この雨がやむまで
「明日を信じてはいない。」
いいえ、それは期待することと同じか?

或いは。

糸を手繰り寄せるよう、導かれた運命のような

そう呼ぶには未だ早すぎるような気もするけれど。

この雨がやむまで、
そう決めて信じてみよう
この雨がやんでも、
信じていたいと思えるようなら、

それなら、
或いは。



キッチンから見える空は変に切り取られていて、それでも空模様が怪しいのは航海士でなくとも解った。
けれど網膜に焼けるような赤い赤い夕焼けが海に沈んでいくのが見えた。
同時に微かな雷鳴が呻っているのも聞こえた。



ルフィの所為で、海上レストランに足止め。
いつも通りというか、いつも通り過ぎるトラブル。
あきれ顔の航海士が何か言いたそうな顔をしていたから水を向ける。

「どうなるんだろうな。」

全くの他人事のように言った。
まぁ、手前ぇの始末くらいつけられネェ訳でも無し。
航海士はその華奢な肩を軽く上下させてそうね、と気のない返事を突っ返した。




それが昨日の夜の事。


暗雲立ちこめる西の空。
まるでもう夜の闇がすぐ側まで迫っているよう。
俄に降り出した夕立。雨粒が船床を叩く音に気が付いた。


何気なく目を遣るとナミは何を見てるのか、遠い西の方を見ている。
今夜の天気でも気にかかるのか。
じっと、動かない。



「ナミ」



呼びかけた俺の声にも反応しない。
手元にあったタオルを握りしめた。
どうしたって言うんだよ。



思わずキッチンから身を乗り出して、もう一度呼んだ。


「雨に溺れんぞ。」


そう揶揄して痛いほどたたきつける夕立の中、ぼんやり立ってるナミを呼んだ。
肌にあたる雨粒は痛いほど激しい。
こちらをちらりとも見ない。故意に振り替えらないんだろうか。




「ナミ。」



これが最後だと、もう一度大きく名を呼ぶ。
その声に振り返る。返事はなかった。
只、意味の深そうな空虚さを漂わせて、口唇が微かに動いた。

「何?」と。



返事もなくして、結局「何?」か。
呆れながら、掴んでいたタオルを放り投げた。


「風呂はいってこいよ、お前、びしょぬれだぞ。」



シャツは肌に張り付き、髪の毛からは滴が垂れている。
妙に艶めかしくって、態と目を伏せた。

うん、ありがとう、

そういう素直な口を利くなよ。
勘ぐってしまうだろ。



妙な気分。苛立つような、いや、それとはまた違う。
焦り、焦燥、それとも違う。

身体の奥底で静かに燃えている熾き火。
炎をあげてくれれば解りやすいのに。


足許もみえぬ、おぼつかないほどの光源がじわじわと焦がすよう。



思わず手が伸びたのはテキーラ。
一番手元に近かった、瓶。

気温と同じ温度のぬるいそれは、喉が焼け付くよう。
けれども心中の泥濘は、洗い流してはくれない。
それでも、やらないよりはましだ。





立て付けの悪いドアの軋む音がして、亡霊のような姿でナミが戸口に立っていた。
頭からさっき投げたタオルを被り、ウソップの所在を聞いた。


「女に手紙でも書いてるんだろ。」


変に声が上擦りする。
視線を、タンブラーにうつした。
急に飲んだアルコールの所為か、動悸が耳の側で鳴り響いていた。


変に暗いキッチンに二人きり。
ナミのブーツの踵が鳴った。
その音に振り向く。
どうした、と見上げた。



 見当も付かない。
 理由も見あたらない。
 気が付いたら、その口唇を塞がれていた。


あまりに突然、しかも予想外の事態に混乱した。
ただ、鼻孔に付くナミの香りと、口唇があまりにリアルすぎて
何度か夢で見ていたこうするシーンと重なって、現実との境界が危うい。


よせ、と言いたかったが、その舌が俺のそれに噛みついて離してはくれない。
テーブルの上に宙ぶらりの手の上。指先にナミの手が触れた。
その手は酷く熱かった。

海鳴りのような雨音が全ての外界と、ここを遮断していた。

「何を。」


正直戸惑っていた。
今まで、そんな素振りを見せたことはない。
いや、俺が気が付かなかっただけか。
今何故、そう、今になって、、そんな真摯な目で俺を見ている。

覆い被さるようなナミの身体を態と乱暴に剥がそうとした。


「待てない。」

問いかけには不相応な返答。



何を待てないんだ。
どうして、ではなぜ、今まで待っていた。



眩暈にもよく似た揺らぎ。

それは、ナミの体重が口唇に載せられているから。
その重さは煽情の感度。
俺は喘ぎを覚えながら、、女の欲望に同時に嫉妬していた。





片膝に、ナミの重さが移る。
じわり、と伝わるその体温。
自分の上に、たった二枚の布越しに触れている場所。



もう、待てない。



あわさった口唇から漏れる息が艶めかしく、その匂いに眩暈。
差し出された舌を、こちら側に回収した。
もっと、深く。
そう願い。



湯気の上がるような腕が、首後ろに廻る。
硬い髪を撫で上げる、華奢な指の感覚。



もう、戻れない。




その姿勢が恐かった。
このまま、底なし沼に落ちそうで、恐ろしかった。
そして、何故、今になって、「待てない」などと。



「どうしたんだよ。」


ようよう、口唇を微かに離し、それだけ。

答えはない。曖昧に微笑んだだけ。
俺の堅い胸にあたる柔らかなモノ。
その先端が、肌を刺す。



「どうも、しない。」




微かに上気している頬が、欲情した徴。
薄闇の中、手探りの儘、俺のシャツの釦を外す。
案外簡単に外れたのを喜んだ。


頭の後ろが、何物かに引っ張られるよう。
仰け反りながら眼を一瞬閉じた。



そう、もう「待てない。」


口唇を弄びながら、椅子に立てかけた刀を床に降ろした。
ゴトンという不愉快な音。
床に着く前に、手放した。



早く触れたい。
待てない。



Tシャツと肌の隙間。頭の方へ這い上げた手。
弓形になった、滑らかな皮膚の触感。
煮えたぎった頭とは冷静な、本能が痙攣を起こしかけていた。
暴走しそうな感情を何とか押しとどめ、出きる限り長くゆっくりと撫で上げる。





「ココで好いのか?」



何も、こんなキッチンの堅い椅子の上、
イヤだと言っても、もう止められそうではない。
見降ろす目が、どっか切れてていい。



俺の脚の上、だんだんと、温まり湿っていくそれは何だ。




「待てない。」



この雨がやむまで。
 そう決めた。

戯れだと、あとから笑われても、今はいい。
この雨がやむまで、信じてみよう。


シャツを巻くし上げ、目の前の乳房を弄び、持て余し。
何を喋っていいかわからぬ。
むしろ言葉などとってつけたような理由になりそうで。
それより、声を聞きたい。
息をあげながら、漏れいでる声を。


聞かせろ。


「雨の音で、掻き消える。」


ナミが乗っている膝を揺さぶる。
俯きながら、首に掛けた手が小刻みに揺れ、肩を掴む手に力が入る。



戻るつもりはない。



もっと触りたい。
触れて、声を出させたい。
そして、俺の名を呼んで、涙混じりのその声で。

脇に手を差し入れ、立ち上がらせ、テーブルに俯せさせる。
横たわる姿態が、征服欲を増幅させる。
ナミの自重で潰される運命の乳房をそっと持ち上げ、掌の中に納めた。



早急すぎた。
それでも構わない。

スカートの中に手を突っ込んで、腰骨に引っかかってるショーツの端を吊り下げる。
くるぶしあたりに片足だけ引っかかった下着が変にエロティック。

顕れた先刻まで俺の脚に乗っていた場所。
もうそこは溢れて溶けている。



「ココまで。」



太股の半ばほど迄、指で撫で上げる。

 加虐心。
 それよりも勝った愛しさ。。


まだ何もしてない。
それなのにそこはもう震えていて、おれを待ち焦がれているようだ。
開いた脚の間に指を這わせた。。
ほんの爪先程度の深度。背中が跳ねる。



もっと見せてもっと啼いてもっと。



悦びに震える様。
見せてみろ。


  早く、挿れて。


 何を?

 これを?



閉じられた脚の深部へ指を突き挿れる。そのとたん、指の廻りを粘膜が絞り上げる。
短い悲鳴を上げながら、その中は蠕動を繰り返し繰り返し、
粘液は垂れ流し、、
ナミの口唇からは意味のない声が漏れ出る。


もっと聞かせろ。



ここからは見えないその顔を想像した。


あの、美しく整った顔は今や快楽と苦痛の狭間を彷徨い、より高い場所へと行き来しているはず。




いつもは勝ち気で俺のことを足蹴にしているこの女が、俺の所為で熱を上げてる。
粘度の高い音を立てながら、指を行き来させる。
深く、浅く。
だんだんと間隔の短くなる息。

見せて見ろ。



もう、戻るつもりは毛頭ない。


堕ちていくのか、昇っていくのか。
それももうどちらでもいいこと。





「ネェ、ちょっと、待って。」




「待てない。」





そう、正直、もう待てなかった。金属の擦れる音、ジッパーの降下音。
ナミの背中に体重を半分預けた。
屹立したそれを取り出し、あてがい、快楽の波に打ち震えるように
それを突き挿れる。

外から加わえた圧力、その中の吸引力。



酩酊した儘の思考。

揺さぶりながら纏まるわけがない。
気が付いたらもっと、と喘いでいるナミがいた。









この声が、雨に掻き消されればいい。
この声が、誰にも届かなければいい。
不埒なこの俺の願いなど、誰にも聞こえなければいい。

眼を閉じたままでも見える、ナミの顔。
きっと、焦点の合わぬ狂気を孕んだ危なっかしさが混じっている。


誰にも、見せたことのない、その顔。


「ねぇ、もっと。」




満足という言葉自体が不愉快。












この雨がやんでも、
或いは明日を信じられるような、
そういう気持ちになれなかったとしても。






この雨がやむまで。
どうか、この雨がやむまで、

この浅ましい下らないモノを、運命と。

end


ゾロバージョン難しいよ。
自分で書いててもう何がなんだか。

しかもナミバージョンと進行とかを併せてやろうとしたから
もう大変。
でも、できて良かった。
そして書いて良かった。
しっかし、これ1500hit御礼話なんですが、裏小説ッてのが痛いね。
まぁ、そこはまぁ。
お楽しみいただければクレユキも嬉しいです。

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