「暗くなるまで待って」
何も信じない。
いえ、それは期待と同じこと

ここに来て、
今来て、
今すぐ抱いて

ねぇ。


痛々しく泣いていて、
自分とは全く違う細いからだから、
そんなに血を流しては死んでしまうんじゃないかと
莫迦々々しくもおもった。


「助けて」

そんな風に言われたことなんか、
ましてや涙を見せて懇願されたことなんて今まで一度もなかった。
いつだって人を馬鹿にして見下ろす意地悪な顔しか見たことがなかった。
そんなお前は知らない。

けれど、キャプテン、あんたは知ってたって言うのか。
あんなに儚く美しいその存在。


掛け値なしで信頼する事が、俺にはできなかった。
一瞬疑った。

 それこそが、裏切り。




少し寝てくると側でナンパし続けている最近入ったコックに告げた。
聞いているのか聞いていないのか、それとも聞く気なんて更々ないのか、

こちらにも、どうでもいいことだった。

それは口実。


どこまで行っても宴が続くこの場から離れたかった。
変に切り取られた疎外感を感じながら飲む、自制した酒ほどまずい物はない。
一本その辺にあった安ボトルを掴んで、歩き始めた。
だんだんと宴の声は小さくなり、とうとう島の縁まで来た。
見慣れた船首。
ここで良いと、陸を離れ船に降りる。








開きっぱなしの船室のドア。
何度か足を運んだことのある部屋。
こんな風に、そう、こんな風に呼ばれていくのだ。


しかし、もう呼ばれることはないのかもしれぬ。
期待してはいけない。
誰かから受ける期待は熱望に変換されてしまう。
そうなってはだめ。

今や、主のいない船室に降りる。
古い船でもないのに、何故か階段の3段目が軋むだとか、
そんな他愛のないことを考えていた。

見慣れた部屋。
もう、何もない部屋。
覚悟を決めていたのだと、そう思わせる足跡すらかきけされた部屋。

ただ、かすかに残った香水の香り。
名など知らぬ。
だが、群衆に紛れ、ふとしてあたりから香るのならば、
きっと探すのだろう。
 これは、ナミの香り。

香りだけが置き去り。





疵が開いたのだと思った。
胸が急にいたくなって、同時に喉の奥から何かせり上げてくるものがあった。
こんな衝動がこんなものの為にわき上がるとは思っても見なかった。


床に膝付きベットに突っ伏した。
夜ごと重ねた情事の抜け殻。
まだそこにいるような気配すらさせる錯覚。
シーツにしみこんだ、ナミの匂い。
この体に満たしたいと、何故、今、切に思うのか。



ねぇ。



ここに来て




今来て




今すぐ抱いて。






死んだ方がましだと謳いながら、すぐ後別の所にココロは奪われ、二人の女の間で宙ぶらり。
野望とは別の、約束とも呼べぬ代物に雁字搦め。
あの、朦朧とした意識の中で聞いた
「あたしと一緒に死んで。」
あぁ、それもいい。
でも、同時に、もっといいところへ行こうと、
自分を立ち上がらせたあの、心を奮い立たせた物はいったいなんだ。

今でも解らぬ。



あの、宴から逃げ出した理由。
 自分でもよくわかってた。
どこにもいないその姿を常に探し、平静を装いながら逃げ出した。

ここに来て、

早く来て、

今すぐ抱いて。


それから、キスして。


身を焦がす炎の名。それには気づかぬように自分を誤魔化す。
部屋に残る香りを肺に満たした。
酩酊感にも似た、けれど全く別の陶酔。


来て。

 いや、来ない。

ここに来て。



 いや。



突然、外で堅く足音が響いた。

思わず身構える。背中が僅かに凍えた。
同時にくすぶっていた炎が、熾火の如く風に煽られ赤く濁った。



その姿を見せて。



  階段を下りる音。



その声を聞かせて。



  濃くなる部屋の香りの蜜度。




「なにしてんの?」



その姿を眼前にしたとき、

  血が沸いた。








「何、ユーレーでも見たような顔して。」
幽霊にびびるような奴じゃないか、と笑って言う。
「何しに、来た。」
見てわかんないの?と言わんばかりに両手に持った数冊の本。
置きに来ただけよ、うっすらほこりの積もった机に置いた。

「何、あんた飲んでんの?」
ベットの脇に置いたボトルに目を付けられて、ひょいと奪われた。
大傷なのに、知らないわよー、そういいながら、瓶の口を拭いもしないで煽った。
「返せよ。」
幾ら暗いと言っても夜目は利く。
顔を見られたくなかった。
その出現に狼狽している自分が間抜けで、恥ずかしくて溜まらなかった。

「耳の後ろ」
背けた横顔を見られ、不意に首を倒された。
「血が跳んでる。」
「どこだ。」




待って。




いきなり背筋を這い上がる悪寒に似た何か。
自分の耳を這う物が、濡れた舌だと気が付いたのは遅すぎた。


どこから湧き出たのか知らないが、脈動の音すら聞こえるようだ。

「大人しくしてよ、とってあげるから。」

微かに漏れ聞こえるナミの息遣い。聞き慣れていたはずのその呼吸音。
柄にもなく身体が強張る。

軽く耳を甘噛みされて、そのたび腰の辺りから這い上がってくるもの。
足の裏の網細血管までもが認識されそうなくらい。
自分の熱で干上がりそうだ。


身体が欲しいと望んでいた。
他人の熱が欲しくて泣いた。
でも、見ず知らずの者ではいやだと。
では誰かと問われれば、応える術もない。

どこからくる熱なのか。
傷の為?
匂いの所為?


或る病。


だんだんとぼやけてくる。倫理。感傷。真似事。
もうどうでも良くなった。
この疵がもう一度開いて、血が吹き出ようが、引き攣れようが、
或いはこの恐ろしく間抜けな面をこの女に見られようが、好かった。

首を捻って、その口唇に寄せた。何の抵抗もなく俺に対して開かれたゲート。
陽に焼けた肌が熱い。暗闇の中、同時に目を閉じた。

柔らかな口唇を感じた。
首に回された腕の重さを感じた。
だんだんとのし掛かるその体重を感じた。
微かに上げた声を聞く。


今俺の中に充満するものと同じかおり。
それは。

あれほど、恋焦がれた。

next


妄想大爆発。
これ、仕事帰りに思いついた話。
疲れてたんだな。
妄想逃避症候群.....
これ実は元ネタがあります。しかもすごいお堅い文学作品。
日文の学生が課題図書とかで無理矢理読まされるようなお堅い小説、の一節。をふと思い出した。
わかる人いないだろうな。
あたしもタイトル思い出すのに1週間くらいかかったし。
これ続かせていただきます。でもこれ以上は表じゃかけんな。
裏行き決定ー!!(暫定)
なんつーか、裏小説しか書いてないじゃん。最近も何もないけどさぁ。
だから友人達に官能小説作家とか馬鹿にされんだYOー!!
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