独房
高い天井
狭い小部屋
施錠されたすぐ傍のドア
甘んじて受け入れた罰
たった一人閉じこめられる 独房
その檻の中でどんな夢を見るのか
只一人赦されたこの独房の中
利き足に掛けられた鎖、重い枷。
何かに犠牲を払って、見失った姿。


そう、天秤に掛けたとき恐らく俺はお前を選ばない。


けれど触れる針は安定を求めては居ない。
只ひたすらに思うことだって儘ある。
それが気紛れの賜だとしても、その悪戯な不安定さを求めるのは過ちか。




見失った姿は、己ではない男に向かって泣きじゃくっていた。
絞るように泣くその姿を見たとき、犠牲を払ってなげうった物の重さを知った。



宴の後見た頭上から降る常夜灯の光は、惨めぶった己の哀れさを露呈させる。



選んだのは自分だ。
それに悔いるというのは愚かと言う物。
そう、選んだのは自分だ。
お前以外の物を。






「オイ、巻いてくれ。」


軽くシャワーを浴びて、剥き出しになった傷を風に晒しながら女部屋のドアを潜る。
手には新しい包帯とタオル。

アンタ、あれほど濡らすなっていったじゃない、

今まで書き物でもしていたのか、机の上には乱雑に海図やらペンやらが散乱している。
青筋立てながら怒りつつ、同時に溜め息を吐く。
言っても無駄だとわかっているんだろう、諦めた様子で

そこ座んなさいよ、

とココヤシ村を出るときに誂えたカウンターの椅子を指す。





「おい、もっと優しくしろよ、一応大怪我人間だぞ。」

綿をピンセットで挟みオキシドールに浸す。勢いよくそれを傷口に当てる。
泡を出しながら傷口からそれが滴り、部屋は消毒液の匂いで一杯になる。

「大怪我人は海に飛び込んで毒突いたり、熱があるのにフラフラで敵に挑んだりしません。」

つれなく言う。
まぁ確かに大怪我人と自称するのはおかしな話だ。
熱は引いたがまだ通常運転という感じではない。
どこ彼処に違和感がある。
化膿止めを塗る指の動く様がくすぐったい。

「だいたい優しく巻いたらすぐ緩むって言うのあんたじゃない。」

文句を言いながらもその手並みは早く。
消毒された包帯を引き出す。
手ぇ上げて、と促され従った。
その機関銃並の回転の早い口の回りについてゆけず、生返事を返すばかり。

「なら他の人に頼みなさいよ。」
「イヤだね。」

即答した。
その回答の早さにナミは驚く。


「なんで。」

一瞬手が止まる。
抱きつくように背中に廻した包帯を逆の手で取ろうとしているところだった。


「お前、ヤローだと気色悪いじゃネェか。」

「・・・・・そうね。」

己が体勢を一瞬想像して苦笑い。




「死ぬわよ。」



不意にナミが言う。
この疵のいわれはもう誰かに聞いているらしい。


「生きてるじゃネェか。」


回答を返しながら、在らぬ方を見た。




「手負いの獣がなんで恐ろしいか知ってる?」

「は?」
思わず頓狂な声で呼応。
どういう会話の繋がりかと問う。
それには答えなかった。




「獣はね、死について何も知らないからそれを畏れることがないのよ。」



「人間は、死について考えすぎるから獣には勝てないんですって。」



知ってた?

それは俺が獣同然と言うことなのか、
それとも辛うじて人類と言うことを暗にしているのか解らなかった。
そう放った言葉に何の意味があったか皆目見当も付かず。
只、頷いた。







「どういうつもり?」

暫く無言で、只機械的動いた手が止まる。
どうやら終わったらしい。カウンターの上に置いておいたシャツに袖を通す。

「こんな大傷で海に飛び込んでさぁ。」

余った包帯を巻き直し、褐色の薬瓶の蓋を閉める。
うっすらと血の滲んだ脱脂綿をゴミ箱へ棄てた。

「つもりも何もあるか。」

顔も見ないで、棚から一本取った。
グラスを探すと、待てと制止される。

「世界一になる前に死ぬわよ。」

自ず手でグラスに注ぐと、もう一つグラスを出された。
どうやら相伴させろと言うことらしい。


「なるからいいんだよ。」


ナミのグラスに自分よりも少な目に注ぐ。
その手はそれを跨いで俺のグラスを取った。


「それって回答になってないわよ。」

少し高めにグラスを掲げる。

「じゃぁどういう回答を望んでんだよ。」

応じた。




「助けると思った?」

「何が。」


小さなチョコレートを囓りながら一口嘗める。


「さァなぁ。」

「答えなよ。」



答えたら、矛盾を問いたださないか?
選ばなかった俺を、あの時お前を選んだ矛盾を。


「勢いだろ。」

見透かすのはお手の物じゃネェか、なァ。

「だからさ、そう言うのは答えって言わないんだって。」

ところでどうして今日はそんなに食い下がるんだ。
真摯な目はどうかしてる。
まだ酔っちゃいネェだろ。




その不安そうな顔、やめてくれないか。



「思った。」


「信じちゃ悪いか。」


「それには理由も必要か?」



不貞腐たようにそっぽを向く。
なんでこんな事を言わされてるんだろう。



「それって、愛の告白?」


思わず咽せそうになった。


「お前、どう取りゃそう聞こえんだよ。」


口唇から漏れた酒を指で拭った。
きっと顔は赤いに違いない。




「じゃぁ、イエスかハイで答えて。」

はい、だ。


勿論そんなこと、言えるわけない。
ナミは今まで見たことのない顔で、俯いた後こっちも見ないで、おもむろに言う。





「アタシさ、今すぐあんたにキスして貰いたいんだけど、アンタはどう。」





ゆっくり瞬きするその目は誘う。





「それだけでやめろってか。」

「だって大怪我人じゃない。」

「止まるわけネェだろ。」

「アラ、大怪我人扱いして欲しいんじゃなかったの。」





意地悪く微笑む。
こいつはアイツのモンで、俺の物にはなりゃしない。
それを知ってて手を離した。
だけど、こうしているときだけは手中に収まってくれている。



選んだのは自分だ。
それに悔いるというのは愚かと言う物。
そう、選んだのは自分だ。
お前以外の物を。



オーダーの通りに口唇を寄せる。
ナミは目を閉じて待っていた。




なんで答えを求めた。

今更。




触れた口唇はなんだか濡れていて、俺の舌を容易に受け入れた。
頚に廻された腕がだんだんと重さを増していく。
薄く目を開けると安心しきった顔で、身を任せている。

何だ、答えは簡単じゃネェか。

選ぼうが、選ぶまいが、辿り着くところは恐らく同じだ。




薄いシャツ越しに、感じた体温。
柔らかく撫で上がるとその下に違和感。妙に冷静に「あ、怪我してるんだっけか。」と思った。
そこに触れないよう注意を払いながら、ゆっくりと乳房の先端に指先を滑らせる。


「ぃやぁだ。」


くすぐったそうな声は甘く、頬を擦りつけてくる様は猫のよう。

「髭、くすぐったい。」

無精髭を非難しながら顎から頬までを撫で、何度も口唇で触れる。
そこを触れさせたまま、身体を持ち上げカウンターに浅く腰掛けさせた。
不安そうな顔をやめて欲しい。





信じなよ。





目の前の膝頭に口唇を触れさせるとくすぐったいのか逃げる。

少しずつ膝を割り緩め、真っ白な内腿に舌を這わせ軽く吸い上げた。



「あっ」



小さく声を上げて俺の進行を阻もうと、両手で俺の額を押さえつけてる。
女の力なんて可愛い物だ。


ゆっくりとナミの脚と脚との一番奥、そこに一瞬指先を触れさせた。
もうそこはびっしょりと湿っていて、あの赤らんだ頬も嘘や演技でないことが解って嬉しかった。
下着の隙間から指先を入れる
泥濘だ感触。

何も言わずそこから手を引く。
代わりに女の下着の縁を掴んで引き下げる。

「ちょっと浮かして。」

糸引くそれをゆっくり降ろしながら、床に投げた。

人差し指で軽く引っ掻くようにすると、滑った。
喉が鳴りそうだったのを必死で押さえ、
傍にあった先刻のグラスの中身を飲み干す。
こんな物じゃちっとも酔えやしないのに、
今俺の舌先に感じているナミの中から溢れてくるそれは毒のよう。




気が付かないうちに、致死量を越えて。



「待って」


‘何故’、そう言ってやりたかったが今舌は忙しく動いて。
小さく膨らんだそこを嘗めてやると一際大きく啼く。



喘ぎの狭間に啜り泣く声。


「どした。」

額を押さえる手から力が抜けた。
不審に思って、身体を脚の間に割りいれたまま、その手を解き掴んだ。


俯く目は虚ろ。
微かに上気した頬はなかなか煽情的。


手が震えていた。
見上げた顔に涙が頬に降った。

なんでもないと、頭を振る。





何でもなくって涙が出るか?



その不安そうな顔をやめて欲しいんだ。




「言えよ。」



降ろしてと、手を差し出す。
そのまま膝に乗せ、背に腕を廻しゆっくりと擦った。
何故か、酷く苦しそうに噎びながら‘続けて’と言う。



身体の真下にあるそこに手を這わす。途中ナミの身体が跳ねた。
淡いナミの体毛が指先を擽り、再びそこを探り出す。


「挿れ・・・・・て・・・」


掠れた声で願いを口にした。
口唇を塞いだあと、一気に指を突き立てる。



逃げ道を塞がれた声は俺の中で反響する。




もっと啼いて。




縋り付いて泣く姿を見ても、それでも手を緩めることはなかった。
不愉快なほど小気味よくそこからは水音が流れ出して、
その度にナミの啜り泣く声と嬌声が入り交じった。
差し挿れた指を一本二本と増やしてやると、一双強く啼く。


「・・・逝って・・・・も、イィ・・・」



沈黙は賛同の証。


ナミの中から溢れた蜜は重力に逆らうことが出来ず、俺の手首までもを濡らした。

急にその中が変わった。ぬめりの中にざらついた感触が浮上し、締め付ける圧力が強くなり。
この中で自分の物を入れたらどんなに良いだろうと、妄想は肥大。


背中を掻き毟る。
短い声、恐らくそれは。





荒く息を吐きながら、力無く俺に体重を預けている。
気まずそうにゆっくりと顔を上げた。
よかったか?と聞くと、小さくバカと再度肩に額をつけ俯く。

何も言わず先刻注いだナミのグラスを取り、一口呑んだ。
それを羨ましそうに見ているその口にも注ぎ込む。



連れてってと、指さした先。




抱き上げ、座らせる。その傍らに腰を落とすと、ゆっくり釦を外す。
珍しく何にもしないこいつが、なんだか酷く可愛らしく思えた。
サンダルのストラップを外し床に放る。

毛布の下に身体をスライドさせ、隣に潜ろうとしたら阻まれた。


「さきに、脱いで。」


いつもは自分から脱がせるくせに。



じゃぁ脱がせろ。
からかうつもりじゃなくって本当にそうして欲しかった。
ゆっくり体を起こして、俺のシャツを剥がした。

おいでと手招きされる。

その横に滑り込むと、ズボンのジッパーを降ろされた。
緩慢な動作は、焦らされてるようで。


「ちょっと浮かして。」

先刻の俺の言葉そのままに、脚を抜き取りながら優しく笑う。




「きょう、さ。凄く、硬いね。」



先刻の可愛らしさはどこかに吹っ飛んで、ナミの指がそれを撫でる。
それは何にもされてないのに膨張しきっていて、腕に先端から流れた俺の物でナミの手は汚れていた。

暫くぶり、イヤ、一概にそう言う理由じゃないだろう。


その身体に覆い被さる。


「挿れても、イィか。」


先刻からずっと我慢してきた。


イヤ、もう、ずっとだ。
二度目に合間見たときから、不確定に連動する心と体のバランスが崩れ落ちそうで。
そうならないためにも、その要因の最大因子をこの手に収めたかったんだ。

何度かこの気持ちを葬り去ろうとしたことはある。
だが、そうすればするほど均衡は崩れあっという間に転落してしまいそうな不安に駆られる。


いいよ、と身体を開き明け渡す。
頚に手を回す。


挿れた瞬間、そこは酷く収縮して気を抜けば意識ももぎ取られそうだった。
微熱でもあるのか、それとも他の理由なのか。
その中は先刻よりも熱くて、摩擦を繰り返すたびにその喉から甘美な声が漏れ出でた。




「先刻の、な。」


揺さぶりながら、その顔を盗み見た。

「黙ってられネェだろ。」


目を閉じて苦しそうに。
どうかこの声が届かなければいいと。


「手前ぇの、大事な、女泣かされて。」



消え入るように言ったそれを聞き逃してくれと一心に願った。



うっすらと目を開け、頷いたように見えた。
その目には涙が流れて、酷く綺麗だった。






涙の訳って言うのはこういうことか。
それとも俺が自惚れているだけ?








閉じこめられたのはどっちだ。
繋がれたのはどっちだ。






利き足に掛けられた鎖、重い枷。
何かに犠牲を払って、見失った姿。



そう、天秤に掛けたとき俺はお前を選ばない。


けれど触れる針は安定を求めては居ない。
只ひたすらに思うことだって儘ある。
それが気紛れの賜だとしても、その悪戯な不安定さを求めるのは過ちか。



けれど、それはお前も同じだろ。

恐らくお前は俺を選ばない。
天秤に掛けたとき一番大事な物を選ぶだろ。

良いんだ。
それで。
どこまでも孤りで行け。
その姿。
どこにいても必ず見つけだして追いかけてやるから。





end


裏777hit踏まれたRIKUさんに捧げます。
でも・・・・もうなんだか惨敗です。
「ゾロから告って最後には結ばれる二人」
告白がねぇ、そういう風なことしそうでないので苦しんでしまいました。
しかも挿し絵までいただいて・・・クレユキ感無量です。
リクどうもありがとうございました。
*
このssのヒントはプリティーウーマンでグランドピアノの上で、
ジュリアロバーツとリチャードギアが情事に及ぶと言うシーンがあるんですが、
彼女の乗っかってるピアノの鍵盤に時々足が触れて不協和音を奏でるってトコがあるわけですよ。
そこがもうエロくさいとかそう言うんじゃなくって良いんです。かなり。
声とかは入ってナインだけど、そのピアノの音が声みたいに象徴的。
ところで今回珍しくゾロ殿が攻めですね。(笑)
どうよ!?
(イヤ、ドウヨと言われても・・・・なぁ。)
何か今回は愛あるHで良いですね。(笑)
爆走錯綜動揺のクレユキpresentsでお送りいたしました。

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