cherry
「しってる?」
「何を?」
「さくらんぼの茎を上手に舌で結べたら、キスが巧くなるって?」
高々、食後のデザートに入っていたさくらんぼ。
それを見て、ナミが言う。
そうして自分でやって見せた。
時間は掛かったが、それでも結び目ができてる。

「そんなことに費やすなよ。」

首を傾げて、馬鹿にしたような顔でゾロは言う。
「エー、子供のころやらなかった?」
しますします、と俺とナミのベンチの間に割って入って、サンジは言う。
大仰にゾロを肘で小突きながら、「ねー」と自分もやって見せた。

しかもナミがするよりずいぶん早い。
「巧い、何それサンジ君。」
「二重結びですよ。」
舌の上に乗った茎は二重に結ばれている。
凝ってる。


側で見ていたウソップが、馬鹿なことをやってるコックを見ながら言った。
「練習したのか。」



ルフィが今日は珍しく見張り。
ナミは日誌を書くと言って部屋に引きこもった。
キッチンには、むさ苦しく男が3人。

明日の朝食の支度をするサンジに向かって、テーブル越しにゾロが言う。
「おまぇ、練習したクチだろ。」
野郎の質問になんか一切答えたくはねぇんだという様で、
こっちをちらりとも見ず、「何が?」と返事を返す。

「さくらんぼ。」

「ばっかだなぁ、お前。」
ウソップが、コーヒーにミルクを入れながら笑う。
「したさ。そして試した。」

「誰に??」

思わず声が重なる。
そのタイミングは見事な物で、サンジは思わず振り返った。

「いや、レストランの客に。」

なんだ、と明らかに失色の声。

「いや、ナミに試したのかと。」
なー。と間髪入れずウソップがゾロの発言に相槌を打った。


「俺だって試してぇよ。」

独り言のように呟いた。勿論それを聞いたゾロが、側にあった空になったコーヒーカップをサンジに投げた。
こっちをちらりともみないでそれを受け取り、洗い場に置き新しいグラスを投げてよこす。。

「で、どうでした?」
ウソップがまだ熱いコーヒーを冷ましながら尋く。

「いや、いいらしい、よ。」

「で?」

むさっ苦しく男三人なんだから、もうこうなったら、そこを聞くしかないだろうとつっこんだ。
「なにが、『で?』 なんだよ。」
挑発には乗ってこない。

「その後ってこったろ。その後の具合はどうでした?」
んー、と語尾をのばして誘う。
「巧くやったんだろ。もしかして、それが初めて??」
こんな事、他のクルーの前では喋れまい。
にやにやしながら答えを待った。

「その後って?」


また、そんなこと、ゾロは自分の前に置かれたグラスの氷を指で混ぜた。
サンジは依然素の儘でこちらを見ている。

「お前、まさか、お行儀よく手順を踏むタイプ?」

憤慨するかと思いきや、『ぇ』と小さくきこえた。
「サンジ、お前、1セットじゃないのか。意外だなぁ。」
ウソップまでもが、首を振る。

飲み込めていないのに苛立ったゾロが、アルコールで舌の廻りが良くなったところで、
答えろよ、とサンジのためにグラスを作った。
ようやく内容を把握したのか、「あー。ぁぁまぁ、それなりに。」
おざなりな返事で椅子に腰掛けた。

こういう話には乗ってくるクチだと思ったが、とウソップが笑う。
同時に、何か違和感を感じた。

思い切って、その違和感を解消しようとグラスを傾けかけたサンジに直球をなげた。
まぁ、ダメならワンアウト。

「まさか、お前自身がチェリーか?」

気管に入ったのか、それともビンゴだったのか、どうやら後者だったらしい。
「何言ってんだよ。」
そう言った表情には狼狽の色が濃い。


「んな、お前。」


「ビンゴ。」


咽せてせき込みそうなサンジが声を上げた瞬間ゾロとウソップの声が交互に挙がる。

「キスは巧いって」
「キスだけか??」
「まだ未使用?」
「開封前??」
「ラッピングされたまま?」
「いや、包装は開けてあるけど、タンスの奥にしまった儘なんだろ。」

いやぁ、腕を組んで、ちらりとサンジを見る。

明らかに「やってしまった、」と言わんばかりの顔で、眼を閉じてる。

「うるせぇな、したこと無いけどされたことはあるんだぞ。」
「コックどもに・・・か、まさか。お前、そっちを先に知っちゃうと、後戻りできなくなるらしいぞ。」
くそ真面目な顔で、甚だ下品な事を言いのけた。
グラスを音を立てておきながらゾロを睨む。
「馬鹿、女にだよ。」
「何を!!?」

語尾を言い終わるか、終えたかのうちに目の色変えてこっちを向く。

「いや、就業中に・・・クチで。」
「ん、まぁイヤラッシィ。」
乙女のように両手で口を押さえながら肩をすくめる。

「お前はどうなんだよ長ッ鼻、お前こそ未開封未使用だろ。」
平手でテーブルを叩いて煙草を挟んだ指でウソップを指す。

「こいつはなぁ、出航前日、どこにもいなかったんだぜ。」
「バッ、ゾロ。」
何言い出すんだ、と言わんばかりに手の甲がゾロの胸に飛んだが
それを掴んでテーブルに戻す。
「オジョウサマんトコだろ、ッてみんなで言ってたのお前しらネェだろうな。」
意地悪く頬をゆがめた。
「オジョウサマ?」
そうか、お前はしらねぇんだっけと、付け足す。

「いや、美人でな。ありゃ他にオトコしらねぇからこんなのに引っかかっちゃったんだろうな。」
「こんなのってなんだよ。」

ウソップの反論など気にも留めずそのまま喋った。
「オイ、美人なのか。」
サンジがテーブルに乗り出す。
「そ、美人で、気だてもいいし。」
珍しく饒舌な彼は脚を組み直して手振りまでつけている。
「しかもこの鼻にベタ惚れ。」
「鼻って言うんじゃネェよ」



「オイ、鼻、おめぇそこで捨てたって言うんじゃネェだろうなぁ。頷いて見ろ、カチ割んぞ。」


やっぱり、とゾロは身体をまるで半分にして笑い出すのと、サンジが叫んだのは同時。

「ッてぇおい、頬赤らめてんじゃねぇ!!」

「んだよ、こんな野郎にいて、こんないい男に女の一人もいねぇってのはどういうこったよ。」
絶望をに打ちひしがれた姿、そう言う物を想像するしかないが、
まさにサンジの落胆ぶりはそのものだった。


「ナミさんはどこが良いのかこんな女心のひとつもわかんないようなのがいいらしいし」
「うるせぇな。」

恨めしそうにゾロを睨み、

「ビビちゃんはキャプテンかぁ。」
「あーあれはまぁしょうがネェだろ。」

今日は見張り台には二人が連れ立っている。

「しかも鼻には相思相愛のお嬢様ぁ・・・。」
「鼻って言うんじゃぁネェ、」

心底悔しそうにウソップを睨む。
もう我慢できないと言うように二人が笑い出したのに、立腹。
確実にこいつには勝ったと思いこんでた相手。
彼に負け、しかもゾロより大きな声で笑ってる三つも下のクルーに噛みつく。
「なぁオイ、俺には鳥かトナカイがお似合いってか??言って見ろ。」
襟首掴んで揺さぶるが、堪えた様子もない。しかもそんな状態でも小刻みに肩が震えてる。

「いや、それは、鳥やトナカイがかわいそうだろ。」

違いねぇと言いながらテーブルを叩いて笑いだし、暫くそれはやまなかった。
二度目のサンジの罵声が飛ぶ前に、ゾロはドアの方に行きかけた。
「どこに行くんだよ、お前。」と、詰問されたが、「まぁ」と男部屋とは違う方のドアに消えた。





「ネェ、何夜遅くまで喋ってたの??」
ベットの中で、背中に乗りながらナミが問う。


「あれはな。」
軽く笑いながら、暫く今夜あった衝撃的な事実を彼女に言うことができなかった。


                                                            

end


サンジさんが好きなお嬢様方。
平身低頭お詫び申し上げさせていただきます。
いや、真夜中「サンジはチェリーだったらどうする」と、妹君と話してたらできた話。
こんな物、BDでupする?普通・・・・・?
ごめん。
しかもおもんないし。
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