っていいよな。
そうありたい。

あぁでも求められる女にもなりたい
どこかで趣旨が方向転換しております・・・・
rokiさんちからかっさらってきまちたvえへへへへ
ニコサン同盟に入れたかったわv
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