明日smile
みずき様





「どうしたの、ロビンちゃん?喉でも乾いた?」
「・・・良く入って来たのが分かったわね、コックさん?」
「そりゃぁ、ロビンちゃんの事ですから。」



キッチンへ入るなり振り向かず言うサンジに
驚きながら腰掛けるロビン。

順調に航路を行くGM号で各々過ごしている中、一段落したサンジは
洗い終えた手を拭きながらゆっくりと振り返った。

「・・・と言いたいトコですけどね。
今つけてる香水で分かったんですよ・・・今日はラベンダーでしょ?」

「えぇ、そうだけど・・・この匂いの中よく分かったわね。」
「嗅覚も冴えてないとコックは務まらないからな。」
「あら・・・それはご免なさいね。」
「いえいえ。」

ロビンの言う匂いというのは、キッチン中だけでなくGM号にも漂い始めたパン
を焼いている香りで
サンジはそのままオープンの中を覗き見る。
焼け具合は丁度良いらしく、すぐに中から取り出しバスケットの中へ入れると
そのバスケットをテーブルの上へと置いた。

「良い香りね・・・これはミカンも入っているのかしら?」
「えぇ。昼前にナミさんから貰ったんですよ。」
「そう・・・。この一番大きいのが船長さんのね?」
「当たり。あいつの食い気はこれ全部食べても足らねぇんじゃないですかね。」

見るとバスケット内にあるパンは丸平たくなっており
それまでこのパンを見ていたロビンは顔を上げると
再びオーブンを相手にしているサンジの背中に問いかける。

「所でコックさん、どうしてこのパンはこういう形をしているの?」
「あぁ・・・そっちは下の部分になるんですよ。」
「下の部分?」

「えぇ。そっちはクッキー生地なんです。
パン生地と一緒にして焼くと火が通らなくてクッキー生地は生焼けになっちゃう
んで
別々に生地を作って焼いてるんですよ。
ホントはこの別にしたのを同時に焼くのがいいんですけどね・・・冷めてから一
緒にすれば問題無いんで。」

「一緒って・・・?」

「この焼き始めたパン生地を上にして、そのクッキー生地の間にクリームを挟む
んですよ。
どれもミカンの果汁を使ってますから、さしずめミカンパンってトコですかね。


「へぇ・・・美味しそうね。」
「そりゃあ、俺が作りますから。」

再びオーブンに入れ終えたサンジは振り返ると
頬杖をついて言うロビンに笑みを向ける。



「・・・そういやロビンちゃん、俺に何か用があるんじゃないの?」
「えぇ。冷たい飲み物をお願い出来るかしら?」
「あぁ、それなら・・・。」

それからすぐに冷蔵庫の中を見たサンジは
先程皆に配り渡したのと同じ特製ドリンクを取り出し彼女の前へ置く。

「はい、どうぞロビンちゃん。」
「ありがと。でも、いいのかしら?」
「ん?」
「これ、さっきあなたが皆に渡してたわよね?あなたのじゃないの?」

「あぁ、平気・平気。俺はこれ作りながら飲んでたから。
それは念入れて余分に作っておいた分なんですよ。」

「そう・・・それじゃ遠慮無く頂くわ。」

早速飲み始めるロビンを前に向かいへ座ると
サンジもまた頬杖をしながら彼女を見た。

「・・・何かしら?」
「やっぱり綺麗だな〜と思ってさ。」

「コックさん・・・。」
「何ですか?」
「それを言ったのは、私で何人目かしら?」

途端に頬を乗せていた掌を『ガクッ』と外してしまうサンジ。

「あの・・・俺ってそんなに信用ない?」
「信用と言うより説得力がないわね。」
「ロビンちゃん・・・。」
「説得ある言葉で口説いてくれるのがいつになるか、楽しみにしてるわコックさ
ん。」

ロビンはそんなサンジに笑みを見せ、サンジもまたすぐにロビンへ笑みを向けた


「じゃぁ、お言葉に甘えて。」
「・・・?」

そしてサンジは、すぐに真剣な目をロビンへ向ける。



「今の笑顔ずっと俺だけに向けて欲しい
・・・明日も、また明日も、そのまた明日もずっと。」



「・・・。」

それから彼はすぐに、ルフィの様に『ニカッ』と笑ってみせた。

「・・・説得力あったろ?」
「どうかしら?」

しかし先程と変わらずのロビンに、サンジは再び眉を寄せる。

「やっぱすぐにすぐじゃダメか・・・。」
「そういう事になるかしらね。」

そんな彼を見ながら席を立ったロビンはサンジに背を向けると
能力で彼の右肩に手の華を咲かせ、彼の頭をそのまま左へと押した。



「ドリンクご馳走様・・・次の口説き文句を楽しみにしてるわ、コックさん。」



「・・・。」

押された頭が自然に戻りながら、キッチンを後にするロビンを見送るサンジ。
彼は出入口を見たままもう一度眉を寄せると、すぐに髪を掻いた。

「次を楽しみにって・・・その言い方、戦う相手に言ってるんじゃないんだから
さ・・・。」

そして一言そう言うと彼もまた席を立ち、バスケットに入っているクッキー生地
を見る。



「恋は戦いってか・・・?」



この戦いに決着が着くのはいつになるだろうか・・・?
とはいえ、まだこの恋の戦いは始まっていないかも知れない。


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