固体が液状になるときの温度



個が全になり

とけあう



その瞬間








融  点






「後ろからがえぇ」


額に髪の毛が張り付く。
開かせた脚の間に突っ込んでいた顔を上げ、何故と尋ねた。

陸奥は口を開きかけたが噤み、代わりに早うと云った。




後ろからはあんまり好きじゃない。
どっちかというと、顔を見ながら致すのが好きだ。

どうして、それは愚問というものだ。

鉄面皮の顔が崩れるところなどこんな時しか見られぬというもの。
明るいのは御免だと云うからさなかの部屋は大抵暗くて手探りだ。

それでも事は足りる。

サックは枕元、塵紙はその隣。
あとは手の届くところに女さえいればいいのだから。

目が慣れてくれば暗闇でも小さな光源さえあれば歪んだ表情が見える。
今宵は開け放した浴室のドアからの橙色の明かりが助けた。



苦痛に。
息苦しさに。
快楽に。
溺れまいと悶える様が愛らしい。




陸奥は早ようと云いながら先ほど拡げられた脚を閉じて身を捻りうつ伏せる。
ねじる時に背骨が透けた。




髪が乱れた。

顔が隠れた。




 嗚呼、勿体無い。



ベタベタになった口を手の甲で拭う。
待ち侘びる背中。
浮き上がっていた背骨を数えるように触れる。

肩が跳ねる。
釣り針を外される間際の小魚のように。

噛み殺す声はいつものことだが今日は随分と過敏である。
柔らかな産毛を口唇に感じながら、項に口唇をつける。
触れているだけのたったそれだけの接触に、肩が、肘が、腰が浮き上がり反応する。

それを押さえたらどうするだろうと意地悪く思った。
両腕をそれぞれに絡めるように後ろから封じた。
肩と腰は身体の重みで動かない。


嗚呼、と泣いた。


随分高い声だ。
ひょっとしたら外に聞こえたかも知れぬと思った。
誰か部屋の外を通っていたら聞こえていただろう。


「辰、はよう」


先ほどまで陸奥は声を上げまいと耐えながら、
脚の間に鼻先を突っ込んだ自分の頭を押さえつけていた。
二つの孔を舌と指とで深く追われ、何度も痙攣しながら怖い怖いと言った。

未だに極楽を見る事の叶わぬ陸奥にそれを見せてやろうと思うのに、
もういやだもういやだと首を振る。

それが不憫でならぬ。

それを知る事がまるで罪悪のように云う。
これは二人でするものなのに。

耐えるように自らの長い髪を毟り掴む陸奥の手を解く。


「いやじゃ」



うつ伏せた陸奥の背に口唇を這わせて、軌道を直滑降から螺旋に修正した。
行き先を桃のような割れ目から乳房へ。
ゆっくりとまた仰向けにさせながら、
わき腹を通って最後に乳房の先端へ、口唇をすぼめてくちづける。

「こん格好はいやじゃき」

陸奥の声を無視して脚の間に身体を割り入れながら、体勢を整える。
歪んだ顔は他所を向き、その隙にサックの袋を噛み千切る。

「ワシはこれが一等好きぜよ」

他所を向いた陸奥の顔を此方を向きやと引き寄せた。
苦い言葉を紡ごうとしていた口唇を塞いでやる。

何をくだくだと考えているのだろう。
自分は目の前の女のことで頭が破裂しそうなのに。
逃げられぬように頭を掌で抱えるように抱いて口唇を蹂躙する。
口唇が柔らかい、その程度の事しかもう頭には入らない。

手探りで頭以上に膨張しきった場所へサックを被せる。
空気が入らぬように、此の空気を壊さぬようにと。


然ァ、いざ準備万端。


口唇を塞いだまま繋ぎ目の入口を探す。
初めの頃に比べたら随分柔らかくなり、今はすっかり融けている。

しかし未だに繋ぐ時には強張るようで、
舌を噛まれぬようにとこのときばかりは陸奥の口から舌を抜く。

つるりと先端を呑み込ませる。
陸奥は一瞬息を止め、肩に爪を立てた。


「なぁんでおんしゃぁ後ろからがえぇ?」


数センチ離しただけの口唇の上で問いかける。
息を止めた女の手は自分の肩に爪を立てたまま、
未だに慣れぬと見えて呼吸がままならぬのはいつもの事だ。
だからこうして少し待ってやる。

次に呼吸できるまで、じっと。
理性と暴走しかけた快楽への本能の喉元に刃を突きつけて。



「なぁんで」


そむけた顔をもう一度引き寄せた。
陸奥の目は熔けていた。
とろりとした葛湯のように。
なのにどこか不安げで、どうかまかせておくれと頼むように額を撫でた。


「辰、頼むきに」


短い息、首に絡まる腕。
熔けた孔に預けた己が楔が絞られる。
なんちゅうことを覚えよったか、このクソ女。



「後にしとおせ」



乞われるならそうするまで、か。

陸奥の右脚を抱え込む。



互いに。





息を止めた。








end


WRITE / 2008 .1.11
新年あけましておめでとうございます。
そして当サイト初めての出物がこれってどうよ。

こないだ慇懃無礼攻めの近藤さんを見たら火がついて、
二日くらいで一気に書き上げた代物。
「辰馬は慇懃無礼攻めじゃなくて…笑顔でいぢわるみたいな〜」
とか思ったんだけど、結構愛ある感じになってしまったわ。
あと陸奥は此の手のことに晩生で遅咲きだといいと思っているので、
辰馬が奪って辰馬が一個ずつ教えているとかだといいと思う。

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