tactics
こっちを見ないんじゃ 振り向かせるしかないじゃない
振り向きもしないんじゃ 掴んで向かせるしかないじゃない
ネェ、ちょっと動揺して見せてよ
ネェ ちょっと焦ってみてよ
アタシ、無謀な事してる??
でもね
ハイリスク ハイリターン

賭には強いの
負けたこと、一度もないんだから
船の欄干に立って故郷に背を向け、詰っと行く先を臨んだ。
そういう別れを惜しむ声が聞こえる。
俺達の方にも、故郷にも一瞥を呉れることもなく俯き、Tシャツの裾をざっくり開ける。
足許に散らばる財布の山。



みんな元気でねと笑った顔は、魔女そのものだった。

魔女だのいう物は美しい顔をしているらしい。
人の心を惑わす為に、魔性は美に身を隠す。

内心変わらぬその姿に安堵しながら、思わず漏れた。


「いつまた裏切ることか。」


その後笑ってしまったのは自分でも不覚だった。
そう、確かにその己が笑みは一つの理由からだった。





島影は遠くなり、それを眺めるのを止め船主に歩いてくる。
船長は満足そうに笑って今夜も宴だと喚いた。
散々呑み散らかし、食い散らかした翌日なのに、全員が応と言うのは如何なものか。

まだ日も高いというのに、その支度にいち早く取りかかったのはコック。
ナミにおべっかを振りまきつつ、それでも忙しく立ち働いている。

まぁよくやるよと俺は見張り台からそれを覗いていた。

まぁ浮かれる気持ちも判らないではないがと、海鳥が騒ぐ空を仰ぎ目を閉じた。


*

こら起きろと、鼻を摘まれた。
煩せぇなと思いそれを無意識に払うと腹の上に何かが乗った。
傷の痛みも相まって重い瞼を開けると空は何故だか赤く染まっていて、それを背景にナミが俺の上に跨って見下ろしている。
一瞬どきりとしたがそれを悟られたくなくて、行儀が悪ィぞとたしなめる。にこりと笑って、もう始まってるわよと下を指した。

そんなのもほっといてこっちにおいでと叫んでいるコックが見えた。
下では盛んに空になる皿、その前には船長が座っている。
その横でウソップは何か弁舌を垂れ、コックはナミの為だと思われる皿に載った料理をルフィの手から死守している。
呼んでるぞと欠伸をしながら降りろと言う。早く来ないと無くなるよとすこし機嫌のいい声でいう。
いつからやってるんだと尋ねると、昼過ぎからだと。

早くおいでよと腕を引っ張るナミは顔色はそうは変わっていないが、
声が少し掠れてるので相当呑んでいるのだろう。
面倒くさいので先に降りろと促す。来なさいよぉと何度も言って下へ降りる。
一つ伸びをして固まった背骨がみしみしと鳴る。
下でなおも呼ぶ声。ハイハイと返事をして下界に降りた。

*

下手な時間に混ざったものだから、上がってるテンションについていけない。
呑んでもそうは酔わない質だから、三人目に乾杯だと船長が言ったときには流石に杯を空けたが、
そこからがついていけない。
コックは相変わらずナミを口説こうとして傍ににじり寄って、口説き文句の大盤振る舞い。
ナミはそれを軽く受け流しながら、次々と空き瓶が増えていく。
ちらと見ると「早く次空けなさいよ」と俺に詰め寄ってきた。
それを見たコックがナンだのかんだのと俺に煩く突っかかる。

二人とも、というか俺と船長を除いた連中は既に出来上がっていて、
ウソップはなにやら呂律が怪しく、頻りに船首に立って大演説。
それを見咎めた船長が、そこは俺の場所だと皿を持ったままじゃれ合っている。

自分だけが変に切り取られたような気がする。






だんだんと日も暮れて空には星が滑り、早々に潰れた船長は空の皿に突っ伏して眠っていた。
自分の前には空瓶ばかりが並んだけど、まだ酔えないでいた。
結局残ったのは俺とコックとナミだけ。

ナミは空き瓶として並べられている物の中に残った温いビールを集めては勿体ないから呑めと俺に言う。
呑んだ端から注いでくるからそれを飲み干さねば次には進めない。
なにやってんだ酔っぱらいと言うと大きな声で笑って、姿勢が保てないのか俺の方に倒れかかってくる。
それを見たコックが勢いよく俺からナミを引き剥がす。

「このクソエロ剣士!!汚ぇ手で触るんじゃネェよ。」

エロ剣士とは心外だ。しかも呂律が聞き取れないほどではないが狂っている。
こっちで楽しく呑みましょうね、と膝の中に入れて笑っている姿は気味が悪い。
カンパーイともう今夜だけで何度聞いた事か、グラスを鳴らして煽っている。
サンジの脚の間に入れられてるナミは、立てた膝に背を預けるように座っている。

二人で何か笑いながら話していた。好きにやれと目も貸さず在らぬ方を向く。





「サンジ君 ちゅうしようか。」





今、何て言った??



唐突な申し出で。
俺が逃がした言葉を目で補おうと、緩慢な動作で振り返った時、サンジの頬ににはその口唇が触れていた。
サンジはそのまま後ろに倒れ込んでそのままナミを襲いかねなかった。
あわてて引き剥がすとコックは何すんだこの野郎と吸い差しを銜えて立ち上がる。

「お前らこそ何やってんだ!!」

何を自分でも動転してるんだか判らないが少し声が上滑りした。



うふふふ、と肩を振るわせて笑いながらナミは俺の手を擦り抜け、
眠っている狙撃手と船長にそれぞれキスして歩く。
そのままサンジの口から吸い差しを奪って一口吸い海へ投げた。
コックはさも腹立たしいというように、眠ってる其奴等二人の横っ面を蹴り上げる。



「ナミ、お前酔ってンのか???」



煙草煙草と俺が座った傍に置かれたコックの上着を了承無く探り、
探し当てたそれを一本銜えて火を点けてこっちを見上げた。
うん、たぶん、と脚を投げ出したままそれを吸い、その辺の広口の空き瓶に灰を捨てる。


「あ、まだゾロにはしてなかった。」



サンジがナミから離れた一瞬が俺の運命の分かれ道。
止めろと言うのが遅かった。
ナンデか知らないが他の連中には頬だったのに、俺の時には直接塞いできやがった。
一瞬頭が真っ白になって、今の現状を把握することすら出来ない。

ナミは自分から口唇を離すとハァと息を吐いて、最後だったからサービスとぬかしやがった。


一瞬にして覚めた。いや、今の今までも酔ってはいなかったが、ますます覚めた。
コックは俺にもと言って懇願していたが再び頬にされたのがよほど悔しかったんだろう。

「なんだよ、こっち見るな。」

目にうっすら涙をためて俺の方がいい男なのに、ナンデこんなのばっかりがと嘆いている。
終いには間接チュウでもイイからとこっちににじり寄ってきたので蹴飛ばした。
ナミは厭がる人にするのが楽しんだもんと不明瞭な発音で言い切った。


と、言うことは標的は俺だ。


少し距離を取ろうと、ナミから離れるたがまたも新しい瓶を開けるその手を制止する。
その手を払いながらお祝いなんだからと空に向かって杯を掲げた。
嘆息ついて、先刻ナミが探っていたジャケットを探る。アルコールが入ると無性に煙草が欲しくなる。
ポケットを勝手に探り、マッチと紙巻きを出して一本擦った。
壁に背を付け両膝立てて、銜え煙草の侭体内に毒が回るのを静かに待つ。

吸えるんだなと、コックが俺とナミの間に割り入ろうとしたがナミはそれを赦さない。
嫌がらせかそれともコックをからかっているのか。どうにも判別がつかないのは俺も少し酔っている所為?

「お前ら、さっさと潰れろ!!」

詰りながら言い捨てたが、イヤだもんねぇとコーラスしたのが無性に腹が立つ。
突然耳許に指先が触れる。

「これピアス??」

ナミの指先は熱く、感触がぞくりと背筋を這う。
穴開いてるんだと、三つの金属を攫いながら耳元で呟く。
どうして開けたの、ナンか不似合いよねぇと耳朶を指先が撫でる。
頼むから止めてくれ、そう懇願したのも束の間、お前顔赤けぇとげらげら笑いながらコックが床に仰向けに倒れ込む。
窒息寸前になりながらコックは足をばたばたとさせて嗤った。
ナミは相変わらず俺の耳朶を触りつつ、首に掴まりながら俺の顔を覗き込む。

あぁやべぇ、廻ると一瞬の気取られがコックの運命の終え。
暫くすると、サンジはそのまま動かなくなった。
横になるからだよバカが、そう詰ってようやくあと一人。こいつを沈めないとゆっくり呑めやしない。

安楽の息を吐いたのも束の間
其の隙にナミはどうやったのか、俺の真正面に入り込んで、差し向かい、と言うより膝の中に座っている。

「なにやってんだよ。」

ゾロ見てるの、と赤い顔をして笑う。お前ももう寝ろと言ったが聞く耳も持たない。
一人で座っていることの危ういのか、ゆっくりと俺の方にしなだれかかって、廻って気持ちがいいと目を閉じる。
こっちの方は酔えもしないってぇのにイイご身分だよ。

「アタシと呑むのイヤ???」

しかも脚と言わず手と言わず、その素肌がそこかしこに当たってちょっとおかしな気でも起こしそうだ。
無防備な顔でこっちを見てくれるなと、業と目を逸らす。

「別にそんな事言ってネェだろ」

逸らした先で目に入ったのはコックの指先を焦がす火種。
焦げるなと思って、そこから抜け出る口実に浮き腰でそれを取ろうと手を伸ばす。




反射が鈍っていたのはきっとアルコールの所為、決して俺が油断したわけじゃぁない。

目に入ったのは満天の星空。
発光するような橙色の髪の毛。
色白の肌はうっすらと赤く染まって、微かに潤んだ目が艶めかしい。

心地よい重さが腹の上に乗って、こっちを見下ろしていた。





「ネェ、アタシじゃダメ?」





何がダメで、何をイイというのか。
質問の意図は明白。
けれどそれを明らかにしたくないのは自分。


ダメとか、そういう問題じゃなくってな、そういった物の悲しい哉、反応する己が哀しい。
声は僅かに上擦って、誰が見たって動揺してるのが判るはずだ。




「アタシじゃ、ホントにダメ??」







そんな事ねぇと、一瞬でも言って仕舞いそうな馬鹿な自分が居た。
誰もいない。
起きているのは俺と、お前と、今し方昇った十六夜月。
乗っかられた場所が熱い、鼓動が、そこだけではなく全身が脈打っているようだ。
俺の胸に上半身を預けて、すぐ傍にある口唇。
息が掛かる。



目を閉じようとした。
すぐ傍にある、そのからだ。










「お前ら、なにやってんだ。」



まだ眠そうな顔で、こっちを見ているのは船長だった。
厭な汗が背中を一瞬のうちに濡らす。
「酔ってンだよ、こいつ。」
誰が見たって、こんな嘘、疚しくないはずがない。
酔うとそうなるんだな、ナミはとからからと笑った。
笑い事じゃねぇだろ、襲われてるんだぞ、と言ったが良いじゃネェかと取り合う気もないらしい。

ナミはと言うと本当に寝ているのか、それとも狸か、すうすうと寝息を立てている。
大した女優だよ、と嘯きながら寝かせてくるとそこから逃げた。


女部屋に入って、ソファに降ろした。
このままじゃぁ風邪でも引くだろうと毛布を探す。ようやく御役御免だ。
それを掛けて戻ろうとしたところにシャツを引っ張られた。
ゾロも此処で寝るのと隣を指す。

「ホントにヤっちまうぞ!」

脅しのつもりだったが、効果はなかった。
イイよと、冗談なのか、本気なのか、それとも。




勘弁してくれ。


「そういうモンは大事にとっとけ!!」




もう寝ろと、手に持っていたそれを放った。
今夜は只でさえ眠れないってぇのに。


起き出した本能を理性が総動員して押さえ込んでいる。

ゾロ、と背を向けた瞬間に呼ばれた声。
それは酔っているふうでもなく、誘いかける只の女の声。



本当に、からかうのは勘弁してくれ。
寝られっかな、と階段を上がりながら考えた。









後々に知った。
こいつは俺以上の酒豪だってぇことを。

next?


白玉さんが開店されるというので送った寸止めサナゾ「耳まで」
ンで、「初めてゾロがナミに口説かれる」というので祭に入れてみたアタシは悪ですか・・・・・・
お茶場でのリクですがこれが恐怖のお茶場リクでして
言い出したら有無を言わさずですよ。周りは囲まれているのでねぇ。
どうですかね、ネェさん???
【白玉様】
開店おめでとうございます!!お茶場でのリクエスト企画。此処に確かに献上いたしました。
耳まで噛まれてゾロは今夜大変ですね(笑)朝まで一睡も出来ないでしょうなぁ(悪)
寸止めなんて悪い女(笑)
サンジ君出さないつもりだったんですが、面白いので出しちゃいました。
だって、この人が居ないとゾロが焼き餅焼いてくれなくって・・・・・・
いかがでしょ。19才の自制心の真価の程は
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