forbidden colors

あたしだけのものになってよ
他の女の名前なんて呼ばないで
今は
あたしが、あんたのすべてを握っているのよ
今はあたしだけでしょ、あたしのすることすべてを感じてるでしょ
今だけで良いのよ
明日になったら、また日常に戻るだけ
名前と身体だけを知り合うことがすべて
それだけで良いのよ
面倒な心なんて欲しがらないから

それだけで良いのよ



 名前と身体を知り合うことがすべてのような。



錯覚?

恋愛?

ままごと?



名前を付けようとするから、面倒になる。
それだけでいいと割り切って、溺れていくのがイイ。


 遊びよ、イイでしょ?


怖かった。

その真摯な目が。
その物言いが。
どこかヒューズでも飛んでるんじゃないかと思わせた。


 狂ってる?


 何に?


強いて言えば自分に?
そんなもの言い訳。

慣れた手つきで、男の服を脱がす。
それにも虫酸が走った。


俺以外の男?

それは誰?



尋けるわけない。

その腕は蜘蛛の巣。捕らえられたらもう逃がしてはくれない。
俺は獲物。
その巣に架かった哀れな蝶々。
絡みついた腕は振り解けず、誘われるがままに口唇を奪われる。
抗う術を知っているのにも拘わらず、俺はその身体に手を伸ばす。
まだ、何一つ知らない。
名前だけ。

 衝動。
突き動かすのは何?
ありふれた理由。
口に出すのも躊躇われる程、陳腐な理由。



「今すぐ、抱いて。」


甲板の上。風は音を立てて渡る。
なびく髪の毛、たゆたうスカートの裾。
風の音より心臓の音の方が耳について離れない。
何を馬鹿な、言おうとした。遮られたのは口唇を塞がれたからじゃない。
脈は大きく波打って、どこか違うところから血液が流れ出ていく気がした。

いいでしょ、

何に対して良いのか、それを問う暇もない。
口唇は湿っていて、その髪の毛からはいい匂いがした。
腕は長く、細く、首にまわって、下から見上げる視線はどこか、狂喜を孕んでいて危なっかしい。

「ここで?」


甲板を指す。


肯定、否定、保留。言

葉は遮られ、喉の奥に飲み込まれて。
バカね、笑われて、後頭部を両手の平で撫でられ、強く口唇を吸われた。
麻痺した思考。
麻酔を打たれたときの感覚にとてもよく似て、もう何も考えたくなかった。


割り切って溺れていくのがイイ。



何でこんなコトになったのか、どうにも判らない。
いつからこういうことをするようになったかなんて。


 どうでもいいだろう。

     身体と名前だけ。それだけ知ってれば、いい。




 狭い部屋の中、酒も飲んでないのに軽い眩暈を憶えながら。
俺は女みたいに膝を割られて、その間に身体を預ける女。
息も絶え絶えにキスしながら、手探りで一枚一枚服を剥がれる。


 その身体は絡む蔓。

 乾いたところを避けてのび続ける、陰生植物。



いいでショ。

裸同然の格好。白い膚に張り付いた黒い下着。
艶めかしく、その下にある裸体。
早くこの手で触って、安心したいのに。
触らせまいと上に乗っかって、俺の身体と自分の太股の間に挟み込む。

腹に当たる、湿った感触。





「あたしが、したげる。」





解いた俺の手ぬぐいを俺の目にあてがった。


視界を多う黒い布。
目を閉じたのとは違う闇の中で、口唇に感じる柔らかいもの。

これはナミの口唇?
指先?

その存在だけは感じ取ることが出来るけれど、
どんな顔を、今、お前はしている。

何で言うが儘、されるが儘なのか。
「あたし」が何をするのか。
どこか煽情的。
欲望だけが先走って。

俺の両手は細い脚に押さえられて封じられた。
自由になるのは声と、第六感。
玩ばれる触覚。




ねぇ、怖い?

「怖い。」


しかし何をされるか解らない恐怖と、興奮。


後者が勝った。


 俺 今どんな顔 してる?


肌に触れるナミの吐息が甘い。
触れた口唇の熱が気化して、その軌跡を一瞬で辿れる。
蒸発しそうな身体。



「凄く、苦しそうで。」


思わず喉奥から声が漏れた。
俺の只そこにある乳首を摘んで、ゆっくりと吸い上げる。
いつも女の上げる声の理由が少し解った気がした。


「でも、いつもより」


何だ、違うか。


「いいよ。凄く、艶っぽいし。」



好いのは、お前だ。
男に言う台詞じゃねぇだろう。



いつもより丁寧に縁どりやがって。
一々ナミがつける口唇の痕に反応してしまう。
自分の声じゃないような、まるで女みたいな声を出して。



この戒めを取ってしまいたい。



でもダメだ、約束だから。
これを取ったら、今夜は終わり。
終わったりしたら。



イヤだ。



ふと両の手が自由になった。
怪訝に思ってふと体を起こしかける。


ふふ。


意味深な笑い声が背中で響く。





思う間もなく裏返されながら、ズボンから脚を抜かれた。
ナミの脚の指が器用に縁を掴んで摺り下ろす。



 どこで覚えたその手管。



膚に触る冷たいシーツの感触が、残る。
やんわりと手首をベットに縫い止められて、項を強く吸われた。
口唇が耳朶の産毛を撫で、柔らかく歯を立てる。
肩が思わず上がる。


視界ゼロの闇。

感覚は針のよう

鋭く研がれて。




「いつもと、違う?」




昼間の声とはまるで違って。
鼻孔の奥で一瞬せき止められて流れ出す、甘ったるい声。

脇を撫で上がりながら、胸の筋肉を縁取りながら。
ゆっくりと半身を起こされる。

柔らかな二つの脹らみが背中に当たり、女の腕が胸に回るのを感じる。
それに閉じこめられながら、息を深く吐き。

触れ合った指先。
絡まる二者の指。

女の手に誘導されながら自分のそれに触れた。



「自分で、触って。」



優しくそう言い放ち、俺の手は自慰をする時みたいにゆっくりと上下に動かす。
自分の手の上にナミの掌の温度。


「どうして、欲しい?」


解って、やってるんだろう。
知ってて、やってるんだろう。

本当は、
これを解いて、
お前に覆い被さって、
滅茶苦茶にキスして、
手順なんか踏まないで。


喉が鳴る。



開き書けた口唇。
ナミの濡れた指が舌を押さえつける。

「嘗めて」

指先の味は、ナミの蜜。
音を立てて吸いながら、その水源に焦がれた。

「噛んじゃ、ダメよ」

それに舌を絡める。



「口の中に、指をいれられるのってね、
 女が挿れられるのと、似てるんですって。」

知ってた?


ナミの指は俺の舌上を這いながら、そう言う。



暫くそうしてて


俺の背中から離れ衣擦れの音を残しながら、どこかへ。


「ぁ、バカ。」


そう、何をされてるかくらい解る。
よく回る口は、今や、閉じられ先刻まで己で慰めたそれを包んでいた。
柔らかい口内は、ナミのもう一つ持ってるそれと酷似していて、
けれど全く違う技巧が脳髄を痺れさせる。


ん?


くぐもって不明瞭な発音が、いやらしく、
耳に張り付く粘着質な水音がそこから漏れる。
脚の腿の内側に当たるナミの髪の毛。
手探りすると、そこにあるナミの身体。

先刻から揺さぶられ続けた神経の針は振りきられそうで。
快楽を通り越して最早、苦痛。




そう、怖いんだ。




昇っているのか堕ちているのか、

時間軸も、奥行きも、平衡感覚、薙ぎ倒されて。

怖いんだ。
俺だけが。

気が付いたら、名前を呼んでいた。
何度も、何度も。
女はそこから口唇を離すと、膝に乗った。



「取って欲しい?」



息が掛かる。
膚に触れる、動く口唇。

只、頷いた。


「じゃぁ、言って。」

なんと?



「私が、目に見えないと、怖いって。」

  恐怖の正体。

「傍にいないと。」

  目の前から消えたあの日。

「此の目で確認しないと。」

  形振り構わず飛び込んだ海の中。

「不安でしょうがないって。」


正体を現さぬ、焦燥の主。



「アタシは女だから。」

ナミの重さが胸に掛かる。

「あんたとルフィみたいに言葉も要らない関係にはなれないのよ。」

あぁ、だから。

「言ってよ、ちゃんと言ってよ。」





「あんたの口から。」




もう、これは要らない。
そう思って、自分で、結び目を解いた。
目が眩む。


視界を閉ざされて見えたのは己が底の常闇。
それから、涙。


「アタシに解るように、ちゃんと言ってよ。」


今にも泣き出しそうな、声。


ナミの口唇の前に人差し指を立てる。
沈黙を促し、その呼吸が整うまで待った。


「言わないんじゃ、ネェ。」

そう、言いたいことはこの胸に渦巻いて。
零れそうなほど。


「言えねェんだ」

どうやって、言ったら伝わるか、解らぬ。
お前が婉曲させた俺の言葉など意味はない。


そう、お前が選んだ方法は正しかった。



相手に自分の思うこと全てを正しく伝えられる方法は存在すらしない。
只 その片鱗に触れるのみ。
爪先に触れたそれは痛々しく、流れたものは。




「お前に、伝わらない、言葉ならいらねぇ。」




ナミは瞼を閉じた。
何かを待っているかのように。
只、静かに。


先刻解いたそれをその閉じられた目蓋にあてがった。



今度はお前が試して見ろ。
柔らかく刺す針の痛みに耐えて見ろ。

そこで触れた物だけが、お前の所有する物なのだと、いたいほど解るから。





                                              

end


 閉鎖された「名前のない鳥」様15000hitのお祝いとして書かせていただいたssです。
『目隠しと野外どっちが良いですか?』と言ったら『じゃぁ目隠しで』と言うリクエストですので
目隠しと相成りました。
『しかもゾロとナミさんどっちが良いですか?』ッて言ったら
『お任せvv』と言われましたので即決ゾロ殿と・・・・即決かよ。
だってナミさんだと言葉攻めゾロと被っちゃうし。(笑)
言葉攻めはそらちさんに書かなきゃね。ふふふ。
タイトルは懐かしすぎる戦メリの英詩付きヴァージョンのタイトルまんま。
ツーか、アレはないよねって話ですけど、
邦題は「禁じられた色彩」ッちゅーな感じなんで、格好良いかな、と思い。

目隠し、どうでやんしょ。

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