手を伸ばす 掴めぬから 手を伸ばす
指先が痙攣するまで 精一杯
空にある 星に手を伸ばすように

でも 届かない そんなこと知ってる

君には 届かない
手を伸ばしても 声を枯らしても

だからどうか、はこんでおくれ

どうしようもなく 焦がれ 綴る

嗚呼

花吹雪に似せて

どうか届けておくれ ひとひらでも

あのひとの肩へ
音もなく 優しく

降り 積もればいい


 船室のドアを開けた途端、吹き込むのは花吹雪。






満月の明かりは煌々と辺りを照らして私の影を甲板に張り付けた。
群青の空に真っ白の花吹雪が映える。

夜風は高く舞い上がって、旋回しながら地面へ降りてくる。
同時に私の頬や頭を掠めた花吹雪は掴むことも出来ずに見送った。
あとから、あとから、どこからか。
舞い散る花吹雪。


私は此処が一体どこか解らなくなる。


頭上高くから吹く風に乗ってやってくる、船上に舞う不可思議な花びら。
引力に逆らい音もなく散りては、風に乗って何処へか。
闇に溶けることなく発光しながら波間へと。
夢の中でもこんな景色、見たこと無い。



 嗚呼、なんて綺麗。



思わず手を伸ばす。
吹き千切れそうなその花弁、ひとつ。
指先に触れ掴むことも出来ずに零れる。
私は溜め息、ひとつ。





でも、それは幻想だった。
足許に降り積もるのは花びらではなかった。
淡く色付いた風に依って散り急いだ花弁ではなかった。

そう、こんな海以外何もない場所に花なんて咲く訳無い。
ましてや、花吹雪なんて。

靴の爪先に引っかかったその一つを屈んで拾い上げる。
この花吹雪の正体は、幾千に千切った紙吹雪。
裏にはなにかインクで何事か綴られている。
細かく千切っているので内容までは分からない。





「馬鹿、ロビン。拾うな。」






私は、はたと空を見上げた。
メインマストの上に人影が映る。
月を背負っているので顔は見えないけれど、声で誰かは解った。

「何してるの、長鼻くん。」

身を乗り出した彼の手の中からあとからあとから花びらが生まれては、はらはらと。
アァもう、と何か諦めたように両手を上げて大きくそれを高く放つ。





 夜空の星が一瞬、霞む。






紙吹雪が彼方此方へと頭上から降り注ぐ。
頬に掛かっても、髪に掛かっても、花びらのように積もらない。
散り散りになりながら、時間差の緩急がそれを運ぶのだ。
乾いた音を微かに立てながら闇色の海へ。


 其の向こうへ、遠くへ、もっと遠くへ。


闇に紛れるよう、消えるように。





彼は髪を掻き毟りながら崩れ落ちるように見張り台の内側へ潜ってしまった。
あんまりその仕草が面白いからちょっと見物しに行こうかしらと悪戯心。
彼が諦めて降りて来る前に先回りしてマストへ昇るロープを掴んだ。

上空は思ったより風が強くて、髪の毛が靡くと言うより吹き千切れそうだ。
ロープの軋む音に気が付いたのか、彼はばつの悪そうな顔をして顔を覗かせる。
此方に手を伸ばしたからそれを掴んだ。
見張り台の外壁を跨ぎながら見えたのは、彼の愛用の鞄。
蝦蟇口が開いていて中身がちらりと覗いてる。

それは幾通もの手紙だった。
丁寧に糊付けされているのか此の風の中であっても封が捲れることはない。
先刻の紙吹雪の正体は多分これなのだろう。

彼は持ってた毛布の端を私に一つ寄越しながら、業と目を合わせないようにポットからコーヒーを注いだ。
夜食と思われる甘そうなシナモンロールを添えてマグカップを渡して呉れる。
コーヒーは未だちゃんと熱くて、湯気が現れては消えていく。

「どうして出さないの」

此処がグランドラインであろうとも郵便は届く。
時折郵便配達夫の水鳥が船間近にやってきては新聞や郵便も受けてくれる。
船でグランドラインを超え四海に出る事は出来ないが、空からならば流通手段はあるというモノ。
或いは陸に上がったとき、郵便を出せば済む話だ。
時間は掛かっても船便で、或いは陸便で届けることが出来る。

届けることは可能だ。でも届くのが怖いと彼は云う。
何故と口にすべきなのだろうけれど彼が口を開くのを待った。

「俺は夢ばっかり見てられるけど、あいつはそうじゃないかも知れネェし。」

信じてるから、だから期待した自分を裏切られることが怖いのかもなぁ。
俺、臆病なんだよ、照れくさそうに笑って俯いた。



届く事のない手紙が今日も明日もまた増えて。

約束など無い。待っていてくれ等とは口が裂けても言えない。
でも焦がれて已まぬ。掻きむしられるほど苦しい。
それを吐き出さなければ。口に出すのか、或いは此の手で綴るか。
でもそれを叫ぶことは出来ない。

希望を失う事を、想うことの思い続ける意味を失うのが怖い。

「そうね、女って、現実主義な処があるものね。」
意地悪だったかしら。
彼は気取られぬよう失望の顔を見せた。
でもそれを直ぐに笑顔にすりかえてナミは現金主義だけどな等と軽口を叩いた。
秘密だぞと軽くウィンクして。


「でもね、信じてみるのも、悪くはないって思うこともあるのよ。」


冷めかけたコーヒーを啜った。
眠気覚ましに濃いめに淹れてあるのか苦い。
シナモンロールの上に乗っかってるアイシングを一欠片指で掬う。とろりとした砂糖の甘さ。

「素敵ね、そう言うの。」

私は、思い続けるのを止めようと思った。
今はこの航海の先に何かがあることは靄の中にいるようだけれど知っている。
でもあの時崩れ行く神殿の中で、希望を失いいきることを止めようと思った。
彼の想うことと私の想うことは違うけれど、重なる部分に微かに共鳴する。

「馬鹿にしてるだろ。」

いいえ、ほんとうよ。
嘘だぁ、と愛嬌のある口許が笑う。
私は首を振りながら何度も繰り返した。想い続けることの苦しさをちゃんと知っているからこそ。

「なぁ、ロビン。」

なぁに?

男の子の高い体温。くっつけた肩。
まだ身体は華奢だけれどきっとこれからまだ伸びる。
そう思わせる骨格と大きな手。


「なぁ、誰にも言うなよ。」
「何を?」



手紙。


ちょっと照れながら見上げるように此方を向いた。
その目はなんだか可愛らしくお願いされているようで思わず笑ってしまう。
なんだよもう、と項垂れた。毛布からはみ出した肩にそっと自分の分の毛布を掛けた。


「私は何も知らないわ。」







「ただ、いちめんの花吹雪を、見ただけよ。」

end


ウチは、ゾロナミサイトです。えぇ歴とした・・・・・・・
でもこの丸二年間、一番反響が大きかったのはベンナミ(裏小説に有)で
裏請求とか風の噂なんかで「この話好きデス〜」と言われるのが八割方嘘ナミ
嘘ナミサイトに替えた方が良いのかしら・・・・・・・・(笑)
イヤもっとゾロナミに力を入れろと云うことでしょうか・・・そうします・・・

と言うわけで二周年記念一発目の小説は嘘ニコ(笑)
あえて嘘ニコ!極道だとか何とでも言うがいいさ!
ナミさんで書いてたらなんかちょっと違うな〜と思って焼き直し
ロビンちゃんが言う方がなんかカワイイかな〜とか・・・
あとこれTさまの影響多大に受けた・・・
ひょっとしてネタ被ってたかも・・・・・ブルブルそうだったらスイマセン、Tうこさん・・・・

イメージは175Rの「手紙」とV6の「出せない手紙」とウタダの「サクラドロップス」
久々にメジャー 十八番の切ない系で行ってみよ〜シリーズ・・・・・・・(笑)
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