「あのときの表情」
坂本+陸奥




「いかん」

辰馬が不意に動きを止めた。
陸奥は身体を揺すられ続け、そろそろ脚が痛いと思っていた。
慣れない所為なのか未だに何をどうしていいのかが分からないのだが、
最近漸くあまり強くされない方が自分はいいのだということがわかって、先ほど辰馬に伝えた。
何を強くするかと聞かれ、あまり深く圧し込まんで呉れと言った。

「何故」

辰馬は繋がったまま尋ねた。
強く押し込まれると苦しいのだ。
物理的な意味ではなく、酷い圧迫感が内側からせり上がるように感じるのだ。
あまりにそれが酷く続くと、折角憶えたことが使えないから困ると申し立てた。
辰馬が中に入っているときにやってみて欲しいと言われ憶えた、
手で絞るように辰馬が入っているところに力を入れることを、だ。
そうすると辰馬は酷く苦しそうにするのだが、
とても気持ちが良さそうにするのでそうしてやりたいのだと申し立てたのだ。

そうしたらいかんと言って動きを止められた。
動きが止まったのでちょっとやってみようと辰馬が私の中に埋め込んでいるものを、
それこそ「手で絞る」ように締めてみる。
具合はさっぱり分からないのだが、どうかのぉと聞いたら酷く赤い顔をしていた。
汗をかいた掌が頬を撫でて、口唇を何度も吸った。

ほがなこらぁ、空ろな目をしてすぐに目を閉じた。
苦しそうに、左腕は私の頭を抱え、右手は脚を抱えた。

「あんまり可愛うて、ワシがいかん」
なにを言うのかと尋ねようとしたとき、スマンと一声漏らして圧し込む動きを強くして、
陸奥に酷い声を上げさせた後、すぐに止まった。
辰馬はばつが悪そうに顔を伏せながら、
もう一度済まんと言って荒い息を耳の傍でさせながら何度かゆっくり扱く様に腰を動かした。

何が済まんなのかは判らない。
兎も角、違和感が脚の間に挟まったまま、あられもなく辰馬の身体を跨いでいると言うだけ。
ちくとまっとうせ、柔らかな塵唐紙を指先に絡めて腕を蒲団の中に戻す。
脚の間から抜かれた棒杭の埋まっていた先はすぐに閉じた。
湿ったまま糸を引く。

辰馬は身体を起こしたが、陸奥はどうしていいか判らない。
判じようも無いのだ。
只今まで蒲団と辰馬の身体で隠れていた自分の裸を、暗いといえど辰馬が見ていると言うのは恥ずかしい。
だが恥らっていいのか、此の脚は閉じていいのか、何を喋っていいのか判らない。

辰馬はそっぽを向いて何かしている。
多分射精したのだと思うがそうとは判らなかった。
恐らくサックを使っていたのだとおもう。

脚を閉じていいかと聞こうかとも思ったがそれも甚だ可笑しい質問ではないか。
困ったと思いながら見上げたら、さらに困ったと言う顔をしている辰馬がいた。
どうかしたのかと問おうと思ったらいきなり蒲団の上に突っ伏した。
身体は自由になったがその想像もできない動きに首を傾げる。

「た、つ」
「信じられんちや」

掠れた声が突っ伏し顔を隠した辰馬が言ったはじめの一言だった。
蒲団が跳ね除けられているので少し寒かった。
身体を起こして上掛けの端を掴もうと腕を伸ばし蒲団をかけてやろうかと思ったのだが、
背中一杯汗を掻いていたので、枕元にあるタオルで拭いてやった。
素っ裸でいるからまるで巨大な駄々子のようだ。

どがぁしたがかと尋ねても首を振るだけだ。

「あがぁにいつもは早いわけじゃァ無いき。なんちゅーか事故的なあれやき。
あー、えぇと、具合がようて、いやいやほうじゃのうて、なんちゅーか、
感動巨編の最終話的ないや最終話じゃぁこたわんの、これが序章くらいじゃ無いといかんいかん」

突っ伏したままぼそぼそと、枕の中で声が聞こえる。
事故と言うのは一体何の話なのか分からない。
何が序章で何が最終決戦だ。

「おんしゃぁ、何をゆうちゅう」

何しろぼそぼそと篭った声で言っているので陸奥にはよく聞き取れぬのだ。
顔を覗き込むようにしてやるとさっき以上に汗を掻いて真っ赤な顔が此方を見た。

「やき、あぁ」

肩を押して魚の片身を引っ繰り返すようにしてやれば、ようよう辰馬は此方を向いた。
なぜか赤い顔をして目が潤んでいる。

「ほやき」
「ほやき、なんなが」

嗚呼と呻いて其の儘また押し倒される。
腰に当たる棒杭が硬度と緊張を取り戻しており、冷たい蜜が脚に触れた。

「もっぺんえぇかの」

どうかしちゅう、とほんの数分前の様子を思い返したのだが、
ほがなこらぁ、初めっからじゃと辰馬は言った。
えぇかともう一度尋ねられたのでうんとうなづいたが、言葉を発する前に意味を失った。

end


WRITE / 2008 .4 .11
…拍手の御題の所為にしちゃいけないよね
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