裏 切 り の 報 酬


−サテライトフォンV-
postscript













新八が職場の玄関を開けると二人は相変わらず寝坊していた。
おはようございまぁすと神楽の眠る押入れを開け、
家主である銀時の部屋の襖を開けた。

以前いきなり開けて眼鏡のくの一が上に乗っかっていた時は驚いたけど、
まぁ二度は無いだろうと安心して開けた。

ほらやっぱり無い。

起きてくださいよ、もう八時半ですよ。
自分より十は上であろう男に母親のように云いながら、テーブルの上を片付け始めた。
夜に手酌したらしい残骸が残っている。
グラスが一つしかないから独り酒のようだ。
あァ寂しいことだ。

キッチンにそれを運ぼうと腰を上げた時、電話のベルが鳴る。
行き先を変更して受話器を上げようとした時、
寝惚け眼の銀時がハイ、万事屋と一秒早くそれを取った。


「よぉ、こないだはどうもぉ」


お得意さんかなとそれを任せてテーブルの上の食器を片付ける。
銀時は場所を変えて椅子に座って足を机の上に乗せる。

「そろそろ掛かってくるかもなぁと思ってたぜ」

重ねた食器を手に持ってキッチンへと足を向けながら、
朝から仕事の依頼かなと首をかしげた。



「そっちは?肌艶がよくなるような事でもあった?」


相手は女の人だ。
流しに洗い物を置く。
水音で途切れ途切れに声が聞こえた。
その狭間で神楽が起きてきたので、顔を洗っておいでよと声を掛けた。
橙色の髪の毛が寝癖で何かの超人みたいに跳ねている。


銀時は大笑いしている。


「冗談ですって、冗談」




「ハイハイ、あいつらしいな。昔っから口だけなんだよ」


「あァ?知ってる?だろうな」


「口座ァ?前教えなかったっけ」


「言うよぉ」




新八は洗い物を終え、漸くしゃっきりした神楽に朝食にフレンチトーストを焼けと乞われていた。
どうやら深夜に放送していた古い映画か何かで観たらしい。
映画の内容よりも、
「パピーがマミーの居ない息子に焼いていたフレンチトーストがすっごく美味そうだったアル」
だそうだ。
アカデミー賞か何か取った感動作じゃなかったっけと思いながらまぁいいかと冷蔵庫を開ける。



「エ、何それ、サービス?」

「マジでか!ペアじゃなくてトリオにしてよ」

「そうだよぉ、育ち盛りなんだからぁ」

「なに、気前いいじゃん。やっぱり肌艶よくなるような事があったんでしょう、ん?」

「いやゴメン。悪かったって」



卵に牛乳、食パンも幸いあった。
非経済的ですっ!て怒られるかなと思いながら、まぁいいやと承諾した。
卵と牛乳と砂糖を混ぜる。
それはフォークで混ぜるアルよと何か云ってたけど、洗い物が増えるからダメと突っぱねる。
フライパンを熱してバターを溶かし、液に浸したパンを焼く。
神楽はいい匂いアルとバターの爆ぜる音を聞きながらお皿お皿と珍しく手伝った。



「そりゃァ依頼とあらば」

「ははは、気がついてねぇよ、アイツ頭空だもん」

「え、あぁあれは、便所行った時にアンタの携帯にワン切った」




テーブルの上に牛乳をフォークとナイフが神楽の手で並べられる。
一枚焼けた。
さて、もう一枚。




「おぉ、じゃぁ、またご贔屓の程宜しくぅ」



りんと受話器が置かれた。
神楽は熱々のフレンチトーストを頬張りながら不明瞭な発音で尋ねた。

「銀ちゃん誰アルか?」

お客さんだよぉとキッチンに走る。
何それフレンチトーストとウキウキしながら新八にオレ、それにチーズ乗せてぇと叫んで歯を磨きに行った。
子供じゃあるまいしと新八は冷蔵庫の中からスライスチーズを出す。
いつから入っていただろうかと記憶を辿ったが、
大丈夫、発酵食品だし、賞味期限はとりあえず見ない。

ぺりりとセロファンをはがしながら、新八はもうひとかけバターを溶かした。







「今週末、お前等腹空かしとけよ」







チーズ乗せフレンチトーストを二枚も食った銀時は、
何ゆえか勝ち誇ったような顔でそう二人に告げた。

「どうしたんですか、銀さん。やっぱりチーズ腐ってましたか?」

何お前アレ腐ってたのといぶかしんだがまぁいいやと話を続けた。

「正当な報酬だって」

食後のいちご牛乳を飲みながらにやりと笑う。

「いやぁ、ボロイ仕事だよ、実際」


依頼の内容は容易い。
ある人物を目撃した場合、指定した番号に連絡を入れる。
目撃情報なら某焼肉店のご招待券を三人分。
その人物を一定時間拘束し、引き渡せば金一封。

因みに金一封の金子は事態の切迫状況による。

「それって、坂本さんですか?」

正解、老舗クイズ番組司会者風に言い放ちふんぞり返る。
依頼主はじゃぁあの副官の人かと新八は理解した。
確かふらふら遊んでいるから何とかという話を聞いた気がする。

「でもそれ銀さん、友達を売ったんですか」

人聞きの悪ィこというなよ、ぱっつぁん、
そう言いながらもイチゴ牛乳を飲んでいた手が一瞬だけ止まったのは見逃せない。
仕事、おしごとです、と嘯いた。

「焼肉ご招待券三枚の友情アルか」

じゃぁ食うなよ手前ぇら、と言えば

「食いますよ」
「食べるアル」

二人はコーラス。


「でも坂本さん気が付かなかったんですか」
「気がつかねぇよ」


あいつ頭カラだもんと笑い飛ばしたあと、
ひょっとしたら感謝されっかもなぁと銀時は笑った。
なんでと新八が尋ねたが笑っただけで答えはしない。



「肌艶よくなったかね、あのねえちゃん」





end


WRITE / 2008 .1.5

きっと本文を読まれた方は
「どうしてあァも都合よく万事屋に電話が掛かってきたのだろう?」
と思われたのでは無いかと思うのですが。
それはこんな事前の密約があったというわけでございます。
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