deep river
彼の人は向こう岸 辿り着く前に溺れてしまう
私はもう 息が出来ない
揺らめく水面 沈みながら見ている
助けは要らない

「アレは気紛れ」

知ってる
曉の薄闇の中で指先を探すその手の冷たさを憶えている
口唇を舐めて湿らせてからキスした
私が溺れたのは事実



目を閉じて横たわっていると波の上に居るのが判る。
始まりの判らぬ眠りから目覚めて薄く目を開ける。

水平線ぎりぎりまでの星空。

変に四角く切り取られているのはドアが邪魔している所為だと気が付いた。
誰かが自分の後ろで寝返りをうつのが聞こえた。

 きっとルフィだ。

此処はどこだろうと、思いめぐらせた。先刻まで、二人して甲板で呑んでいたはず。
この小舟二艘の旅は始まったばかり。
私にもたれ掛かって眠った男の横顔を見たのは憶えている。
そう、そこからだ。



星空から視線をずらすと、眼前の大きな黒い塊からの気配に漸く気が付いた。
目が闇に馴れない所為で、其の姿は把握できない。
茫洋とした輪郭が空を切り取った。





窺う、のとはまた違う視線。
刺すような、そういう表現もまた違う。
見ているだけだ。


一瞬、其の耳元で不似合いなピアスが鈍く光る。


恐ろしい、と言うのとはまた違う。
突き抜けるような、そういう物でもない。
策は無く、只此方を見ている。



一つ。
大きく鼓動が鳴った。
闇に浮かぶその二つの眼は凝らす風でもなく只此方を見ていた。



目を閉じようと。



それは叶わなかった。
開けたまま縫われたような目蓋は言うことを聞かず、身体は硬直しきっていた。
横向きの姿勢で、身体の前に投げ出した私の腕。
指先数センチのところで触れ合いそうな、その身体。

尚も視線を外さない。
ゆっくりとした瞬きの間で一体如何なる画策を秘めて。



闇に溶けた赤い月が海と空が混じる線上に掛かかり鈍く光った。
それは秒読みするように見えた。









背中側にいる、焦がれる別の男。
ほんの数センチ隔てて、深い河。
向こう岸にたどり着く前に溺れてしまう。
泳ぎはあんまり得意じゃないのに。


 此方の岸辺には無言で向こう岸を臨む男が居る。
 向こうへ渡れないのは同じ理由。










乾く口唇を舐めた。
鼓動を気取られぬよう。
私の疚しい気持ちを気取られぬよう。


少しでも手を伸ばせば届く距離。
半歩も進めば絡めとられて。





どちらから、問われれば答えを言い倦ねるほどのタイミング。
爪先が掛かる。
触れた場所は身体の一パーセントにもみたぬ指先。





導火線にダンスを許した。





引き寄せ、引き寄せられ、口唇があわさる。
息の根を止めてと願うくらい強く。
私の思考回路に一気に血液が回り込み沸騰するような。
背中側にいる男の気配に怯えながら、切れ切れの呼吸を繰り返す。




月が読んだカウントゼロ。
秒針を恨めしく思った。

緩慢な動作ながら首の下に入れられた腕の熱さ。
私は体重を移動させて、その身体を跨ぐ。
髪の毛を掻き回す掌は大きく、Tシャツの下、這いまわる片方の手は妙に汗ばんでいた。





これが、河向こうの男であったなら。
私はこんな焦がすような気持ちがするのだろうか。






男の大きな手はゆっくりと背骨を辿り、背中の中央に座った金具を外した。
緩んだそれは無様に肩紐だけで服の中に止まるばかりで気持ちが悪い。
キスするのを止めて男の口唇は逸れて強く首を吸い上げる。
爪先が痙攣しそうだ。

相変わらず、その手は髪の中。
撫でさすり、あやすように。
声をあやうく漏らしそうになって、男の太く熱い首を甘く噛んだ。
丁度絡み合った足の付け根にあたる、硬くなったそれ。

 顔を盗み見た。

僅かに、苦み走ったその表情から興奮、否、或いは澱んだ本能の中からわきいでた。
これは、何。
後押しされるかのように、踏みとどまれない。高い熱が私を灼く。
目蓋をつむっても網膜に残像が残る。
いやらしい月の面影。
そんな風に映さないで。




ゆっくりTシャツとその中で宙ぶらりになった下着を一緒に捲り上げ、
仰け反った肋骨。
私のそこに押し当てられた口唇。




思いつきもしなかった。
考えもしなかった。
これは夢ではないかとも思う。

怪我はと私に問い、
大量失血のあと寝てれば直ると言い捨て、
殆ど口も聞かなかった。


語る口を持たない。
内に秘める、ただ静かに。


皮膚の上。
生温かく湿った口唇。
乳房と、肋骨の境目の皮膚。
ゆっくりと這う、生き物の舌。

強く吸われて、声をあげたくてもそれを噛み殺すことしかできない。
自重を支える腕が痺れる。
神経計器の針は振り切られ、突然がくんと腕を折りその胸の上に突っ伏す。

それを抱きとめるようにその腕は突如撫で回す動きを止め、
胴体に廻って強く抱いた。
まるで私を壊れ物でも扱うかの如く、羽根のように。


 顔を此方に向ける。


ゆっくりとした瞬きを一つ。
鈍い月光に照らされたその顔。
淡い線で描かれるその輪郭。
縁取りたいほど。
支え手をやめて確認するよう額から顎までを辿る。
彼も同じようにした。



眩しそうに目を細めてその先に見ているのは、私?



突如噛みつかれるように口唇を奪われた。
目を閉じるのを一瞬忘れて視界に入ったもう一人の男。
寝返りをうって此方を向いて無邪気に寝言を呟いて。



心奪われるように、揺さぶられるように。
今は眠る男の投げ出された腕が欲しかった。

後ろめたく思っているのを知っているのか、知らないのか。
私の視界を遮るようにこめかみの辺りから彼の掌が覆う。
視界をふさがれて見えるものと言ったら、この男の薄くあけられた目蓋。



  お前の前だけを見ろと。



暗に刺された気がした。



窒息しかけながら、それでも猶求める男の口唇。
硬いと思った指先は予想通り硬かった。
けれど、その指先の動きの滑らかさは恐ろしく細やかで。


 髪の毛を掻き回す手。
 肩胛骨の窪みを探るように触り、
 強く、強く。
 軋むように抱きしめる熱い腕。


もっと触ってよ、もっと強く触ってよ。



息を吐く。
口唇が僅かに離れた、その隙間。
夜の匂いと、男の匂い。
混じり合って変になりそう。

私を隠すように、緩慢な動作で組み敷いた。






誰から私を隠すの?






大きな胸は堤防のようにはだかって、もう向こう岸は見えない。
辿り着く前に溺れる。
あんたが連れてくる激流に。


頭を抱えるように横抱きにして、顕れた乳房の先。淡く綻んだそこを爪で引っ掻く。
逃げるように腰を引くとそれを赦さぬと言うように抱いた腕に力を込めて。




 もう好きにして頂戴。





私は目を閉じた。
指を咬んで息を殺した。耐える様を喉の奥で笑うようだ。
アンタのその白い歯で囓られた苦く甘い痛みが
そこから脳髄まで一秒もかからず

昇って
堕ちて
溢れて。

堪らなくなってその身体に触れる。
堅い身体は予測通りでまだ目も触れたこともないその生身。


  早く欲しい。


未だ私の乳房を弄んでいるその手に触れ、見上げた。



 早く


見慣れぬ雄の顔をの儘で微かに嗤う。
スカートの中に入り込む手に自ら重ねて腰を浮かす。
それでも私が一瞬躊躇ったのを見て取ったのか、足許に蹴り纏められた毛布を胸まで引っ張り上げた。

私の上に跨りながら脚を開けと膝頭から内腿へ撫でた。
無理にこじ開けようとは決してしないその動作が、その男には似つかわしくなく。
辛抱強く待つその姿勢に負けて、微かな隙間を赦した。
その手は私の奥へと誘われる。


充血して溢れたそこは既に膜が張っているように水浸しで、
その爪先が達したとき男の顔が隠しようもないほど動揺したのが判った。

物欲しそうで、恥ずかしくて、疚しくて。

必死に顔を背けようとしたが男が私のそこを触るときどんな顔をしているのか本当は見たかった。
こっちを向けと言うように、頬を撫でられ親指で口唇をゆっくりこじ開ける。




「あ」




今まで一言も漏らさなかった私の声に俄に興奮した様子を見せた。
その顔には艶が増し、寒気がした。
咬んでいろと言うように左手の親指を差し込んだままゆっくりゆっくり、右手はかき乱す。

芯に触れるたび、奥歯を噛むことも出来ず、殺すことの叶わぬ声は呻きに変わって息も出来ぬほど苦しい。
口の中に入れられた親指を舌先で舐めて合図した。
躊躇うようにそれを外して私の顔を胸に押しつける。

同時に今まで撫で擦るだけだった指が一気に挿し込まれる。
虚を突かれて思わず声をあげた。
男の中にだけ反響する己が喘ぎ。
恨めしく思いながら腕を背に廻ししがみついた。

男の大きな掌は強く強く、私の頭を押さえてくれていた。

何度も何度も抜き挿しを繰り返されるたびに、
だんだんと柔らかく解れていくのが自分でも判った。
痛みよりも大きなうねりが押し寄せ、引いてを繰り返す。


爪先が痙攣しそうだ。

男の背に力一杯爪を立て、何度も痛いと笑われた。
耳元で低く呟かれるたびに私は酷く興奮して、次第にもっとと強く願う。




毛布一枚下の痴態。


それでは足りぬと呼吸の合間に願い出る。
ではこれではと二本目の指を。
堅くねじ込まれたそれを呑み込みながらも、いいえ、まだ、と。

待ち焦がれているだろうそのものに触った。
服の上からでも判るほど、形取るように撫でると一瞬びくんと震えが走った。
今まであった僅かな余裕の片鱗が消えた。



私に被さり口唇を塞いだ。
何度も啄み、甘噛みし、最後に奥深く舌を挿し込んだ。
深く絡み合いながら。

脚を、身体が割る。
ゆっくり谷間に身体が沈む。
途端走る重い衝撃。

撃ち抜かれた。





打ち込まれた楔は思いの外大きく、
抜き差しをゆっくりとされても痛いのか快楽なのかすら判らぬ。
剥がれた口唇を恋しく思いながら、目を細めて私を見るその表情の意味が分からない。


畏れたから何度も口唇を奪った。




繋がりあった場所から
混じり合う匂いが、
体液が、
熱が、

満たされて溢れて零れて。


もう少しこうしていさせて、もう少し此方にいさせて。






彼の岸は向こう側。
辿り着く前に溺れてしまう。
沈みながら焦がれている別の男を見た。







「助けは要らない」








気が付いているんでしょう、アンタも気が付いているんでしょう。
でも、気が付かない振りをするんでしょう。
息も出来ぬとお互い思いながら
河向こうで眠る男に一抹の疚しさを感じながら。



それでも、息も出来ぬほど、息も出来ぬほど。



私が溺れたのはあなた。

end


裏3333を踏まれたrokiさんに捧げる一品。
お題は「ルナゾ」隣で船長が寝てるのに始めちゃうゾロとナミ、出きる前ならなおヨシ。との御言葉です。
ところで、薄味なルナゾなんですが・・・・・・・・・・
しかもこの二人初めてだわ!!と言うことで祭に書くあたしって一体・・・・・・・
うわーんごめんなさい。rokiさん。
やっぱりルナゾは好きすぎて書けませんでした。
玉砕です。精進してまた帰ってきます。(?)やっぱりアタシにゃへたれっこサンジがお似合い???
ステキなルナゾはrokiさんにお任せします・・・・
お受け取りいただければ嬉しいです。

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