medicine
咽喉の奥に残された苦いそれを嚥下させたらどうにか救われた気になって
もしそうじゃなくてもこのキチガイじみた衝動の果て
憂鬱な振動ココロ震わせてアタシを見て勘違いして
そうすることでバランスを保てるならアタシは幾らだって演じてみせるから
焦りと憤りを愛という欺瞞すり替え虚飾に充ち満ちたアンタのそれはのめないの




なんでかあたし達は毎日喧嘩をしている。
そう他愛のないことで。
一々原因なんか憶えていないくらい。
毎日やってるから日課みたいな物でそれに一々突っ込むサンジ君もご苦労様。
もしかしてアレも日課なのかな??




でもそいつはわりと好きなカンジだった。
喋り方とか声、大きな手とか腕の長さとか怒ったときに浮き出る青筋とか。
ドライなのかと思いきや意外なところでやさしかったり。
礼儀正しいところや、何故かアタシには口だけで頭の上がらないところとか。
大人の振る舞いをして達観を見せていながらもふと見せる子供じみた所。
アタシはそれを見たくて怒らせたりからかったりしてた。
でも自分じゃ気がついてなかったらしくて。

気にかかるのも、からかいたいのも、魔女だと言われるのも好き。
なんで好きかなんて考えなかった。

考えてなかったけど口から先に出た。



「ネェ、一回してみようよ」




は?間抜けに開いた口からぼやけた返事。
そのときはなんでかアタシの部屋で差し向かいだった。
どういう経緯だったか忘れたけど、二人きりだった。


 相性が悪いわけではないと思うのよ。


思わず口から出たのは突拍子もない言葉。
いつもは切れ長で涼い目がこっちを呆然と見てる。
相変わらず開いた口が塞がらなくて閉じたらと合いの手を入れた。


「一回したら、変わるかなって思うのよ」


何が??
アタシ達。

酔ってンのかよと頭を抱えながら大きな溜め息。




誰と?
アンタと
俺と??
そうよ??

変化を期待しているのかそれとも単に欲求不満なのか判断つかなくて迷うところだけど
まぁそんなの後から考えれば好いことだし
だってアタシ、アンタのことそんなに嫌いじゃないからさ。



お前もうちょっとこういうことは考えて言えよ。


思わず吹き出しそうになった口許を手の甲で拭った。
グラスを持つ右手が微かに震えている。
そして溜め息を一つ。

なんで??

なんでと問われて返す言葉が果たしてアンタの中にはあるかな??
もしあるならちょっと言ってみて。



*









 初めっから厭な予感とかはしてたんだ。

今朝もつまらねぇ喧嘩というか口げんかをした。
船長はお前ら仲イイよなとかそう言う次元で取り合わず、
コックはそんな事思ってても口に出すなと襟首掴んで揺さぶる。
原因はなんだったろう。忘れたな。


まぁわりと顔は嫌いな方じゃない。
気の強い女は好きではないがどっちかって言うと嫌いでもない。
其処まで選ぶほど気に掛けても居ない。
でもあの目は気になっていた。
人を見るときの目。
強い眼光はどんな眩しい物を見ても勝ることはない。
それから俺達クルーの男連中を見境無くぶん殴っても
平気の平左という顔をしては場を収める姿は凄まじいが小気味イイほど。
頭が上がらないのは確かに。
なんでって、あの理論武装と傍若無人ぶりに何か出来るとしたら船長くらいか。

魔女って言ったのはアイツのネェちゃんがそう言ってたから。
まぁたしかに言い得て妙だとは思う。
初めに言いだした奴に握手を求めたいくれェだ。

一瞬ごとに変わる顔は見ていて飽きないし、それになんと言っても欠かせない要因の一つ。


それから、初めて出会ったときのインスピレーション。







「ネェ、一回してみようよ」


そう言われたとき、思わず自分でも判るくらい間抜けな面をしていた。
イヤ女がそんな事言うか??
道に立つ売り物じゃあるメェし、大体何で俺に言うんだよ。
其処が判らない。

理由如何ではそのまま逃げ出す、イヤ聞こえは悪いが逃げるほかネェだろう。
引き際ってモノくらい俺だって弁えてる。
混乱の最中に投げかけられる問答は俺を更に当惑させて、かつて感じた第六感を恨んだ。


 今眼前にいる女は同じ顔で言う。

「一回したら、変わるかなって思うのよ」



何がどう変わってどうしようって言うんだ。
焼けただれた掌が痛そうで、それを微塵も見せないで大丈夫と言った。
そう、あの時感じたものが今甦る。

暗示させるような既視感が警鐘を鳴らしながら遠ざかる。
眩暈のするようなスピードで。



誰と?
アンタと
俺と??
そうよ??


ココまで十分上手くやって来れたじゃないか。
なんの変化を望むんだ。
今更と言うほども時間も経っていないけれど、。
変化を期待するなら他の奴に当たれと言いたいところだけど、
もしかしてと言う馬鹿馬鹿しい期待があった。
それを実感しているかいないかは別として。


「お前もうちょっとこういうことは考えて物を言えよ。」

吹き出しそうになった口を拭い、冷静さを取り戻すために一口飲もうとしても少し手が震え。
それに自分の期待する予想と期待が的中しているのが見えて溜め息を一つ。
何故と問われて返す言葉が見つからない。
女だから??
俺になんで言うのか??
俺を選んだのはなんで?


イヤならイイよと言う姿がやけにあっさりしていてそれが痛く突き刺さる。



女の顔が変に影に覆われていて、それが自分の物だと言うことに気がついた。
それほどまでに傍にいて、俺はじっと女を見ていた。
相変わらず計略も何も持たぬような顔をしてこっちを見て笑っている。
指先を動かすのにも莫大な労力を消費しながら
一つ一つ後悔とか憤りとか疑問とかを数えては打ち消す。
こめかみのアタリが脈打っていて、瞬きをひととき忘れ。

床に自分の靴音が響いた。

滲むような背景が一瞬で吹き飛ばされて、
女の口唇に噛みついた。




腕をぎこちなく動かしながら、その頬に触れてみた。
柔らかくしっとりとしたその肌は男の物とは違って何時までも触りたくなるような感触。
苦しいのかときどきうん、とか言ってるのを聞いた。
 なんでだろう離したくない。
差し出された舌が柔らかくて、自分の中に入り込みながら滑るように歯の裏を舐めた。

こんな風にキスするんだなぁと妙に冷静で、
他の奴にもこんな風に誘ったりこんな風にしたりするのかなと思うと寂しい。
俺の手にナミの手が重なってそれだけで変な気分になる。
これからこれ以上のことをしようって言うのに一体何考えてるんだろうな、俺は。

酒の所為なのかどうかは判らないが指先は冷たく。
口唇とは真逆。
目を閉じているにもかかわらず、
目蓋の裏が燃えるような橙色に染まって。
それは灯るランプの火。
女の髪の色が残像になっているのかと思った。

変に離れたふたつの席。
その距離がもどかしくて腰を上げた。
口唇を離さぬ儘、立ち上がり覆い被さるように続ける。

薄く目を開けたら気持ちよさそうに目を閉じているナミが相変わらず居て、
選ばれたのが俺でよかったと一人、誰にも聞かせてはならぬ本音を噛んだ。

細い首を左手で触る。
目を閉じていると感触だけで測ることしかできなくて
こんなに頼りない物なんだと言うことを実感させられる。
指の又を流れた髪の毛が嘲笑うように擽りながら、今更と自嘲。
それから背中へと続く曲線。

目を開けて確かめたくて、口唇を離すと頬を紅潮させたナミが相変わらず笑っていた。
俺は笑うことも出来ぬ儘、その肩に額をつけた。
腕を背に回しながらだんだんと、ふたつの身体の狭間に出来た溝のような透き間を埋める。
その身体の線が視覚と感触で確立していく。
息を呑みながら冗談なのにと言われたらどうしようか。
そんな事言うくらいなら初めから言うよ、
けれど多分そのままやっちまいそうだが。


「ネェあっちへ行こうよ」


どのくらいそうしていたのか。
恐らく本の束の間だ。もう少し待って。

 腹を括らせて欲しい。



もしかして、もう遅いのか?




*






俺の身体を少し引き離し、早くと手を引く。
もうちょっと色っぽい誘い方があるだろうに。
大人しくそれに従いながらベッドの一歩手前で緩んだ腕を引っ張って引き寄せる。
こいつの覚悟の程を聞いていない。
もしかして俺をからかってるのかも知れない。
此処まで来たのにまだそんなことを考えている自分が滑稽。

「オイ、止めるなら今だぞ?」

腕の中で窮屈そうにしているナミに言う。
そしたら間髪入れずに一気にシャツを引き上げられて万歳するように命じられた。
俺が自前のシャツを潜り、視界が開け次の瞬間アンタこそと押し倒された。

俺の上に跨りながら邪魔だと足につけていた棍のホルスターを外す。
片足上げてそいつをウチやり、自分で上着を脱いだ。
下から仰ぐその眺め。
上を向いた乳房の形とか、覗き込む顔のいやらしさとか、
俺に覆い被さらんとする身体を支える二本の華奢な腕。

 檻に入れられた猛獣の気分。

今になって躊躇うような真似はできないし、したくない。
ちょっと、と呼んでそのまま胸の上に乗せる。
重みが気持ちいいなんて、初めて思った。

 こういうのってさ、ちょっと照れるね

肩をすくめて笑いながら、ナミが喋るたびに擽る様な息が俺の膚の上を滑った。
同じ人間なのに体温が違う。
ナミの身体は俺より冷たくて、火照っているのは俺だけなのかとひとりごちて。
天井に映る部屋の家具の影をぼんやり見ていた。

途端、首に吸い付かれた。
独りでに身体が跳ねて、思わず腕を緩めると頚ダメ??と意地悪。
ダメじゃネェけどとか言い訳を考えながらじゃいいよねと言う言葉にただ頷いた。
右の頸動脈、それから肩へ。少しずつ身体をずらしながら降りていく。
どこで憶えたんだかしらネェが、一々嫉妬していたら切りがない。
鎖骨の辺りを這っていた舌を想像した。



  翻弄する神経回路、切断される日常。



丁度鎖骨の窪みに下が挿し込まれたとき思わず仰け反った。
それが俺が見せた隙。
喉仏に噛みつかれて、反射的にナミの髪をひっつかんだ。
痛いという声が正気に返らせて、悪ィと手を離す。

女の口が其処を吸い上げるとき、得体の知れない不安が着き纏い。
女の舌が其処を這うとき、それが蛇のように俺の身体に巻き付く。
痛みもなく、苦痛でもなく。
しかしそうされているともう止めてくれと何処か螺旋切られそうな感覚がじんじんと上がる。
息も出来ないくらいで、力加減が効かない。
覆い被さるナミの体重は極軽い物だったけれど
それを突き飛ばしては怪我をさせるなとか変に冷静な事を考えていた。

待てってと臆面もなく叫んで、漸く離してくれたときには其処がじんじんと痛かった。
嬉しそうに笑みを作りながらキスしてきた。
誤魔化されると思うなよ。

 なんか凄く可愛かったんだけど

男に使う言葉じゃネェだろうと辟易しながら顔を隠すモノがないので横を向く。

嬉しいと小さく。
そのまま先刻まで俺を弄んだ口唇は下の方へ落ちていく。
本当はもっと触ったりしたいのに、アタシがしたいからと触ろうとする手を阻む。
どうして好いか判らなくて、じゃぁと南下する頭を撫でながら体を起こす。
膝を立てて柔らかそうな尻を突き出すようにいる姿は卑猥で
どくどくと溜まっていく欲望を肥大させるだけ。

ちょっと待て何する気だ。
ズボンのベルトのバックルが金属音を立てる。
独りでに鳴っているのではなく勿論ナミがそれを外しているのだが。

 「何って。コレ脱がなきゃ出来ないじゃない。」
イヤそりゃそうなんだが。

せっかちねと俺を見上げながらその膨らみを撫でた。
腰を上げさせると引き下ろされる。
想像できる姿は滑稽で思わずそのまま倒れ込んだ。
もう良いからこっちに来いと少し体を起こす。
見遣ると至極ゆっくりな挙作で屈み込むのが見えた。

何やって、そう言う暇も呉れなかった。
一気に脱力と昂ぶりが交互に襲う。





 ちょっと待て、そんなことしなくて好い。

 なんで?

俺の切っ先から流れ出る液が糸を引く。
ナミの舌先と繋がれてぷつりと切れた。

理由?
始めた理由が理由だろう。
一回やって見ようだなんて簡単な理由の癖してそんなことまでやり義理はネェだろう。
まともに考える神経がナミが与えてくれるそれの所為で分断され。
させてと言われて、よせと引き離そうとしたのだけど
眩むような恍惚が邪魔をするなと俺を押しとどめた。

 汚ネェから止めろって



どこにおいていいか判らぬ手をその頭に置いて、頼むからと願った。
聞き入れられぬまま、ナミは俺のそれを頻りに啜り続けた。
頼りどころのない爪先がシーツを蹴り、
どこを掴むことも出来ない指先が髪の毛をまさぐり、
何か耳につくと思ったら自分の呼吸だ。
粘着質の音が部屋に響く。
鼓膜の中、反響させて悪寒に似たひとすじの電流がざわざわと発信される。
何がなんでも早すぎるだろうと上り来たる開放を臨む。

怠惰な自己神経、摩擦されて隔たりが無くなる感触。
まるで自分の一部が切り取られてしまい、神経を直に触られているような。
諾々という心臓の音。

あぁと女のように細く呻いた。
目の奥に沈んだ点滅信号は発信を終える。
口唇が厭に乾いて、喉のが貼り付く。

女はどうしようといった顔だった。
だしちまえと言う前に口唇から零れた。
背中がはぜて、咳き込みながらさすって傍にあった水差しに水を注ぐ。
差し出したタンブラを受け取り飲み干した。
動く喉元。
その奥に流し込まれた、おぞましい。



何もしていない癖に息が切れて背中で息を吐く。
厭な汗が流れ落ちて、どうしていいか判らぬ次を模索しようにも
目の前で目を潤ませている女が酷くいじらしく見えた。

あぁなんでお前はそんなことを。


「ゴメンね、飲めなかった」


謝る理由が判らない。
頻りに口唇の回りを隠しながら俺の方を見ようとはしない。
「なんで謝る?」
そんなモノ普通口にするものじゃない。手に触れることでさえ厭う。
気味が悪いし汚れている。それなのに。


「飲めるよ、だって、あたしの好きな男のだもん。」







俺の乾いた舌が空気に触れた。

口唇を。



手を伸ばす。
驚くほど緩やかに、しかし逃すはずもなく。
数センチ先にある其奴の口唇に指先が触れた。
それに手繰られるように重心が動き、
漸く捕らえた其処はナミの唾液なのか、
それとも俺の物なのか。
じっとりと濡れていて、構うことなく其処に口唇をつける。

女の身体から昇る濃度のある匂い。
口の中にある微かな苦み。
触れているだけの口唇がもどかしかったがそれ以上を知らないことが今は悔しい。

 どれだけの「外」を知ってるんだよ

触れたそこから舌が入り込む。
先刻と同じように絡め取られて強く吸われて、触れた先だけが痺れる。
俺の手は無様に下に降ろされてるだけ。お前は既に俺の銃身を捕らえてる。


あぁ醜い。酷ぇ面だきっと。


舌打ちしながら緩慢な手つきでそれをやってのけたナミとは対照的に
半ば乱暴に引き寄せスカートのジッパーを引き下ろし、膝の上に載せながらそいつを放る。
陽に灼けていないところは意外に白くて、黒い下着が映えた。
そのままホックを外し肩紐を降ろすと、柔らかそうな乳房が目の前にあった。

「吸って」


自分の片乳房を支えながら目の前に差し出す。
膝上に乗られながら舌禍にその先端を収めるように含んだ。
脱力したような声が小刻みに上がる。

「歯、たてないで」

粘膜の上でころがして先刻の仕返し。
見上げるその様は火のついた身体を煽る。
もっとと喉の奥だけで返事をし、上手と言われれば目を伏せ続けた。

こっちも触ってとナミの背を支えていた手とは逆の手を取られた。
持って行かれたその先。

下着の向こう側を想像した。
既に指先は濡れ、跡が残っている。
目線で問うと頬を赤らめていた。
でも絶対に視線は外さない。
命令されているよう。


「はやく、触って」



下着にてをかけ、片足ずつ引き抜いた。
自分とは違う柔らかそうな膚の上に微かな翳り。
軽くひらいた脚の間隔。
その奥。



指先を滑らせた。
喉が鳴った。
音もなく流れ滴る、水。
掌の窪みに溜まり、温かく濡らす。
どこを触ればいいのかなど判らない。
小さな切っ先があるだけで、定まりどころもない。
中指を推し進めると痛いと云う。


「知らないの?」

低く枯れた声。
艶めいて蹌踉めく。

「何を?」

判って聞いたわけではなく。
喉の奥から漏れ出る声がもう少し聞きたかっただけ。


「女の悦ばせ方。」


知らないと云った。
目の前に差し出された身体の前にプライドは無力。
そういうモノを蹴散らしながら教えてくれと願う。




此処。



誘導灯が灯る目。
明晰な発音で響く声。
導かれた先、先刻まで触ってた場所。

 此処がアタシ、一番感じるところ。

俺の指を誘導しながら自分で触る。
粘液で繋がれた二者の指先。





「覚えて」





ナミの爪が俺の指の背にあたる。
強く、弱く。
半ば覆い被さるように俺の肩に凭れ、嗚呼と啼く。

 アンタのコレと、一緒。

先刻果てた其奴を空いた手で触り、また扱く。
大凡、いつもの此奴からは考えられない。
見ているのは俺だけ。
焦るような気持ちに後押しされて、ナミの手を払うように其処を強く触る。

 ダメ、痛いから。

悪いと謝りながらも、そんな事思っていない。
逝かせてみたい。
此奴がどんな顔をして其処へ到達するのか。


濡れてきてる?

 手首まで来てる。

嘘。

 嘘じゃネェし。


自噴するそれが俺の手によるものなのかは判らぬ。
ただ、先刻俺が与えられた興奮と快楽の波によく似たものは
ナミの中で競り上がってきていることだけが判る。
同様に俺の中にも。


時を忘れる。
時間軸があやふや。
どのくらいこうしているのか判らない。
ナミの啼く声が頭の中で反射し蓄積され、
憶えた事を繰り返し、繰り返し。



左手で背中を捕まえる。
逃げたりするなよ、見てぇんだ。

やたらと喉が渇く。
重なり合う鼓動が連鎖反応で早まって。
見たこともない顔を晒しながら俺の手に翻弄される。
コレはきっと本能。
でなければ一体なんだ、女のあやし方。
知りもしなかったのに、次を判っている。


「なぁ、こっちは?」

崩れ落ちそうに柔らかくなった奥に開いた。
今にも割れそうな声を鎮めさせ、女は苦しそうに笑った。
舌を差し出し、口唇を重ね、奥へ奥へと入り込もうとする。
限界は知れているのに貪る。

 アンタのコレ、挿れンのよ

濡れた口唇の上に掛かる吐息。
視線に絡め取られるよう俺は動けない。


こうやって。


膝を跨ぐ。
肩に手をかけゆっくり沈む。
自分で持ってってよとドライに云い、緩やかに膝を滑らせて呑み込む。
首に手を回し強く右耳をかむ。
脚の爪先、毛細血管に至るまで一気に血液が流れ込みその在処が明確に呈示。
繋がっている様が見て取れる。




どんなカンジ?



自分から腰を振り、俺に尋ねた。
聞くなよ、情けネェ事に声もでねぇ。

「何が?」

絞り出したのは吐息。
柔らかな尻が腿にあたる。
それを掴むと膚の上にじっとりと汗を掻いている。
イヤ、俺の掌か。

動かしたいと思っても痺れる快感が体の自由を許さず、
絶え間なく与えられるからどうにも出来ない。



中。



温かく、締め付けるそこはどうなっているのか。
滑らかに蠢く内側、茫洋とする脳内。
声も出せないほど脊髄から沸き上がる。
快楽というなではなく、最早痛みに近い。
極限まで薄められた苦痛が体内に残留して、すり替わるのを待っている。


熱い。


指先とは温度が違う俺の杭を打ち込んでも、感じ取れるほど体内温度は上昇。
外の膚は汗が冷えて冷たいというのに覚めることを知らぬ夢のようにさがらぬ儘灼く。
じりじりと焦がす視線と繋がる場所。
手淫とは次元が違う。きっと満たされるというのはこういうことだ。



「外には。」



狭い。
どこへ続くのか、この道。
暗く暗くとどかぬ場所へ行けるのか、
或いは其処へ辿り着ける事は可能か。
いつの間にか両腕でナミの道を持ち上げ揺すり動かしていた。
逝かせて欲しい。
この中で逝ってみたい。

先刻与えられたあの到達点がちらつきながらもう少しと身体が戦慄く。









ネェ一回だけ?
逃がしたりしない。
そんな顔するなんて思っても見なかったし考えもしなかった。
見せる相手は俺だけにしとけよ。


 お前が云うなら変わってやる。



喉の奥に未だ残る言いかけた言葉を呑み込んで
そんなこと言えるくらいなら初めからそうしてると自嘲
危ういバランス、保ちながら乗り切れればいいと迂闊な考え
振動に身体啼かせてこの繋がりを心だと勘違いしてたらきっと足許すくわれる。
疑念と誘惑に充ち満ちたお前を誰かに渡す気なんてもう無い。
衝動と言えば聞こえは好いがきっと喩えようもないほど溺愛。
升目に合わせて切り取って、精算できないコレが顛末。

end


「溺愛ロジック」廻ってたのはこの話を書くのにずっとCDかけてたから。
書くときは無音なんですがカーステがずっとコレ一曲なんだよね・・・(笑)
だってマキしシングルってねぇ・・・・・・・
このもとネタは古く一年以上前
某サイトマスター様とロム専時代chatをさせていただいて
そのとき「ナミさんに教えて貰うゾロって好いよね」とネタを振ったのです。
因みになんで前編だけ先にupさせて後編を2にしなかったかって云うと
冒頭とラストが被っているから
どうか一息に読んでください、苦い薬を飲み干すときのように。

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