「刹那糸」
滲みついた煙草の匂い
シャツ越しに解る体温
目を閉じて存在を確かめて



夕飯過ぎから自室に籠もってずっと日誌と向かい合っていたんで肩が凝る。
8時頃お風呂に呼ばれて身体を解したのに、もうすっかり冷めてしまっている。
ペンを置いて、時計を見た。もう11時を回っている。
「今日は終了。」
自分でそう宣言して背筋をうんと伸ばした。
凝り固まった背中の筋肉がパキパキと音を立てていくよう。
後はもう寝るだけ。ベットに潜ろうと、ランプを消す。

喉、乾いたなぁ、そう孤りごちて回れ右。
サンジが起きていることに少し期待。
専属ボーイが入れてくれるお茶は格別。
それに預かれれば幸い。

手探りで階段を上がり、デッキに出る。
キッチンにはまだ灯り。
ドアの向こうで働いている姿を想像しながらドアを開ける。

「サンジ君、お茶入れて」

はぁーいといつもなら語尾を言い終わらないうちに返事が帰ってくるはず。
それがない。
調子を崩され、見回すとテーブルに突っ伏して寝ているキッチンの主が居た。
連日の早起きと、真夜中の連続盗み食い犯との攻防戦がきてるんだろう。
灰皿に置かれた煙草が一回も吸うことなく灰になった形跡が見えた。
静かな寝息を立てながら、束の間の休息。

いつもデッキで眠ってるアレに見せてやりたい。

寝顔があどけない。まるで子供みたいな顔。
前髪の隙間から見えた閉じた目。


お疲れさま。


仕方がないので、冷蔵庫の中のビールを一本。
寝酒にもならないけど、まぁいい。

座る前に、ベンチに脱ぎ捨てられた彼のジャケットをその肩に掛けた。

起こさないように用心してプルトップを引っ掻く。
その音に過敏に反応、肩が一瞬反応した。
ゆっくりと体を起こす。まだ目が夢の中。



「アレ、俺寝てた??」



まだ眠そうな声。


「うん、寝顔見ちゃった。」

マジでぇ??

両手で顔を覆って仰け反る。

よだれ、よだれ、と口元を指さす。
しまらねぇな、と立ち上がる。

「洗ってあげよっか、疲れてんでしょ。」

いいよ、と少し嬉しそうに袖を捲る。
ポケットから煙草を出して火を点け、銜え煙草の侭で洗い始めた。
こうやってよくママの忙しい背中をよく見てた。
ビールを置く。

「拭くよ、貸して」

好いよ、煮沸しちゃうから、そう言って湯を沸かしてる薬缶を指さした。

何か申し訳ない。



「手伝いたいの??」


直ぐそばでぐずぐずやってる私を察して、ちらりとも見ないで笑った。




「ネェ、これ手伝ってることになるの??」

「なるなるっv」

手伝ってと言われたのは「じゃぁここもってて」と両脇を指された。
後ろからまるで抱きつくようにして、むしろ邪魔なんじゃないかと思う。
銜え煙草の侭で、少し鼻歌まで歌ってご機嫌。

薄いシャツ越しに感じた体温。
腕を動かす度に感じる背筋。
染みついた煙の匂い。
耳から顎に書けてうっすら生えた産毛。
襟足がセクシー。
剥き出しの腕が陽に焼けて無くて綺麗。


「ナミさん?」




動揺してくれないかな。
もっと。





ネクタイを緩めた。

 まだしている水音。

脇腹から掌で撫でる。

 肩が跳ねた。



「なにすんの??」


「いいこと。」



シャツ越しに、背中越しに、脇下から辿る。
着やせする胸。
その筋肉をなどる。
指先に触れた小さな、彼の持つ隠された釦。
そこを軽く捻った。

微かに不調するの息の根。


銜えた煙草を取り上げた。
このままじゃかみつぶしてしまいそう。
少し湿ったフィルター。
一口吸ってからシンクの縁で揉み消す。



ゆっくりベルトの金具に手を掛けた。
少し緩んだその隙間から手を這い入れる。


あ、と心なしか濡れた声。
いつの間にかシンクの縁に手を掛けて息を吐くばかり。

「此処、凄いよ。」


その爪先から零れ出る温かくぬめった液。



「そりゃ・・・」



濡らした指でそれをなぞってやると、啼いた。




「手、洗う・・・・から、待っ・・・・。」


「ダメ」



そんなのダメよ。
だって、今夜は啼いて欲しいんだもん。


「それ、どうやって、んの?」


指で挟み込んでゆっくり撫で擦る。
貴方から漏れるオイルが指を滑らせて。


「自分で試す?」


背中に耳をつけているから胸の中で反響するする音がダイレクトに聞こえる。
少し掠れたような、いつもよりハスキーで、好い。



「真逆。」



言い終わらない内に一双強く啼いた。

ネェ、もっと。

もっと。




キスしたかった。
でも、出来ない。
まだお預け。



手の中の物が一瞬膨張した。
サンジは先刻から一言も漏らさぬ。
只濡れた息がその喉から漏れるだけ。

「ナミさん。」

「俺、・・・・イって」



ダメ。



手を離した。

え、と期待はずれの声。
明らかに不完全燃焼。
何事もなかったかのように、釦を止め、ジッパーを上げ。


今来た道を戻るように、汚れた指で触れぬよう、手の甲でその肌をなどった。


「鍵は、開けておくから。」



「取りに来て。」




閉じた目を開け、サンジは振り返る。
最早、蛻の殻。

汗を掻いたビールの缶がそこにいた不在証明。
まるで悪夢を見たあとのように額に髪の毛が張り付いていた。
疼くそれが、現実であることを証してくれる。
宥めながら、洗い終わった最後の皿を立てかけた。



ポケットの中に残った最後の一本。
ライターの炎が揺らめきながら燃え上がり、それを吸い込む。
心中の暴動を唯一収める術は、それ。


キッチンの灯りを消す。
漂う紫煙が導くその先。
そう言う運命。






「取りに来て」






刹那、紡がれた糸。
それをそんな簡単に断ち切って。





好いよ。

こっちから、切れっ端。
それを辿って結びつける。




取りに行くよ。
待ってて。



鍵を開けて、待っていて。
生憎、俺は、合い鍵を持っていないんだ。

ドアの蝶番、引きちぎるほどの度胸はないから。
鍵を開けて、待っていて。


取りに行くから。


                                 

end


裏666hit踏まれたむつきさんに捧げます。
テーマは「サンジ小説」と言うことで、しかも裏というわけで、
相手はまぁゾロじゃ拙いだろうし、個人的にはウソサンとか冒険しても良かったんですが、
人様に捧げるのにそりゃないでしょうと言うことで無難にナミで
しかも「ナミサン」とか、凄い物を書いてしまいました。
すみません、むつきさん。こんなんでよかったら受け取ってやってくださいませ。

しかも、裏という程裏じゃなくってすみません。
あぁぁぁぁ・・・・・

書き直したい。

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