ゆりかえし

今なお離れても、君ヲ想フ

さみしいと、言った。

久方ぶりの女の膚に馴染んだ掌。汗が繋いだふたつのからだ。
それが冷えて、一つに感じられた身体を分離させようとする。
それが厭で。

女を後ろから抱きかかえるように座っている。
つけていた服が散らかっていた。
防寒用と称した毛布は、身体を包んだ。
俺は煙草が欲しかったが、生憎愛煙家は此処にはいない。

さみしいと、言った。

故郷を離れるときも涙などは見せなかった女がこぼした一粒の涙。
遮るものがなくって俺はそれをまともに見た。
それが厭で、抱いた。

不吉な色に染まる、満月は大きく映る。砂漠で見たそれは真黄色だった。
赤くたなびく雲は、誰の泣き顔か。


さみしいなぁと俺の胸に背中を預けて、何度も呟く。
力づくで連れてくればよかっただろうと言うと最低と罵られた。
一人で行くと決めたのは彼女なのだから言っても詮無いと分かっていても口に出してしまう。
分かるけれど、それが少しうざったい。

寂しくはないの?とずり落ちた毛布を巻き上げて此方を覗き込む。
聞くなよと思わず笑った。
同じ時間を過ごしたのに、その居場所がぽっかりと空いて別の人間がまた一人。
苛立っているのだろうか、俺はそいつに突っかかってしまう。
それはきっと、嫉妬。

いつもいた場所に居座られるような気がして、
彼女の居場所が消えていくような気がして。


揺さぶられる。



彼女が来る前は夜はふたりだけで過ごした。
けれど、突然の乗船は俺の夜をぽっかりと空けさせた。
俺は気がつくまいとしながら寂しさを紛らわすのに眠る。
叶わなければアルコールを。

俺は、嫌いではなかった。
人好きのする笑顔や、気を使って姿を消す長い髪。
微かな恋心を垣間見た。
その矛先は俺ではなかったにしろ、

寂しいと言った。
俺の気持ちを揺り返す。

*




一人だけ寂しさを見せなかったから冷血と思ったけどそうではなかったらしい。
もう見えやしない砂の国の方をじっと見ては目を背ける。
それを繰り返す。

私は寂しかった。
多分妹がいたらこんなカンジだろう。
私はずっと妹だったから姉ではなく妹か弟が欲しかった。

ノジコはこんな気持ちだったんだろうか。
私が一人海へ出るとき、それを見送った朝。
私がこの船に乗ると決めた時、それを伝えた夜。

少し笑ってコレはお守りといつも嵌めてたブレスレットをくれた。
ずっと前に彼女がベルメールさんから貰ったモノで、貸してと言っても貸してくれなかったもの。
私には小さなネックレスを呉れたけど、どうしてもノジコが貰ったモノの方が欲しくて。
結局何度もやっぱりこっちがいいとかなんとか言って、取り替えたことがあった。
私のネックレスは、いつだったかへまをしたときに鎖が切れて船から落とした。

一人残ってあの家でどんな風に暮らしているんだろう。

多分、今の私ときっと同じような気持ちだ。
彼女の門出を、祝おうとすればするほど、込み上げてくる。

私には今甘えられる男も、仲間もいるけれど。
今や遠き彼方にいる二人にはそんな人はいるだろうか。
いるなら教えて欲しい。
安心できるから。

出すことも出来ぬ絵葉書の中、景色がざわめいている。



*




見張りさせてくださいと勢いつけて俺に言ってきたのはいつだったかな?
いいんだよと言ったけれど、してみたいんですと断固として譲らなかった。
そう言うところは頑固だったよね。
じゃぁと一緒に登って、喋ってる内に眠っちゃって。
あの時の寝顔は可愛かったっけ。

二人分と持ってきたコーヒーは夜明け近くになっても未だたっぷり残っていた。
翌朝目を覚ました後でえらくしょげてて、
じゃぁ今度はしっかりねと笑ったらもう絶対寝ませんからと顔を赤くしていたっけ。

なんでかクソマリモに懐いてて俺はずいぶんと悔しい思いをしたっけな。
しかも俺ではなく、アイツでもなく、何処が好いのかあんなゴムに惚れてたらしいし。

明日を手招くように、君は手を振り。
俺達は近方で振り返すことも出来ぬ歯痒さ。
時が過ぎ去り巡る軸の中で、君を想う。


*




また会ったときだなんて、よく言うよ。
もう出会えないかも知れないのに。
でもいつまでもいつまでも思うだろうと、おまえの姿が消えるまでその方角を見ていた。

サヨウナラとか気の利いた事なんて言えず終いで。

真っ黄色の月が夜を照らしていた。
お前はあの時どんな気持ちで言った?

「キスして」


だなんて俺に。


泣きそうなのを堪えるときおまえはいつだってその目を一杯に開いて喰ってかかる。
同じ顔をして言ったのにはちゃんと理由があったんだな。

「馬鹿だよなぁ、最後の最後まで。」



俺は暫く俯いて、昨日触れた口唇を思い返した。
もう、見えないあの国に、目を凝らしながら。

end


元ちとせの歌を車内で大熱唱してる不審人物を見かけたらそれはアタシかも知れません。
いやこの歌好きなんです、「君ヲ、想フ」一周年企画とssというか
実はアタシアラバスタ編の終わりのあたりでこのサイト開いたので
かなり感慨深く。
実を言うと未だ眠っている話がゴロゴロあるという・・・・
しかしネタは既に鮮度は落ちているというので御倉入りとかたくさんあります。
コレもそのウチの一つ。
ゾロもきっと寂しいだろうなぁと思って書いてました。(過去の私のネタ帳抜粋・・・・)

因みにコレ、ルビビ話とリンクしますんで・・・・・(笑)
もうさっそく予告かよ・・・・・・・やめときゃよかったと後悔しそうだな・・・・
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