「処女」
沖田+神楽+お妙




「あ」

声が重なる。
思わず足が止まる。
彼女がオレの顔と今しがた出てきたとおりに掲げられた大門の名を見て二度瞬きしたのを見た。

「こんばんわ、沖田さん」
「こんばんわ、姐さん」

見廻りですか、と近藤さんの想い人は俺に尋ねた。
あー、えぇ、そうですと軽く頭を下げた。
こんなところへも、えぇはい。
歳は同じと聞いているが、どういうわけか敬語を使ってしまう。
こういう人に俺は多分一生頭があがらねェのかも知れねェ。

「オイ、テメー私には挨拶無しアルか」

隣に居た彼女がいつもの口調で詰め寄った。
此方もそれに応じた。
隣で窘める筈の姐さんもいつものことだと笑ってる。
テメェなんぞ挨拶なんざァしなくたってぇかまわねぇだろよォ、
いつもどおりでいつもの遣り取り。

「男なめんな」

売り言葉に買い言葉。
いつもはそんな汚い顔舐めたらお腹壊すアルとでも云うところ、
どういうわけか彼女は黙った。
びっくりしたような、初めて何かに気がついたような。
そう言う顔だった。

隣に居た姐さんは、そろそろ帰りますよと彼女の背を押した。
それじゃぁね、沖田さん、涼やかに柔らかく笑った。
オレは頭を下げた。
彼女は蛇目傘の影からちらと此方を見た。
そうしてすぐに目を逸らす。

「神楽ちゃん。男の人はね、しようがないのよ」

優しい声が微かに聞こえた。
あ、いや違うんだ。
本当に見廻りで、浪士の溜まり場になっているという噂があって。
追いかけて説明したかったが、そんなことをしたとて意味は無い。
オレはしくじったとばかりに空を見上げた。びゅうと風が吹く。


見返り柳が嘲笑う。




end


WRITE / 2008.11.1
本当に見廻りです。後ろから一番隊がついてきているはずですが見えていません。
でも一度くらいは「男」の先輩に連れて行ってもらっていると思います。
近藤さん土方さんは連れて行ってないと思いますが。

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