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「声」
坂+陸奥




「やりゆうときのおんしの声」

「あしはきらいじゃないぜよ」


唐突に、陸奥はそう告げた。
辰馬は手枕のまま、ほうかと笑った。

「うん」

辰馬はその言葉を意訳したらしく、にやりと笑った。
つまりは好きだといわれて、腹の立つものではないのだろう。
終わってすぐは息が整わぬが、今は汗も冷えて互いの肌がところどころ触れている。
産毛も乾き、さらりとして気持ちがいい。

「あんまり、喋らんようになるきィ」

あっはっは、なんじゃほりゃぁ、辰馬はばたりと蒲団に倒れこむ。
もちろん私を巻き込んで。
硬い腕が身体を抱き、癖っ毛が頬を撫でた。
くすぐったい。

「普段はうるさいゆうがか」
「ようわかっちゅうがやないか」

酷いのォ、辰馬はそう言いながらにこにこ笑って顔を覗き込む。
鼻先を近づけて、口唇を微かに触れさせた。
やったら、もういっぺん、髪を撫でる。
指にくるくると髪を絡めた。
その僅かな振動の揺れ幅が、漸く閑まり返った悦楽の浪を揺り起こす。

右へ、左へ。

喉の奥から上がってきた温かい息を感じたのか、辰馬は口唇を塞いでくれた。
熱が篭るように、上がるように。


私はさっき、嘘を吐いた。
本当は。


言葉も紡げず名も呼べず、掠れた声で息を吐く。
その狭間で心細く、むつ、と呼んだその声。
熱っぽく、息と呼吸の狭間に、私に聞かれないように噛み殺した。
その声がひどく艶やかで、あなたが私に夢中になっていることを教えるようだった。

辰馬の身体が熱を帯びる。
驚くほど柔らかな声が私を呼んだ。











end


WRITE / 2008.11.1
饒舌な人が無口になると驚く



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