「続 痴人」
信じてない癖に ‘ふり’をしないで頂戴
自分だけが傷ついてるなんて思わないで頂戴
割り当てられた役柄はもう演じ飽きちゃった

一双 この胸 割捌いて 私の温かな血汐で君のこと温めてあげたいけど

相変わらず馬鹿なアンタは加害者ぶって
愚かで惨めな独占欲であったと
只嘆いて

一双 その胸 割捌いて 君の温かな血汐で私のこと温めてほしいけど

相変わらず馬鹿なアタシは被害者ぶって
赦しを請いながら許さないと
鬩ぎ合って

嫉妬も羨望もせぬ男などこっちから願い下げ。
愚かな行い悔いているの
結構じゃない

いい加減名乗りをあげなよ
いい加減負けを認めなよ
無理矢理捻子込んだそれは私のそこを裂いて、血を流した。
お腹が、痛い。
打ち付けるそれによって攪拌される内部が、いや、全身に悪寒のような、もっと質の悪い痙攣が走って、喉が引きつる。
頭上から降る呼びつける声は苛立っているのが分かった。
それを無視した。




彼は私の名を呼びながら、逝って。


肩で息を継ぎながら、繋いでいたモノを引きずり出した。それにも痛みが走る。
情事のあとの独特の匂いと、血の匂いに興奮しているのか。
男は暫く放心したように私の上に覆い被さった。背中にその鼓動や、息遣いがリアルに響く。

ベットに突っ伏したまま、いつも通りのその匂いや体温に焦がれた。

同時に、喩えようもない感情が込み上げる。
これは、なに?




男の体重が背中から退く。
アタシは突っ伏したまま、見慣れた部屋の壁を見ていた。
妙に景色が滲じむのは涙の所為。それが生理的な物なのか、感情による物なのかは察しもつかない。
急に両手が自由になる。力無くそのまま重力の為すがままに。

ひゅうひゅうと、風のような音。どこか開いてるんだろうか。
自分の喉から漏れているものだと気が付くまで少し掛かった。




「ナミ」




興奮から冷めたのか、声はいつも通りだ。
冷たく傲慢な、先刻までとは別物。私の焦がれる男の声だ。

返事はしなかった。

出来なかった。
するなと命令されてるように口が動かない。



「ナミ」



髪の毛を撫で上げる。
そうされるのが私は好きだった。
知ってか知らずか、日常にスライドさせる気なんだろうか。
それは何故?





「満足?」





驚くほど冷たい声に自分でも驚いた。声が潰れたみたいに、かさついた声。
胃をベットと男の身体で圧迫されていたからか、吐き気が迫り上げる。
震える脚を叱りとばし、痛む身体に鞭打つ。

しっかり立てと、脅えるなと。



初めて男の顔を見た。



どんな顔をしてアタシを抱いた
どんな顔してアタシをねじ伏せ
どんな顔してアタシで逝った


「どいて。」




アンタの顔色。
罪悪感を持つくらいなら、最初っからしなきゃいい。



一歩歩くごとに先刻突っ込まれたそこからお腹や背中、何物も問わず激痛が走る。
慣れた痛みだ。こんなもの、どうってこたぁない。堪えるわけがないのよ。

しっかり立て、脅えるな。



視界が、急激に狭くなる。
視野狭窄というものだろうか。

地面が揺れる、耳鳴り。ごうと言ううなり声のような。
相変わらず沸き起こる吐き気。

階段の手すりを掴まないと上れそうにない。
飲み過ぎだろうか。
こんな事一度だってなかった。




脚の間を流れ落ちる精液と血。気持ちが悪い。
太股の内側にそれが擦れてイヤだ。
身体が浮く。
階段から転落したんだろうか。
そうじゃないらしい。



気が付いたら、便器に頭を出されて背中をさすられていた。
水の中に溜まっていく嘔吐物。殆ど胃液とアルコール。


「さわんないでよ」


虫酸が走る。
気分が悪い、血が逆流して。



「うるせぇ。」


迫り上げる吐き気の中で思いついた罵倒はこれだけ。
温かい掌が恋しい。


半端な事しないで。
襲った相手の介抱なんてしないで頂戴。
しかも他の男と呑んできた挙げ句に。

タイルの冷たさが剥き出しになった膚を刺激する。
疵に滲みる。


開け放たれた窓からは雨上がりの匂い。





肩で息を吐きながら口唇に残る胃液を吐き捨てる。
後ろにひっくり返りそうになっている私を器用に脚で支え、
洗面台脇に置かれてるタンブラーに水を汲み“漱げ”と言わんばかりにさしだす。

震える手でそれを受け取る。
触れた指先は熱かった。
立ち上がろうとするけれど、脚には力が入らない。一口含んでそのまま便器に零す。
傍の壁に私を寄りかからせると、ハンガーに掛かったタオルを湯で濡らした。



「脚、開け。」



これ以上何をするというのか、最早逆らう気も起きなかった。
従う気は更々。

口を開くのも億劫で、視線すら上げなかった。




舌打ちをするように、膝に手をかけアタシの脚を広げる。
そこにべったりと張り付いた、絶して合い混じることのない二つの体液を拭う。
脚を伝い、その奥まで。



「い、た。」


その手の運びはごく緩やかであったけれど、繊維が疵に当たって思わず声を漏らした。
一瞬顔を上げる。蒼白な顔はアンタもじゃない。

何度もゾロはそこをゆっくりと拭う。
笑ってはいなかった。
いつもより怖い顔で、口を引き結んで、眉根が寄せられている。


何考えてるんだろう。





 此処は妙に寒い。
 何だろう、寒気がする。
 あの手の温かさを反芻した。
 触って欲しい。




ランドリーにそれを投げ、手の甲で私の頬をさする。薄く目を開けると立てるかという。
首を振ると、膝裏に手を差し入れ首に捕まれと言う。
大人しく言うとおりにすると、バスルームを抜け、部屋へ。


ベットに降ろしアタシを毛布でくるんで、その脇に横たわる。
いつの間にオイル切れしたのか部屋は妙に薄暗く、
嫌いだとか好きだとか憎いだとか愛しいだとか、
もう何も考えたくなくて目を閉じた。
只、今は誰かの膚の熱が欲しかった。妙に寒い。凍えそうだ。
例えばそれがアタシを今し方辱めたこの世で一番愛しく憎いヤツが相手だとしても。
イヤじゃぁなかった。



暗闇での一時はまるで永劫のようだった。
秒針の進む音が無機質に響き、いつもなら気にも留めない程の音が轟音のようになる。
その中で、男の目だけが白く浮き上がり、眠っていないことを教えてくれた。




「どうして何も言わない。」




目蓋に掛かる息。
身じろぎひとつせず、片手枕。私を抱きとめただ静かに見下ろす。

お互い激昂した熱は嘘のように引き、最早満ちることもない。

此処で終わりか。


代償の大きな賭。
私は今それに負けようとしてた。

勝負運はいい方なんだけど。
最期に。


もう一度勝負を。
賭けても好い?アンタに。




「満足?」

絶望して見せて。
気紛れなのか、それともそれが本当の顔なのか。

「出ていって。」

傷ついたような顔をして浸ってみせなよ。
愚かな加害者ぶって惨めな独占欲であったと悔いて。

「もう、出ていって。」

いったりしないで。
此処にいて。額を擦りつけてアタシに侘びなよ。
アイシテイルと嘯きなよ。


「でないと、アタシ何するかわかんない。」

悪循環するこの期待と絶望。
答えを待ってる。
アンタがした仕打ち、思い知りなよ。その代償を払いなよ。






「すりゃぁいい。」





美しく澄んだ、低い声。
己に酔っているのか、それとも万が一にでもアタシに焦がれているのなら。
私の上に伸し掛かり。



先刻の記憶が甦る。
怖い。

捻子込まれたあなたの。




「喰い千切るなり、そこの妖刀で割捌くのも好い」

もっと言って。
アタシの奥が疼くくらい。

真摯な目。
真摯な声。
狂った男の目。



「本当はな、満足なんてしてねょ。」


熱い手のひらは私の顔を逃げないように固定する。
口づけをする時みたいに傍にある顔。


「跪かせて」

熱は再び上がりながら、悪循環の元凶を煮詰めて。

「この腕へし折って」

加速する嗜虐性は同様に私の被支配に快楽を憶えさせ。

「その脚もいで」

怖がるアタシは同時にこの男に支配される悦びを。

「この目を抉って」

記憶に残るだけの愛しい男の匂いをかぎあてる。

「狭い部屋に閉じこめて」

いつまでの此処に来ない男を待ち侘びて。

「俺以外の何物にも触れさせないようにしてぇんだ。」

アンタだけを只、望み。



痛い思いをしたのはアタシよ。
 泣いて侘びなよ。
アタシに「赦せ」と懇願しなよ。
あれは愚かな行いであったと、床にへばり付いて額を擦りつけて。


半端な優しさは、自己満足か。
或いは本当に私の事を?



「完全に俺の支配下に置いて」

独占欲は全ての良心を葬ったとでも言うの?

「お前の世界には俺しかいないように。」

狂おしいまでの、純粋な狂気は美しく。

「一生遺る深い傷跡、つけさせて欲しかった。」

今にも泣き出しそうなその顔の理由、浴びせてよ。

「俺から、逃げられないように。」



ゲージから逃げおおせぬ哀れな小鳥。
いえ、逃げられないのではなく私を愛してくれるものがそこにいるから逃げられない。
それはアンタも同じだって言うの?



震える声が愛おしかった。
自己満足だろうが、赦せなかろうが。
あたしの身体は正直でした。
自分でも分かるくらいアタシのそこは濡れていて、
この告白とも取れる狂気じみた散文詩。
謳ってるこの男が出す糸に雁字搦め。

なんで今日はこんなに饒舌?
不安なの?何をそんなに不安がるの。




「嫉妬? 」



ゆっくりとした目蓋の瞬きは肯定?否定?
どっちでも好いわ、この際。
もうだって、待ちきれないし。


一生遺るような疵?結構じゃない。


「もう二度としないで。」
「しない。」
「約束して。」
「する。」



涙が溢れた。
恐ろしかった男の力が急に安心できるものに変わったのはこの男の所為だ。
同時に思い知らされた。
私が左右させているのだと。その首を本当に押さえているのは私だと。

理由も分からず涙を流す私に困惑しながらそれでも精一杯優しく髪を撫でながらあやす男は滑稽であり、
けれど私にはとても愛おしく感じた。


私の名を呼ぶ馬鹿な男。
赦せないわけがない。

私に狂った男。途方もなく君は。

end


「痴人」の続編。どうもお待たせしました。
1111hit踏まれたぷーちゃんに捧げます。
甘味テイスト大全壊で(全開 か?)書いてみたんですが、どうでしょうか。
私、実は甘々書けない人間なので・・・・。玉砕。
ゾロの嫉妬前提の「続・痴人」シリアスで甘めでしょうか??

>お互い素直になれて、愛を確認しあえる・・・甘いのをvv

と言うお話ですが、この辺は玉砕??(笑←じゃねぇよ。)
自分基準だからなぁ。うちのはシュガーレスなので、ビタースウィートくらいにはなってるような気がしますが。
どうでしょう??しかし、これ続編でしかも裏においてるけどやってネェてなぁどういうことよ。
まぁこの続編は実は考えてた部分もありましたので、まぁいいかんじに仕上がったのではないかと。
実はこの続編もありますが、それはまた書くかどうかもわからんようなネタなので、
また今度!!(防御にでちゃったよ。)

お受け取りいただけますでしょうか????
*
ところで今思ったけど、これ、甘いんだか暗いんだか痛いんだか・・・。(最後が最有力候補)
かなり饒舌でらっしゃって、なんだか別人です。
しかも思いついてしまった続編がまたかなり痛い。

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