68
「所詮ひとり」
近藤さんとお妙さん





曰くそれは独り善がりでしょう、そう言った。
はっきり言ってやった。
独り善がりで夢見がちで、何にもならない。

男は笑った。


「お妙さん、あなたは夢ではありません」


男の手には花が握られていた。
その日は野菊と小さな萩の花が咲いているだけの野の花のブーケ。
いつもの夢のように芳しい花ではなかった。

「ぼくが摘んだのです」

褒めて欲しいのかそれとも事実の羅列か。
男は言った。
受け取ってくださいと、言った。

「花を摘むなんて、可哀想」

意地悪を言う。
男はそれでも顔をまっすぐ上げる。
もっと酷い事を考える。
男は決して俯かない。
言い訳もしない。
愚鈍に黙り、ひたすらにわたしを見つめた。

所詮は独り善がり。
あなたはわたしをあなたの目でだけ見ている。
でも皆そうするしかない。
自分の目で見て、手で触れて、距離を測り、大きさを知り、温度を感じる。

皆独りだ、所詮一人。
独り善がりの世の中なのだ。
互いの座標を知りたがる。




「あなたが持っていると、花が可哀想」



寄越しなさいと言い捨てた。
男は笑った。
とても嬉しそうに。

いい、これは好意を受け取ったんじゃないの。
花が可哀想だから花を貰っただけ。
男は何も言わない。
そうですかと言っただけ。

野の花の花束は、記憶の中のゆうぐれの匂いがした。

end


WRITE /2008.12.1
近藤さんのことをお妙さんは決して嫌いではないと思います。
多分、どうしていいか判らないんだと思います。
常に彼女は「お姉ちゃん」であって新八の姉でもあり、保護者であって、
自分のことは常に後回しにしてきたのでは無いかと。

だから歳の離れた「男」に求婚されること自体が想定外だったのではないかと思いました。
いずれは誰かと結婚するだろうけど、
それは皆がやっているからと言う理由で想像しうる未来であって、現実のものではない。
けれども生身の男に求婚された、その現実を拒否したいまだ十代。
だからこその、「皆のところへ帰りたい」皆がいて近藤さんをどついたりしたい。
まだ変わりたくないと言う希み。だから近妙は10年の視野
↑気に入ってくださったら
押していただけると嬉しい

inserted by FC2 system