事情
信じるくらい いいだろう
他に 何が出来る?
何を頼って 想えばいい?

信じるくらい いいだろう
最善策なんて思いつかないし
もしあのときなんて、考えたって無駄だし

信じるくらい いいだろう
例え 誰かのものだって

信じるくらい 信じるくらい

お前の言う事情ってどんな事情だよ。


真夜中。見張り台。
「おい、交代だ。」
足元で眠っている男の脇腹を小突いた。
「何だ、もうそんな時間か?」
この海賊団に入って間もないが、本当に四六時中寝てる。
よく昼も夜も眠れるなと、むしろ羨ましく思った。
「・・・幸せだね、お前。」
小声で呟き、ロープの拙い足場から、見張り台に移る。
「見張りが寝てちゃ意味ねぇだろ。」
こんな、明るい月夜に襲撃する馬鹿な海賊もいはしまいが、サンジは毒づいた。
「黙っててやるからちょっと付き合え。」
「何にだよ。」
寝起きの目を擦りながら、その手中にあるものに一瞥をくれると
まぁ、イイが、と機嫌をよくした。


ぬるいウィスキーを嘗めながら、サンジは問う。
「お前の言う事情ってどんな事情だよ。」
ゾロは瓶に口を付けて、サンジを睨む。
「何の話だ。」
「忘れたのか。」
「何をだよ。」
「つい、七日前の話だ。ココヤシ村で言ったろお前。」
記憶を逡巡しているのか目は明後日の方向。
「言ったか?」
「言った!!」

そうだったか、ととぼけた。
本当におぼえて無いのかも知れない。


押し問答していてもらちが開かないと思ったのかもう少し補足する。
「ナミさんが長っ鼻を殺した何だの言ってたときに
 ”何の事情もしらねぇお前が出しゃばるなっ”ったろ。」
「言ったか?」
「言った!!」

何度も同じコトを繰り返す。仕舞いには、声が殺気だっている。
その後死んだはずの長っ鼻を二人で殺っちまったろ。

「アー言った言った・・・様な気がする。」
「アノ事情って何だよ。」
関係ねぇだろ。、吐き捨てられた。そんな話ならおりゃねる。
見張り台から降りようと腰を上げた。
「明日の、」
明らかに不機嫌な低い声。
「は?」
「明日から飯抜きでもイイなら寝ろ。」
付き合えよ。

苦笑いの、末、渋々腰を据えた。

「言えよ。」

「なにを。」

「事情。」

「ありゃお前、お前らが来る前にアノ女に会ったんだよ。」
「何かあったろ。」
しつこい。
話を切り上げようとすると、堂々巡りになるのは目に見えている。
観念したのか口を続けた。

「アノ魚の大ボスが、
親の死すら忘れることが出来る魔女云々
って言ってたからよ、まぁなんか事情があるんだろうと思って、
手足縛られたまま海に身を投げた。」
「は?」
どこから声を出しているのか、間抜けな声。
何言ってるんだこいつ、と言うように、口が開いている。
呆れられてるのが判っているのか判ってないのか。

「そしたらアノ女、何考えてるか知らねぇが助け上げやがったんだ。
 だから、小物無勢が粋がるなって発破かけたら、
傷ントコ思いっきり踏みつけやがって、
泣かせてやろうかと思ったぜ。」

もうイイだろ、こんな話に付き合う義理はないと言うように、ウィスキーの瓶を一気に空けた。
「まだだ。」
立ち上がろうとしたところを、膝裏を突いて、座らせる。
なにしやがんだ、と前のめりになったところで、声が飛ぶ。
「まだだっつってんだよ。」
煙草に火をつけ、睨んだ。
「でもお前、アノ傷で海に入ったのか。」
オウ、と面倒くさそうに返事をした。
「お前あんときなんつった、アノ女放とっけっていっただろ。」

「船長命令じゃあな、仕方がねぇよ。」
「追いかけたのもか?」
無言で頷く。

仕方がないと取り敢えず諦めて、話題を変えた。
「じゃぁさ」
一瞬迷った。言おうか、言うまいか。
やっぱり、言うことにした。どうしたって膿は出さなきゃならない。
いま言う方が、好い。

「どうしてお前ら気づいてやれなかったんだよ。
ずっと一緒に居たんだろ。」

怒り出すかと思った。
返事を待つ。
「じゃ、お前なら気づいてやったのか?」

逆に問われる。
下から睨む眼。。
お前にそんなこと言われる筋合いはねぇというように、威嚇。
そんなものに怯むわけがない。

「ああ。」
自信たっぷりに言う。
「憶測で物言うんじゃねぇ。
いつもあんなに楽しそうだったのにか?
そんなもの解るか、結果論で偉そうに説教してんじゃねぇよ。」

「それにだ、」
わざわざ、言葉を切った。
「助けなんか要らないと思ってる人間にとっちゃ、
俺達なんか煩わしいもの以外の何者でもねぇだろ。」
狭い見張り台で、何で男二人でこんなに小さくなって喋ってんだか。
ほとほとイヤそうな顔。
でもまだサンジは離さない。
「それでも、だ。」
不機嫌を絵に描いたような顔に抗議するように、音を立ててグラスを置いた。
「なにかしてやりてぇと思うだろ。」

「じゃあ仮にそう解ったとして、
その理由云々を知って、
あいつに何をしてやれたってんだよ。」
苛々した声。
「慰めてやればいいのか、
優しい声でよくやった、後は俺達が何とかしてやるって、
そんなことが言えるのか。
八年だぞ。
そんな長い間、たった独りで積み上げてきたのに、
それを根こそぎ否定するようなやり方がお前には出来るのか。」

珍しく口数が多い。喋らせてるのは自分なのに、ウルセェと思う。
それよりも、こんなに激昂するとは思わなかった。

「気づかせるわけ、ねぇだろ。」

 そういう女。どんなに痛くても痛いと言わない。
 本当のことなんか、一度も聞いたことがない。




こいつ、自覚がねぇのか?

煙草の灰が長くなって床に落ちた。
一口吸う。
「でも、ほっとしたろ。あんとき。」
「何が。」
「ルフィが”追いかけろっ”て言ったとき。」

顔色が変わった?
いや、雲が月を隠したから。
顔の陰影は濃くなるばかりで、顔色なんてわかりゃしない。

「バカ言え。」

カマを掛けたつもりだったのに、呆気なく否定。
イヤ、どこか違う方を向いたから、これは肯定。

「お前、さ、あんまり欲しい欲しいっていわねぇじゃねぇか。
 クールぶりやがって。」
そっくり返すぜ、と吸いかけの煙草をひったくられる。
慣れたかんじで、ふっと煙を吐く。

「いらねぇつんなら貰うぜ。」

煙が風になびく。
心がざわめくのは満月の所為か。
お互い平静を装いながら、
動揺は月に照らされ儚い影を作る。


「お前なんかに、」

最初に口火を切ったのは、ゾロ。

「あぁ。」

低い声、微かに緊張した呼吸。

「お前なんかの、手に負えるか。」

真っ向から勝負を挑んできたのかと思った。
いや、そうではない。
その眼は俺を見てる?

 見てない?

「俺も、お前も、眼中なんかにゃねぇだろうよ。
見てるのはあの船長だけだ。」

これがこいつの引け目か。
諦めているのか。

 それとも、ハナから勝とうなんて思っちゃいねぇのか。

「わかんねぇぜ、恋は盲目っていうしな。」
 バカが、使い方間違ってんぞ。
鼻であしらい、軽く笑われる。

「バカは、お前だ、ラブコック。
 闇ん中、ほっぽりだされて泣いてたあいつを掬いあげたのはオレ達じゃねぇ。
 オレじゃぁ、あいつに何の言葉も掛けてやれねぇし。」

これは懺悔か。
それじゃ、オレは教誨師?
気づいてやれなかった自分への言い訳?

「降りかかる火の粉を払うことくれぇしか、能がねぇのさ。」
奪った煙草をもう一口。
煙が目に滲みて、涙が出る。

「じゃ、そんな女のために何で殺り合おうとしたんだよ。」
奪われた煙草の奪回は諦めて新しいのに火をつけた。
「どんな剣士にも、」
視線を巡らせる。
「負けるわけにはいかねぇっていう理由は受付ねぇぞ。」
わざわざ先回りして用意した答えを奪った。
それに遮られ、困ったように頭を掻いた。
何でこんなコト言わなきゃならねぇんだと不満たらたらの顔で。
「信じるくらい、好いだろう。」
誰にも聞かせたくない口振りだった。

「それだけじゃ、ねぇだろ」
まだあるはず。
あんなにイカれてるこいつなら、
もっと他に理由があってもおかしくない
誰にも言うなと、前置き。

「命を、」

「命を預けてくれるなら、等しく掛けてもいいと思った。
この身体くらい、そう望むなら差しだしても悪い話じゃねぇ。」

”あたしと一緒に死んで”

そういわれたとき、確かに、身体の奥で、血が燃えた。

 殺し文句。

「お前さぁ、自覚がねぇのか。」
何のだよ、またその話かといい加減うんざりしている。

きっと自覚なんて無いんだろうと、心中で溜息を吐いた。
ウンザリするのはこっちの方だ、そういわんばかりに。
自覚があるならこんな恥ずかしいこと、言えないだろう。
少なくともともオレなら言わない。
それとも少し酔っているのか。
そんなはず無い。
自分がグラス一杯開ける間に、一瓶開けてもけろりとした顔をしてるのに。
この男がこれしきの量でこんなに口の滑りがよくなるわけがない。

「お前、それ。」
言い澱んだ。
言ってしまえば、否定されてしまうことは判っている。
それでも言ってやりたかった。
この男の為じゃなく、彼女のために。

”惚れてるじゃねぇか、”

しかも相当深みにはまってることに気づいてないなんて、なんてお笑いぐさだ。
一度遠くを見たから、近くに戻れずにいる。
こいつも、彼女も。

ナミさんがルフィを見てる?
バカ言え。
その線上に誰がいると思ってんだ。

「もう良いだろ、オレは寝る。」
不意の隙を衝かれてゾロは見張り台から消えた。
残された空っぽの瓶。


 ただ静かに。
 見ているだけ。

それだけで満足?


オレならそんな役は御免だね、
そう思いながらも、
あの3人の微妙な関係を反芻した。

求めてやまないもの。

諦めて、
諦めて、
もう欲しいものなんて見えなくなってるんじゃないのか。

誰もいなくなった船上。

さっきの言葉が空しく反芻された。

「信じるくらい、好いだろう。」
信じてるだけ?見てるだけ?
「案外と、可哀相だね」
同情した。
きっと同じ所に自分も立っていると感じながら、
それには気づかない振りをして見せた。

凪いだ海とは裏腹に、戦場では嵐。

                                      

end


エンディングが思いつかず、
もうイイや的に終わらせるクレユキ根性無し。
ええ、私根性無いです。
つうかさ、これなんか変。
何が変かって所々二人称から三人称に視点が変わってるカラー
収集つかないし、ダメダメ、サンジ君出すとろくなことないよ。
こないだもデータサンジの小説全部飛んだし。
報われないことばっかしてるから、きっと呪いだ。
眉毛の呪い。

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