18
「骨になるその時まで」
お登勢+銀時




クソババアは今日も酒を飲んでいる。
煙草を燻らしながら、くだを撒く酔っ払いの杯を満たしてやる。
ついでにオレのもついじゃぁくれないか、そう言ったら払うもん置いて貰おうじゃないかと言った。

「お登勢さァん、お燗もう一つ」
「飲みすぎだよ、あんたたち、そろそろ止めときなよ」

陽気で愉快そうな酔っ払いがババアを呼ぶ。
ババアは悪態を吐きながら観音菩薩のように微笑んでいる。
ちろりをひきあげカウンタに置く。
その手には指環が光っている。

痩せた指に余るほどの、金色の指環。

ババアは手を洗って手拭で拭く。
濡れた手が赤く染まる。


「バアさん、オレも熱燗飲みたいんだけど」


アンタはほんとにしょうがないね、沸かしすぎたと酒を寄越した。
酒精が抜けちまってるからと言ったが旨かった。
差し出した手に指輪が見えた。
痩せた手だ。

火傷の後もあるし、節くれだって、てのひらがごつい。
色もお世辞には綺麗だともいえないし、張りも無いし、皺だらけだ。
その痩せた指を飾る金の指輪。

酔っ払いの相手をするときも、家賃を取り立てに来るときも、
飯を食う間も、便所に行くときも、眠るときも。


痩せた指を飾る唯一のもの。


例えば着物は朽ちるだろう。
この家もいずれは屋根が落ちる。
この酒も明日には小便になって出ちまう。



人はいずれは死を迎えて土に帰る。



けれど、アンタの指には指環が光る。
過ぎ行く日々でその輪が少しづつ歪んでも、あんたの痩せた手にあるその金の環。
クソババアって呼べないまま行っちまったっていう、あんたの連れ合いの代わりに俺が呼んでやる。

「おい、クソババァ、これ酒の味しねぇぞ、全部飛んじまってらぁ」
「うるせぇなタダ酒に文句つけんじゃないさね」


なんどでも。
なんどでも。





end


WRITE / 2008.11.1
つまり母と息子。
息子は老いた母を敬うが、相変わらず愛情の深さに時々こそばゆくなったりしたらいい。

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