love or lust
気がつくのが遅すぎた
見えぬものに気を取られすぎて
直ぐ傍のものに気がつかない

そう、遅すぎた

1

誰でもよかった
飢えた身体が欲するならば与える迄。
ココは船の上、逃げ場のない欲望と此の身の上。

まだ名前すら知らない、その男についていく。
薄闇の中に躍る金髪。外回りの階段を上り手を引かれた。
階下のレストランで流れる音楽が遠くになる。



 こっちにおいでよ、静かなところで話そうよ。



きっとそれは男にとって常套句。
こうやってどれほどの女を同じベットに上げたんだろう。


自室と思われる部屋のドアノブを回す。
大きなベッドと小さなテーブル。その上に巻き煙草の包み。
ソファはなかった。
柔らかなラグの感触を感じながらベッドに腰掛ける。
一つ開けるねと、ハーフボトルのワインを手に取る。
大きな窓からは直ぐ傍に停泊している船が見えた。
メインマストの見張り台は真横にある。


はいとグラスを渡される。
小さくお礼を言って一口呑んだ。
そのまま男は直ぐ傍に座った。
私の隙でも伺っているのか、こっちを見ながら注いだワインも飲まない。
グラスから口唇を離したとき、ネェと言う。
振り向くと、顎を掴まれてキスされた。

驚く素振りくらい見せた方がかわいげがあるだろうか。
でもなんにも感じなかった。


「なんて名前?」



 ナミ




銜え煙草の侭、笑う。
煙が螺旋を描きながら立ち上る。
私はそれをただみていた。

俺はサンジ。


「キレぇな目だね。」

額にかかる前髪をその長い指が払う。
視界に入っている男は笑っていた。


「なんで、俺についてきたの?」


 
いけない?




名前すら知らぬ男に抱かれるのは初めてじゃない。
それが己が身を守る手段の一つだったことは過去に何度もあった。
けれど、自分から男が欲しくなったのはコレが初めてだった。

 何故?
 理由?


口唇を塞がれながら醒めたことを考えた。
男は手際がよかった。直ぐ傍に一つだけ点いたランプを手探りで消す。
慣れたものだ。
闇の中、星明かりだけの闇の中。
これならばあの忌まわしい刻印も見えまい。
イヤ、見えたところでどうこうしようとする気も無かろう。
私たちはただの行きずり。


恋なんかじゃなくて
ましてや愛なんかじゃなくて
欲望の権化。




開け放たれた大きな窓。
そこから見える船の影。
目線の上にある見張り台。
誰かの気配を感じる。
あの人なら、すぐに降りて。
見たくなくて、考えたくもなくて。

 目を閉じた。





目蓋の裏に極彩色のネオンが浮かぶ。
男の吸った煙草の匂い。
口唇の上から、その内側へ侵入する。
男はキスが巧かった。湿らせた口唇が滑り、柔らかな舌が動く。
その先端が私の舌先を掠め、巻き取って、強く。

 髪の毛を弄ぶ左手。

シャツを捲る、私には危機感。


「窓、しめて。」

何故と僅か一センチ離れた口唇が問う。
右手はシャツの裾に掛けられたまま、私はその手を振り払う。
音もなく夜風にはためくそのドレーヴ。
少し首を傾げて嗤い、カーテンを閉めた。
ファンだけじゃ暑いからねと天井を指さし、面倒くさそうにジャケットを脱いだ。
椅子の背にそれを掛け、再び口唇を合わせた。

軽く開けられた口唇の内側に入り込む度、別の男の姿がちらつく。
それが誰なのかは私にも判らない。
ただ、渇いている心は醒めたまま冷えて。

タイの結び目を解き、シャツの釦をもどかしく外す。
男も同様に私のシャツを脱がせた。

 衝動が治まらない。
一気に畳みかけながら、私たちはそのまま倒れ伏す。




邪魔っけな服をぜんぶ剥いで、軽く立てた脚の間にその身体が沈んだ。
無言の儘鼻先で髪の毛をかき分け、軽く首に噛みつく。
その力加減も慣れたもので遊び相手には丁度好い。
細い髪の毛が私の肌の上を這い、同様にその掌も。
乳房を壊れ物のように扱うかと思いきや時折強く力が入る。
その先端を甘咬みされながら息と一緒に声が漏れた。

「好いの?」

うんと頷き、それは光栄。
優しく喋る低い声が肩をくすぐる。

お腹にあたる長く堅いものが煩しい。
早くそれを挿れてよ。

もう、窓の外は気にならない。
気配は消えていた。



堅い手だ。
男の手だ。
持ち主の名はサンジという。
それしか知らない。
でもイイ。

鎖骨の窪み、そこから指先とその腹を遊ばせながら南下する。
彷徨いながら行き先を探している。
でも行き着く先は知れていた。

「アンタの肌、気持ちいいね。」
ナミさんこそ、お腹の上に片耳をあててどこを触るでもなく彷徨う手は密か。
体温が気持ちがよかった。
虚ろな空洞は未だ満たせないけれど。
何も考えなくていいから。


少しの間、だけで好いのよ。
こうしていてくれるだけで埋められる気がするのよ。
赦されないと知ってはいるけれど。



 彷徨う手は音もさせず忍び、割り込む。

その背中が私の左足を押さえているから脚を閉じることも出来ない。
水音が天井に回るファンで攪拌される。
私の中から流れ出すオイルはきっと彼の手を汚している。
焦れったく内腿に口唇を這わせ、間接、皮膚の薄いところ、選んで舌先で縁取る。
その度に私の脚は痙攣にも似た症状を訴えながら、
息も絶え絶えに発作を押さえるのがやっと。

波に翻弄されながら、体を起こそうとした瞬間一気に突き立てられる。
ぎしぎし軋む音はベッドじゃなく、私の脳髄が悲鳴を上げているのだと判ったのは彼の指がスピードを上げ始めた頃だった。

無意識のうちに身体がずり上がる。
逃がすまいと男は腕に力を入れるけれど、私はその肩を自由な右足で踏みつけた。
けれど、足首を取られて肩に担がれた。
剥き出しの其処には彼の左手が潜り込んで蠢いている。

頭上遙か上にある乱れた髪の毛。
振り乱しながら、自分で触ってみなよと右手で誘導した。
その手が私のクレヴァスを割り入って居るのが判った。
確かに彼と私はいまここで繋がっている。

こっちを触ってとその深い穴手前、
べとついた小さなスウィッチを自分で探し出し懇願した。

「自分で触って、逝ってみてよ」

男はゆっくり手を引き、私を起こして座らせた。
倒れてしまわないように、頭を肩に寄り掛からせて
左手で腰を抱きながら逝きたいだろと頬ずりする。
彼は私の右手を取り、人差し指から一本ずつしゃぶった。
指間接に這う舌。
身体が啼いた。

「濡らしたから、痛くネェよ。」




私は左手で其処を広げた。
右手の人差し指と中指でゆっくりと触れる。
男と私の間に出来た奇妙な空洞。
男はその谷間を見ていた。
初めて人に見られながら半ば自発的に始めた自慰は、誰を思っているのか判らなくなる。


「声、立てねぇンだ。」


目を閉じているけれど、彼の視線はよく分かる。
時折髪を撫で、私が振ろうとする腰を押さえつける。
駄目だよと階下でサーヴするときに使う優しい声で。




触れたらもう溶けていた。
滑る指先がもどかしく早く私の持つ虚に挿れて欲しい。


「どんなこと考えてンの?」


考えてなんか居ない。
快楽に溺れるばかりで、いま一時のことしか思っちゃいない。
切り取られた心象の側面には、私の哀れな身の上など微塵も影を落としてはいない。
刹那のぬるま湯に身を浸すだけ。

「早く」

それだけ言って突き上げる男の其処に身を沈めようと手を掛けた。
待ってとベッドと壁の間に手を入れ小さな箱を取る。
開封してあるそれの中には幾つも折り畳まれた包みが見えた。

 手ェ、休めないでね。

私の遊ぶ手を再び押しつける。
男はそれを楽しそうに見ながら、器用に片手で着けた。


「自分で、広げて」


暗闇に目は馴れ、
私の指の動きに慣れた其処。
あっけないほど開かれて無粋な音を立てて奥まで呑み込む。

お腹の奥から爪先、脳髄の果て、零コンマ一秒にも満たぬ内、
激昂のよう血流が泡を立てて逆流するようだ。
思考も何もかも遮断されて。

本当は誰のことを考えていただとか
何故声を上げたくないだとか
すぐ傍のマストの天辺、気配が気になっているだとか
このゆきづりの男のことだとか。

褪めた気持ちを繰り返す余地すら失う。
喘ぐ暇も与えてくれないその動きと彼の腕の中は
確かに後ろめたさは感じるけれども居心地がよくて。

ココロも、カラダも、その内側も。
垣間見えて触れた気になっているそのものに、私は確かに一瞬焦がれた。

烈しく掘削を繰り返すそれが掻き回すのは私の内面全てだった。




名を呼びたかった。

 「だれの?」


口に出しては恐らく負けだ。
そういう勝敗を気にする位のものはきっと下らないと思うけれど。
口に出すことを厭いながらも内側で烈しく喘ぐ私が居た。
錯覚であって欲しいと思うのだけど、それすら否定する自分が居た。

眩暈のような酩酊感を感じながら、
上か下かも判らなくなりながら。
矛盾だらけの私を呪う。
忘れるためにもっとと喘いだ。

膝裏を抱えられて、深く押し込められる度、
男の髪の毛がすぐ傍まで降りてきて煙草の移り香が疎ましく漂う。
それを肺に目一杯吸い込んだら、あなたのことを好きになれるかしら?


 そんなこと露ほども思っちゃいない癖に。


早く逝かせてと頼んだら自分で逝きなよと空を遊ぶ手を捕まえられた。
繋がり合うすぐ傍、彼のものに時折擦られて充血しきっている。

「アンタが逝ったら、俺も逝くから」




自らの其処を触るという事自体抵抗があるというのに、
何故私は言いなりなんだろう。
いまは矛盾の塊で、それに理由を付けて正当化することも出来ない

男が押し広げる其処を触ると感覚だけで判別づく。
不気味なほど銜えている自分の鍵穴が淫らにこじ開けられていた。
アンタの中、物凄く狭いと苦しげな笑みを浮かべると更に強く奥へ。

アタシは目を閉じ、声を殺して逝くことだけ考えた。
抱えられていた脚が痙攣しながらこめかみのあたりを突き抜ける感触を何度も感じた。



 でも乾いた何かが満たされなければ







挿し込む鍵の持ち主はゴメンと謝り、最期の声を上げた。
どくどくと脈打ってそれが共鳴しているかに思えた。
彼の心臓、私の良心。
流れ出すミルク。













マッチを擦る音がした。
点火する際の独特の匂いと音が日常を取り戻させる。
ベッドに俯せながらその背中をみている。
着痩せする身体は、服の上からは上手に隠されていた。
堅い感触と指遣い。闇の中に色白の男の背が浮かんでいる。

「帰るわ。」

朦朧とする頭を持ち上げ、
床に散らばる服を一つ一つ拾い上げては身に着ける。
止めてあげるよと、ブラジャーのホックを銜え煙草の侭、留める。
礼も言わなかった。
シャツを着ようとする私にシャワーはと問う。

「要らないわ」

帰りがけに煙草を一本貰った。
銜え煙草の火を移す。

好い夢をとキスして。





火照った芯は相変わらず疼いたまま。
何度逝かされても心だけは渇いていた。
白いシーツの海に溺れようが、
何をしようが満たせぬのは恐らく男の所為ではないだろう。
優しかろうが、乱暴だろうが、同じだ。
ブーツの踵が階段を叩く。
耳に痛い。
明日もきっと晴れる。
悲しいほど、晴れ上がる。

此の気持ちも知らないで、間もなく消える私の気も知らないで。

continued


えーっと・・・・・・何が初めてにしようかと色々考えておりましてね、
取りあえずこのシリーズ自体がゾロとナミの初めて話に続くんですが、
「こんな始まり方もあるだろう」とかそういうカンジなのね。
本当はルナゾでやりたかった・・・・・・・・
まぁそれは追々。

でこの話のコンセプトはナミさん初めて一人で出来るモン

うわー・・・・・・・・・引かれそうだなぁおい。

please close this window

inserted by FC2 system