抗う    

                                        
恋う                   





              請う   










乞 う








こ  う


「ほやき」

いい加減うんざりとした口調だ。
辟易しながらそれでも諭すように。


「わしは予てから本気だとゆうちゅうで」


辰馬は言う。
信じない私に言う。



「おんしの口から出る言葉の殆どは嘘やまやかし、ごまかいが殆どやか。
 何を信じればえいが。おんしの言葉にゃ何の信憑性もないがで」



信じない私は言う。
信じろと言う辰馬に言う。






「信じるに値しやァせん」



そうか、そう言うと辰馬は一歩間合いを詰めた。
足音もしなかった。
ひらり、ふわり。

蝶々が羽ばたたくような。


なにを。

私は先に口が動く。
辰馬は先に身体が動く。
動ききる前にそれは見えなくなる。
動かなくなる。
風で、紙が飛ぶのを防ぐが如き重さ。
蝶々が羽ばたく様な、軽やかな。

口唇の上に乗せられたかろがろとした重みは、言葉に勝るとも劣らぬ軽薄さ。


「分かるか」

口唇のすぐ上で言う。

「分かるわけないがやないか」

くちづけを終えたとは思えぬほどの殺伐さ。
辰馬は笑っていない、私も同じ。


「じゃぁこりゃあー」


坂本の大きな手が私の耳を覆う。
首に触れて仰向かせる。
身体ごと引き寄せ、口唇を接する。
是とも非とも言わず、それをそのまま受け取る。
柔らかくそのまま重みを乗せる。
私は動かない。

微かに開いた口唇も、辰馬の口唇を受けているだけ。
応じはしない、だが逃げ出しもせぬ。

「のぉ」

息遣い。
湿った声。

「分かりゃァせん」

私は分からない振りをする。
意固地になった男が言葉ではなく別の方法を採ることを願いながら。
小賢しく分からぬ振りをする。


「じゃぁ理解こたうまでなんどでも」


躍起になった目が好きなのだ。
形振り構わぬ冷酷な、欲と情念と幾年孕んだ心が一緒くたになって混ざり合う。
男の力に物を言わせる、暴力的なまでの心の細波。

口を塞げ、目を閉じよ。
薄ら寒い言葉は要らぬ。

私は乞う。
私は乞う。

温度を、その手を、薄汚い欲を。



「望むところじゃ」




息が詰まるほどの。





くちづけを乞う。





end


WRITE / 2008 . 9.5
たまに、こんな散文的なものが書きたくなるときもあるんです。
と言うか普段から散文的だけどさ…。
前後なしのシーンのみ。
こういうのは楽でいい
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