HAPPY LIFE
presented by ぷーちゃん

第十六話

「もしもし。」
「はい、スモーカー弁護士事務所です。」
「春に、ビルの再開発の契約書の件で伺った、サンジと言いますが。」
「あぁ、ジュラキュールさんのご紹介のv」
「ちょっと、訊きたいことあるんだけど。」
「どのようなことでしょう?」
「金、必要になったんだけど、どうにかなんないかな?」
「少々お待ちくださいませ。」

「かわった。」
「あ〜あのさ、金要るんだけど、何とかなんねぇ?」
「600万、振り込まれてんだろ?」
「足りネェんだよ。」
「説明したはずだが?」
「急に入用になったんだよ。」
「いくら要るんだ。」
「あと1000万。」
「無理だな。再開発はもう着工されてるし、契約違反だ。居抜きで売るにしても、違
約金払ってお終いだ。」
「なんとか、なんねぇのかよ!」
「最初に言った筈だ。」
「わかった。」

病院内の公衆電話を切って、外に出て、煙草を咥える。
入梅前の空は、抜けるように青く、太陽は眩しい。
「結局、金かよ・・・・」


上場、合併が内定してからのジュラキュール社幹部は、更に多忙をきわめた。知識の
ないゾロとはいえ、まだ完全復帰できないミホークの名代として、あちこちの会合・
接待に出席し、やるべきことは山ほどあった。羊荘に帰れない日も、週の半分位は
あったが、それでもゾロは、羊荘を引き払えば?というロビンの忠告を聞き入れな
かった。

羊荘に帰る時、無意識に2階の明かりをチェックしてしまう。不在なのか眠っている
のか、明かりが見えたことは無い。
それでも、目覚めて、この天井の上にナミが居ると思うと、胸が波立つ思いがした。

暑い日だった。ほとんどを室内で過ごすとは言え、一日の疲れを流したい。銭湯は
とっくに閉まっている。冷房の無いこの部屋で寝るのかと思うと、今から寝苦しさが
想像できる。
ナミに「構わないで!」と言われたことが。その柔らかな唇の感触は今も残っている
というのに・・・・
あれ以来、ナミとは顔を合わせていない。
引き上げどきだな・・・と、弱気になった。

台所で桶に水を張り、絞ったタオルで身体を拭いていると、女の声がした。
「何よ、あんたたち!」
「ちょっと、やめてよ!!」

短パンで、上半身裸なのも忘れて、外に飛び出すと、ナミと数人の男が揉み合ってい
た。
「てめぇら、何してんだ!」
「あ〜見ないほうがいいぜ、兄ちゃん。首突っ込むと、やばいことになっからよ。」
明らかに堅気とは思えない男が答える。
「うるせぇ、ナミから手を離せ!」
「おや、このお嬢さんとお知り合いかい?」
「この人は、関係ないわよ!同じアパートに住んでるだけよ!」
「関係なくないって、いっただろう。」冷ややかにゾロが応え、ナミの手首を掴む。
ナミの言葉は胸に刺さったが、今この手を離すことはできなかった。

「俺たちはよ、このお嬢さんに大事な用があるんだよ。」
「嫌がってんだろうが。」
「嫌だろうとなんだろうと、てめぇのツケは、てめぇで払うんだよ!」
「お金なら払うわよ!だいたい利息は前払いしてるじゃない!」
「オジョウチャンだねぇ〜〜利息にも利息がかかんだよ!10日で30万。うちは、
良心的なんだよ〜〜今日が10日目だからな。払える?」
「あんた達、騙したわね!」
「人聞き悪いなぁ〜〜ビジネスって言ってよ。だいたい、担保もないあんたに150
0万、誰も貸してくれないでしょ?感謝してくれなきゃ。」
「ナミ、お前こんなヤツラから金借りたのか?」
「そういうことだよ、兄ちゃん。払えないっていうなら、身体で払ってもらうしかな
いからねぇ〜〜」
「そんな・・・」
「世間知らずだねぇ〜〜〜」

「30万払えばいいのか?」
「いやぁさぁ、30万貰ってもお嬢チャンに逃げられちゃったら困るからねぇ〜〜と
りあえず、ついてきて貰うよ。」男がナミを引き寄せる。
「ちょと待て。ナミ、携帯貸せ。」

ゾロがナミの手首を離さないままで、電話をかける。
「あ〜俺。親父起こして。」
「なんだよ、こんな時間に。ミホークなら、もうとっくに寝てんぞ?」
「緊急なんだよ!」
「はいはい、お坊ちゃまは我儘でvv」

「親父?俺。悪いけど、今から俺んちに1500万持って来て。あっ、『おめぇら、
いくらありゃいいんだよ!1500万じゃ足りねぇか?』、やっぱり、2000万貸
してくれ。なるべく早く。俺んちの場所はシャンクスが知ってから。」
「何に使う?」
「惚れた女に。」
「1時間で行く。」

「てめぇら、金返せば問題ねぇんだろ?そこで1時間待ってろ。ナミ、部屋戻んぞ
!」
「逃げるんじゃねぇだろうな?!」
「そんなセコイ手使うかよ!そこで見張っていやがれ!」
「ゾロ・・・あんた、何者?」
ナミの手首を離さないままに、ゾロがナミを部屋に引き入れる。

玄関で立ち尽くすナミに、まぁ座れよ。と言いながら、万年床を畳んで、首回りの伸
びたTシャツを手にとる。短パンで裸足の、4畳半風呂なしボロアパートに住んで
る、この男が、2000万用意する??外のヤクザも気になるが、惚れた女って誰?
ナミは混乱していた。

「ゾロ、どういうこと?」
「俺のが聞きてぇよ。なんだって、そんな金借りたんだ?」
「それは・・・・」
「それは?」

緊張の糸が切れたのか、狭い玄関に座り込んだナミが、膝を抱えて俯く。
「教えろよ。関係ないなんて、言うな。」ゾロの手が、ナミの頭を撫でる。
しばらくの間、黙っていたナミが覚悟したように話し始める。
「ベルメールさんが・・・容態が急変して、生体肝移植しか助かる方法がないって・
・・でも、手術にはお金がかかって・・・」堪えていた堰が切れたかのように、ナミ
の瞳から涙が溢れ、細い肩が震える。
「あんなヤクザから借りる馬鹿がいるか。」
「だって・・・」涙で声にならない・・・
「金なら用意できるから、なっ?泣くな。大丈夫だからな!」
「ごめんなさい。」
「謝ることない。俺がそうしたいんだ。」
ゾロの太い腕が、その細い身体を抱き込んだ。

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