Open Your Heart

れーな・Kさま

これは、PLAY、なんだろ。

駆け引き。戯れ。敢えて受ける誘惑。
それ以外にどう考えろってんだ。


だから、乗っただけの話。
何も期待してねェよ。
それでいいんじゃねえ?










この船の誰よりも、大人の女。
感情があるのかさえ、危ぶまれそうな白皙。
だから余計に笑顔が透けそうだ。
油断してると獲り込まれるのが目に見えるくらいに。

陽の高いうちは、とても彼女には似合いそうも無い呼び名で呼ぶ。
連中の前では殊更に道化てみせてやるさ。
その向こうでは。

らしすぎるわよ、とあのひとが冷笑っている。
あの野郎の腕の中で。





遊ばれてるだけなんだよ、俺は。
最初からそんなこたァ、百も承知さ。


彼女と寝たのはまだ数えるほど。
こんな関係は幾らでも経験ある。
本気の女は怖ェから、こんなのが一番楽だ。
こっちが本気で惚れた相手はちっとも本気になってくれやしねェし。


遊ばれて、丁度いい相手。


それが彼女だ。











物資の調達に寄った手近な島。
よくある港町。
ログが溜まるのは3日だとナミさんは入港時に聞いて来た。
時間的にも手近すぎて笑える。

港から20分も歩けば商店街。その裏にすぐ歓楽街。
宿もその辺りに立ち並ぶ。
船番に「大して興味もねェ」の一言で腹巻が残ることになった。
そうなりゃどうせナミさんも残る。
宿の手配は手馴れたものでロビンちゃんが済ませてきて、
残りのメンツで船を下りた。
初日の夕方までに必要な買出しは済ませちまって、
あとは適当に過ごす、休日みたいなもんだ。




「サンジくんもたまには休まなきゃね」

ナミさんの有り難い仰せ。
でも俺はあの仕事が好きなんだよ。
天職ってェのはあるんだ。
休みてェと思ったこともねェし。

けどお言葉に甘える。



ルフィは例によって大はしゃぎですっ飛んでった。
ナミさんの厳命でお守りはウソップとチョッパー。
俺が外されたのは、もしかして。



見透かされてる。参ったね。






そこそこ小綺麗なホテルの中のレストランで、
俺にとっちゃ滅多に無い食うだけのディナータイムを
二人で過ごした。

仕様も無い船長とお目付け役は戻ってこない。
ルフィのことだからメシ時忘れてるなんてことは在り得ねェんだが。
そう云えば歓楽街の外れあたりに屋台村があった。
多分そこに嵌っているんだろう。
それでも一応連中の分は部屋に届けておいて貰うよう、ボーイに頼む。
あいつらは食い物をあてがっておけば、とりあえず文句は出ねェ連中だ。

彼女は寡黙で、静かに笑っている。
テーブルの向こうで。
普段、五月蝿い連中が周りにいるからこんなに静かだと調子が狂う。

下らない話を続けて、時折その唇が綻ぶのを見る。

綺麗な歯列が覗く。

対等にはなれない。

俺はまだ遊ばれている。



彼女の心はまるで見えねェまま。




このあと本当に、俺に抱かれるのか。
このひとは?
その気があるのか無いのか。





「どうかして?コックさん」

「あ、いや別に何でも」



突然話を止めて彼女を見つめるだけの俺に、問いかける。
空気を読むのが巧いひとだ。
俺の答えにそれ以上追求してこねェのは大人の証拠。




食後の苦いコーヒーがサーブされて、
お互い無言のまま、飲み干した。



「出ましょうか」
「そうね」



彼女が椅子から嫋かに立ち上がると背後にまわり、手を差し出す。

ふ、と微笑む彼女。




細い肩に腕を回してレストランを出ると、
大して広くないロビーには数人の客がいるだけだった。

彼女の肩を抱いたまま通り過ぎようとしたとき


「・・・あら、貴方」


ロビーのソファーで、談笑していた女が一人、立ち上がって
俺に声をかけてきた。


俺の掌の下でぴくりと震えた華奢な肩。

思わず手を離して、振り向いたその先に、
記憶にある女の顔。



「・・・カメリア?」


花の名前を口にする。
ロビンちゃんは俺からそのまま五、六歩離れた。










next?

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