-ever-
「連鎖の先端」
連鎖の先端 此処はどこ
止めどなく流れるような
そういう連続したもの

時間

君の涙

縛られる方が好い
そういうモノに縛られる方が好い
雁字搦めになっていく方が万倍も好い
身動きも取れぬほど縛ってくれ。
息も出来ぬほどに
見えない細い糸で

繋ぐものさえあるのなら
喩え踏み違えても戻ってこられるだろう
遠く思い出せぬほど遠い声。
絶え間なく。
耳に届いては俺は怯える。
何故今になって、こんな事を思い出すのか。


暗に知らしめるその呪縛の深さ。
連鎖の先端に、思う。


忘れようとしても思い出したように苦しめる。
いや、忘れたくないからか、或いはその苦痛すらも心地良いのか。
恐らく後者。
俺は常に縛るものを必要としている。
それがいつもバカの一つ覚えに言う「約束」だとか。
それを律儀に守る俺自身の理屈だとか。


律する気持ちと守らねばならぬと言う強迫観念。
誰にも知られることがなかったのに
それに気が付いた者が一人。


「馬鹿だね、お前は。」


嘲笑うように煙を吹き付け
それを払いながら睨む。

あぁ、判ってる。
正真正銘の馬鹿だと。

そんなことくらい
お前に言われなくてもわかっているんだ。







誰も俺のその根底を知らない。
守らねばならぬ約束があることを、
その理由付けになる俺の思いこみなど。
知るはずもない。
だから俺を馬鹿だという、俺を馬鹿だと言っていいのはそれを決めた俺自身。
けれど、俺は大馬鹿者だと思う。
おそらく俺のことなどアイツは歯牙にも掛けては居なかった。
遙か先、その目指す高みとやらに焦がれていたはず。
俺が彼奴に追いつこうと背伸びをしていたことなど、自分も今更ながらに知ったことだ。


何故、餓鬼の背伸びなど。
それは一種の通過儀礼かも知れない。
コックの煙草と同じ、麦わら帽子、嘘つきの称号。
そういうものと一緒だったのかも知れない。

しかしそれとはもう一つの理由を思いついた。

それはずっと蓋をしていた。
開けてはならぬパンドラの箱
俺は彼奴に勝たねばならなかった。
完璧でなくとも良いから その切っ先さえ触れることが出来さえすればいい
そう思っていた。

では何故。


これ以上は拙い。
確実に滑り始めた思考。


あぁ確かだ。
お前が言ったように、それは確かに・・・・・・・。












*





風の強い日だった。
畳まれた帆に当たる風が激しく、集中すると足許が揺れているのを感知させるほど。
見上げると大きな銀色の月がこっちを見下ろしていた。晴れた夜は好きだった。
今夜は星は光に掻き消されて殆ど見えない。

何かの弾みで開けた酒瓶が床に倒れた。
水平でない甲板の上でそれは行き先もないまま転がっていく。
それをどうともしないで見ていた。
誰かの爪先。
転がるそれを足で踏みつけ、船室へ入らないのかとと問う。

一人で飲んでるなんて珍しくもないけど、つき合うわよとドアを指さす。



「いや、いい。空が見えないだろ。」
「星を見てるの?」

見えないわね、こんなに明るいンじゃぁと満月を睨んだ。

「馬鹿にしてるだろう」
ううんと首を振り、今夜はよく晴れてるわねと俺のグラスから一口盗んだ。

二人で遠くの方を見ながら暫く風が起こす唸りを聞いていた。
別に居心地が悪いわけではなく、それが当たり前になりつつあった。
遠くまで月光は雲を照らし、空に浮かぶ海のように薄く広がっていた。


「何かあった。」


様子がおかしいことは自覚していたが、こうもストレートに訊かれると返しようもない。
おそらく別にと言えばそうと微笑むことはすぐに察したが、何故だかそれを今はしたくなかった。
女はそれを察しているのか、聞かない方が好いと寂しげに笑った。

妙に苦しい気持ち。



「昔な、」

話すようなことでもない。
たかだか昔話だ。
寝物語にもならない。


「生涯初めの決闘をした。」


命を懸けたが負けて、生き残った。
よく晴れた夜だった。
月が綺麗で、よく憶えている。


「餓鬼のお遊びだったと、笑うかも知れネェが俺は本気だった。」


命のやり取りをしようと、持ちかけてそいつはよしと頷いた。
でも俺は負けたんだ。
勝てない理由は思い当たりもしなかった。

「勝った彼奴が何故か泣いた。」


時が経てば俺に分があるからと。
馬鹿にした話だよ、じゃぁ俺はいったい何でない頭絞って躍起になってるのかってな。


「そのときに、約束したんだ。」

どちらかが必ずこの夜の剣士の頂点に立とうと。負けた俺が言ったんだ。
彼奴はおれを馬鹿にして今のお前みたいに笑った。
弱い癖にと。

笑ったその顔を見て安心した。


「なんで今更そんな話を?」

餓鬼の頃の夢を見たんだと、立てた膝に俯きながら少し笑った。

真夜中二人して起き出して、山を一つ越えると海が見える場所があった。
そこから見える遙か霞む海原を指して、あの先にはまだ知らぬ世界があると。
いつかそこへ二人で行こうと俺の右隣で笑った。
そういうこともあったなと、昨日夢を見た。

「今、その人は。」

顔を上げ、天を指し、分身はこれと白鞘に触れた。




「初めて聞いた。」
「だろうな、初めて言った」

しれっと応える様が妙にすましている。

「何故今まで?」
「言ったら笑うだろ」

少し小声になり、さっきみたいに俯いた。

「笑わないよ」


笑うさ、コックなら大笑いだ。
何センチなことを言ってンだって、腹抱えて笑うに決まってる。



「でもサンジ君だけが、アンタの勝てない理由に気が付いたんでしょう。」


舌打ちが聞こえた。少し後ろめたいのはその所為。
なのに何故話してしまったんだろう。

こんな事を聞いても面白くないのは百も承知だ。
尋ねたかったがそんな勇気はなかった。
誰にも見せまいと思っていた心弱さをこいつは何事もなく流すだけ。
それで、と何事もなかったように。






「同じ道をずっと行くものだと思っていた。」

子供だったんだと、今なら判る。
今日も明日も明後日も、ずっと。
いつか分かつ道を選ぶとしても、
目指すまだ見ぬ場所と行こうとするならばきっとどこかで交わるだろうと。


背中を船壁に預けて仰向き眼を閉じる。
盲信していた頃を懐かしむのはもう少し年を取ってからでもいいだろうとも思った。
けれど、昨日見た夢は妙にリアルで一時思い出させるには十分で。



「もしも生きていてくれたなら、」



ナミはその声を察したとき態と遠くを見た。
微かに声が震えた。
いつもは見せない心弱さと憧憬が押し寄せ決壊しようとしている。


ゆっくりと俯くとそのまま動かず、その先の言葉もない。


只待った。
風の唸りと、帆を叩く音、星の瞬き、月の影。
それを眺めながら俯く男を見ないように、只待ち続けた。




ふと持ってきた煙草に火を点ける。
オイルライターは風に消えることもなく手の内で燃え上がる。


「アンタもやんなよ。」


口唇から今し方つけたばかりのものを差し出す。
そしてもう一本。


「お線香の代わり。」


それを受け取り顔を上げた。
いつもの精悍な顔に戻っていた。
眦が少し赤いことには気が付かない振りを。



祈るようにそれを一口もう一口と灰にしていく。
柔らかなそれはまるで雪のように風に舞った。


遙か遠いその先。
指さした先に見えた篝火。
丘を越えて見えたまだ見ぬ真秀ば。

この先行く 遙かなる道程
今は左隣の女がナヴィゲーター
連れて行ってくれ、どうかこの先、最後までつき合って。






「頭にくる男だろ。」



ようやくまともに此方を見て笑ったことにナミは安堵した。

「ホントにね。」
そう言ってやって頬を一つ軽く叩く。

いつも通り身体に巻き付いた腕が今夜はやけに頼りない。
振り返らずに部屋に戻ってくれと、懇願して口づけを一つ。








「おやすみ、いい夢を」

そう言い捨てて、約束通り振り返りはしなかった。

end


ちょっとぬくもりすぎてしまいましたこの話。
クレユキ的書いた時期は去年の今頃という暴挙。
そりゃ何書きたくなったか忘れるゆう話ですわ。
でも勿体ないので舐めちゃったじゃなくって書いちゃいました。
因みにこの話の趣旨は「初めて泣いちゃうゾロ殿」(笑)
男の人の涙って私は好きなのよ(笑)
うざいとか言わないでね、しかもこれ・・・・・・・・・・
うん、もう何も言いません。
すいません実はこれサンゾロでも行けそうな気がしてきた、途中から
えぇもう、どうでもいいよぉ・・・
あぁ泣きたい。
初恋の話と絡ませるのはアンフェアか・・・
祭向きではないこの話。
やっぱりやめときゃよかった・・・・

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