溺れる
飛び込んだ先 息を止めて
つぎ込まれた気持ち 沸騰させたら
溺れるほど したい 誰ってお前と
愛して しゃぶって キスしていたい



成り行きみたいなものだけど結構気に入ってる。
始まりはどうあれ結果が伴えばそれで好い。
皆の前ではいつも以上に普通に振る舞うけれど
人目が消える頃跫音もさせずに忍び寄る。
野良猫を飼い馴らした気分。
野良と言うほどに毛並みは悪くはないが。



結構気に入ってる、関係も、この時間も、そして過ごす相手も。
しかし、人間満足と言うことを知らぬ。
欲が出れば出るものだ。

唯一の不満。


未だ一度もしたことがない。
イヤ機会は窺って居るんだがこう上手いこと噛み合わないと言うか。
それが唯一のしかし、こういってはなんだが最大の不満。

俺はケダモノか。










寝静まり、時計が12時を打ったらそれが合図。
逢引きは決まって俺が見張りのメインマスト。
ポットに熱いコーヒーとウィスキー。
吹き付ける冷たい海風に決まって不平を言いしかしそれでも現れる。

一枚の毛布にくるまっては他愛のない話をしながら
ふと気を抜くと寄り添う体温が心地いい。
ナミはそうしてよく眠った。
風邪なんか引かなきゃ好いけどと冷えかけたマグカップを寄せる。

凭れた肩からずり落ちた毛布を首の上まで上げてやって、
俯き幸せそうな顔で眠る。
寝るなら戻れと夢と此処を行き来する最中の彼女に言うと、
イヤだと譫言めいて呟き「寒・・」と擦り寄る。

軽く自分の膝に乗せられた手が温かい。
触っていると妙な気を起こしてしまう自分が呪わしい。
それを取って繋いだ。


いつもなら此処までだ。















折角だから起きろよと指先で手の甲を一、二度叩く。
ゆっくりと顔を上げさせる。
丁度脱力したからだが俺の腕の中に落ちようとするところだった。
上々。

見上げる時にはいつだって無垢な目。
何か言いたげな顔をしながら口唇寄せたら黙る。

閉じた口唇の上に載せられた純真。
重ねたら温かくて深く潜り込みたいけど閉じられた儘。
外気は冷たくて耳は千切れそうなのに、そこだけは温かい。
舌先で開けようとすると驚いた顔。

何?

「口唇、軽く閉じてみな」

閉じきる前に塞いで、潜り込んだ俺の舌をナミは拒絶する。
待ってと言われたようだが気にしなかった。
女の舌先に触れた。
驚く素振りを見せながら、どうしようと躊躇う。
推し進めることも出来たけれど、あんまり驚いた顔が可愛くて思わず笑った。


 したことネェの?





ざわざわと腹の下を発信源として脳髄から爪先迄を完全に痺れさせる甘い毒。
吸い込めば手遅れ。
藻掻く間もなく溺れて。





 したことなかったら悪いの?





あっけなく、海の泡。





俺がつけた唾液の跡。濡れて光って呼んでいる。
大きな目に月が映っている。
その光を隠すように俺が覆い被さる。
いいやと、もう一度。


「覚えるまで教えてやるよ。」


温度を感じる。
ナミの匂いと、体温だ。握りしめられている掌が何ともいえず。
お前、息しろよ。
一秒ごとに口唇を離しながら、時折糺すと、うんと譫言なのか呼吸なのか判らぬ声。




腕の中にあって頼りなく寄り掛かる身体。
白い喉を反らして受ける舌を飼い馴らす。
触れ合う舌先、時折強く吸うと体が震える。
舌下に載せられる罵声は今はなく。
蠢くのは柔らかな感触。
ただ、それだけだ。




何度も何度もつき離れ、合間を見てはその顔を盗み見る。
ぎこちないながらも、俺がするように動かしながら不安そうに何度も胸を叩く。
互いの息を頬の上で感じた。

誘い来たる火。
吹き消される暇もなく、劫火。









漏れるような息が変に艶めいて、それが災いしている。
思わず手が動く。
意識してたわけじゃなく、無意識。
音がするほど噛みつき、すべらかに二つの口唇が蠢いた。
蹌踉めくナミを欄干に凭れさせ、腰を抱いた腕に力を込める。
右足で膝を割ろうと身体を引き寄せた。
急に身体が強張りを見せたけれど力で捻子臥せ、続けた。

くちづけの深さははじめた頃から比べたら段違いだ。
下の裏、歯列、ふっくらとした下唇を何度も啄む。
目蓋の裏、繰り返す妄想の産物たる情景。

毛布の下、まさぐる掌を拒絶する。
でもやめない。
枷が外れかかっている。



隣で眠られて見ろ。
呼吸によって上下する胸の膨らみ。
それからどこ触っても柔らかそうな身体。
無防備にあってしかも今は空腹だ。

止められるはずがない。


左手はもう自由だ。
欄干とおれの身体とでナミは身動きなど取れない。
先刻からちらちらと目で追っていた柔らかそうな乳房に触れる。

下着は着けてなかった。
ではこの下は。

上向きのその先端に触れたら見る間に夜着の上からその姿をちらつかせた。
声も上げずに戦慄く身体。
もっと見たい。



右手がスカートの裾から這い昇る。
風呂に入ったのか石鹸の匂いが漂い、
どこにも引っかかることなく腰骨まで辿り着けた。
そこで引っかかる下着に手を掛けた。
降ろそうと手を掛けたとき、急に俺の舌を離し歯を噛み合わせ拒否した。
噛みきられるのは防いだが、急激な変化に目を上げた。





諤々と肩が震えている。
俺の手によって乱されたスカートの裾と前を掻き合わせて俯く。
しまったと思ったがもう遅い。

ナミの息は未だ整っていない。
乱れた髪の毛を指先で払おうと手を伸ばしたがそれにもびくりと震えられてしまった。
何を言っても何をしても今は無駄か、俺は待つことしかできない。




「これって絶対しないといけないの??」

揚々口を開いたナミは抑揚もなくそう言う。
イヤ絶対って訳じゃぁねぇだろうが、本音を呑み込みながら建前を言い退けた。

「ゾロはしたい??」


気まずさから無言でいると、したいんだと諦めのような言葉を漏らす。
あぁしたいというと何故?と聞き返された。
普通こんな事を聞かないだろう。そして俺はコレに答えられそうもない。
言葉を濁しながら先延ばしにした。
先刻巡り巡った毒素は霧散して今は跡形もない。


「ネェなんで?」

まだ終わっていなかったらしい。
理由を示せば出来るのか、イヤそう言う問題じゃないな。


お前はなんでしたくないんだ?

上手い言い訳とかそういうモノが思いつかなくて質問を返した。

ゾロから言ってよ、それには頑として答えない。
息苦しい沈黙が耳障りな音を立てながら流れる。
やって見りゃわかるっていうのはなしだよな、そう孤りごちながら頭を抱えた。


「お前はなんでイヤなんだ?」


まだ俯くままのナミに問うた。
少しづつ近づきながら、
その顔を垣間見ようとあわよくばもう一度くちづけしたいと願って。

だが、それは果たされることはなかった。
覗き込むとその目にはうっすらと涙が浮かんでいて、
口唇は真っ青。
触れるのも躊躇うほどに、か細い呼吸が繰り返し、繰り返し。






「怖いから」



そう一言。




「男って、男の力は、怖い」



細い両腕で自分の肩をしっかりと抱くようにして俯いた。
一気に罪悪感がのし掛かり、庇護欲が舞い降りる。
何もしネェからと前置きしてそのまま上から抱きしめて見せた。


今夜の所は、と呑み込んだ言葉を喉に詰まらせながら。







結構気に入ってる、関係も、この時間も、そして過ごす相手も。
しかし、人間満足と言うことを知らぬ。
欲が出れば出るものだ。

唯一の不満。
それが唯一のしかし、こういってはなんだが最大の不満。

俺はケダモノか。



next


期限に切突かれてかき上げた手練れゾロ×ナミ嬢初物。
もう何度も何度も書き直しては削りを繰り返し
アタシにしてはかなり手こずりましたよ。エェなんで??
きっと、アタシの中にはないナミ嬢だからだな。

書きたかったのは、乙女のナミさんに迫りきれない純情ゾロが
ケダモノっぽくなりそうなのをなんとか葛藤の末押さえつつ
その手腕で初めての夜を成功へと導かんとする努力(笑)

純情ゾロ・・・でも手練れ(笑)
駄目だ、何度読んでも笑える。
ア、因みに続きます。

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