HAPPY LIFE
presented by ぷーちゃん

第14話

サンジは、自分に姉妹がいるなんて、考えたこともなかった。
ベルメールが簡潔に、何故サンジとナミが兄妹なのかを説明し終わる頃に、華やかな
姉妹の話し声が届き、
「ノジコもナミも、他に兄弟がいるってことは、知らないから。」との一言で、話は
終わった。

まるで作り話のような、それでいて説得力のある内容が他人事のようで、「ナミさ
ん、お帰りぃ〜〜〜」と、普通に応対できることが嘘のようだった。

結局ノジコの作った朝食を食べ、日中は蜜柑の剪定を手伝った。
ベルメールと2人になる時間はなかったし、他の誰かに相談しようにも、島内は携帯
の電波が圏外で。例え圏外でなかったとしても・・・相談しても詮無いことだった。

不思議と動揺はなかった。驚いたけれど・・・驚いたというだけで、事実を受け入れ
てしまえば、後は納得するばかりで。ナミに感じていた愛情が恋愛としての感情だっ
たのは確かだが、その感覚は緩やかに肉親へ対する思慕へと変化していく。ノジコに
もナミにも告げられないこととは言え、近しい肉親が存在したということのほうが嬉
しかったのかもしれない。それよりも、ベルメールの容態のほうが気になった・・・

午前中はなんとかリビングに顔を出すベルメールだが、午後になるとベッドから起き
出すのも大儀のようで。ナミ達に心配をかけまいと、無理をするベルメールにサンジ
は苛立っていた。

3日間の滞在中に、すっかり慣れ親しんだサンジは、仕事があるため東京へ戻らなけ
ればならないナミに
「俺が残って看病しとくからv」と、明るく告げた。
「サンジ君、本当にいいの?」
「あぁ、どうせさ、帰ってもすることないし、こういうの憧れてたんだよv」
「こういうのって?」
「う〜〜ん・・・自然の中で暮らすのとか、家族で囲む食卓とか。ノジコさんとベル
メールさんが、迷惑じゃなければ、俺、しばらくこっちで当分雑用でもさせてもらう
よ。」

勿論、週明けの入院を控えたノジコにもベルメールにも異存はなかった。


サンジが広島に行った翌日、いつもの通り出勤して、午前中のクラスを終了させたゾ
ロの所に、オーナーが駆け寄ってきた。
「ちょっと、ゾロちゃん、あんた、今すぐ病院行って!」
「あぁ?」
「お父さんが倒れたって!こっちはいいから、すぐ行きなさい!」
相変らず携帯を持ち歩かないゾロの職場へ初めて入ったロビンからの連絡だった。
追い出されるようにせかされて、到着した病室では父が眠っていた。

「どうなってんだよ・・・」
個室の外で付き添っていたロビンに説明を求める。
「心筋梗塞の発作で・・・今回の発作では命に別状はないみたいだけど・・」そう告
げるロビンの顔にも疲労の翳がはっきりと見えた。
「何がそんなに・・・」握った拳が壁に向かう。

ロビンを帰して、ベッドの横に座り父の寝顔を見る。
寝顔など、見たことがなかった。正月に会った時、痩せたと思ったのだ。この間、疲
れてるみたいだ・・・と気付いていたのだ。ロビンに手伝ってくれと言われていたの
に。深く考えることもせずに意地を張っていた自分が情けなかった。万が一でも、父
がいなくなる事など、考えたこともなかった。

夕方近く、看護婦が心電図の点検に来た時にミホークが目を覚ました。
「親父!」
「ゾロか。お前仕事どうした?」
「帰らせてもらった。」
「じゃぁ、戻れ。私は大丈夫だから。」
「仕事、仕事、仕事!そんなに仕事が大事かよ!」
思わず怒鳴っていた。
「身体壊して、死にそうになっても仕事が大事なのか?!親が倒れた時にも、仕事す
んのか?仕事するために生きてんのかよ!!」
それは、幼いゾロが思っていたことなのかもしれない。
唇を噛み締めながら、涙が溢れても、それを止められず、Tシャツの肩口で眼を拭
う。

ゆっくりと瞼を閉じてミホークが考える。
「私は、働きすぎたかもしれないな・・・・
大切なものを護るためにと思っていたが、間違っていたかも知れない。」
「俺、親父のこと手伝うから。何したらいいのか言えよ!会社、大切なんだろ?」
「会社か・・・そうだな・・・」

完全看護の病院に付き添いはいらないと、面会時間が終わる頃に帰された。病院の帰
りにスイミングクラブに寄って、オーナーに事情を話す。オーナーは、最初から知っ
ていたわよぉvvと笑った。
コウシロウからジュラキュールの息子と聞いた上で預かっていたのだと。世界記録保
持者がこんな場末のスクールで1年も居てくれただけでも儲けものだったと言った。
「ゾロちゃんの都合がついたら、生徒さんにお別れだけしてねぇぃvみんな悲しむと
思うけど・・・男が選んだ道ならばまっすぐ進んで行きなさいよぉ!!」
頭を下げるゾロに、「いつでも遊びに来て頂戴ね・・・」とハンカチを振っていた。

翌日からのゾロは、病院と、ロビンの指示とでまさに分刻みのスケジュールをこなし
ていた。右も左もわからないままに、幹部からのレクチャーを受け、見舞いと称した
敵情視察まがいの客を捌き、GW中はホテルに缶詰状態だった。

休み明けに、生徒に挨拶もしたいからと、時間を作ってもらいクラブに顔を出すと、
皆何時の間に聞き知ったのか、花束が用意され、世話になったおばちゃんたちが「ロ
ロノアコーチに教わったことを末代まで自慢する!」と、記念写真を撮りまくられ
た。

数日ぶりに戻った羊荘のドアにかかった袋の蜜柑がナミの帰宅を告げていたけど、日
中ナミがいるはずもなく、置き忘れてた携帯と蜜柑を持って、部屋を後にした。

ミホークの容態も落ち着いてきて、心労をかけるからと厳禁されていた仕事への関与
も、逆に知らない方がストレスになると言い返され、病室内の電話からあれこれ指示
がだされるようになる。
電話口で「馬鹿者!!」と怒鳴られ、「煩せぇ!わかるように説明しろ!」と怒鳴り
あうのを、ゾロの横でロビンが苦笑しながら聞いている。
シャンクスの役目は付き添い看護士になった。

ゾロが帰宅できるのはほとんど深夜だったが、遠くて不便だから自宅に戻れと言うロ
ビンの助言を断って、ゾロは羊荘に寝るために戻っていた。

見上げる201号室の明かりは消えていて。もう寝ているのだろうと思ったナミの帰
宅が自分より遅いことに気付いたのは寝付いた頃にカンカンと音が聞こえたからだっ
た。

日中、サンジから携帯に着信があっても、ゾロは電話にでれないことがほとんどで、
移動の車内から折り返しかけても「電波の届かないところにあるか、電源が切られて
います。」という女の声が聞こえるだけで・・・気になってはいたが、2人は上手く
いってるのだと思っていた。

毎夜毎夜、2時を過ぎる頃に聞こえる足音に、サンジと一緒なのだろうと。ゾロは、
小さな喪失感とか、寂しさとか、言葉にできない感情を胸の奥底に感じてはいたが、
自分には関係ないと言い聞かせ、慣れない日常が過ぎていった。


その夜は、接待が長引いて帰宅が遅かった。羊荘には不似合いなハイヤーで運転手が
開けたドアからスーツ姿のゾロが降りる。視線を感じて振り返った道の向こうに、懐
かしいオレンジ色の髪が見えた。
「あらぁ!ゾロじゃないvv久しぶりぃ〜〜」
酔っているのだろうか・・・
「何よ、スーツなんか着ちゃって、どうしたのぉ?デート??」
「お前、こんな時間なのに、なんでサンジに送ってもらわないんだよ!サンジどうし
てんだ!」
「サンジ君?サンジ君ならいないわよ〜〜〜」
「はぁ??」
「実家でおかあさんの看病してるからぁvv」
「誰の?」
「あたしのvv」
「じゃあてめぇは、毎晩毎晩、こんな時間までどこ飲み歩いてんだよ!」
「お仕事よvvお・し・ご・とv」
「仕事ぉ?学校どうした!」
「学校?辞めたわよ。今はホステスvv今度飲みに来てね〜〜って、うち高いから、
ゾロの安月給じゃ無理か!じゃぁね〜〜おやすみぃ〜〜」
「ちょっと待て!」ゾロがナミの手首を掴む。
「どういうことだよ!サンジは知ってんのかよ!」
「ゾロには関係ないわよ!」掴まれた手首を振り払って、ナミは階段を昇っていっ
た。

訳がわからなかった。関係無いと言われてしまえば、それでお仕舞いだった。残され
たゾロは、ナミが部屋に入るのを見ているだけで・・追いかけることも説明を求める
こともできない。
布団に入っても眠れないままに夜が明けた。




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