駄目な理由は思いつけない。
貴女で駄目なはずがない。
すでに重なり合ってしまった唇の感触に・・・
その唇を寄せたのは、俺なのか、貴女なのか。
それさえも判らない。
これは違うと思いながらも、流されていくこの俺を。
俺自身すら、非難できない。

現実から目を背け、耳を塞いで。
手に入らないから、諦めるのか。
手に入るもので妥協するのかと・・・

妥協も時には必要だ。
その妥協さえ、俺の運命。

********
その唇は、想っていたより冷たくて。
その唇は、想っていたより儚くて。
伸ばした腕で掴んだ腰は、細かった・・・・

次々と、浮かんでは消えていく、俺の望んだイメージを
打ち消すようにその唇を貪り喰らう。
これは違うと・・・
夜毎夢見た相手ではないことは百も承知で、
それでも行為は止まらない。

腰に廻したはずの手が、背中を弄り釦を外す。
息が揚がって、動悸は激しく。
その柔らかな乳房が俺を誘う。
口腔からは唾液が零れ、俺のものだか貴女のものだか・・・

どうか許すと・・・・
貴女のことを愛していないのに。
止めることのできないこの俺を、どうか許すと言って欲しい。
今は。
今だけは、飢えた子供がその乳を貪り飲むように。

乳房さえもが凍えるように冷たくても。
その先端から流れる蜜を吸わずにはいられない。

貴女の指が、髪を撫で、梳いていくのを感じながらも。
それが心地いいとは思っていても。
貴女のことは愛していない。
それでも、俺を許すというなら。
快楽の果てまで、俺を誘って。
最後まで。
俺は誘われただけだと・・・言い訳させて。

貴女はいつも寂しげで。
その孤高さが美しく、凛とした気高さを崇めていたから。
そんな貴女を、自分の姿に重ね合わせた。
孤高でありたい。気高くありたい・・・
でも、実際の俺は、悲しいくらいに貪欲で。
何もかもが我慢できない。

叶わぬ恋の嫉妬に狂い。その狂気をひた隠して、日常を演じて。
いや、演じるしかなす術がなかったんだよ。
そうしなければ・・・・居場所がないんだ。
そんな自分が反吐が出るほど大嫌いで。
そんな俺でもいいというなら、陥として、陥として・・・
闇の底まで。
這い上がれないほど深い底まで、貴女が連れてって。
そうしたら、もう這い上がれないと諦めるから・・・・

貴女の腕が俺を包んで。
俺の滾りを受け止めて。
白くて細いその指で、シャツを脱がせて、ジッパーを降ろし。
愛して無いのに、見事なほど素直に反応している俺を扱いて。
何故・・・愛してないのに身体は愛を望むのか。
これは愛ではないと、わかっているのに。
貴女はそれでも平気なの?

お互いに、叶わぬ恋の寂しさを埋める行為は、
何かを生み出せるのだろうか・・・

指を伸ばせば貴女の性器は潤っていて。
それが不思議だった。
自分が憤っているのを棚に上げて・・・
どうして貴女は身体を開く?
開かれた身体に、許された行為に
俺は制御ができない。いや、制御する気がないんだ。
だって・・・俺は誘われて、求められたのだから・・・

本能のまま、貴女の中へ俺を埋めたら、
確かな快楽だけが俺を包み込んで。
その快楽は、狂気も、嫉妬も、惨めさまでもを昇華させ、
俺を無心にさせていく。
あぁ・・・何も考えられない。何も考えなくていい・・・・
快楽だけを追い求め。
腰を打ちつけ、脚を持ち上げ、貴女の身体を蹂躙して。
すべてが真っ白になった時の快感は忘れられない。

そうだ・・・貴女が始めたのだから。
貴女が終わりと言うまでは、俺は貴女の側にいよう。
そうしたら・・・全てを忘れていられるだろう。
そうしたら・・・きっと貴女に包まれて。
何もかもが上手くいくかもしれないから・・・

もう、自力では脱出できないんだ。
どうか、お願いだから、俺を助けて・・・
それが妥協の産物だったとしても、
それを逃避といわれても。
もうあそこにはいられないんだ・・・
あの場所にいるのはつらすぎるんだ。

貴女が俺を救ってよ。

end


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