明日は さぁ なにがある
太陽照らす 道をゆこう










「私 の 太 陽」


「三食粉モノだと大きくなれないアルよ」

神楽は台所に立つ雇用主に不満申し立てをした。
じゃぁ明日から二食にスっかと、雇用主は答えた。
あながち冗談ではない。
多分それを神楽も分かっていた。


一週間前、冷蔵庫の中身が底を尽いた。
昨日、米が底を尽いた。
坂田家の食糧事情は危機的状況。
味噌としょうゆと砂糖しかない。

「どういうわけだが今週は儲からねェ仕事ばっかりでよ」

儲かってることなんて今まで一度も見たこと無いですよと新八が隣で愚痴った。
ボールに小麦粉と片栗粉を適当に入れて水を足しながらゆっくり混ぜる。

「だから、仕事の量の割にもうからねぇっつったんだ」

銀時は鍋にかけた湯にいつ買ったか分からないいりこだしの素を入れて味を見た。
おかしな味はしないから大丈夫。
そう、贅沢は敵。

一度でも儲けてから言えよ天然パーマと神楽は吐き棄てた。
新八はだめだよ神楽ちゃんと窘めながらボールの中身をビニール袋に移す。
ねっちりとした塊を神楽に渡し、優しく踏んでと付け加える。
神楽はアイアイサーと冗談ぽく敬礼して、タオルに包んで体重を掛けた。

「銀ちゃん、私、同じ粉モノでもたこ焼きがいいアル」

神楽は軽いランニングのように足踏みしながら不満を零した。
銀時はこれで何度目だという顔をする。
たこを買う金がねぇだろうがよ、あぁそっか、そう言う遣り取りをもはや三度繰り返した。
最早コントだ。

「明日は実入りがいい仕事くるといいですねぇ」

あぁそうだなぁとまた同じ返事。
新八はあぁそういえばと玄関先へ走った。
戻ったその手には新聞紙に包まれたかぼちゃと芋、それから茄子に牛蒡と何故か乾燥ネギ。

「八郎さんが実家から野菜貰ったっておすそ分け貰ったんだった」

忘れてましたよと妙に所帯じみた仕草でそれをあける。
そういえば、あの八郎の母ちゃんが置いていった煮物は美味かったと銀時は思い出すが口には出さぬ。
とりあえず日持ちはするモノで助かった。

「醤油汁のすいとんから変更だな」

新八は合点承知とばかりにもらった牛蒡を取り出して、ささがいた。
出汁の鍋の火を消してもう一つ別の鍋に湯を沸かす。

「よし、神楽もういいや」

神楽の足の下でよく捏ねられた塊を小さく千切って湯の中へ落とす。
浮いてきて二、三分したら茹であがり。水にとってぬめりをとる。
銀時は器用に指先一つで千切った種を放り込み、湯で上がりを見ながらすくっていく。

「新八、牛蒡灰汁抜けたか」

はぁいと返事を聞いた後、既に火をつけてあったフライパンの中に小さな白いキューブを放り込む。
忽ち熱で溶けた。
水を良く切った牛蒡を入れて炒めると忽ちいい匂いがしてきた。
神楽は二人の手元を覗く。
脂が散るから危ないよと新八が窘めた。

「つまみ食い狙ってんなら無駄だぜェ、神楽」

まだ味ついてねェもんと銀時は笑った。
バレたかと神楽は舌を出したが覗き込むのをやめない。
炒めた牛蒡とすいとんを出汁の中に入れて刻んだ葱を入れて一煮立ちさせれば完成。

「これだけ?」

神楽は、テーブル片せと言った銀時に不満を述べた。

「具が入ってるだけでもありがたいだろうが」

銀時は、鍋つかみを両手に嵌めて鍋を持ち上げ好き嫌い言うんじゃありませんと窘めた。

「昨日米と塩だけでしたもんね」

新八は、椀三つと箸を手に昨日の昼食を思い出す。



いただきまぁすと手を合わせた。


「しんぱち、これ肉の味がするけど肉入ってないあるよ」
「肉なんか食えると思うなよ神楽」
「肉は入ってませんけど野菜を牛脂で炒めたからかな」

すげぇ節約術だよなァと銀時は笑う。
アレ、スーパーでいくらでも手に入るしなぁ、篭った声で呟いた。

「何処の主婦だよなァ、神楽」
「しみったれてるアル」

確かに少々しみったれてはいるが、神楽はもう一杯目を食べ終えて二杯目も終わりかけ。
銀時だって一杯目を食べ終えた。

「じゃぁ肉が買えるような給料呉ってんですよ」

新八は独り言ちた。

「これマジ美味いよ、ぱっつぁん。サイコー」

まるで彼女が初めて作ってくれた料理に感激した男の顔で笑った。
正直気持ち悪い上に腹が立つ。

「テキトー言うなよ、糖尿病」

遣り取りの最中神楽は更にもう一杯。
さっさとくわねェとなくなんぜェと具を思いっきり、と入っても牛蒡だけだが、
銀時は椀によそいながら新八を促した。
そろそろ鍋の底が見えかかっていた。
新八は慌ててかっ込んだ。


「銀ちゃん、私肉が食べたいアル」


都合現時点で三杯すいとん汁をたらふく食いながら神楽は幸の薄い声で呟いた。


「よォし、じゃぁ新八ん家に行ってゴリラ生け捕りにして来い、オレが捌いてやるよ」

いやアル、くさそうある、
それ以前に人間だよとツッコみたいが新八は喋れぬまま機を逃す。

「ゴリラって草食なんだぜ、臭くねぇよ」
「臭いアル、あのゴリラからは加齢臭がしそうアル」

加齢臭はどうでもいいけど自分ちをゴリラの解体場所にしないで欲しい。
新八は恐らく今日も床下か或いは天井裏、はたまた押入れの中に居るかもしれない件の男を思い浮かべた。
もしかしたら家政婦宜しくこき使われている可能性もあるが。

「でも銀さん、豆パンのときよりいいですよ。百歩譲って野菜も取れるし」

つるりとしたすいとん団子を咀嚼する。
そうそう、食物繊維とカルシウム、それさえとっときゃうまくいくんだよ、
いつか聞いた台詞を繰り返す。
坂田家の食糧危機は一度だけじゃぁ無い。
その度に変わる人生における必要な栄養素はころころ替わる。


「人間はパンのみにて生きるにあらずとも言うアル」

神楽は鍋の中身を総ざらいして椀に移して飲み干した。

「神楽ちゃん、それは外国の話。ここはね、侍の国なの」
「武士はくわねど高楊枝ですか」

新八が問えば、男は食って食わせてナンボよと神楽は言った。

「バカヤロー、世の中にはダンボールを齧って飢えを凌ぐ中学生もいるんだぞ。文句言わずに食べなさい」







お天道様に聞いてみな。
明日は仕事がきますかと、そしたらきっとこういうさ。
知ったことかと、きっと言う。


「銀ちゃん、銀シャリでお茶漬けさらさら食べたいよ」

贅沢ゆうなァと空になった鍋をみた。
新八はお茶を湯飲みに注ぎながら、明日はホットケーキにしようかなと言った。

「バターも無いのに?」
「メープルシロップも無いのに!?」

受け取った熱い茶を前に、二人の声が被さる。

「あんたらね、此処は侍の国ですよ。軟弱なことを言うな!ホットケーキだけ食ってろ!」

しんぱちくん、人はホットケーキにのみに生きるにあらずだよ、
さっきといってたことが逆だよアンタと言うが銀時はしれっとお茶を啜った。

「バターもシロップもいいですけどね、卵も牛乳も無いですよ」
「銀ちゃん、私たこ焼きがいい」
「だからたこ買う金がねぇっつったじゃねぇか」





お天道様に聞いてみな。
明日はおなか一杯食えますかって。

知ったことかときっと言う。




けれども必ず明日は来るから、今日は眠れというだろう。




「ねぇぎんちゃん、明日は仕事来るといいアルね」



お天道様に聞いてみな
明日仕事が来るかは分からない。
下らぬことでけんかをしながら、仕事が来ないと文句を垂れて、
ホットケーキじゃいやだと言った。

明日もくだくだ言い合いながら、なんにもないない言いながら。




「銀さん、あとで牛乳買いに行きますか」



そうだ牛乳買いに行こう。



「定春の散歩にもいくアルよ」
「僕じゃぁ洗い物してきます」




コンビニの袋ぶら下げて。
月がきれいといいながら。




私の太陽を連れて。



end


WRITE / 2008 .11.21
銀時くんがだんだん好きになってきたマジック、不思議だなぁ
万事屋の三人は兄弟妹のような親子のような、そう言う距離感で居て欲しいです
私の太陽と言うのは、吉原編の感想で二人が彼の太陽であるとどなたかが書いてらしたから。

彼の太陽は、一度は沈んでしまったんだろうなと思いました
でもまた日は昇って、今日があるんだろうなぁとか。

鼻歌を歌いながら三人で歩くよろこび
自分の妄想ながら、二人を大事にしている坂田さんが大好きです


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