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「結婚白昼夢」
坂田さんと志村さんちのお嬢さん


「あら、花嫁行列」

妙は急に声を上げた、鈴のにぎやかな音がした。
銀時は振り返る。
古式縁しい花嫁行列がゆっくりと此方へ向かっている。

志村家は武家屋敷が立ち並ぶ一角にある。
最近ではこんな行列など殆ど見ることもないが、家の格やらで屋敷で披露宴をするところもあるのであろう。
妙と銀時は行列に道を譲ろうと縁によけた。
それをみて介添人らしい年嵩の女性がにこりと笑って目礼した。
おめでとうございます、妙はにこやかに笑って言った。

花嫁御寮は真っ白な綿帽子を被いて葦毛の馬に乗っている。
紅白の布で織られた縄を持つ馬役が口輪を持ってゆっくりと歩みを進めている。
白無垢の裾が振動にあわせて揺れた。

銀時は通り過ぎる鈴の音を聞く、足音を聞く。

「素敵ですねぇ」

ん、あぁ、銀時は気も無く言った。
後ろを歩く人々は神妙な顔をして付き従っている。
嫁入道具であろう、昔ながらの塗りの長持に道具一式。
鈴の音ともに通り過ぎる。

「神楽ちゃんも、いつかあぁやってお嫁に行くんですよ」

妙はぼんやりと行列を眺める銀時に言った。
銀時は焦点の合わぬような目で行列を眺めたあと、ちらりと視線を寄越した。

「順番からいやぁ、オメェのほうが先だろうがよ」

あ、相手が先かと真顔で冗談を言った。
即座に鉄拳制裁が来るかと思ったが、折角の花嫁行列に水を差すのを悪いと思ったのか、
二の腕の内側、皮膚の柔らかいところを手酷く抓られた。
慌てて腕を振り上げ距離を取る。

鈴の音が通り過ぎる。
礼装の列が煌びやかに続いていく。

「私は、いいんです、あとで」

妙は花嫁の背を目で追った。
同時に付き添うように歩く年嵩の人々を愛おしげに眺めた。
下手なこと言っちまったなァ、と銀時は妙に聞こえぬように一人ごちた。
随分歳の下のこの娘は、時々物事を真面目に答えてしまう。
冗談で済ませようと思ったのによと銀時は同じように行列を眺めた。

「でもそれを言うなら銀さんこそですよ」

冗談ぽく妙は笑った。
オレはいいの、子育てに忙しいからァ、と冗談めかしたが妙はそれ以上何も言わなかった。
この娘は、言ってみれば随分歳の離れた妹といっていいくらいの歳である。
だが、どういうわけか一目置くような態度を取ってしまうのはわれながら不思議だと銀時は思っている。

我々は同志なのかもしれない。

花嫁を見送りながら恐らく互いに当事者ではなく送り出す者の側に立っている。
白無垢の花嫁は、あと十数年後の神楽の姿を想像させた。
恐らく妙はこの行列の到着先、弟が妻を娶るときのことを考えているのではないだろうか。
私は後でいいといったこの娘が、あの衣装を着るのはいつになるのだろう。


「お妙、いざとなったらゴリラで手を打て」


銀時は腕組みしながら突然そう言った。
妙は一瞬耳を疑ったが、脊髄反射の勢いで厭ですと言った。

「幕臣だよ、しかも局長だよ、局長夫人だよ。老後は若い衆に見てもらえるから安心だしよぉ」

いざとなったらって言ってるじゃねェか、別に今しろって言ってるわけじゃぁねェ、
銀時はそう続けたが答えは同じ。

「いやです」

全部済んでからなんて言ってたら後れを取るぞと言ってやったが、厭ですの一点張り。
ゴリラの気がかわらねェ内に貰ってもらった方がいい。
何しろこの不景気な世の中で幕臣だ。
退職したって殉職したって国から銭がたんと出る。

「三十路行く前には手を打て、な」
「余計なお世話です」

おめぇが片付かねぇとおちおち自分のこともおっつかねェ、
銀時は一人ごちたが妙はそっくりそのままお返ししますと笑った。

鈴の音が通り過ぎる。
真昼の花嫁行列。

end


WRITE /2008.12.1
銀時は父であり兄であり、妙が頼ることの出来る唯一の大人の男の人。
いざとなったら助けてくれると言う心の支え。
手放しで助けは求めないけれども、性愛以外のところにある一番近い男性。
記憶喪失の銀時を素敵だと言ったのは、働くパパはなんか違うカンジ。
近藤さんを毛嫌いするのは「男」を感じているからに違いないと言う妄想。

銀時とお妙さんはそう言う関係。
兄弟の中でも同志であり対等。大人同志の話が出来る相手。
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