野蛮な世界で

もつれ合う









天 国 よ り 野 蛮






「どがぁした?」

ドアが開いた。
すぅと滑り込むように人影が部屋に滑る。

坂本は座って珍しく書面を見ていた。
部屋の灯りは落とし、手元の明かりだけをつけて。

デスクの上は乱雑に物が置かれている。
読みかけの星間航行法の本、開かれたままの宇宙怪獣百貨第三巻、作りかけの帆船模型。
既に机と言うよりも棚と言った按配で、機能を果たしていない。

坂本は別の座卓に胡坐を掻いていた。
目の前に置かれたミネラルウォーターの瓶は汗を掻くことすら止め、
卓の上に丸い水溜りを残している。

人影は見覚えのある形をしていた。
だから顔が見えなくとも誰かと問うことはしなくて済んだ。
ただ、用もなければ此の部屋にくることの無い人物だったので、
どうかしたのかと尋ねたのだ。

影は扉の前に突っ立ったまま、言った。



「抱かれに来た」


坂本は顔を上げた。
影の中に居る人物を見た。
白っぽい着物を着ている所為で、ぼんやりと光って見える。
よろけ縞に藍の花の散る寝巻きは見覚えがあった。
影が少し動く。顔が見えた。
青白い顔をしていた。



「もうちくとで終わるきに」


女から目を離し、書面に戻す。
羅列された字を目で追う。
暗いところと明るいところを行き来した所為で焦点が少しぶれた。


「蒲団で待ちや」


女は分かったと頷いただけでそろそろと歩き、部屋の奥にある寝台へ入った。
その気配を背中で察しながら、坂本は手元の書面を捲る。

抱かれに来た、か。



女の形をしているのに、女らしからぬ物言いで。
抱かれに来たと言った。

十数枚の書面を最後まで目を通し、いくつか付箋にメモを貼りつける。
数通の手紙に表書きをして、明日郵便に回すと為に座卓へ置いた。
文書箱の蓋を閉め、文机のライトを消し立ち上がった。

坂本の部屋にはシャワーしかないが浴室がある。
トレードマークとも言える赤いコートを脱いでスツールに引っ掛け、代わりにタオルを持つ。
フックにタオルを引っ掛けてドアを閉めた。
衣連れの音をさせながら着ていたものを脱ぎ捨て、コックを捻った。

水が床で飛び跳ねた。




抱かれに来た。
抱いてくれと懇願するでもなく、好きに扱えとでも言うような投げ遣りな。
態度は悪い。

だが、そんな投げ遣りなことをするような女ではないのだ。

情熱だけで動くような人物ではないし、いちいち理性的な説明が要るのだ。
彼女が動くにはそれと言う理由がある。
逆説的に言えば理由がなければ行動を起こさない。
しかもそれは理路整然と説明が可能で、しかも相手を十二分に納得出来得るような。

温いシャワーを浴びながら坂本は推測する。

自分は理由が不要の人間だから、推し量ることしか出来ぬ。
そもそも自分と陸奥とは違う人間なのだ。理解すると言うことが土台不可能。
ひとつだけ分かるのは此のドアの向こうに抱かれに来たと言った女がいるという事実、それのみ。

ではもうそれならば、それでいい。
案じたところで己の果たせる役などひとつしかないのだ。

コックを逆に捻り、水を止めた。






頭を拭きながら辰馬はドアから出る。
換気扇のごうという音が鳴っていた。
墨で華の絵が大きく描かれた湯文字を引っ掛け、冷蔵庫の中のミネラルウォーターを喉を鳴らして呑む。
ちらりと振り返れば、寝台の上には小さな膨らみがあって、蒲団の中に人がいることが知れた。
背を向けたまま此方を見もしない。
何を考えているのやら、だ。

裸足のまま歩く。
寝台の淵に遠慮もなしに尻を乗せる。
舶来の寝台のスプリングが軋む。
胡坐を掻く様に片膝をたたみ、身を捩るように背後に居る女に手を伸ばした。

「お待ちどう」

焦らした、と言うのかこれも。

女は目を閉じたままだった。
寝ているならそれでもいい。
何があったかは知らぬが、この女がそんなことを言うほうが可笑しい。
らしくないとでも言うのか。

上掛けを捲り体を滑らせる。
蒲団に入るには未だ体から熱が逃げていない。
髪を梳いてやりながら動かぬ女を見た。

おかしなものだ。
此方から閨に忍び込むときはあんなに急いて、逸って、
女に初めてありつけるような小便臭い餓鬼のような気持ちになると言うのに。
今日はどういうわけか、此の女が恐らく理路整然と並べているここに来た理由を一つ一つ、
それこそ一晩中でも聞いてやりたいとすら思う。

髪を梳くのをやめて、乱暴に自分の濡れた髪を拭いた。
こういう時髪が多いと困る。
そう思ったとき、陸奥の目がぱちりと目が開き寝返るように首だけで此方を見た。
にこりともしなかった。
いつもどおり過ぎて思わず口が緩んだ。
視線を合わせるように、ごろりと横になる。


「どがぁしたがか、今日は」


顔に掛かったほつれた長い髪を梳く。
普段は絶対に並ばぬ直線上に彼女の目がある。
閨の中にいるというのに、普段となんら変わらぬ。
色目と言う言葉があるがその真逆だ。
瞬きもしないで、見開いたまま言う。


「そういうことをしたい気分やった」


理由を聞いてやりたいと思ったが随分直情的ではないか。

聞いてくれるなと言うことだろうか。
それとも理由などないのか。
強いて言えば人間の三大欲のひとつを満たしたいだけなのか。
それでも構わぬ。
寧ろそうであるならば、彼女が真正面からそれを己にぶつけたことに驚く。


「そういうことゆうて?どう、いうこと」


陸奥は僅かに顔を歪めた。
それが愉快でたまらぬ。


「わかるろー」

暗い所為で顔色までは分からない。
だが、言葉を探しているのは分かった。
一瞬、詰まる。

「いわせたいちや」


どうして自分を選んだか。
その理由でも構わない。

「言葉責めかえ」

微かに拗ねたような口ぶりが珍しく、
ただそれを表に出さぬようにしているのがささやかではあるが「可愛げ」だろうか。

「うーん、ライトな羞恥プレイかの」


虐めて部屋に戻られては叶わぬなァと思いながら、辰馬は口を噤んで代わりに手を伸ばした。
長い腕で間合いを測り、引き寄せるのではなく自分から身を寄せる。
陸奥は大人しくそれを待った。

自分の熱が陸奥の身体に反射して跳ね返る。
空調で冷えたのか、肩が随分冷たいようだった。
冷えちゅう、と独り言のように漏らせば、うんと頷いた。


互いに喋るのをやめ、口唇で互いに塞ぐ。

辰馬の右手が肌の上をすべる。
帯の結び目はどこだと手探りで当てる。
ふんわりと結ばれたそれはすぐに解けて、身体に触れられた。
恒温動物の常で、随分と暖かい。

女を抱いて初めに思ったのは、他人の身体と言うのは意外と温かいものなのだと言うことだ。
自分の体温を自分で感じることなどまず無い。
赤の他人と裸で抱き合って、初めてそれを温度として認識できる。
そう初めて思ったのは随分昔。

そして女を抱くたびに、快楽よりもむしろそちらの事実にまず感動する。
肌と肌が、特に女の腹と己の腹がぴたりと触れあったときの、
あの心地よさと穏やかな温度に。

生殖を廃した性交渉の一番の目的、絶頂感を得るよりも、
寧ろ副産物的なあのいかんともしがたいやわらかくあたたかい肌に触れられると言う悦び。
其方のほうが好きだったのだと、陸奥と寝るようになってからそう思い始めた。

僅差で、ということはさておき。



陸奥は口唇を軽く開いている。
舌を受け取りながらさっき着たばかりの湯文字の帯を引っ張った。
陸奥は身体をくっつけるように脚を開き、膝頭の間に割り入れる。
体勢を変えようとしてるのか、触って欲しいのか、それとも挑発なのか。

腕だけを通している寝巻きをそのままに、捲らず手を潜り込ませた。
余り大きくは無い乳房に触れてみる。
先端の尖りは触れた瞬間、強わくなり、弄って欲しいと飢え乞うた。

希を受けて触れてやると陸奥の身体が逃げた。逃げた瞬間体が浮く。
浮いたのをそのまま受け取って上に乗せた。
長い髪が頬にかかる。
女の脚が開かれて、己を跨いだ。


「ちくと確認じゃが」


腰の上に跨る陸奥の内腿を右手で触りながら、すぅと指を上へ上へと滑らせた。
脚の付け根に触れる間際に、もう一度同じところからゆっくりと上へ滑らせる、繰り返し。

「今日は抱かれに来た言おったのぉ」

誠実な左手はさっき触れられなかった乳房を支えた。
ふんわりと潰れぬように、時折指と指との間に収まった尖りを関節で玩ぶ。

「あぁ」

声が震えた。
右手は脚の付け根の更に奥を探ろうかと、柔かな体毛を指の背で撫でてみる。
ゆっくりと毛並みを整えるように、見つけられぬ振りをして。

下から見上げた陸奥のなんと美しいことだろう。
なだらかな曲線が乱れた着物の中にある。
柔らかな皮膚の下の脂肪は、男には無い感触を女に与えたもうた。
そしてそれに触れられる権利を己に与えた。


「ほやったら、何してもエェいうことかぇ」

悪戯な両手はそれぞれのある場所で、それぞれ戯れる。
その度に皮膚の下の筋がびくりと動く。
問いかけた答えを返そうとした陸奥の眼は鋭い。
二つ手で弄られながらも凛としていたが、僅かにその目も湿りを帯びた。
ふしだらな右手の悪戯の所為で。


「好きにしや」


なんと潔く、うつしいのか。
捨て鉢ではなく、その身を総て投げ出すような、
けれどもお前のものになどはなるまいぞと、一人で立つことを知る人間の声。
みだらな神々しさが、手の届くところにある。

「いや」

陸奥は急に身を屈めた。
片手を己の顔の横に着いて、炯々とした眼が焦点の合わぬほど近くに来た。
右手はどこだ。
その時屹立したものに五本指が触れた。
添えるようにしたそこへ、温かくぬめった何かが舐めるように触れた。

奥のほうで擦られたスウィッチ。
熱い粘膜で守られている。
それが欲望を舐る。

まだ、己の指すら触れさせてもらえなかった場所が、
湿り、滴り、腫れ上がっていた。


陸奥は微かに息を漏らした。
二度、三度、揺れる腰。


身体の奥のほうが、焦れて、燻って、跨った脚が辰馬の腰を締め付ける。


























「めちゃくちゃにしとうせ」









WRITE / 2008 .6 .20

初めは拍手のつもりだったんですが…
と言うか拍手でお前これ出す気だったの!?って感じなんですけど。
というか、サイトを裏と表と分けているんですが、正直こう、R18なお話と言うのは書いてないっすね。
いや、なんというか、「字の書き手」として描写的に面白いのは
「始まる前〜寸前」パートと「終わったあと」パートが一番書いてて楽しいと思うんですよ。

R18要素の恐らく一番重要であろう真ん中のパートは


「運動会の綱引きのビデオを延々と実況中継しているようでつまらない」


と思うんですがどうでしょう?
私最中にぺらぺら喋るようなのはあんまり好きじゃないのよ…。
情緒が無いというかね…。
まァでも時々書きたくなるんですけど。




















































































































みつかったか…。
以下はなんか、ちょっと、
「自サイトで初めてエロを上げるのにこんなことしていいのか」
とか思うほどになんかねちねちとしてるので、
まァお好きな方だけどうぞ




あんたも好きねぇ、って言っちゃうよ(笑)












































「やったら自分でしや」

とろりとした脚の付け根で舐られたもどかしい感触に微かな眩暈を感じ、
それでも辰馬は静かに言った。
滑らかな蜜は当たり前のように肌に馴染む。
そうだ、何度も味わった味。

このまま蒲団を剥がして、陸奥を引っ繰り返して、突っ込んでやろうかとも思ったが、
それでは流石に情緒が無い。
陸奥の乳房から手を離し、辰馬は寝台に着いた陸奥の膝に触れた。

「ワシは、見ちゅう」

陸奥は顔を一瞬歪めた。
自慰行為を強要したことは嘗て数度在ったが、応じてくれたことは無かった。
何しろ彼女はあまり色事は得手ではない。
と言うよりも晩熟であったし、男を知ったのもここ数年のこと。
しかも己しか男を知らぬ。


暗い部屋の中で、殆どその姿は見えない。
自分は余り夜目が効かぬ。
だが陸奥は此方がよく見えるのだという。
照れて恥ずかしがる此の女の身体を開かせるのは非常に骨だった。
それをさらに辱めるような願いを、うんと言わせるにはなんと言おうか。

腰を微かに揺すればどこかに当たったのか、それとも当たらぬからむず痒いのか、
また声が漏れた。
寧ろ何も言わず何もせぬほうが得策かも知れぬ。


「ほれ、はようしや」


出来るだけ暢気な声で促した。
手を差し伸ばすように。

陸奥は諦念なのか、それとも待ちきれぬのかそろそろと寝巻の前を開ける。
腰を微かに浮かせて小さな手が、脚の間を弄ろうと宛がわれた。
闇の中に陸奥の指先が消えた。
同時に。


 中指が動いている。


 動く度に、猫が水を飲むような音がしている。


 うんとも、あぁともつかぬなやましき声が喉から漏れる。


慣れぬ感覚なのかそれから逃げるように前に屈む。
長い髪が幕を下ろすように視界を遮った。


「陸奥」


己の胸に着くほどに頭の下がった陸奥の肩を押し上げ、
同時に身を起こした。
今宵初めて対面するように顔を見る。
髪の毛を掻き分けるようにすると駄々子のように首を振ったから、
頬を寄せて姿が見えぬようにして耳朶を舐った。

「それじゃぁワシが見えん」

更なる注文を付けた。

びくりと身体が震えた。
それが耳が殊更に弱い所為なのか、羞恥心なのかは分からぬ。
いや、どちらもか。
流石に断るかと思いながら、胡坐を組むように脚を畳んで陸奥の下から抜け出た。
同時に彼女の身体を横たわらせて脚を軽く立てたまま開かせた。
非常灯、バスルームの灯、それらが陸奥の脚の形を縁取る。

「こがぁな」

焦ったような陸奥は倒された体を起こそうとしたが、
させまいと再び肩を押し戻し寝台へ倒した。



「恥ずかしいことはしとうないがか」



立てた膝に口唇を寄せながらぐいと脚を開いてやる。
陸奥の右手が、その指が埋まる場所を見た。

「ゆうたち、此処は泣きゆう」

埋まる陸奥の指を外からそっと圧してやれば、
快楽の差が大きかったのか膝が反射的に閉じる。
それを見逃さず、身を入れてそれを阻んだ。

「抱かれに来たとゆうたがやないが」

先に手の内をさらしてはいかん、という男女の駆け引きを知らぬのだろうか。
めちゃくちゃにされたいと思うなら、自分からそうなればいい。
しょうないおなごじゃ、辰馬は一言そう漏らした。

「どれ」

そう軽やかな掛け声と供に、
辰馬は非常に無遠慮に陸奥の指が弄ぶさらに奥に左手の一指を挿し込んだ。
同時に陸奥の声が高く上がる。
今宵初めての、嬌声と呼んでもいい声。


煮立った飴蜜の中に手を入れたようだ。
中は非常にぬめって強く絞り上げるのに、
滴る蜜に手伝われて確りと圧し付けなければすぐに押し出されてしまう。
深く射れているのにそれよりも強い圧で押し返す。

「手がお留守じゃ」

陸奥の右手が握り締められたのを確認して、辰馬は愉快そうに笑った。
己の粘液で汚れた手を白くなるほど強く握っている。
早ようしや、手を解きながら再度宛がわせた。

「た、辰、指が」

辰馬は指を中に入れただけで決して動かさぬ。
動かしていないが陸奥の内側の筋が動いている。それを愉しむ。

「指のぉ、指がどがぁした」

微動だにさせない。
ただ入っているだけ。
陸奥の腰が動く。
もっと奥に欲しいと、奥に挿し込めと、奥を突けというように。
同時に先ほどまで彼女が弄ぶ指はひとつだったのに、
いまは掻き分けるように二つ指で擦っている。
膝が閉じられなくてむず痒いのだ。
長い髪がみだらにシーツの上でうごめいている。
喉が動いて声が漏れ、乳房の先端が触れられぬ所為で焦れ、もがき、のた打つ。

揺れている腰、指で捏ねる速さ、それから伝わる寝台の振動。


「ワシ、どがぁしたらえぇがか」

「ほがなこと」


わかっちゅう癖にと恨めしく言う。
浅く息を吐くのは理性が揺らいでいる証。
普段の怜悧で明晰な陸奥からは想像も出来ない。
多分、世界で此の女の此の姿を知っているのは己一人なのだ。
陸奥の声が色身を帯びる。
あ、嗚呼。真夜中に啼く鳥のように。
同時に一層、締め付けられた指。

あぁ、まだいかん。

するりと大人しくしていた指を抜き、陸奥が希を乞うその手を剥がす。
そのまま縫い止める様に指を絡め、己が身を被せた。
何故と抗う。
答えず口唇を塞いだ。

呼吸のし過ぎだ、口唇が乾いている。
湿らせるように何度もすう。
初めは嫌がったそぶりを見せたがそのうち脚を腰に絡めた。
どこで覚えた。

縫いとめていた手を離し、寝返りを打つ。
さっきまで見向きもしない振りを努めた身体に触れる。
首に鼻先を入れる。匂いをかぎながら髪の生え際を甘く噛んだ。
左手は誠実にも先ほど別れた乳房を求めた。
自分の大きな掌に収まる。
指先で尖りを引っかけばまた腰を振り、辰馬の脚に擦り付けた。
陸奥の汚れた指を口に含み、ふやけた指先の粘液を舌で舐めとる。
見知った覚えのある味だとしゃぶりながら、指の股まで唾液が垂れた。

陸奥は声を上げている。
噛み殺そうとしながら、蹂躙される身体の下で。
辰馬の肩に口唇を押し当てながら、時には噛み痕を付け。
自由にならぬ悦楽の浪を乞いながら。

「のォ、もぅ、挿れとうせ」

荒い呼吸の中で耳元で懇願された。
先ほど自分で玩んでいた場所が熱いのか。
今日は背中も舐めてなければ余り触れてもいない。

積極的じゃの、と微かに笑った。
陸奥の呼吸を静めてやろうと一旦動きを止めた。

「おんしが、焦らすきに」

陸奥の背を抱いた手がじっとりと湿る。
知らぬ間に上せた様だ。
腕に乗った陸奥の頭を下ろし、ヘッドボードの後ろに隠したサックに腕を伸ばした。
駄菓子のように連なるそれのひとつを噛み切り、陸奥と己の間にあるものに被せる。
焦れているのはお互い様だと、愚かな主を笑うように。

「来や」

辰馬は仰向けになって陸奥を呼んだ。
大人しく導かれるように辰馬の身体を跨いだ陸奥は、どこかぼんやりとしていて、
乱れた前髪を掻きあげた。

辰馬は右手の人差し指と中指を自分の唾液で濡らす。
跨いだ陸奥の脚と脚の間、確かめるように触れおもわず笑みを零した。
陸奥は何故辰馬が笑ったのか理由が分かったようで、
制御できぬ欲の在り処を恥じ入り顔を背けた。

「今日は」

「馴らさんでも、えぇか」

水の厚い膜が張ったように、どこからかが生身か分からぬほどに蕩けて、
滑るように指が潜り込まんばかりだった。
いつもは指で押し拡げて何度も奥へと突き立ててやらねば、
凍土の春のようには温まぬというのに。
今日はどうしたことか。
彼女が先ほどまで己が指がふやけるほどに
陸奥は奥歯をかちりと鳴らしたが、頷いて自分の蕩けた沸点近い坩堝の口を自ら拡げた。

短く息を吐きながら、
腰を沈めた。

初め引っ掛かりがあるのか多少の抵抗がある。その後は本当にするりと入る。
蝸牛の這い跡、いや言葉が悪いか。
百合が幾千ほども咲き乱れ、その床に滴る蜜の如く。
陸奥の中は驚くほどに鎔けていた。
不器用に繰り返される抜差しは難しいのか、不調な蓄音機のようにところどころ音が飛ぶ。
けれども長い髪を振り乱しながら、うんと可愛い鳴声を上げる。
しかしながらこれではなかなかよくはならぬし此方も不都合だ。
そう思った瞬間、差込がずるりと抜けてそのまま陸奥の体重が乗った、しかも逆方向へ力が掛かる。
痛いと言葉にならず、息を呑むようにあえげば、すまんと真顔で謝られた。

事故である。
少々痛みを我慢しながら、指南しようかと半身を起こした。
こんなことで、互いの熱が逃げては勿体無い。
くちづけを施しながら陸奥を引き寄せ、もう一度身体を繋ぐ。
有無を言わせぬようにしっかりと舌を絡めた。
肩に手を掛け陸奥の体重をそこへと集中させる。
先ほどよりも煮え立ったそこは最早抵抗すらしない。
耳を甘く噛みながら、あんのぅと悪戯染みたことを思いつく。

「膝を着いて、腰を前後に振ってみとうせ」

えぇと言う怪訝な顔でしかも冗談は止せといわんばかりであった。
その顔がたまらず思わず更なる意地悪がしたくなり腰を上へと動かしてやる。
思いのほか快楽が強かったのか気丈にも騎乗していた馬から落馬しそうになり、思わず胸で受け止める。
そのまま抱きとめて辰馬は寝転んだ。

「何事も経験ぞ」

愉快だ。
陸奥の瞳は潤んで、その口からは悦楽に喘ぐ声と罵声が同時に出る。
普段から何事もやってみリャァわかると実践派の彼女らしくなく、
そんなところ分からんちやというから、その両手をとって身体を起こした。

「ほやき探すがやき」

此の度は流石に勝手が分からぬのか、本当にゆっくりと彼女が動いた。
揺すられる腰、上下、左右、それから前後。
先にこっちが飛びそうだと淡くい光とその影の中に居る陸奥を見た。
顔が赤い。
普段は突っぱねる手を伸ばす。
受け取りながら身体ごと貰う。
口唇を重ねて舌を絡めて乳房を捏ねた。陸奥の腰が浮く。
その瞬間に組み敷いた。もうこっちが達してしまう。
悪いのォと脚を大きく開かせ更に奥へと貫いた。


「あ」


陸奥の内側がいっそう露濡れて沸騰し、更に引き絞られる。


「た」





声にならぬ声が漏れる。
引き攣れる声帯。
背中を引っ掻く指。
掛かる内圧。


「おんしゃァ、もう達きそうながか」


陸奥は首を振り荒い呼吸だけで返事をした。


深く圧す度に蠕動する内壁、
熔けて溢れ出した蜜壷の中身、
お前の望んだとおりになったではないか。

お前は今めちゃくちゃだ。

普段の冷静な判断もつかぬだろう。
快楽に喘ぐ。
脚をそんなに開いて自分の指で慰め、
腰を振って深く捻じ込んで、
そしてまだ足らないと擦り付けて。

口汚い言葉も、罵りさえ口には出せない。
ただ阿呆のように自分の名を呼んだ、喉の奥で。

堪らぬ。


もういかんか、と辰馬は陸奥に問うた。
無駄であった。
背中に回された腕に力が篭る。
たつま、という稚児のようなつたない発音で名前を呼んだ。

ならええ、達っとおせ。

陸奥の頭を左手で抱え、右腕は脚を更に開かせ抱え上げた。
最後に一層深く篭めてやる。
そのほんの一瞬あと、陸奥の身体が戦慄く。
同時に辰馬が捻じ込んだ楔も搾られる。
極限まで薄められた苦痛に耐え、
息を吸わぬように辰馬は数を数える、いち、にィ、さん。

短い痙攣の後、陸奥は漸く一つ深い息を吐けた。
呼吸を戻す陸奥にわざと口づけた。

「上手く達けるようになったがか、うれしいぜよ」


羞恥の来る前、抗いがたい悦楽の余韻に満ちたくちづけは普段よりも情熱的で、
未だに内側の体温を共有しあう身体に更に火を点ける。
阿呆と言いたいのだろうが声にはならぬ。
いまさら。
こんな格好のまま睨まれたって怖くは無い。

悦かったかぇと尋ねたら、助平と声が小さくなってそっぽを向いた。。
つまりは肯定と言うことか。それこそ今更だ。

普段と掛け離れたそう言う子供っぽい仕草は此の女が遠い昔に置いて来たものだ。
最近まで自分も目にすることが無かった。
辰馬はそれをとても愛おしいと思う。
陸奥は何故か笑っている辰馬に怪訝な顔をした。
何を笑いゆうか、声の温度が戻る。
日常に戻ろうとする彼女に対してあともう少しと猶予を貰う。

「あ」

まだ繋がったそこを揺らした。
脚が跳ねた、声に湿り気を佩びた。
熱がだんだんと上昇する。
辰馬は確信めいた悪役面をして陸奥の目を覗きこむ。

「すまんが、ワシが達くのをまっとおせ」

一度覚えた悦楽。
甘美な苦痛。
易々と忘れることの出来ぬ安らぎの対極。
焦がれ求め千切れるように心が欲す。

陸奥が腕を伸ばしくちづけを奪った。
薄い舌を差し出し、絡まる、絡める。
同時に腰を揺らして、僅かに硬度を失いかけた己の内側に未だ嵌められた枷を絞った。
声を嬌げたのは辰馬の方であった。
口付けを離れた間際の陸奥の目は、挑発的で、支配者の欲望に似ていた。


「あしが達かせちゃるきに」


悪ィ面じゃぁと辰馬は嘯く。
陸奥は乾いた口唇を舐めた。

じゃぁ連れてってくれ。
こんな野蛮な世界から、お前が手を引いて。

end


2008.9.14
ヅラ松のエロを書かずに坂陸奥全開エロです

だって、坂陸奥サイトだもん!
しょっぱなのエロは坂陸奥じゃないと!
と思いましてこんな…。

妄想上では此の二人は関係を持ってかなり時間が経っていると思います。
辰馬35、陸奥27とか。
初めの夜から3年以上は経っていると…。
35くらいの辰馬はねちっこいと思います。
なんか、余裕があって焦らないかんじ…。
焦らないと言うよりも、回数をこなせないので技術の向上で補うのかもしれません。

きっと初めはがっついてたと思うなァ(笑)
それはまた別のお話です。

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