さあ、いざ行かん

鉄壁の要塞へ

不落の要塞 その名はナバロン

意気揚々と

さぁ、行かん







ナ  バ  ロ  ン


「医務室へは行ったかえ」

顔を合わせれば小言である。
煩いのォと言いながら辰馬は即座に行ったちやと応えた。


先週の事である。



眼がかゆい、坂本は艦の社長室にある自分のデスクに座ってごしごしと目を擦った。
子供がする仕草のように、執拗に掻いた。
何をやっちゅうんなが、陸奥は坂本のサインを貰ったばかりの書類の束を揃えながらその様子を窺う。

目が痛いときは擦ってはならぬというのが定石である。

「なぁん眩しくて目が開けられんちや」

書類の束を置き、擦ってはいかんと坂本の髪を掴んで顔を上に向けさせた。
優しさの欠片もないのうおんし、坂本は不満を口にしたが陸奥は気にせず両目を覗き込む。
ごく近くまで陸奥の顔が接近する。

普段ならキスする前のようじゃのうなどと冗談の一つでも言うのだが、
その輪郭すらぼやけるようでは軽口も上手く滑らぬ。

ううんと陸奥は微かに眉間に皺を寄せた。
目の毛細血管が浮き出て充血している。

「真っ赤になっちゅうぞ、早う先生んとこ行きや」

そうとだけ言うとぱっと手を話して坂本の額をぺちんと叩いた。

「えぇぇぇぇ、医者は嫌やか」

やぁかましいと社長室のドアを開けて陸奥は追い立てる。
手の掛かると思いながら犬猫を追い払うようにオフィスから蹴り出した。





艦には船医が一人居る。

腕はいいが至極口が悪いのが売りの医者である。
五十絡みの親爺だが女子にはセクハラ医者だと罵られ、
男性諸氏には女医がよかったと不満の種にされる。
つまりどちらからも歓迎されていない。

女性からの不満は男女比の関係で致し方ないが、しかし女医では一つ問題が浮上する。
女医など採用してみろ、船員の屈強な野郎共がこぞって擦り傷程度で、
先生ぇと猫なで声を出して長蛇の列が出来るというもの。

流石に男女二人雇うことはせぬ。

じゃぁ看護婦さん希望!という声もあったが助手には若い男を一人つけてある。
この面での改善の余地はない。

しかしながら現実問題、船医募集の広告を打って来たのが、
アル中寸前で病院をクビになったのと研修医と件の医者三人だけであった。
選ぶ余地などなかったのが現状である。無論女医は一人として応募してこなかった。

兎も角、女性諸氏からの苦情には他の面での充実を図ることにして、
この医者に艦内の健康・衛星面での全幅の信頼を置く事にしている。

医務室は居住エリアの傍であり、坂本は陸奥に云われて仕方がなく医務室の扉を叩いた。
因みに件の看護婦さん希望の声を真っ先に上げたのは艦長である自分である。
しかしそれは完全に棄却された。議事録にすら残っていないだろう。

無論陸奥によって棄却抹消されたのである。

あァせめて、せめて優しい看護婦さんの手でお口をアーンしてくださいね、
なんて云われりゃァ行く気も起きるんじゃがのう。

不貞腐れながら坂本は思わず口に出した。
そうこうしている内に医務室のドアの前。溜息を一つ、ノックを二回。
はいんなァ、と野太い男の声がして、消毒液臭い部屋の扉を潜った。



それが先週の話。
確かあの日の晩にはカレーが出たから地球の暦で言えば金曜日である。


「結果は?」
「今日」

坂本は執務室のリクライニングチェアで伸びをしながらカレンダに目を眇めた。
そういえば昨日食堂で会った先生は妙に厳しい顔をしていた。
明日、仕事が引けてから来んさいとそれ以上は何も言わず、
空の膳を食器返却口に置いて、するりとごった返す出口へ向かった。
何も無ければあそこで何か言う筈。
なんともなくうまくない話が待ち構えているようで、
辰馬は無意識に頭を掻き、頃合かと席を立つ。


「陸奥」



ひょいと上着を指に引っ掛け、部屋から出ようとドアの前に立ち、
辰馬は振り返らず、万が一、と前置いた。

「ワシになんかあったら、そん時は頼むきに」

今から死にに行くわけでもあるまいし。



「お脳のほうに付ける薬は無いきに、あしにはどうしようもないがで」
「茶化すな、真ってな話ぜよ」

妙に真剣な顔で視線を投げる。
それを一笑に付すのは少々気が引け、さっさと行きやとだけ言った。






     *






「艦長よ」

一通りの問診と検査の結果を目の前に置いたあと、医者は妙に神妙な顔をして坂本に向き直った。
前が禿げ上がり髪の毛には白いものが混じっている。
恰幅のいい体格に、鬼瓦のような顔をした厳つい面構え。
丸いレンズの老眼鏡が多少その印象を和らげる。
そんな親爺が更に渋面で以って坂本を正面から見据えた。


「医者には守秘義務ゆうんがあるけぇ正直に話しや」


既に人払いは済んでいるようで、ペンで軽く机の上を叩いた。
随分神妙な始まりである。
しかし坂本は、はあと間抜けな声でそれに応える。


「特定の恋人は」

 「おらん」

「此の艦の女に手を出したか」

 「一度も」

「じゃぁ、男は」

 「ワシほがぁな高尚な趣味はもっちょらん」



坂本は怪訝そうな顔で医者を見る。
質問の意図は微妙に理解できず首を傾げ、
しかし医者はふうむと何事かカルテとは違う別紙に何事かを書き込んだ。


「じゃぁ特定の相手との性交渉は」


はぁ、と素っ頓狂な声をあげ、そんな真面目に質問されても困るのうと坂本は頭を掻いたが、
えぇけえ答えんさいという訛りのある太い声で怒鳴られれば素直に答えるしかない。


が。



素直に答えられるほど清廉潔白な身持ちではないのが現状で、
いやぁそりゃぁと誤魔化した。

「不特定多数か」

ぴしゃりと言い当てられ、誤魔化しついでにあっはっはと笑った。
その様子で了解したのか大馬鹿者がと唸るような溜息を漏らす。
肯定とみなしたのだろう。


「当てちゃろう」


指先でペンを弄び、とんと軽い音を立てた。

「あんたの事だから初会にウラへ行って三会目でなじみ、なんてこたぁしねぇんだろうよ。
 気位のお高い花魁様より普通の女の方が好きなんじゃろうが」

そりゃァ随分古い喩えを出してきたものである。
先生の若かりし現役時代の麗しき色街の情景。
今やそんなものどこにあるのか。
妓楼は無いことはないが、もう滅多にお目に掛からぬ。

「どうせどこぞの岡場所か、鉄砲女郎ってぇところが関の山って所じゃろ」

違うか、そうペンの尻で円を描き目の前で狙いをつけた。
的を射ている。
というよりも見てきたかのようだ。

形は変われど花街の一等地にある「そういう」場所は値段も張るがサービスの格差も大きい。
アレは遊びに行くところであって処理する為の場所ではない。
坂本自体はそういう玄人衆よりも、素人に毛がはえたくらいの娘達の居る場所の方が好きだった。
玄人にはなりきれぬ娘達の仕草や遣り様は、不親切と言ってもいい程であったりするのだが、
そのたどたどしさをも愛せるのだと思わず力説した。

それを聞くなり、思わず医師という職業には相応しくない仕草、即ち舌打ちをした。
やれやれと少なめな頭髪を掻く。いや寧ろ地肌か。


「艦長、はっきり言うがあんたのこりゃァただの結膜炎なんかじゃァないけぇね」


どこで貰ってきたんか知らんけど、やれやれとさらに頭を掻く。
医者は匙を、いやペンを投げた。


「れっきとしたそっちの病気じゃけん」


坂本は一瞬ぽかんとして投げられたペンの行き先を見た。
ころころと転がり、厳島神社と書かれた明らかにお土産物らしいペーパーウェイトに当たって止まる。
何度か瞬きをして、首を傾げもう一度医者を見た。
医者は片眉を上げて眉間に皺を作りちらりと坂本の「そっち」に一瞥を呉れたあと、
最後の一撃とばかりに言った。


「アンタのそのだらしないソイツが引き起こしとるんよ」

そっちってどちらの方ですろー、
なんて言えるほど悠長に構えていられなかった。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ、こん歳で病気持ちィィィィィィ」

うるせぇよ、鼓膜を劈く大げさな声。
まだ二十代半ば、百戦錬磨と嘯いても病気持ちではかなわない。
因みにそりゃァ第二段階の始まりじゃけぇの、ともう一発。

坂本は完全に硬直している。

こりゃァ最後の一発は要らなかったかねと老齢の医者は思い、
しかしながらこれの手綱を取るあの怜悧な顔を持つかの女の顔を思い浮かべ、
止めを刺した方がええかと尋ねたい気持ちに駆られた。

 きっと刺せと言うに違いない。

「眼の方は点眼と薬で一月もすりゃァ治るがよ。
 そのだらしねぇ性分何とかせにゃあ、いつか他の病気を貰ってくるけぇの」

他のって、声になっていない。
死に掛けた魚のように口をぱくぱくとさせ、顔からはすぅと血の気が引いている。
青い顔になってらぁと少々気の毒になり、同じ業を持つ男としての情を掛けるべきだろうかとも思う。


「他の病気ゆうて色々あるがの、一生完治せん奴もあるし、
 あんまり酷いようなら使い物にならんようになるぞ」


事実である。
軽くて失明、脳に転移すれば健忘症に人格障害だって起こる。
初犯、じゃなかった初期症状だからまだしもコレを野放しにすることは出来ない。

「あと三年で男を辞めるか、八十年男を全うするかどっちがええんじゃ」

サァ止めは刺した。
後はそっちで何とかして貰いてぇもんだ。

「いやどっちいうても」


坂本は暫く押し黙り首を傾げた。




「しかし先生、ワシ言うてもセイフティセックスなんですけど」


しれとそう答えた。風俗行って何がセイフティだと思わぬことも無かったが、
あの手の店は風営法で本番は禁じられている。
それに通常避妊具の使用などが義務付けられている筈だ。

まぁ中にはそれを店側が強要、あるいは従事する者が指名を取る為、
自分の快楽の為と様々理由はあれど影では風営法など何の役にも立っていないことも多いと聞く。
無論そのような店に居合わせた場合、或い従事してもらった側従事した側どちらも御用となるのは当然である。
実際の話、この男が具体的にどんな所で遊んでいるのかは知らないがその言を信じるならば、
まぁ「セイフティ」と言えないことも無くはないとは思う。

「その点は褒めてもえぇが、他んところで粘膜感染する場合もあるけえの。
 まぁなんぞマニアックなプレイでもしたんじゃないんか」

マ、マニアックって、具体的になんだろうと坂本は考える。
妄想した事柄が余りに卑猥すぎて酒も入っていないのに口に出すのは流石に憚られた。

「まぁ予防法はコンドームの使用と、不特定多数との性交の禁止」

船医はカルテにさらさらと何事か書き付け、気の毒そうに言った。





「禁欲しなよ、艦長さん」




もう言ったとて無駄なような気もしなくも無いが、流石にあと二、三年でそっちを引退させるには気の毒である。
仙人にはきっと成れぬであろう自分の半分ほどの年の若造を気の毒げにわらう。

「いやぁぁぁぁそりゃァ無理な相談ちや」

坂本は思わず仰け反るほど叫ぶ。
船医は負けずに、ほいじゃァソイツがもげても知らんぞ、とぴしゃり。

そう言われ、もげる、か、それは困る。
それなくしては生活に困るどころか、人生の楽しみの半分、
いや四分の三か。
兎も角そういう愉しみを根こそぎ奪われているようなものである。

流石に食って掛かった。

「ゆうたち先生、わしゴムは使っちゃぁ無い」
「ほれ見い、そこじゃ」

呆れたように大袈裟なため息でひと時の快楽を探求したバチじゃなと肩を揺らした。


「いや」

坂本はもう一言続ける。
なにがいや、なんじゃと医師が向き直る瞬間にもう一言。


「ワシEDかもしれんちや」








今度は驚くのは船医の方だった。

「お前幾つだった」

そう聞かれたので正直に答えれば、
二十代、ゆうのはまぁ、難しいときじゃけなぁ、となにか得心したようなそれで居て複雑な顔をした。

「いつから」
「いやぁ、いつからゆうたち正確にはわからんのじゃが」

坂本はあっけらかんと、そしていつもどおりの暢気な顔で頭を掻く。


「此処一、二年、いや二、三年かのう」


結構な重症ではないだろうか。
その期間、その、通常の状態から微動だにしていないと言うのはいっそもうそれ自体がストレスになるとも考えられる。
原因は心因性のことが殆どだそうだが何しろ専門でないので分からない。
確かに星間商社の長ともなればそのストレスは多大なものになろうが、
しかしながら坂本、いや、此の目の前に座る艦長はストレスとはまるで無縁の存在である。
いやそう感じさせないだけかもしれないが。

しかしながら、と思わず思考を切り替える。
ならばという疑問がのこる。


「じゃぁ何だ、おまぇ女抱きにいってんじゃねぇのか」


度々艦を抜け出して、一体何をしにいっているのか。
いや、きっとナニをしに行っているに違いないのだが、ソイツが役に立たねば楽しめるものも楽しめまい。
いや或いは妙な性癖の持ち主でと考え、まさかなと苦笑い。

「いや女抱きにはいっちゅうが、正確には抱かれんのじゃ」

子供のように無邪気に言いながらにこりと笑った。
この艦長は愛嬌だけはあるのだが、そこは愛嬌を振りまくべきところではないときにも笑う。
空気が読めていない、自分のことなのに。

「意味がわからねぇよ」

男たる者そっちの自信は自分自身の自信にも繋がる。
女には分からぬだろうが、歳を取ってもそれは顕著に現れる。
女性方面で現役の者は妙に脂ぎっているが、
若くても性欲が衰えた者は往々にして覇気がなく老けて見えるものだ。

「じゃぁなにしよんじゃ」
「いや突っ込まんだけ」

つまり素っ裸でするプロレスみたいなものかと聞いたら、上手いと手を叩く。
上手いもクソもあるかと頭を傾げる。

「女の子昇天せておわりっちゃ」

ソイツでか、と坂本の右手を見た。
坂本は思わず顔の横でVサインを作った。
アホタレ、うっかりその暢気な笑い方で毒気を抜かれた。

やきど、と物憂い顔で坂本は腕を組んでため息をついた。

「メガネっ娘も猫耳もロリコンも年増も人妻も熟女も太目も痩せてるのも痛くするのもされるのも無理じゃった」

どんな所でそれを試したのはか敢えて聞かなかった。
さすがに男はまだ試しとらんがのう、けらけらと笑いながらあっけらかんと話す。
好奇心のままにそちら側へ足を踏み入れぬように祈る。

「なんだお前さんリハビリで遊んどったんか」

ため息交じりに尋ねればまぁ趣味と実益を兼ねて、と空っとぼけた。
実益ってよ、とため息交じりに今度はその症状に尋ねた。
まるっきり機能しないのかと思えばそうではないらしい。

「いや先生の言う言葉通りにいえば性的興奮はするんじゃが、
いざそいつを発散させようと思うたちいかん」

つまり、いざというときに役に立たぬということか。
それは水の出ない水道と一緒、蛇口が付いているだけだ。
流石に同じ男としてそこまでは言わなかったが、事実である。

「そりゃぁ正確にはEDとはちっと違うな。全くそうならん状態のことをそういうんだよ」

しかしながら原因の一つも分からねば対処の仕様も無い。
だがどういうわけか坂本は深刻そうな顔一つしない。
それが不思議である。
まぁ少々頭が足らぬ、いや常に頭にちょうちょが飛んでいるような人物ではある。
生来の楽天家と言えば聞こえはいいが、この暢気さは一体なんだ。

「じゃぁなんで女遊びしとるんじゃ」

役には立たぬ蛇口を抱えて夜な夜なアチラの花から此方の花へ、阿仁さん此方、手の鳴る方へ。
逆にストレスが溜まるような気もしなくも無い。いや溜まるだろう、ストレスもアレも。

「人肌ゆうのんが欲しいゆうのんがあるろー、先生はないんか、訳もなく女抱きたくなる日ゆうのは」

あるけどよ、と思わず男の本音が出た。
しかし坂本のそれは言い訳にならぬし、原因の一つも見えぬ。
それに、と付け加えた。

「じゃけどワシが抱きたいんは死んだ母ちゃんだけじゃ」

あァほうかえ、ごちそうさん、坂本は座った椅子をくるりと回した。
悪びれる様子もなく、あぁえぇのうと笑った。
まさか回る椅子の回転にいいと言ったのではないだろうから、先ほどの死んだ母ちゃん発言にえぇのうが掛かるのか。
ラヴじゃの、と一回転して戻ったときに慈しむような声が言う。
その随分優しい声と目におやと違和感を感じた。

「お前はおらんのか、そういう女は」


椅子を回して遊ぶのをやめてぴたりと止まる。
坂本は一瞬サングラスの奥の眼を細めた。
数秒の間を置いて、口角が上がる。


「おる」


ちょっとぞっとする声での肯定。
それは普段耳にしない類の坂本の声だった。
今脳裏にその唯一の抱きたい女の事がふらりと過ぎったのだろう。
声に色気が出た。
普段は能天気で暢気でふらりふらりと誰にでも愛嬌を見せる姿はひょっとしたら見せかけで、
此方が坂本辰馬の本質ではないのかと思わせるような、

そう言う類の声だった。

ならば、と畳み掛ける。

「いつまでもふらふら腰も座らんと遊ぶな言うとるだけじゃろう。
お前のは例えるなら一人でバッティングセンターいっとるだけじゃ。
愛の無いセックスなんぞ幾らやってもなぁんもならんじゃろうが」

いや、あれはあれでスポーツみたいなもんで、と反論した。
どんなスポーツだ。
そん時だけじゃろ、と吐き捨てる。


やけど先生、坂本が食って掛かる。

「男ゆう生き物は自分の体内では癒し物質ゆうのが作れん身体らしいき。
ほやき他の者からもらうしかないちや」
「なんだよ、それが女だってぇ言いたいんか」

ほうじゃとどこから持ち出してきた学説だか迷信だかなんだかしらねぇがクソっ食らえだ。
それで病気を貰ってきて納得してんのかと聞いてやりたい。

「かばちはええ」

バンと机を拳で叩く。

「えぇかお前のその肩にゃァ此の艦の人間とその家族がのしかかっとるゆうことを忘れなよ。
 遊び歩くんは勝手じゃけどの、万一のことを考えや」

あぁまたその話かとぶすっ垂れた顔。
まるで親父の説教を聞くドラ息子。
やれやれ、ガキじゃぁあるまいに。


くだくだと此の病についての事と進行具合、更にはその経緯について説教を垂れると、
はぁごもっとも、その通り、と頭を立てるばかりである。
頭は垂れるが反省している様子は無い。
いい加減埒が明かず伝家の宝刀を抜くことにした。


「いい加減にせぇや、陸奥が口を酸っぱくして言いよるんじゃろうが」


その名が出たとき坂本はびくりとしたがハイとそのとき一瞬だけ背筋が伸びた。
あぁもう既に言われた言葉のようだ。


どうにも坂本もあの女副官にゃ滅法弱いらしい。
強い者はついぞ見たことも無いが、剃刀みたいに切れる快援隊きっての参謀、坂本の懐刀。

人は坂本に惹かれ集まり、此の男が遣る仕事を円滑に回す為に采配を振るうのが陸奥である。

此の男がどんな無茶な仕事を持って帰ってきてもそのあと何とか形にするのはあの女で、
実務総てを統括している彼女に坂本は頭が上がらぬ。

だが陸奥も坂本に惹かれて集まった一人である事は変わらぬ。
いつの頃から一緒なのか知るべくも無いが、
坂本辰馬という男が放つ強い光の後ろに出来る濃い影の中で、
一人奮迅するあの娘が、心底坂本辰馬に男惚れしているのは余り知られてはいない。

注意深く見ねば分からぬであろう。
新人隊士などどうしてあんなに切れ者の彼女があの馬鹿社長についているんだろうと噂する。


頭である坂本が押し付けた酷い仕事を冷徹な言葉で一蹴し、めたくそに貶したあと、周りがまぁまぁ陸奥さんと宥める。
一人が怒り出すと周りのものは逆に出るに出られなくなり、均衡を取ろうとするのが集団である。
だがその一連の行動は逆に酷い仕事を取ってきた坂本へ皆の同情が詰まるように仕向けている節がある。
憎まれ役を買って出ているとしか思えぬ。

多少なりともワンマンで統括している力が突出しているきらいが無いではないが、
それでも坂本が陸奥を遠ざける様子はない。
寧ろ坂本は陸奥に近寄り過ぎて嫌がられている節がある。
そう思ったとき、おや一体なんだこの二人はとふと考えた。

陸奥の名が出たとき確かに坂本はびくりとした。
ただそれは嫌な奴の名を出したというのではなく、ばつの悪いような。
まさかと思うがと思わずその仮説に首を振る。
いや無い、いや無い。それはなかろう。



いつから一緒に居るのか知らない。
少なくとも自分が此の船の専任として乗船したときにすでにかの女は坂本の後ろに居た。
肯定ばかりを得意とする此の男の後ろ、冷徹な目で物の真贋を射抜く鷹の目のように。

まさか此の男が、そんな長い間。
だが万が一そうならと説教も暖簾に腕押しの此の男の、
これ見よがしな行動にもなんとも無く合点が行かぬでは無い。



些細な疑問はとりあえず其方退けにして、兎も角と話を続ける。

「その抱きたい女ゆうのんがホンマに居るならそいつを口説き落とせよ。愛のある「ほう」はえぇぞ」

これは医者としての言葉ではなく、一人の男の先輩として言った。
一説に寄れば快楽という物は脳から分泌されるある種の麻薬で、
訓練次第では一瞬ではなく継続してそれを分泌できるようになることも可能だという。
だがしかし、それはお互い信頼しあった間柄でかなりの期間を要するものであるから、
一夜限りの恋人を契っては投げと取っ替え引っ替えしているようなものには到底訪れぬ領域という。

大体にしてあぁいうものは数をこなすより一人の相手とじっくり取り組むものである。
巷ではこなした数字を競うらしいが、あんなもの自分の財布の中身を自慢するより下品甚だしい。


「そりゃァ、ワシもそうしたいのは山々やきど、ぜんぜん靡く素振も見せん上にどつき廻される。
下ネタ言うても平気で打ち返してくるくせに、その手のことにはお堅くてのう」

相手を医者ではなくまるでセラピストに話すかのように坂本は不満を口にした。
黙っとりゃぁかわいらし顔もするのと口を尖らせながら下駄履きの足をぶらぶらとさせる。

「だから玄人衆ばっかりで遊んでるってぇわけか。本気じゃァありません、ゆうてか」

反射的にぺろりと舌を出した。
誤魔化したつもりだろうがまったく見当違いである。
アホか、と医師は言い一笑に付す。

「変なところで操立てしてんじゃねぇよ」

まったく見当違いも甚だしい。
確かに、男には女がどうしても必要な年齢という時期はある。
だがEDはまぁともかくとして、恋人はいないといいながら性欲だけの処理ですと謂わんばかりに遊び歩く。
抱きたい女というのが一体『誰』なのかは、その真は知る術もない。
しかし、先ほどの仮説が正しければ構ってほしいのが見えみえである。



「誰のため、とはしらねぇけどよ」


じろりと一瞥して、禿頭をつるりと撫でた。


「お前のその不誠実な誠実さが嫌われる原因というのは判らんのか」


仮にあの仮説が正しいとしておこう。
この状態を常に把握しているのならば惚れられたほうも厄介である。
なにしろ相手はこれは浮気ではないと信じているのであるから、手に負えぬ。
自分がもしその女なら、惚れるどころか世界中の男の誰よりも軽蔑してしまうことだろう。

「しかし先生、いざ本命とそうなったとき駄目でしたじゃぁ男子の本懐を遂げずに死ぬようなもんろー」

どういう理屈だそれは。
確かに先に思った男子の自信の出所問題はそこで理屈が付かないような気もしなくも無い。
こういうのを屁理屈というのだ。

「いやぁ、それほどのことじゃぁ、」

その屁理屈を引っ込めろ言ってやろうかと思ったが、
医師としての感情より男としての感情が先に立たのはご愛嬌。

「…いや、あるな」




しばし無言の後、お互いため息を付いた。
此のため息は恐らくやれやれこれからどうしようという類のものであったに違いない。
少なくとも医師はそう思った。
女を抱きたいのと本命を抱きたいというのは別の話、か。
だがそこの違いがきっと女には分からぬだろう。
少なくとも、あのおぼこい副官には。
あぁ言う手合いは力づくで無理矢理に陥落させるものではない。
あれといっしょだ。
天岩戸の前で大宴会、裸踊りでもするほか無いのである。

「誠意というのを見せたらどうな」

伝導性の悪い厄介な代物。
それが何であるかなどとっくに分かっているだろうに。
そして、惜しむらくはすでに。


あ、うん、等と気の無い返事をした目の前の男を見つめた。
厄介なのはどちらも同じだ。
多分自分ではそれに気が付いてないのが更に面倒なことだ。
やれやれと、もひとつため息をつきながら、カルテにさらさらと書き付けた。

年寄りの説教が出たなと少々反省しながらも、心配半分、すでに自分が失った時間のやっかみ半分ってところだ。
若人の内はあぁでも無いこうでも無いと回り道したほうがいいのだ。
最短距離を行くものが何もかもを知っているわけじゃない。


「あと、そっちの方は、えぇんか」

老眼鏡を押し上げながらボールペンで件の元凶を指した。

「ワシは専門じゃぁ無いが紹介状書いてやってもえぇが」

江戸に行けば専門医は掃いて捨てるほど居る筈だ。
機能的な問題から心因性の問題、或いは投薬等の専門的な相談にも乗ってもらえるやも知れぬ。
なにぶん自分の専門は外科であるから、相当にデリケートなそっちの問題の処方箋は出せぬ。
坂本はうーんと一瞬考えて、にこりと笑って言った。

「いやそれはこないだ克服しそうになったちや」
「どうやって!」


思わず椅子から跳ね立ち、身を乗り出してしまっていた。
先生、何喰いつきよんじゃ、とぽかんとした表情で坂本は老医師を見つめた。
いや、万一わしがそうなった時のために、等とごにょごにょ誤魔化したが失態である。
まぁえいちやと坂本は乗り出した老医師に耳打ちするように小声でささやく。

「こないだ、まぁアレの足首見たとき」

あァ、あっ足首フェチィとどもりながらキャスタ付きの椅子が後ろ辞去った。
そうか、そう言う性癖かと目を泳がせる。
わしらの若いときににゃぁ無かったのぉと納得したんだか納得しきれぬのかの様子でうなづいた。
いや、そういうわけじゃぁ無いちや、
坂本は病気持ちの更に妙な性癖持ちだと決め付けられる前に慌てて言葉を繋ぐ。


「普段隠しゆうのにそんときちらと見えてうっかり襲いそうに」

あっはっはとやけに陽気に笑いながらチラリズムやきとにこにこしている。
いや確かに見えそうで見えないものに惹かれることはあるが、しかし。
問題はその後である。

「で、上手くいったんか」

何故か老医師は小声になり身を乗り出す。
感染云々より其方のほうが気になるのは男の性か。


「いや、無理じゃった、どつきまわされた」


覇気無く自嘲を込めて力なく笑う。
そうかと同情めいたため息で負傷した兵士の如く肩を落とした男へ慰労を込めて肩を叩いた。


「やけどその後の始末が追い着かんでのぅ」


どうしようかと思うたちやと笑いながら頭を掻いた。
何をどう始末したかは聞かぬでおこう。
嘗て若かりし頃の己にも覚えの或る話である。


「そうかまぁでも、よかったのう」

何がどういいのか分からぬがとりあえず機能は完全なる不能ではないようである。
恐らくは心理的ストレス。
此の真面目なんだか不真面目なのか分からぬ男の深層意識のさらに奥底で、
せめぎあう何かが絶え間なく掛け続けているプレッシャなのかも知れぬ。

潔癖なのかふしだらなのか。

それはおそらくどちらも正解で、どちらも不正解。
矛盾だらけの此の男らしいともいえるし、誰もが抱えるものであるとも思える。

指先でボールペンを廻しながら、最終的にやれやれと不肖の息子でも見遣るように笑いかけた。
どうにも強く出れぬというか、呆れるのと同時に笑ってしまう。
訓戒の一つでも垂れてやろうかと思ったがやめておこう。
無自覚な此の男に何を言っても今は無駄。

「じゃぁ、なおの事ソイツを口説き落とせよ」

終いじゃとカルテを閉じて坂本に外で待てと診察室から追い出した。
処方箋を書きつけて助手を呼んで薬を用意させる。


点眼液に経口薬が三種類。
毎食後飲めときつく言い、薬袋にそのように書き付けて手渡す。
はいはいとそそくさと退散しようと扉を潜る坂本にちゃぁんと飲みんさいよといい、更に女遊びは禁止と命令した。
坂本はえぇぇぇぇぇと不満を述べたが三年で男を辞めるかと言ってやればはぁいとおとなしく返事をした。
がっくりとうら寂しい背中を見送りながら老医師はおぉいと呼び止めた。



「艦長!アンタの頭の中はすっからかんだとは思ってたがよう」



坂本は振り返る。


「ソッチは随分繊細で慎重じゃァねぇか」




医師は黒眼鏡に隠れたその眼が笑っていないことに気が付いた。
にやりとしてやれば坂本は言葉も返さず鼻歌。

勝手にしらばくれてろ。
ワシの色の勘もまだ鈍っちゃぁない。

お前が女を「アレ」なんてぇと呼ぶのは一人しかおらんのじゃ。





「じゃぁな、本命によろしゅうな、まだ仕事中じゃろ」
「先生、誰の事をいいよんじゃ」



カマかけには引っかからねぇか、舌打ちしながらお大事にと言い捨てた。





   *








部屋に戻ろうかとも考えたが足は自然と別の場所へ向いた。
きっと未だ残業しているであろうと思った。
案の定だ。明かりがついている。

多少の報告義務が発生していないことも無いと思えど正直に話すことも出来ぬ。
或いは、あの件の『誠意』と言うものに後押しされたのかも知れぬ。

「どうじゃった」

部屋に入ってくる姿を見るなり声を掛けられた。
んー、と曖昧な返事をして部屋を見渡す。

「先生、なん言うちゅうか」

部屋の中には陸奥ともう一人居て、人払いも無粋と思いその更に奥にある自分の執務室を指差した。
陸奥はちくと待てと一言だけ断り、帳面を閉じコンピュータの電源を落とし席を立った。
今日はもう終いにする気なのだろう。

自分の後に尾いて部屋に入るともう一度尋ねた。
テーブルの上に手に持っていた薬袋を置いたあと、さて、なんと答えようかと坂本は首を捻る。
ソファに座ろうか、いやでも座ったらこの心が挫けそうな気さえする。



「坂本?」


じっと黙ったまま次のアクションを起こそうともせず、
自分を見ようともしない男に何かを察したのかゆっくりと近づく。
上司であり、古い馴染みでもある男の渋面。
一メートルまで来たとき、ようやくこちらをみた。
無言になり、じっと此方を見つめ、
目の表情は眼鏡の奥にあって流石に読めぬが、何か訴えるものを肌の上で感じた。


「陸奥よ」


辰馬は傍で突っ立ったままの陸奥へ一歩近づく。
陸奥は出来るだけ表情を変えぬようにしてなんだと尋ねた。

「ワシ女遊びは今日を持って止めようと思うき」

頭一つ以上違う女にそう静かに宣言した。
陸奥は別段驚いた様子も無い。ただ少し瞬きが大きかった。
それだけだ。


「愛が無いがは、はや止めじゃ」

何を言うのかと思ったら、
陸奥は微かに馬鹿にしたような、それで居て安心したような表情で肩の力を抜いた。

「ほうか、まぁあしはおんしが黙ってどこかへ行ってくれるのを止めてくれたらそれでえい」

大事無かったのかと付け加えた瞬間、辰馬は両の掌で陸奥の肩を掴んだ。
突然のことに多少驚きながらも、リアクションの大きさには慣れている。
陸奥はその顔を見上げた。
それに驚いた、厭に酷く真剣ではないか。

それはいつも冗談でセクハラ紛いの事をする辰馬とはちぐはぐで、
掌の力の強さとは逆に、表情に出た微かな弱さが陸奥を狼狽させた。

「た、つ」

問いただそう。
そうしたが言葉にはならず、陸奥は昔ながらの気安い名を呼ばう。
辰馬はひとつ、ゆっくりと息を吸った。

眼は陸奥の目を捉えて離さぬ。
陸奥は完全に囚われた。



「陸奥よ」

強い力の割に随分優しい声で、けれども随分力の或る芯のある声で。
ごく近くで喋るからダイレクトに響いた。
この男、容姿はいまひとつだがこの声とこの声で語る夢ひとつで人々を魅了した。

「ほやきワシとせんか」

魅力の在る声だ。
正直そう思う。
声があたまを揺さぶり、くらくらとした。



「何、をじゃ」



情けないことに声が震えた。
何故今気が付いてしまったんだろう。
昔から近くに居て、厭と言うほど大ほらを吹くのを聞いていたのに。
どうして今こんな近くに居るときに、魔力の或る声に揺さぶられた。

足が縫い付けられたように動かせず、後退したいのに出来ぬ。
辰馬はじっと目を覗き込む。
息を呑む。
次の、言葉を待ち侘びる。


































「セックスを」

















「は?」

思わず素っ頓狂な声で返事をした。
耳を疑う。
なんと言った、今なんと。

前後の情報処理がぴたりと止まった陸奥に、
辰馬は再処理をかけるコマンドをなおも入力した。













「やき、愛のあるセックスをおんしとしたいちや!」
















ようやく演算機能が再起動した。
陸奥は笑うとも起こるとも付かぬ表情、それは恐らく呆然という様子が一番近い、
そんな顔で辰馬を見つめた。



あんなに背中を、心地よい悪寒が支配していたと言うのに。



そうか、もう十二時を回ったんだ。
だから、魔法が解けた。

そうにちがいない。


















医師が薬袋に入れ忘れた点眼液を患者に届けようと医務室を出たのは坂本が部屋を出たおよそ十分後である。
部屋に連絡を入れたら出なかったのでオフィスだろうとエレベータに乗ってフロアに出た。
余り来ないオフィスフロアを下駄履きでうろうろしながら、
明かりがついているところを所々覗き込み、艦長はどこだと訪ね歩いた。

廊下をひとつ曲がった部屋の奥ですよと指されたほうへ曲がろうとしたとき、
肩を怒らせた陸奥がするりと扉からでてきた。ちょうどいい。

「陸奥さんよ、艦長は」

ほがな男はしらん、にべも無く吐き捨てるように言い放つ。
随分お冠じゃねぇかと腹の中で思った矢先、通り過ぎ様、死神のような声が横面を撫でた。

「先生、恨むぜよ」

男は閾を跨げば七人の敵あり、か。
敵かどうかは分からぬが、兎も角敵意を抱かれているのはわかった。
思い当たる節もある。

通り過ぎたその背中の後ろに開け放たれたドアがあり、
居残っていた社員がこわごわ部屋の中を覗き込んでいる姿が見えた。
オフィスににつかわぬ白衣の大男がやっぱりかと一人ごち、
数名の野次馬はそれに気が付き花道をあけるように身を避ける。


ハイ散った散ったと手を一つ二つ叩き、
扉を後ろ手に閉めて部屋の中で呆然と床の上に転がった男を見た。
左頬に見事な鉄拳制裁の痕が生々しい。
明日は青く腫上がるだろう。
しまったな、湿布の一つでも持ってくればよかったか。

「何があったかしらんけどなァ」

具体的には分からぬが見当くらいはつく。
焚き付けた張本人としては少々申し訳ない気もせぬでもないが、それは当人同士の問題だ。

「お前どんな誠意を見せたんだよ」

坂本の頭の上にしゃがみこみながら思わずの苦笑。
男はぼんやり天井を見ていた。

「本気で口説いたがやき」


脳震盪でも起こしてるかとペンライトをポケットから取り出して目の前でふってやる。
おぉ、ちゃんと眼球も動くし動向も収縮する。


「なんて」

ペンライトを胸に仕舞って尋ねた。
坂本は起き上がる様子も無く、抑揚無く言った。





「愛のあるセックスをおんしとやりたいゆうて」








思わず苦笑、では無く、部屋の外まで聞こえるような笑い声。
腹が捩れるほど笑うと、坂本は笑いすぎちやと不貞腐れた。
しかし、自分が口説かれる立場ならきっと陸奥と同じことをしただろう。
そんな本気の口説き文句などで靡く等、真っ平御免だ。

長年連れ合うように傍に居ながら相棒以上へ進展しないのは、
あの娘が副官である立場上の問題だけかと思いきやどうやらそれだけではないらしい。
何はともあれそれではだめだ。


だってただの女じゃないんだ。


有象無象の烏合の衆を、率いる長が心底見込んだあの娘。
烈女と言う言葉では尚足りぬ。
そんな女を口説くのに、幾らなんでもそれは無い。

まぁ大きな森も初めは一粒のどんぐりからと言うし、気長にやりゃァいいさ。


この要塞の陥落作戦、いつから始まり、いつ終わるのか。

銃弾尽きて、剣も折れ、鎧が錆びて朽ちた後、
素っ裸で取っ組み合いでもすりゃいいさ。

その日がいつかは、神のみぞ知る。











「難攻不落じゃのぉ」





「あぁ、お手上げぜよ」










end


WRITE / 2008 .3 .28
完結です…。最悪だ…と思わずじっと手を見る。


ち、ちなみに陸奥が動転するver.もあるんですけど、
それはあんまりにも陸奥が気の毒すぎて正視できず

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