baby moon
あなただってステキよ
そんなに拗ねないで
でもきっとあのこにはあの人の方があっているのよ
かみ合わないパズルピ−ス 無理に繋ごうとしても無理
探しなさいな、あなただけの
この船の中は把握できた。
あとはこの船の中の力関係。
それも解った。
それから感情のベクトル。

分かり易すぎるほどだわ。



威勢のいい航海士には誰も逆らえない。
逆らう気もない人もいるけど他のクルーは諦めているみたい。
でもそこへ喰って掛かるのはいつもあの子の役目。
でもそれって・・・





跫音を態と消したわけではないけど、
一瞬びくりと振り返ったその顔は妙に怖い。
ビックリさせないでよと強張った肩を降ろしてなぁにと銜え煙草の侭笑った。

「あの二人はいつもああなの?」

甲板の上でどう見たって痴話喧嘩にしか見えない会話を繰り返す二人を指さした。
ちょっとむっとした顔でまぁ概ねと髪の毛で隠れた視線。
判りやすいその声。でも顔は見えない。両者を計れぬ儘吐き捨てた。
日常茶飯事過ぎて誰も気に留めていないけど、
この子だけは一々それを見ながらむっとしたり口を挟んだり忙しい。
でもお目当ての方にもその子が突っかかる子にも全く相手にされてなくってちょっと可哀想。

「仲良しね。」

彼にだけ聞こえるように言ったつもりだったのに、
離れたそこから『誰がだ!!』と噛みつかれた。
思わずそれに失笑した。反応の可愛らしさもさることながら本人達は全く自覚がないらしい。
きっと気が付いてるのは傍にいて、でも全く内側に入れないこの子だけ。




「あれ見て傷ついてるのね、コックさんは。」

俺諦め悪りィもんと端正な顔を不格好に歪めて煙草を吸って。


でも気にしてないとは言わないのね、
認めたら負けだとでも思ってるのかしら。

言外に隠された疎外感と孤独が猫背の背中に不満を押し出す。
ただ黙ってその遣り取りを見ながらお腹の中でどんなこと考えてるの。


「なぁにロビンちゃん、人のこと見て笑ってさ。」










「あなたはこんなにステキなのにね」



言われた瞬間顔が変わった。
本気とか冗談とかじゃなくって本心を言ったまで。
他意はないのに。
馬鹿みたいに開いた口から煙草が落ちて手の甲に落ちた。
うわぁっちぃと大袈裟に飛び退いて動揺を隠そうなんて古い手。
どんな人に仕込まれたのよ。




もうびっくりさせないでよ、そう、まともにこっちも見ないで手を払い
俯いたまま新しい煙草を探す。
そう言った横顔は微かに笑っていた。



「見せて。」

なにをと言われる前にその手を取った。
水仕事の手は少し荒れていて、それでも男の手にしては十分綺麗だった。
長い中指、そこから続く手首まで透ける皮膚下の骨。
その筋の丁度真ん中に黒い灰の跡。
指先で払うと少し赤い。

「大事にしなきゃ、商売道具でしょ。」

口許まで持ち上げて舌先で消毒。
見上げると色白の面が日も落ちたのに赤く染まって。

ありがとうと心細く語尾は消え入り、新しく探し出した煙草に火を点ける。
マッチを擦るけれど風に煽られて消えて。


その手を両手で覆う。その挙動に不信感。
見上げて笑ってやったら目だけで笑って炎を吸い込んだ。
用済みのマッチに息を吹きかけ消して、二口目は私が貰った。


よく見たら可愛い顔をしてる。
でも整い過ぎてるわけではなくて、
ちょっと垂れた目とか、
薄い口唇とか困ったように首を傾げる仕草とか。
人に見られることを知ってる人なのかしら。



「本当?」



平静の顔に戻った。
私の手から煙草を取り返そうともしないでこっちを覗き込んでいる。
それは嘘を見抜こうとかそう言うものでは全くなくって
それが本当だったらいいなと夢想する顔。


「えぇあなたはステキよ」





銜えていた煙草を返して背を向けた。

「オレァロビンちゃんも好きだよ。」




ほら、そう言うところが駄目なのよ。
応えないでおこう。



だって、私がビックリしたわ。そんな顔が出来るのね。
垣間見せた男の目。
それに私自身が動揺したことには。
黙っておこう。
だってあなた嘘を吐くのが上手すぎるようだから。


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完全版です(笑)
8/1の御茶場での出来事を盛り込んでみました。
どこが変わっているかは一発ですので書きませぬ。
ところでニコサンのサンジは愛いと評判ですが(一部地域のみ)
それはやはりゾロナミ以上にニコサンがオネェ様向けだからでしょうか・・・・
意見求む。

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