過去創造
ぷーちゃん






女性に対して、こんな気持ちになるとは。
こんな感情が自分の中に存在するとは、
思ってもみなかった。
傷つけてしまうと・・・理性は警鐘を鳴らすのに、
言いたいと、聞きたいと・・・思う気持ちに歯止めが効かない。

俺だけを見て、俺のことだけを考えて。
未来永劫、2人だけで過ごせるのなら、それさえも悪くない。
過ぎ去ってしまった時間さえも、独占していたいんだ。
俺だけのものに・・・





初めて貴女を抱いた夜には、気がつかなかった。
夢中だったんだ。
自分のことで精一杯で・・・貴女と結ばれたことだけが嬉しくて、
そのことだけで、俺は舞い上がっていたし。
もうこれ以上何もいらないと。
自分の幸福を噛み締めていたんだ。

2度目に貴女を抱いた夜。
何度もキスを繰り返し、お互いの名前を呼んで、
俺の愛撫に貴女が溶けていくのを見るだけで・・・
その熱に、俺までが溶かされそうになって・・・
何もかも、貴女の中にぶちまけたあと、
横たわる貴女を見て、気がついちゃったんだ。

聞きたい。聞いてはいけない。
問い詰めたい。問い詰めてはいけない。
言いたい。言ってはいけない。
自分の感情をコントロールすることが、こんなにも
難しいことだったとは・・・

せめて顔には出さないように、軽薄な仮面を被って
努力していたはずなのに、ナミさんにまで
「サンジ君vv恋の悩みなら、1回10万ベリーで相談にのるわよvv」
なんて、言われちまって。
貴女は、もうすっかり俺の考えてることなんか、お見通しなんだろ?
そんな俺を見て、どう思うのか教えてくれよ・・・

3度目に貴女を抱いた夜。
俺は、確認したかったんだ。
キスを交わして、貴女に触れる。
俺の手に、唇に敏感に反応して、吐息を漏らし、
貴女は甘い声で鳴く・・・
そう。鳴いてるあいだは、正気なんだ。
まだ、どこかに理性が残ってる。
追い詰めて、追い詰めて、もうこれ以上・・・と。
何回かの絶頂を見た貴女を、それでも許さないで追い詰めた時、
貴女は、固くその瞳を閉じて、眉間に皺を寄せ、
シーツを握り締める。

貴女は、俺を感じていない・・・・

激しく突き上げていた抽送を止めて見下ろすと、
その黒曜石の瞳は、俺を映して驚いたように翳る。
シーツを掴んでいた拳を開かせて、
その腕を俺の首に廻したら、泣きそうな顔で笑った。
俺を見て・・・今、貴女を抱いているのは俺だから。

再び動き始めれば、その快感は止め処なく、
すぐにでも限界を迎えそうだったけれども。
今夜は、許さない。絶対に。

貴女が俺を感じてくれるまで・・・・

抱かれたままに意識を飛ばした貴女を見下ろす。
初めて見た、貴女の寝顔は、
綺麗で、美し過ぎて彫像のようで・・・

閉じられた瞼の横に流れる涙。
その涙は、どう解釈したらいいんだよ・・・
教えてくれよ。ロビンちゃん・・・






*********





目を覚ますと、愛しい青年は、哀しそうに。
それでも、私にむかって微笑んだ。

「聞きたいことがあるんでしょ?」
「何を・・・」
「言いいたいことがあるのでは?」
「・・・・・・・」
「怒っているのでしょ?」
「怒ることじゃない。」

「吸ってもいいかな?」
「私にも頂戴。」
「ロビンちゃん、吸うの?」
「吸えるわよ。」
灯された炎は美しく、その炎を囲う彼の手は、更に優美で。
空気の動かない部屋で、紫煙だけがゆらゆらと立ち昇る。

「聞いてもいいの?」
「聞きたいことがあるのなら。」
「言ってもいいの?」
「言いたいことが、あるのでしょ?」
「俺のこと嫌いになるよ?」
「ならないわ。」
聞いて欲しいのは・・・言って欲しいのは、私のほうだから・・・

「なんで、あいつと一緒にいたの?」
「それが、私の夢に近かったから。」
「あいつと寝たの?」
「彼だけじゃないわ。」
「なんで寝たの?」
「そのほうが有利になると思ったから。」
短くなった煙草を取り上げられ、乱暴に2本まとめて灰皿で消す。
その消し方が・・・彼の苛立ちを示しているかのように見えた。

「あいつと、どれ位一緒にいた?」
「4年。」
「いつから寝たの?」
「あったその日から。」
そう・・・どんな手段をとろうとも、夢が叶えばいいと思った。
その為なら、自分の身体さえ、道具のひとつ。
軽蔑されても、仕方がない。

「あいつのこと、好きだった?」
「好きじゃなかったわ。」
「じゃぁ、嫌い?」
「さぁ・・・手を組んだだけよ。」
ベッドから彼が抜け出る。
均整のとれたそのしなやかな身体。
その後姿から目を離せないままに、
あぁ、これでこの純粋な青年との関係は終わるのだと、
頭の片隅で考えていた。

「俺さぁ、駄目なんだよね。」
バスルームへ向かうクローゼットの陰から声が聞こえる。
彼の姿が見えないことが・・・・
私の顔も見られていないであろうことが、
唯一の救いのように思えた。

「頭では、ちゃんと判ってるつもりなんだよ。
俺だって、自慢できるような人生歩んできたわけじゃないし。」
カチャカチャという雑音だけが耳に響いて、
彼の声は、遠くの誰かに向けられているようで・・・

「判っていても、駄目なんだ。許せないんだ。」
「・・・・・・・」
「嫉妬まるだしでさ・・・そんな男嫌いになるよな・・・」
遠くに聞こえたはずの声が近づく。

「喉、渇いたでしょ。」
差し出されるグラスよりも、その蒼い瞳を確かめたくて。
輝くブロンドに手を伸ばし、髪を浚って
普段見ることのない双眸を露わにする。
「嫌いになんて・・・・なれないわ。」

空よりも蒼く、海よりも碧いその眼が、
私を虜にする。
器用にも、グラスを傾けることなく伸びた手は私を抱き寄せ、
「過去も未来も、ロビンちゃんの全部を、俺のものにしたいんだ。」
その囁きが私を縛る。
拘束される幸せがあるのだと。
生まれてきて、多分初めて。嬉しくて涙が零れた。

「愛してる。」で始まった営みは、
打算でも、欲求を満たすものでもなく、
互いが互いの存在を確認するかのように。
身体は、その感触を覚えている。
そう・・・この青年は、最初からこうやって私を抱いたのだ。
私の身体ではなく、私を抱いたのだ。


私の過去は、もう変えられないけど。
現在の積み重ねが未来を創ってくれるなら、
未来永劫、私は貴方のものだわ。


********

グラスの氷はすっかり溶けてしまって、
新しい飲み物を用意しようとする俺に、
それでいいから飲ませてと強請られる。

口移しで飲ませれば、喉を鳴らして「美味しいわ」と微笑む。
聞きたいことは、いっぱいある。
言いたいことも、山のようだ。
でもそれは、俺と貴女の過去を埋めるため。
お互いが、どんな時間を過ごしてきたのかを、
確認するためのもの。
「好きな飲み物は?」
「好きな果物は?」
「好きなデザートは?」
「悪魔の実ってどんな味?」
寝物語は終わらない。

「俺と寝て、有利なことって、なにかある?」
「美味しいものが食べれるわ。」
「寝る前から、俺の料理は美味しかったでしょ!」
「航海士さんや、王女様にも、ああやって飲ませてあげるの?」
そうやって、無邪気に笑う貴女が眩しくて。

話し疲れて眠ってしまった貴女を見つめる。
2度目に見た貴女の寝顔は、天使のように微笑んでいる。
そう見えるのは、絶対に気のせいなんかじゃない。

貴女に出会うことができたのは、
貴女の過去があったからだと。
そう思ったら、貴女を創ってきた過去にさえ感謝できる。

一瞬前が過去になるのなら、
今から始まる過去の全てを俺のものに。
将来おこる過去は、俺がつくればいい。
未来永劫、この美しい天使を俺のものに・・・・







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