この雨がやんだら
彼の人は向こう岸。
私は辿り着く前に溺れてしまう
もう息が出来ない
揺らめく水面、沈みながら見てる
助けは要らない
あれは気紛れ
知ってる

暁の薄闇の中で指先を探すその手の冷たさを憶えてる。

口唇を嘗めて湿らせてからキスした。
私が溺れたのは事実。


遠くの空が暗い。
ここは目に滲みるほどの夕焼け。もうすぐ夕立が来るはず。
雷が遠く鳴り、雨雲がこちらに向かっている。
 ここはまだ大丈夫。
嵐はもっと西で起きる。

ルフィの所為で、海上レストランに足止め。
どうなるんだろうなと他人事のように言ったから、だからこっちも、そうねとだけ返す。



それが昨日の夜の事。
暗雲立ちこめる西の空。もう、ここからかなり近い私の戦場。
戦火の匂いが鼻に付くよう。
俄に降り出した夕立。雨粒は船床を叩き、私を濡らす。
もう少し見ていたかった。遠く霞む島影を。




 あれは、私の戦場。





「雨に溺れんぞ。」

その声で現実に引き戻される。
そう揶揄しながら痛いほどたたきつける夕立の中、ぼんやり立ってる私を呼んだ。
キッチンのドアが開いて、そこから見えた大きな男。



「ナミ。」



その声に振り返る。返事はしなかった。行ったら、もう、戻れなくなりそう。
不意に頭の上に投げられた物。乾いたタオル。



「風呂はいってこいよ、お前、びしょぬれだぞ。」



誰かに心配してもらえる、イイ身分。
私には、不相応。







 この雨がやんだら、戦場に戻ろう。
  孤りで。








促されるまま風呂へ追い立てられ、シャワーの中でぼんやり思った。
さとらせたいのか、それともさとって欲しいのか。
 では、誰に。
勿論、感情では解ってた。

天辺から懸かるお湯はまるで真夏の雨のよう。
日向水のようだ。まるで、この船の居心地。





 戻ろう、早く。
 ここから出よう。


ただただ、そう考えるばかり。




言い訳をしなければなるまい。
なんで、雨に濡れたのか。
何故、彼の声で振り返らなかったのか。




キッチンには、ゾロが一人いるだけだった。
暇を持て余しているような、そう言う顔。
もう一人のクルーの所在を聞くと、下に籠もって何かしているらしい。

「女に手紙でも書いてるんだろ。」

と、素っ気ない。



変に暗いキッチンに二人きり。
頭から被ったタオルと自分の前髪越しに見た彼。
どうしたと、動く口唇。




 戻ろう、早く
   私だけの戦場へ。




乾く口唇を微かに嘗めた。







 見当も付かない。
 理由も見あたらない。
 気が付いたら、その口唇を塞いでた。

くぐもった声がその喉の奥から上がるのを聞いた。
テーブルの上に投げ出された指先を探す。
真夏だというのに、触れたところは酷く冷たい。
海鳴りのような雨音が全ての外界と、ここを遮断してくれている。


「何を。」

戸惑いを隠せないように乱暴に引き剥がそうとした。

「待てない。」

問いかけには不相応な返答。


そのままもう一度噛みつく。
片膝を跨いで座る。
さっき体中拭いたばかりだというのに、もうそこはびしょぬれ。
もう、待てない。

あわさった口唇から漏れる息が艶めかしく、その匂いに眩暈。
彼の舌が、私のそれを回収する。



首に手をかける。
後頭部を掌で撫で上げる。硬い髪の質感を、覚えておこう。



 早く、戻らないと。




下着は態とつけてこなかった。
そんな時間すら惜しかった。



「どうしたんだよ。」


答えたら、どうかしてくれるの。
 そんなこと聞かないで。


そう言って遣りたかった。
言ったところで何ともならぬのなら、いっそ何も言わず仕掛けた方が得策という物。


「どうも、しない。」




手探りの儘、男のシャツの釦を外す。
案外簡単に外れたのを喜んだ。


ゴトン、と何か落ちる音。
彼の命より大切な愛刀が、その手で床に降ろされた音だった。

早く触って欲しい。
待てない。



Tシャツと肌の隙間。這い上がる手。
背中の筋肉が硬直と弛緩を繰り返して痙攣を起こしそう。
堅い手は、思いも寄らぬほど戯れるように撫で擦る。




「ココで好いのか?」



私を見上げる目が、どっか切れてていい。

 あたしの太股にあたる、それは何だって言うの、教えて?


「待てない。」



 この雨がやんだら、戦場に戻ろう。



シャツを巻くし上げ、私の乳房を弄び、持て余し。
いつも無口な者がもっと無口になる。
息をあげながら、それでも声は出すまいと決めていた。


「雨の音で、掻き消える。」


聞かせろ、とでも言いたげな顔で、私が乗った方の脚を揺さぶる。
その度、彼のズボンを濡らすようで、頬が火照った。

 戻れなくなりそう。



いっそ残酷なほど優しい顔で見上げながら、私を抱き上げ、
テーブルに突っ伏させる。
冷たい木の感触。押しつぶされた乳房。
それを慈しみ撫でるように掌で押しつぶす。


早急すぎた。
それでも構わない。

スカートの中に手を突っ込んで、腰骨に引っかかってるショーツの端を吊り下げる。
脚と脚の間がつめたい。
男の手が冷たい所為か。それとも。

膝が震える。


「ココまで。」



太股の半ばほど迄、指で撫で上げられる。

 羞恥心。
 それよりも勝った興奮。

まだ何もされてない。
開いた脚の間に男の指が伝った。
ほんの爪先程度の深度で、もうそこは溶けそう。



早くして早くして早くして。



焦らされるのはもうたくさん。
もうずっと、そうされてきた。
長い間、あともう少しで手が届くところまでと、そうやってずっと焦らされてて。


  早く、挿れて。


 何を?

 これを?




捻り込まれたものの感触。
鈍い痛いような快感が一気に爪先まで痺れさせて、突っ伏した胸の奥から思わず声が上がる。
粘着質な視線を感じ、同様な質感の音が、どこからか漏れ出ている。
単調なアレの動きでないことから、彼の節くれ立った指であることが容易に想像できる。

その光景を目に浮かべた。


あたしの脚の間。
そこからいずこへと消えるようなそんな光景。
その乾いた指が私が出す粘液で濡れていく。

いつもはそんなことに縁の無さそうな彼が、私の所為で熱を上げてる。
どこをどうされてるのか知らないが、劇的な快感と言うより、
おなかの奥からじわじわとわき上がるような、そんなモノがせり上げてくる。
そこを越えてしまったら、もう戻ってこれない気がした。

「ネェ、ちょっと、待って。」




「待てない。」





金属の擦れる音、ジッパーの降下音。
背中にのし掛かる体重。
外から加わる圧力、私の中の吸引力。

酩酊した儘の思考。

揺さぶられながら纏まるわけがない。
気が付いたらもっと、と喘いでいた。









この声が、雨に掻き消されればいい。
この声が、どこにも届かなければいい。
不埒な私の願いなど、誰にも聞こえなければいい。

眼を閉じたままでも見える、ゾロの顔。
きっと、焦点の合わぬ狂気を孕んだ危なっかしさが混じって、きっと美しいのでしょう。


「ねぇ、もっと。」




満足という言葉自体が不愉快。













    戦場へ戻ろう。
    この雨がやんだら、最前線へ。






ここから出られなくなる前に。

                 end            


また書いてしまった、初めてのはなし。
っていうか、かなり昔に考えたやつ。
かれこれ二年前。
今頃出してきてどうする。
しかもまたやってしまった、アーロンパーク編直前。
もう、書きたいからしょうがないじゃないよう。
まぁ、1000hit記念小説。しかもnoon1ヶ月記念(兼ねすぎ・・・。)
ですので、まぁ、記念記念
アニバーサリー女クレユキ。

ところで、もう、続き物書くのよそう。
そう思って終わらせてみました。
どれが続いてんだか、どうなッてんだか、把握できてないし。



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