決断
ぷーちゃんぷーちゃん



−1−



太陽の匂いがする少年に魅せられて、船に乗り込んだ。
強引過ぎる乗船理由は、いとも簡単に少年に承諾された。
乗組員はみんな、豊か過ぎる感情を
隠すことも無く、素直に曝け出す。
好きも、嫌いも、正直に・・・思ったままをぶつけてくる。

駆け引きとか、思惑とは無縁の世界。
今まで見慣れたモノローグの景色が、遥か遠くの出来事のようで。
ずっと憧れていたものが、ここにあった。

8歳で考古学者、そして賞金首。
裏の世界で生きてきた。
感情を露わにしない習慣が身についた。
自分が常に有利な立場でいられるように、保身の術を身につけた。
本音を口にするのは、愚か者のすること。
何かを思っても、口に出す前に、ここでそれを言っていいものかと、
常に数回頭の中で反芻する。
楽しいことなんて、なかった。

この船は・・・危険だわ。
私が私でなくなっていきそうで・・・
私の習慣が崩れて行く。
私の周りに纏った殻が、壊されて行く・・・
私は、本当は、それを望んでいるのだろうか?

その金髪の青年は、Mr.プリンスと名乗っていた人物とは
別人のようだった。
まだ他の乗組員に疑われている最中に、
踊りながら彼の運んできてくれたおやつは、
今までに食べたどんなデザートよりも美味しかった。

「これ、美味しいわ。」
「当然!」
「当然なの?」
「世界一のコックが、貴女のために作ったのですからvv」

仰々しくお辞儀をしながらの、時代がかった、その挨拶が可笑しくて
思わず笑ってしまったら。
「笑った貴女は、もっと綺麗だ。」
恥ずかしげも無く、紡ぎだされるその言葉が、耳に心地よかった。

そうは言っても、彼の言葉は、私にだけ向けられたものではなくて、
美しくて、可憐な航海士嬢にも常に発せられてはいたけれど・・・

航海士嬢と、剣士殿が恋人同士だというのは、すぐに気がついた。
無粋な真似をするのも気が引けて、夜の甲板に佇んでいると、
「闇に紛れる貴女も美しいvv」
そう言って、コックさんがワインとチーズを届けに来た。

線の細いグラスは、揺れる船上には似つかわしくなくて、
普段はどこにしまわれてあるのだろうと考えた。
注がれたワインは、決して高級品ではないけれど、
爽やかな酸味が、喉に広がって、
こんなに穏やかな気持ちでいられることが、嘘のように思えた。

「眠れないの?」
「邪魔者は、退散したのよ。」
一瞬、彼の顔に影がかかって・・・
彼は、航海士嬢を好きなのだから、言ってはいけないことを
言ってしまったのかもしれないと、後悔して・・・
思わず、不用意な言葉を発してしまっている自分に驚き、
そして、胸が痛んだ。

「そのお陰で、ロビンちゃんと2人きりになれるなら、
文句も言えねぇなv」
そう言って、笑った顔が眩しかった。

話す言葉が見つからなくて、
こういう時は、何を言ったらいいのだろう。

「貴方は、私に優しいのね。」
「ロビンちゃんが好きだから。」
「面白い答えだわ。」
「本気ですよ。」
「出会ったばかりよ。」
「恋に陥ちるのに、時間が必要ですか?」
「私のこと、何も知らないでしょ。」
「いいんですよ。一目惚れだから。」
「おかしな人ね。」
ポケットから煙草を探って、咥える姿を見ながら、
好きと言われたことが、いままでにあっただろうかと、
記憶を辿っていた。

「どうしたの?ボーっとして?」
「なんでもないわ。昔のことを思い出していただけ。」
「ふ〜ん。好きだった男のこととか?」
「そんな人、いないわ。」
「本当に?」
「本当よ。そんな余裕無かったもの。」

ペラペラと、本心を口に出している自分に驚いていた。
なんでこんなこと話してしまったのだろう・・・
後悔が喉元まで込み上げてきた時に、
「よし!じゃあ俺はロビンちゃんが好きになる最初の男になる!」と・・・

「随分な自信家ね。」
「努力家なんだ。決めたからね。」
いつになく真剣な顔をする彼を見ていられなくて、
「今夜は、キッチンお借りするわね。部屋には戻れそうに無いから。」
胸の鼓動を悟られないように
話を打ち切りにして、立ち上がると、
「キッチンじゃ、眠れないよ。」
そう言われた。

そんなこと無いわ・・・どこでも眠れる。
少なくとも、敵がいないこの船では、安心して眠れる。

「俺達と一緒じゃ、嫌かもしれないけど・・・
ソファーをベッドにするからさ、男部屋で寝れば?
まぁ、ルフィの寝言と、ウソップの歯軋りは煩いだろうけどね。
あっ、大丈夫だよ、襲ったりしないからねv
あいつらも、俺も、そんなこと絶対にしないから!」
無言でいる私にかけられた言葉が・・・
襲われるとも思っていなかったけど、
男部屋で、彼らと一緒に眠る自分を想像したら、
可笑しくなって、
それもいいかな・・・と思った。

「笑ったvv」
そう言いながら、彼の方が満面の笑みをたたえて私を見て、
「ロビンちゃん、笑ったら、ホントに可愛いのなvv」
唐突にそんなことを言うから・・・
なんて答えていいのか、わからなかった。

「貴方って、面白いわ。」
「ひっでぇなぁ〜〜、『面白いわ』じゃないでしょ!」
「ごめんなさい。なんて言ったらいいのかしら?」
「なんて言ったらって・・・嬉しいわとか、ありがとうとかさぁvv」
「嬉しいわ。ありがとう。」

航海士嬢と剣士殿のおかげで、私は幸せな時間を手にしていた。
その夜、急ごしらえのソファーベッドで横になり、
『好きだから』『一目惚れ』『襲ったりしないから』『可愛い』
今まで無縁だった言葉の数々を反芻しては、
何度も彼の笑顔を思い返した。






彼らと過ごす時間は、いままでに経験したことのない時間だった。
楽しくて、微笑ましく、危険が迫っている時でさえ、
大丈夫だと確信できた。
夢に向かって行くその姿が、忘れていた何かを思い起こさせた。
そして、その若さを羨ましく思いながら、自分だけが
その輪の中に入って行けない疎外感が、
私を孤独にさせていた。

そんな孤独を見透かすように、
金髪の青年だけは、なんだかんだと言っては
私に話しかけ、私を気遣い、私を笑わせて、
そして、私が笑ったと言って喜んだ。

いつしか私は、遥かに年下の金髪の青年に魅せられていた。

彼の言動はストレートすぎるが故に、
冗談なのか、本気なのか、区別がつかなかった。
経験をしたことのない感情を、
どうしていいのかわからない私は、
長年の習慣で、その感情を深く心の底に押しやって、
仮面を被り続けた。

いい年して、冗談で発せられるリップサービスを
真に受けるなんて、恥ずかしかった。
いえ、本気にして、傷つくことが怖かった。

部屋に戻れないで、時間を持て余すときに、
誘われれば、ワインを共に飲み、
それでも、誘われるたびについて行くのは、
尻尾を振った犬のような気もして、
2人で話したいと思いつつ、
そっけなく断った後に、後悔したり、
がっかりする彼を見て、嬉しく思ったり。

自分の感情をどう処理したらいいのか、不安になり始めた時、
航海士嬢が、話し掛けてきた。

「ロビン姉さんvv話があるの。」
「何かしら?」
「隠してることあるでしょvv」
「隠してること?」
「う〜〜ん、内緒にしてること。」
「内緒にしてる?」
「そうねぇ・・・黙っていることvv」
「わからないわ・・・」

「そりゃ、プライベートなことだから・・・言いたくないならいいんだけど・・・」
「なんのことかしら?」
「サンジ君のこと、好きなんでしょ。」
突然、核心を突かれて、狼狽した。
それでも、平静を装って・・・

「何で、そう思うの?」
「女の勘よ!」
「素敵な勘ね。」
「言いたくないの?」
「わからないわ・・・」
「素直になれば?」
「どうやって?」
「欲しいものは、手に入れるのよ。海賊の仲間になったんだから、
ロビンも海賊よ。海賊は、そうするの。」
「手に入らなかったら?」
「やってみなくちゃわからないでしょvv」
「そうね・・・でも、私はあなたみたいに若くはないの。」
「年齢の問題?」
「失敗するのが、怖いんだと思うわ。」
「それなら、大丈夫よ。成功するから。」
彼女の自信が、うらやましかった。
そうやって、あなたは剣士殿を手に入れたのね・・・

「ロビン・・・サンジ君と似てるね。」
そう言って笑う彼女が、少し憎らしくもあった。

手に入れたいと、思う気持ちはあるけれど、
本当はそれでは満足できない。
私を必要だと言われて、私を手に入れて欲しいの。
私は、臆病で我儘な女なのよ。






−2−



その島への寄港は、航海士嬢の希望だった。
彼女曰く、戦い、戦い、冒険、冒険の連続で疲れすぎた。
いい加減に、ゆっくり休みたい。という
彼女に逆らえる乗組員がいるはずも
なく、
リゾートで有名なその島へと、着岸した。

吝嗇なはずの航海士嬢は、珍しく、太っ腹に
そこそこ有名なリゾートホテルを、3部屋も借りた。
「折角だから、ゆっくりしましょうねvv
この後は、夕食まで各自、自由行動。ルフィ!ここで問題起こしたら、
ただじゃすまないから、よ〜〜く覚えて置くように。
ルフィをしっかり見張れなかったら、ウソップとチョッパー!
あんたたちも、同罪だからね!」
そう宣言して、チェックインした。

部屋に入ってすぐに、猫のように擦り寄ってきた彼女が、
「ロビンお姉様〜〜」と言っただけで、
その先が予測できた。
邪魔者は、消えてくれってわけね・・・

「私、ゾロのところに行くからvvここにはサンジ君を遣すわね。
悪いけど、サンジ君と同室ってことで、よろしくねvv」
彼女なりの気遣いだったのだろうか・・・
荷物を開くこともなく、部屋を出て行った彼女のおせっかいが
嬉しくもあり、みじめでもあった。

金髪のコックさんは、どうするつもりなんだろう。
彼がここに来るのなら、私はここにいない方がいいかもしれない。
他の部屋を取るくらいの持ち合わせはある。
部屋を出ようと立ち上がったときに、ノックの音がした。

「ロビンちゃん?いる??」
扉を開ける。
「あいつらも、やってくれるよな。」
「そうね・・・仕方ないわ。今、出てくから、貴方この部屋をどうぞ。」
「ちょっと待ってよ。ロビンちゃんどうするの?」
「他の部屋を取るわ。」

「ロビンちゃんさぁ。。。ちょっと座ってよ。」
手を引かれて、ソファーに導かれる。
隣に浅く彼が腰掛ける。
「ロビンちゃんさぁ。。。俺のこと嫌い?」
「何でそんなことを聞くの?」
「俺が、聞いてるの。嫌い?」
「嫌いじゃないわ。」
「じゃぁ、一緒の部屋が嫌なの?」
「そうじゃなくて・・・」
「じゃぁ、なんで他の部屋なの?」
「その方がいいかと思ったのよ。」
「どうして、その方がいいと思うの?」
「貴方が、気を使うから・・・」

ポケットから煙草を探る。口に咥えて、火を点けて、深く吸い込む。
見慣れた動作のはずなのに、今はその僅かな沈黙が苦しい。

「俺さぁ・・・何度もロビンちゃんに好きって言ったと思うけど、
俺の気持ち伝わってる?」
「・・・・・・」
「それとも俺のこと、好きじゃない?」
「わからない・・・わ」
吸い込まれそうな深くて碧い瞳に見つめられたら、
偽りを口にできない。
「俺、振られたってこと?」
「違うわ・・・多分、どうしていいのかわからない。」
「俺のこと、好き?」
「・・・好きだわ。」
「それなら、ここにいてよ。」

男性にしては細くて綺麗な指が、私の頬に触れ、
髪をかき上げる様に梳いてから、
反対の手で吸いかけの煙草を灰皿に置くと、
「大好きだよ。」
そう言って、唇を塞がれた。

初めて交わしたキスは、少し苦くて煙草の味がして、
無理に曲がった首が苦しいと思う時には、
彼の膝の上に抱き上げられていて、
僅かに離れる瞬間があったのだろうか・・・
どうやって息をしていたのかも思い出せない。

唇を吸われ、舌で舐め上げられ、開いた隙間に
彼が侵入してくる。
歯列をなぞられ、舌が引き出される。
吸い上げられた舌が、甘く噛まれて、彼の舌と絡まっていく。

キスって・・・こういうものだったのだと、初めて知った。
惚けたように、放心してしまった私の髪を撫でながら、
「ロビンちゃん、可愛いよ。最高vv」
そう言って、私の首筋に顔を埋め、うなじから耳へと唇が触れて行く。
目の前に、美しい金色の細い髪が揺れ、
男なのに・・・どうしてこんなに綺麗なんだろうと・・・

触れられた部分が熱くて、なぞられると背筋が反り返る。
耳たぶを口に含まれ、舌を差し込まれれば、
全身に鳥肌が立ってしまいそうで、
思わず声があがった・・・
それは、自分の声とは思えないほどに、色めいていて、
赤面していくのが、はっきりとわかった。

「ロビンちゃん、大好きだ。ずっと・・・ずっとこうして抱きしめたかった。」
耳元で囁かれる、その声に酔わされる。
彼の手が、乳房に触れた時、身体に電流が走ったようで、
その感覚が私を正気にさせた。

ゆっくりと、肩に置いた手を押しやると、
またあの深くて碧い瞳が私を見つめる。
「貴方は私のことを、本当に好きなの?」
「信じてもらえてない?」
「年上なのに・・・」
「何か問題がある?」
「私を知ったら、嫌いになるわ。」
「どうして?」
「貴方が望むような女じゃないから。」
「誰がそう決めるの?」
「誰がって・・・私は貴方に相応しくないわ。」
「それを貴女が決めるの?」
「そう思うのよ。」
「それ、間違ってるよ。
俺は、これからもっとロビンちゃんを好きになるんだから。」

キスの続きが始まった。
どうしていいのかわからなかった。
もう、どうでもよかった。
彼を信じてもいいのだろうと、心のどこかで願っていた。

彼の手に包まれた乳房が熱い。
服の上からでも、乳首が固くなっているのがわかる。
そして、その固くなった部分を、彼が触れるたびに、
息が漏れる。

シャツの釦が器用に片手で外されていく。
慣れているのだろう・・・
まだ19歳のこの青年は、誰とそういうことをしたのだろう・・・
そして、28歳にもなって、まだ男と寝たことのない私は、
それを、いつ告げたらいいのだろう。
いや、そのこと事体を、告げるべきなのだろうか・・・

私に近づく男は、いつも何かしらの下心を持っていた。
私を利用しようとか、私を貪ろうとか・・・
幸いにも、ハナハナの実の能力は、自分を護るには十分な能力で、
陵辱を受けることは無かったけれど・・・
恋をしたことはなかった。
抱かれたいと思う男もいないままに、今日まで過ごしてしまった。
初めての恋愛なのだと言ったら、
私が処女だと知ったら、
彼は、私をどう思うのだろう・・・

キスは続く・・・他人の唾液が口腔に入ってくるのに、
汚いとも思わないのは、何故だろう・・・
頭の芯が揺れてきて、思考能力が落ちていく。
「ロビンちゃん・・・ロビンちゃん?」
気がつけば、すでにシャツは肌蹴て、肩までもが露わになり、
窓からは、まだ眩しいほどの日差しが差し込み、
片手でネクタイを緩めながら、彼が微笑む。

「ベッドへ運んでもよろしいでしょうか?」
こういう時は、普通なんと答えるものなのだろう。
彼の顔を見れない。
シャツの前を掻き合わせながら、彼の肩へと顔を埋める。
煙草の匂いがした。
「私・・・」
「今日は許してもらえないかな?」
「そうじゃなくて。」
背中に廻った手に力が入れられて、身体が彼に密着する。
「じゃぁ、何?」
「驚かないで。」
「驚かないよ。」
「ヴァージンなのよ・・・」
「ウソ・・・」
「ごめんなさい。」

謝罪の言葉を言い終わらないうちに、身体が宙に浮いてベッドに落とされ、
その上に、彼が覆い被さる。
「ロビンちゃん、俺さぁ、最高に幸せな男だよ。今日が人生最良の日vv」
両手で私の頬を挟み込み、
「最高だよ、ロビンちゃんvv」
そう言いながら、キスされていた。

「変じゃない?」
「どうして?」
「28歳よ。」
「俺のために取っておいてくれたんでしょvv」
「貴方のために?」
「神様の思し召しだよv君は僕の運命の女性なのさvv」
「運命ね・・・」
「そうだ!」

ひらりとベッドから身を起こして、立ち上がった彼は、
冷蔵庫に向かうと、中身を物色しながらブツブツ言って、
こんな格好で、寝ていていいのかしらと
起き上がって、釦をとめ始めた私に
「折角苦労して外したのに、駄目だよ。」と口を尖らせ、
白ワインのミニボトルを片手に、
「こんなのしかなかったけど、運命の出会いに乾杯しようvv」
そう言って、私を抱きかかえた。

「グラスが無いけど?」
「グラスはいらないんだ。」
直接瓶に口をつけて、ワインを飲んだ彼の唇が私に重なり、
彼の口から注ぎ込まれたワインを、信じられない気持ちで飲み込んだ。

「お行儀悪いのね。」
「でも美味しいでしょv」
屈託の無い笑顔を向けられる。
「今度はロビンちゃんが飲ませてよ。」
ワインのボトルを手渡され、
そんなことは、したことがないと、戸惑いながらも、
真似して、唇を重ねる。

そのまま、繰り返される口付けは、もはや止められるはずも無く、
釦の外れたシャツから、腕を引き抜かれ、
下着のホックが外された。
「慣れているのね。」
言わなくてもいいことを言ってしまった。
私の胸の上にいる彼が、視線を上げる。
醜い嫉妬と思われただろうか・・・

「それって、ジェラシー?光栄だけど、慣れてなんかいないよ。」
「だって・・・」
「ロビンちゃんが、そう思うだけだよ。」
私の手をとり、自分の胸に当て、
「ほら、こんなにドキドキしてるでしょv」

掌に伝わる、彼の心臓の鼓動は確かに速くて、
でも、それ以上に、私のほうが緊張していた。
彼の目前に曝け出された乳房は、
彼の掌で揉みしだかれて、形を変え、
乳房を揉まれるという、その行為に欲情した。

彼の唇が、首筋から、鎖骨へ、鎖骨から、乳房へと
降りていくに従って、経験したことの無い行為への
期待と不安が入り混じる。
彼が、私の乳房を見つめている。
「綺麗だ。」
その言葉に、羞恥と、快感が交錯する。そして、
あまりにも明るい部屋にいることに、ようやく気付いた。

「明るすぎるわ・・・・」
「なんで?」
「恥ずかしいから・・・カーテンを閉めて。」
「ちゃんと見たいんだけど?」
そう言う彼の言葉が終わらぬうちに、カーテンを閉める。

「ロビンちゃん、ずるいな。反則だよ。」
私が能力を使ったことを言っているのだろうか。
それでも、若いとは言えなくなったこの身体を、
こんな間近で、明るい光の元に晒すのは抵抗があり、曖昧に微笑み返した。
「こんなに綺麗なのに・・・」
そう言って、彼が乳房の先端を口に含み、
その唇の熱さと柔らかさが・・・
蠢く舌で、上下に左右に先端を転がされたら、
溢れる吐息が、自分でも信じられないくらいに制御できなかった。





−3−



こんな感覚があるのだと、僅かに残った意識で思う。
与えられる刺激に、肩が、背中が震える。
彼の手が、肋骨の1本1本を辿って、下へと降りて行く。
スカートのファスナーに手が掛かる・・・
このまま、流されていいのだろうか。
抵抗するべきなのだろうか・・・

「このお臍がさぁ・・・可愛いんだよ。ずっとキスしたかった。」
あちこちを愛撫されながら、囁かれるその言葉に、
心までもが酔いしれていった。
このまま、流されてしまっても、後悔はしないだろうと・・・
頭の隅で納得した。

緩やかに、下着が剥ぎ取られ、無防備な姿をさらしている私の上で、
彼がシャツを脱いだ。
普段、スーツの下に隠されたその身体は、
細身なのだと思っていた。
予想に反して、鍛え上げられ、逞しいとも思えるその胸筋と、腹筋。
裸の胸に抱きしめられて、直接感じる彼の体温は
遠い昔に失った記憶の彼方にあるものを、
思い出させてくれそうで、
そうして抱かれているだけで、幸せだった。
ひとの身体とは、こんなに暖かいものだったのだと・・・

繰り返される口付けの合間に、彼の手が、
ゆっくりと私の身体を這い回る。
内腿にその手が触れた時、反射的に身体に力が入る。

「怖い?」
「多分。」
「大丈夫だよ。」
「そうね・・・貴方がそういうのなら・・・」
ゆっくりと、脚を開かされ、脚の間に彼の身体が入り込む。
もう閉じようのない脚の間に、彼の手が伸びてきて、
その行き止まりを、ゆっくりと触れて行く。

触れたかと思えば、離れて行く。
その動作がじれったいと思うような、もっと続けて欲しいと思うような、
そのうちに、彼の指が私を押し広げて、亀裂を確認するように
撫で上げられたときに、体験したことの無い感覚が
私を襲った。
思わず声が上がり、羞恥に顔が赤らむ。
「ここ、気持ちいいでしょ。」
そういいながら、なんども撫で擦られるたびに、
声を押さえることもできず、脊椎から直接頭の中心へと入ってくる刺激が、
恐ろしいくらいに、気持ちが良かった。

擦られる指とは、別の指が私の襞を掻き分けて、中に押し入ってくる。
その異物感は、タンポンを入れるときのそれに
似ていなくも無かったが、
抜き差しを繰り返され、膣の中を掻き回されていくうちに、
恥ずかしいほどの量の液が溢れてきて、
クチュクチュと音をたてているのが、聞こえて、
理性がどんどん遠のいて行く。
恥ずかしい・・・でも止めないで・・・続けて・・・
これは雌の本能なのだろうか・・・・

指とは違う感覚に驚いて、
いつのまにか、固くつぶっていた瞼を開けば、
下腹部に金髪がゆれ、彼が舐めているのだと認識したとたんに、
その甘美な感触と羞恥に心が揺れ動いた。
「どうして、そんなことを・・・」
「ずっと、こうしたかったんだよ。」
「やめて・・・汚いわ・・・」
「綺麗だよ。それに、甘い。」

溢れ出る液を、吸い取るように彼の唇が動く。
まるで、口付けを交わしているかのように・・・
押し広げられ、亀裂を辿られ、
柔らかく舐め上げられ。
吸い付いて離れないかと思えば、舌で転がされ、
その合間に、再び彼の指が押し入ってくる・・・

もう耐えられないと・・・何度もそう思うたびに、
その波を乗り越え、
繰り返される愛撫に、快感が背筋を抜けて行く。
押し寄せてくる、快楽を受け止めるのが精一杯で、
何も考えられなくなっていた時、
金色の髪が私に近づき、
「もう・・・挿れてもいいかな・・・?」と申し訳なさそうに聞いてきた。
その、少し困ったような顔が愛しくて、
「後悔しないの?」と聞いたら、
「ロビンちゃんこそ・・・」と真顔で返答された。

「私が聞いているのよ?」
「俺は、絶対に後悔なんてしない。」
例え、彼の心には航海士嬢がいたとしても・・・・
今、ここにある、深くて碧い瞳を見たら、
この瞬間だけでもいいから、
彼を自分のものにしたいと、心が欲した。

「ロビンちゃんは、俺でいいの?」
「運命なんでしょ。抗えないわ。」
「やっと見つけた・・・俺の女神様vv」

口付けを繰り返す。下腹部にあたる固いものを感じる。
これが、入ってくるのだと・・・
少々の不安と、甘美な期待が胸に渦巻く。
独占欲が私を支配する。
このまま、彼の全てを手に入れたい・・・

「初めてだったら・・・痛いかもしれないけど・・・」
「大丈夫よ・・・」

入り口を確認するかのように触れられて、
一時中断された感覚が甦る。
ゆっくりと押し当てられるようにそこを開かれて、
添えられた彼のものは、熱くて固かった。

少しずつ少しずつ、押し入ってくる彼を感じる。
膣がキシキシという・・・
痛いというより、こじ開けられるような感覚に
思わず腰をずらしてしまい、涙が浮かぶ。

「ごめん・・・痛いだろうけど・・・」
「いいのよ・・・」
肩を押さえられ、シーツを掴んでいた手が
彼の首へと導かれる。
もう一度、確かめるように抱きしめられて、
「俺、もう我慢できねぇよ・・・」
無理矢理に分け入ってきた彼のものは、それでも
まだ、途中までしか届いておらず、
入ってくる異物を押し出そうとする私の身体は、
意思に反して、抵抗を続けていた。

「ロビンちゃん・・・きつすぎ・・・」
彼の額から流れる汗が、私に落ちる。
「ごめんなさい・・・どうしていいのか・・・」
「謝らないで。力抜いて・・・・深呼吸して・・・・」
言われるがままに、深く息を吸い込み、
吐き出そうとした時に、彼が腰を進めた。

悲鳴にならない声が、喉から漏れでる。
零れてしまった涙を舐めとりながら、
「全部入ったよ。」
そう言われた。

押し広げられたままの、身体は、
さっきまでの甘美な快感が嘘のように、冷や汗までが出てきそうで、
それでも、私の中でピクピクと自己主張する
彼の固さと熱さを、直接感じて、
今、私たちは繋がっているのだと認識できた。

「ロビンちゃん?」
「ロビンちゃん・・・」
無言で見つめ返すと、
「名前・・・名前呼んでよ。」
彼のことを、なんて呼んだらいいのだろう・・・
そういえば・・名前で呼んだことがなかった・・・
「サンジだよ?」
一瞬、航海士嬢が脳裏によぎって、くんとは呼べなかった。

「サンジ・・・さん?」
そう言ったら、顔をしかめて、
「さんはいらない。サ・ン・ジ。」
「サンジ・・・」
「そう。サンジ。そう呼ぶんだよ。」
「サンジ・・・」
「ロビンvv」
「サンジ・・・」
「ロビンvv」
「サンジ・・」

うわ言のように、名前を呼び合い、
抱き合っていたのは、数分だろうか、数秒だろうか・・・
このまま時が止まればいいと思った。
彼と繋がったまま、抱きしめられて。
肌の温もりを感じたままに、永遠の時を・・・

彼の手が私の髪を梳く。
笑っているのに、眉間に皺が寄っている。
「もう限界・・・降参だよ・・・ロビンちゃん」
動き始めた彼の背中にしがみつき、
痛みとともに訪れる、いいようのない感覚に流されそうになった時
彼の動きがとまった。

「ごめん・・・先にいっちまった・・・」
そう言って、照れくさそうに笑って、
身体を反転させて私を自分の上に乗せる。
「ロビンちゃん、凄すぎ・・・」
「それって、褒められてるのかしら?」
「最大級にvv」

広げられた痛みは、未だ続いていたけれど、
彼の胸の上で感じるそれは、幸せな痛みだった。

ゆっくりと、腰を掴まれて、持ち上げられる。
引き抜かれる痛みと、寂しさがこみ上げてくる。
栓を抜かれて、私の中から、どろりとしたものが、
彼の上に零れだす。

薄明かりの中で、うっすらとピンク色をしたそれは、
先刻まで確かに私の中にあったもので、
惚けたように見ていたら、
「これは、もう見ないの!」
そう言って、彼がティッシュで拭き取った。

まだ熱の引かない身体を、抱きしめられ、
彼の腕を枕にして、やさしく背中を撫でられながら、
繰り返し名前を呼ばれる。

どうしてそんなに私を呼ぶのと聞いたら、
大好きだからだよ。そう言われ、
彼の声を聞きながら、自覚しないままに、私は眠りについた。

目を覚ませば、すっかり暗くなった部屋で、
眠りにつく前と変わらずに、彼が私を抱いていた。
「お目覚めですか?お姫様vv」
そう言って、額に口づけて、
「そろそろ夕飯の時間だから、本当はもっとこうしていたいけど、
シャワーでも浴びましょう。」
「それもそうね。」

2人で、夕食に現れなかったら・・・
航海士嬢になんと思われるのかが、気になるのだろうかと・・・
そんな風に思ったら、心が痛んだ。
痛んだ心を隠して、シャワールームへ向かおうと、
ベッドを降りたら、
後ろから抱きしめられた。
私の肩にシーツをかけて、首筋に顔を埋めた彼は、
「俺は、隠さないからね。」
その証拠だと言わんばかりに、
襟を立てても隠せぬ場所に所有の痕を刻んだ。

私の身体はまだ痛んだけれど、心の傷みは遠く消え去り、
こんな風に男に溺れてみるのも悪くない。
馬鹿な女に成り下がろう。
微笑みながら、そう決意した。

遅れて行った夕食の席で、航海士嬢が囁いた。
「うまくいったのねvv」
「何のことかしら?」
「お礼、弾んで貰うわよ!」
「コックさんから貰って頂戴。」
そう答えたら、
「それもそうね・・・請求書回しとくわvv」と
魔女の微笑でウインクされた。

太陽の匂いに惹かれて乗ったこの船で、
私は、新しい自分を見つけた。
いつか、悲しむ時が、傷つく時がくるかもしれないけれど、
そんな感情を持つことも無く生きて行くより、
自分に正直でいられることは、数倍幸せだろうと。
今は、この幸せな時間を心から楽しみたい。
失った時間を、取り返せる位に・・・・




end

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